サタジット・レイ監督の「大地のうた」は本当にすばらしい映画ですね。
そして淀川さんの解説もすばらしい。前回は、少年オプーとお姉さんのドゥルガが、
銀の穂がゆれるススキの野原をずっーと歩いていく場面の解説から一部引用しました。
もちろん、ススキの野原を行く二人の子供と、近づいて来る黒い汽車も、とても印象的でしたが、
やはり何と言っても、最上に美しい場面は、モンスーンが始まるシーンではないでしょうか。
突然空がかきくもって暗くなり、鈍色の雲がたれこめたと思うと、蓮池にポツンと雨粒が落ちて、急に風がふきわたる・・・
「全部の蓮の葉が、さーっと裏返ったんですね。そのあたりが凄いですね、綺麗なんですね、キャメラがね」
「お姉さんは雨が好きだから、表へ出て行って雨の中でダンスを踊ったんですね・・・」(淀川さんの解説より)
モンスーンの到来をよろこぶ孔雀のように踊るドゥルガの姿を、淀川さんは「長い首をくりくりーっと動かして踊った」と
言いあらわしています。
ところで、この映画に登場するひとりの年老いた女性がいて、家族のなかでピシマと呼ばれています。
そのピシマが月明かりのなかでうたう歌をご記憶の方も多いのではないでしょうか。
待っていました、船頭さん、
向こう岸に渡してくださいな、河を渡る時が来たのです (映画より)
そんな歌をうたっています。
もともと、この歌はバウル歌。ベンガル固有の吟遊詩人バウルに伝わる歌なのです。
よかったら歌を聴いてください。歌手はロパムドラさん。
Hari din to gelo sandhya holo, par koro amare (日が落ちて黄昏になった、わたしを渡河させてください、神よ)
http://www.youtube.com/watch?v=y3sm4_Zp2K4
楽器はサーランギーがつかわれているようです。
いっぽう、映画「大地のうた」ではエスラジがつかわれていました。
サーランギーもエスラジもともに弓奏楽器で、エスラジの音はさらに細く、それだけいっそう繊細な音を奏でます。
「大地のうた」というと、輝くようなシタールの音が思い出されますけれども、映画では随所にエスラジの音も
挿入されていました。
子供が登場するときは、活き活きとしたシタールの華麗な音。
去りゆく日々の時の流れは、エスラジの物悲しい音。
この二つの音色をサタジット・レイ監督は見事につかいわけていました。