『江島氏物語』 

歴史推理ブログ「筑後江島氏とその庶流」
    通史に無い歴史物語

Vol 44 江島吉左衛門と家紋「大村瓜」

2018年06月22日 | 江島氏

  五つ木瓜に唐花(大村瓜)



●家紋「五つ木瓜に唐花」(大村瓜)

筑後江島氏の家紋は「丸に四ツ目」の目結紋であった事を過去記事で紹介しました。
ところが母の実家(江島村本家)に江戸期から代々伝わった家紋は「五つ木瓜に唐花」でした。母から聞き書きした時のメモでは、「五つ木瓜に唐花、織田家の家紋に似ているが、唐花の形が違う、大きな花びらの間に小さな花びらのような物がある」と記録しています。
まだネットの時代でもなく、手元に家紋帳も無かったので、実物が確認できずこのように書き留めました。

江島村本家は帰農することなく大正期まで、商家として存続してきましたので、「女紋」の可能性もあり、その点も母が存命中に確認を行いました。結果は祖母方の女紋ではなく、私の祖父、曾祖父も紋付の紋として使用して来た家紋である事も確認できました。

また何故家紋が「五つ木瓜に唐花」となったのかについては、叔父が祖父から聞いた話で、「殿さんから貰ったらしい」という事も分かりました。殿様が誰なのかは分からないという事でした。

 参考:「女紋」http://www.omiyakamon.co.jp/onna-mon/01.html

九州で「五つ木瓜に唐花」を家紋としたのは肥前の有馬氏と大村氏です。家紋はその時の主家との関係によって変わる事は多々ありますから、いずれかの家紋を貰った事は間違いないと思われました。しかし、筑後江島氏の有馬氏や大村氏との密接な関係を示す確証を見出す事は、長い間出来ませんでした。


●「江島吉左衛門」

私の高祖父は天保から弘化の頃に長崎で暮らしていた事があり、高祖父の長崎滞在には長崎に居住する一族が関係していたと見て、長崎を中心に江島氏の痕跡を調べていくうちに、大村市史の中で「江島吉左衛門」なる人物名を発見しました。

市史の記事の元資料は徳川幕府の公式史料である「徳川実紀」の「台德院殿御實紀卷12」の慶長15年(1610)正月の記録でした。その記録を原文でご紹介します。
註:台德院殿=徳川秀忠


■「台德院殿御實紀卷12」

●慶長15年1月11日
大御所遠江國相良の邊に狩したまふ。この日角倉了以光好に安南渡海の御朱印。平野孫左衛門長谷川權六へ呂宋渡海の御朱印。大村丹後守喜前家人江島吉左衛門へ暹羅渡海の御朱印。負田木右衛門へ交趾渡海の御朱印をたまふ。

●慶長15年1月25日
大村丹後守喜前家人江島吉左衛門へ柬埔寨渡海の御朱印を下さる。圍棋の徒去年より江戸に伺候せしが。けふ駿府に參る。



暹羅とはシャム(タイ)、柬埔寨とはカンボジアです。大村喜前(おおむらよしあき)とは肥前国大村藩初代藩主で切支丹大名で知られる大村純忠の長男です。また家人は家臣と言う意味です。

慶長15年(1610)正月にシャム、カンボジアへ向かう朱印状を「江島吉左衛門」に発行したという記録です。何と今を遡る事400年前に先祖が朱印船貿易を行った事が分かったのです。



朱印船(荒木宗太郎船)

■朱印船貿易

海外渡航許可の朱印状をもつ朱印船によって行われた貿易。室町時代の琉球貿易でも行われたが,豊臣秀吉の時代に本格的に実施され,江戸時代鎖国にいたるまでが最盛期であった。その隆盛の原因としては,関ヶ原の戦い後の国内諸産業の発展,銀産出の増大,倭寇による中国との交通断絶の対策として,中国以外の地で交易を行う必要性があったことなどがあげられる。

朱印船企業主には,島津,鍋島,加藤,細川など主として西南の諸大名,京都の角倉了以,茶屋四郎次郎,大坂の末吉孫左衛門,長崎の末次平蔵,荒木宗太郎らの主要商業都市の商人,W.アダムズ,ヤン・ヨーステン,中国人の李旦らの外国人もあった。

渡航先は南シナ,インドシナ,シャム,マレー半島,フィリピンなどで,なかでもコーチ,カンボジア,シャム,ルソンの4地が多く,日本町も発達した。輸出品は銅,鉄,樟脳,日用品など,輸入品は生糸,絹織物,綿布,皮革,蘇木 (そぼく) ,鉛,錫,砂糖などで,1隻に 100~1000貫以上の銀と商品をたずさえて,商品を買付け,南洋各地の市場で 100%以上の純益をあげた。しかし幕府が鎖国方針により貿易に制限を加えるようになり,寛永8 (1631) 年奉書船制度が設けられ,同 12年鎖国政策が実施の運びとなると朱印船の海外渡航は全面的に禁止され,代ってオランダ東インド会社の商権が拡大された。

出典 ブリタニカ国際大百科事典


家紋「五つ木瓜に唐花」は大村氏の家紋「五つ木瓜に剣唐花」(大村瓜)だったのです。

何故「江島吉左衛門」が朱印船貿易を行ったのか、その詳しい理由は当時の江島氏を取り巻く社会的状況と記録に残る一族の行動から推察が可能です。次回からはその考察をご紹介します。


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