えりこのまったり日記

グダグダな日記や、詩的な短文、一次創作の書き物など。

二人の距離・戸惑う彼女

2018-01-03 16:06:58 | 書き物


好きだと自覚した!なんて宣言したってさ、私3年前に振られてるのよね…
好き好きアピールしたって嫌われそうだし、どうすればいいんだろ。

彼の歓迎会が終わって、同期3人と一緒に別の店でグダグダしていた。
3人とも、彼がいない間も私を心配してくれて、あれこれ面倒を見てくれてた。
キツイことも言ってくれる、頼もしい同期。
「そんなこと言っても、そこから3年たってるじゃない」
同期の贔屓目を差し引いても、整った顔立ちの真弓。
実は彼の同期・沼田さんと最近になって付き合い始めたと、さっき教えられた。
…正直、びっくり。
「振られたなんて、とりあえず置いといていいんじゃないの」
「そうだよ。でも」
酒豪の美智子が大ジョッキのビールを、ぐいっとあおる。
「主任の気持ち、ちゃんと分かるまでは様子見がいいと思うな」
「ちょっと待って。そんなことしてていいの」
アイドルオタ歴10年以上のさやかが、眉を寄せる。
「主任、なんか更にカッコ良くなってるでしょ。元カノと元サヤとか新たなライバルとか、出て来たらどうすんの」
「さやか、ネット漫画読みすぎじゃないの」
今度は、読書家の美智子が眉を寄せた。
「まあ、確かに主任は私たちから見てもそこそこカッコいいよ…あ、ごめん」
そこそこに苦笑いした私に、律儀に美智子が謝ってくれる。
無駄に律儀なのが美智子の素敵なところ。
「でも、そんなマメじゃなさそうだし…あ、研修期間中美幸にはマメだったね」
「まあ、指導役だからね」
「そう、普段はマメじゃなさそうだし、急にワラワラとライバル来た!なんてことはないと思うけどな。だから、様子見が一番よ。今のところ」
「それでいいんじゃない」
「ん~そう言われるとそうなのかもね~」
真弓とさやかも同調してくれたので、『様子見』がいいよ、という助言にまとまった。
同期って、ほんとありがたい。
正直、今何か行動するのは怖い。
だって1回振られたんだもの。
3年たっても傷口はまだあるの。

そんな訳で、特に彼の姿を追うこともせず、でも顔を合わせたら挨拶…と思ってた。
でも。
歓迎会を過ぎた日から、気づけば彼と目が合っている気がする。
仕事中、ふっと顔を上げると彼が見てる。
外回りから帰って来て、何気なくフロアを見渡すと、彼と目が合う。
まだ、彼と目が合うと『えっ』とびっくりしてしまう。
なのに、その度に彼は私の大好きな笑顔を見せてくれた。
…やだ。
こんなことされたら、平静な気持ちで様子見出来ないよ。
もっと見たいと思う、笑顔を見せないで。
また、欲張りになって振られるのはいやだ。
彼が笑ってくれてるのに、私は強張った顔ばかりしてしまっていた。

数日後、仕事が終わると明日から始まる山の上の公園のイルミネーションの話になった。
例年、クリスマス前に始まって、クリスマス当日は来客数がピークになる。
この辺りでは冬の一大イベントだ。
…今の私には、縁のないイベントだけど。
真弓は沼田さんと行くらしい。
「美幸も行かない?」
気を使って誘ってくれたけど、付き合い始めの二人の邪魔なんてしたくない。
「ラブラブカップルの邪魔はしないよ。でも、誘ってくれてありがと。週末は一人でのんびりする」
「ラブラブ…私たち、そんなんじゃないけどね。ま、無理強いはしないよ。じゃあね」
「うん、じゃあ、お疲れ」
エレベーターで下に降り、セキュリティゲートを通る。
出口を目指しながらふと、横を向いた。
…彼と女の人。
前の、彼女だ。
さやかの『元カノと元サヤ』の言葉が、頭に浮かんだ。
美智子が『ネット漫画の見すぎ』って言ってたことが、ほんとに起こってるの?
急いで歩いてたつもりだったのに、私の足は止まってしまっていた。
そこで、彼がこちらに顔を向けた。
…急いで笑ってる?
いつもの笑顔じゃなくて、頑張って笑ってる顔に見えた。
そんな顔、見たくない。
顔をそむけ、出口へ急ぐ。
もう、目尻に涙が溜まっていた。
堪えきれずにぽとっと一筋落ちたところで、声が聞こえた。
「待って!」
え?これ、彼の声?
「松丘さん、、」
走る音が聞こえ、近づくとぐっと腕を掴まれた。
びっくりして、涙を拭くことも忘れて振り返ってしまった。
息を切らして、立っている彼の姿。
髪が乱れ、頬が紅潮して、コートの前が乱れて。
でも、間近で見る彼はやっぱり素敵だ。
私にとっては『そこそこ』じゃない。
そう思ったら、また涙がぽとっと落ちた。
「どうしたの?泣いてる…」
そう言われても、言葉が出て来ない。
俯きそうになった時に、彼の手が近づいて来た。
指が伸びて私の目元に触れて、そっと、涙を拭ってくれる。
「本当は3年前に、こうしたかったんだ」
え、とびっくりして彼を見た。
照れた笑顔。
さっきの作った顔じゃなかった。
「明日、公園のイルミネーションを見に行かない?」
穏やかな眼差しで言われて、気持ちが落ち着いて来た。
「…はい。私、見てみたかったんです」
「…良かった!嫌がられてないかって心配してたんだ」
「嫌がってなんて…ごめんなさい」
「謝らないで。ほんと、良かった。じゃあ明日駅前に17時でいい?大丈夫?」
「大丈夫です」
明日、と言って手をひらひらさせながら、彼は行った。
たくさん、心配してたこと。
もう心配しなくてもいいのかな。
私の目元に触れた、彼の指が彼の気持ちなのかな。
明日はどんな気持ちで、彼とイルミネーションを見るんだろう。
もう、涙は止まっていた。


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