えりこのまったり日記

グダグダな日記や、詩的な短文、一次創作の書き物など。

二人の距離・もどかしい彼

2018-01-03 16:04:48 | 書き物


抗わない!って決意を固めたけれど。
俺、1回彼女を振ってるんだよな。
今さらどの面下げて、『実は好きです』なんて言えるんだ?

歓迎会の二次会。
ただ1人残った同期・沼田に向かってボヤいていた。
「そんなこと言ってると、誰か別のヤツにかっさらわれるぞ」
同期だけに、耳が痛いことを言う。
「そもそも、あれから3年たってるしなあ…」
「何弱気になってるんだよ。自分に正直に生きるんだろ…それにさ、」
「え?それに?」
「なんとなくだけど、お前が戻って来てからの彼女見てると、まだ気持ちがありそうに見えるんだけどなあ」
「それを信じていいのか、自分じゃ分からないよ…」
薄まってしまったチューハイを飲み、呟いた。
「この3年の間に、付き合ってるヤツはいなかったのかな…」
「さあ…1年くらい前に、そんな噂話聞いたけど、どうなんだろうな」
「そうか」
自分は臆病で用心深いんだろう。
自分の心のまま、彼女の気持ちも考えずに突っ走ることは、出来ない。
ただ、時には突っ走った方がいいってことは、鈍い俺にだって分かってる。
「こういうのはどうだ」
黙ったままの俺に沼田が言い出した。
「とにかく、彼女と目が合うようにする。で、目が合ったらニコッと笑ってみせる」
「…なんだ、それ」
「アピールだよ、アピール」
「俺たち、いつから中学生になったんだよ。もう、30も超えたのに」
「贅沢言うな。どうしようって言うから、とりあえず出来ることを言ったまでだよ」
「ああ…確かに、とりあえず出来ることはそれくらいだな」

中学生って沼田には言ってしまったけれど、目が合ってにっこり笑うってなかなかむずかしい。
ても、何もしないよりいいかな…
それから、時間がふと空いた時にフロアを見渡すようにした。
彼女を見つけたら、顔を上げるまで待つ。
運良くこっちに顔が向いたら、笑顔を向ける。
…まあ、いい大人が何やってんだ、とすぐに気づいた。
でも、いい案を思い付くまでは、彼女に俺の目が向いてるって知らせるのも、悪くはないかもしれない。
彼女の反応は…にっこり笑い返してはくれず、どちらかと言うと、びっくりしていた。
どうしたらいいか、考えてしまっているような。
笑ってくれるようになったら、いいんだけどなあ。

数日後。
仕事終わりに、職場のビルの1階ロビーで呼び止められた。
聞き覚えのある声。
振り返ると、3年前彼女だった同期の美香だった。
「大沢くん、久しぶり」
ケロッとした顔で笑ってる。
こっちは微妙にモヤモヤしてるっていうのに。
「実は報告があるの」
「報告…?改まってなにを?」
美香は、下ろしていた左手を上げて見せて来た。
薬指に、きらっと石のついた指輪。
「来月、結婚しまーす」
「へえ~いつの間に…おめでとう」
「ありがとう。いつの間にって、よく考えてよ。大沢くん、3年いなかったんだよ」
「ああ、そうか。そりゃ、そうだよな。とにかくおめでとう、ほんとに。」
美香がニヤニヤしながらこっちを見る。
「大沢くんの方はどうなの。向こうで彼女出来た?」
「彼女?…残念ながら無理だった。仕事に追われていたら3年過ぎてたよ」
「なーんだ。じゃあ、せっかく戻って来たんだし、あの彼女と付き合えばいいんじゃない。ほら、彼女がメールまでくれたのに、振っちゃったって、沼田くんが言ってた子」
思わず、美香を見た。
一応、別れる原因になった彼女のことを言い出すなんて…
「結婚が決まると、都合良く忘れるのか?彼女を好きなんでしょって、俺を振ったのは美香だろ」
「まあ、今幸せならいいかって思えるものなのよ。それに、大沢くんは優柔不断で私の彼氏には向かなかったしね。優し過ぎるのも考えものね」
そこまで言うか。
やっぱり美香は強いわ。
俺なんて敵わない。
「なんにも言わないってことは、図星だね。帰って来てから話す機会くらい、あったでしょうに。さては、なんにもしてないんだ」
言葉に詰まった。
確かに、中学生がやるようなことしかしてない。
「私はもう結婚するんだし、ていうかとっくに別れているんだし、3年前みたいに気にする必要はないよね。それとも、彼女にもう彼がいるの?」
「いや…どうやらいないらしい。はっきり聞いたわけじゃないけど。」
俺の言葉に、美香が呆れた顔になった。
「大沢くんが、まだ彼女のことを好きなら、ちゃんと気持ちを伝えたら?3年前に振ったからって、それはもう考えないほうがいいと思うよ」
「今更…じゃないかな…」
つい、往生際の悪いことを口走ってしまった。
「もう~ほんともどかしいなあ。彼女がまだ大沢くんを好きなら、待ってるかもしれないのに。横から誰かに持って行かれてもいいの」
「美香…今のはガツンと来た。ほんとその通りだよ」
美香は学生時代から知ってるけど、昔から気が強くて押されてばかりだった。
けど、今押されて良かった。
「おせっかいかもしれないけど、明日から始まる山の上の公園のイルミネーション、誘ってみれば?告白にぴったりだから」
「イルミネーションか…」
考えながら、美香からちょっと視線を外したら、セキュリティゲートから出口に向かう彼女がいた。
ふと、横を向いてこっちを見た。
バチっと目が合う。
急いで笑顔を向けたけれど、きゅっと視線を反らして足早に歩いていった。
「美香…今彼女があそこを通った」
「えっこっちを見たの?」
「うん…目があったから」
俺たち二人でいるのを見て、何か感じてしまったのかもしれない。
あんなに、足早に言ってしまって。
「大沢くん、そんなボーッとしてないで」
「えっ」
「今、追いかけて。とりあえず、約束しなきゃ。」
「…分かった!ありがとう、行ってくる」
追いたてられるように、彼女が行った方向に走り出した。


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