風になりたい

春めいてくるこの季節は
バイクにのりたくなる。

19歳で中免をとり（親には内緒）
その足で250CCも買い（会社から借金／親には内緒）
バイクで毎日片道40キロ通勤してた（親には内緒／後でバレる）。
夏には毎年ひとりツーリングに出かけ
北海道をあちこち廻った（親には内緒。もう時効）。
スペインでもレンタバイクでぐるりと一周（これも時効だ）。
途中でこけて死ぬかと思った事もあったりして（時効だとしても内緒）。

東京でもずっと乗っていたけれど
右手が痛くなってきたので乗るのをやめて、
その後、もちろん、一度も乗ってない。

右手は実は中指から小指までがほとんど動かないんだけど、
日常では多少疲れやすいかなー、くらいで余り不自由さはない。
だから、すごくラッキーだったと思う。
ただ、バイクにのりたくなる、この季節がくると
いつも「ああ、この手が生きてたらなあ」と、思う。

ひとりきりの、それでいて、はなたれた空間。
風と一緒になりながら、限りなく、ひとり。

水に潜っている時と似ている。
水と同化して、このまま溶けてしまいそうな錯覚。
どちらも、すごく好きな時だ。

車だと、たぶん何か違う（車運転したことないから分らない）。
スクーバーダイビングは誰かと一緒に潜らないといけないから、やっぱり違う。
替わりのものはなかなか、ない。

あったところで手を出す暇はないのだからね、と自分に言い聞かせながら
物欲しそうな顔で通り過ぎるバイクを眺める３６歳。
物欲しそうな顔で停まってるバイクにこっそり触ったりするオンナ。
マニアじゃないのよ。
ただ風になりたいだけなのよ～。