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小室直樹を読む 「天皇」の原理を読む

2010-02-16 22:03:04 | 日記
第八章 死と復活の原理
前回までで「天皇」の死を語りました。
「天皇」はそのまま死に続けていれば明治維新もなかったのでしょうが、なぜか復活を遂げ勤皇の志士があちこちに発生・・・・

小室は復活の過程を語ります

「天皇」は復活の過程で「真の神」になった。そしてこの「真の神」はキリスト教的神と同型だといいます。

キリスト教において、イエスは神か人かの論争がその初期において延々と繰り返された。
この論争に終止符をうったのがカルケドン公会議(451年)。
この会議で「キリストは、真に神であり、真に人である」という「カルケドン信条」が宣言された。

いわく、神性では父なる神と同一である。人性において、人間と同一である。
要するに、人間として現れた神。
これぞ「現人神」。

イエス生前において彼を「神」だとするものはいなかった。
しかし、彼が十字架で死んで三日後に復活してからイエスの神格が確立。

イエスは復活によって、真の人、真の神になった。
死んで復活。

神としての「天皇」の死と復活の過程も、これと同型。

「天皇は神である」とする古代以来の天皇イデオロギーは承久の乱で死んだ。
しかし、山崎闇斎を中心とする崎門(きもん)の学の論争過程を通じて、天皇の神格は確立され「天皇」は復活した。

真の人、真の神として「現人神」として。キリスト教的神として。

この復活は「湯武放伐」(易姓革命)の否定。そのための論争の経過のなかでなされた。

徳川幕府創始者家康は儒教を国教(に近いもの)とした。
その彼がもっとも重んじた書が「孟子」。この書は前にも論じた通り「湯武放伐」肯定。
この立場で家康は儒教を幕府に導入した。

元和元年1615年 家康と秀忠は「禁中並公家諸法度」17条を制定した。
臣下による天皇の行動制限。

幕府権力は史上最大となり、天皇権力は史上最低となった。

この天皇権力最低の時代に現れたのが、山崎闇斎(あんさい)と彼の学派。
いかにして崎門(きもん)の学者は、朱子学の精緻なる論理を破りえたのか。

はじめにそれは、天皇の非倫理性を徹底的に追求した。

水戸藩の栗山潜鋒(1671~1706)は「保建大記」(ほうけんたいき)において、
何ゆえ古代天皇システムが死んだか研究。

栗山潜鋒は、わが国の倫理は保元の乱を契機に致命的打撃を受け、天皇システムが解体を始めたと分析。
そして、皇室の人々の非道徳性を過激にまで追求した。

栗山潜鋒をはじめとする初期水戸学派の皇室倫理の徹底的追及を契機に、天皇イデオロギーは死者の中で動き始めた。

天皇の非倫理性が徹底していればいるほど、それと共存する反対方向性によって天皇は絶対の高みへ昇っていった。
政治学者丸山真男はいう「反対方向性の共存を内包したバランスは毛筋ほどの差で崩れる」

山崎闇斎は「拘幽操」(こうゆうそう)を編して、ここに君臣の義の本質を発見した。
・・・・西伯(のちの文王)はこのうえなく徳高く、天下の衆望を集めている。その西伯が何の罪科もなく、ときの君主殷のチュウ(糸寸)王に真っ暗な地下牢に入れられた。しかし西伯は少しも恨むことなく、王のなすことは全て正しい・・・・というテーマの「拘幽操」を作った。

これぞ、究極の君臣関係。
この崎門(きもん)の学の展開過程を通じて、承久の乱で死んだ「天皇」は「現人神」として復活。

予定説の論理が作動を開始し、明治維新へ一直線。
天皇は、真の人で真の神である。
天皇のすることは全て正しく、天皇はいかなる事もなしえる。

天皇の奇蹟がはじまった。

・・・・・・これで本書は括られています・・・・・

なにか唐突に終わった感がします。
げんに本人が本書の「序」でことわりのような事を述べています・・・・
いわく。 「・・・しかし、草莽の臣がご成婚記念としたい希望により急いだため、
崎門の学の展開過程についての詳論は、つぎの機会にまわさざるを得なかった。乞御了承。

平成五年五月九日   小室直樹

と書いています。
本書は皇太子ご成婚を記念に文芸春秋社が出版したもので、当時の新聞書評に取り上げられ話題となった書ですが(私が当時の新聞の切り抜きをこの本に挟んでいた)、現在は絶版になっています。

なお、かれ自身残念がっている「崎門の学の展開過程」の詳論はその後出版された形跡はありません。

それでは何か消化不良なので、次回から小室の天皇関連本「天皇恐るべし」を紹介します。

この本の後半部分に水戸学派栗山潜鋒著の「保建大記」をテキストに「崎門の学の展開過程」が少し詳しく書かれているので参考になると思います。
ただし、前半部分は宗教論が中心なので省きます。

では次回から小室直樹著「天皇恐るべし」 発行ネスコ 発売文芸春秋 を紹介します。