エバ夫婦の山紀行ログ

道産子60代、四季を通じて主に夫婦で登った北海道の山を中心に紀行文を載せています。アウトドア大好き夫婦。

南日高・・・トヨニ岳南峰(1493m)

2016年04月25日 | 山紀行 (日高山系)
南日高・・・トヨニ岳南峰 (1493m)
~▲北峰 (1529m)▲1513峰 (1512m)▲ピリカヌプリ (1631m)
■ 山 行 日     2016年4月24日(日)    日帰り
■ ル ー ト      野塚トンネル十勝側出口~トヨニ岳南東尾根ルート
■ メ ン バ ー     夫婦登山 №13
■ 登 山 形 態     アイゼン登降 (ブラブーツ)
■ 地 形 図     1/25000地形図  「トヨニ岳」「ピリカヌプリ」
■ 三角点・点名    ピリカヌプリ 二等三角点 点名「奴振ヌプリ」  
              他三角点無し標高点のみ

■ コースタイム   登り  5時間43分  下り  3時間30分
<登り>
04:30        P帯出発
04:40        沢渡渉 (C600)
05:25~30     C710付近沢上アイゼン装着
07:05        主稜線C1120付近
08:20        1251P東斜面トラバース
10:00        ニセピーク(1470P)
10:17        トヨニ岳南峰 (1493m)

<下り>
11:05        下山開始
12:05        1251P東斜面トラバース
13:25        C1120主稜線分岐点
13:53~14:00  800m二股出合い休憩
14:30        沢渡渉
14:35        P帯登山口



南側の稜線上から望むピリカヌプリ・・・(web写真から)


GPSログではありません。辿ったルート(赤い実線)はこんな感じです・・・

美しき山に憧れも遥かなるピリカヌプリを実感・・・
★ 無謀と知りつつ試してガッテン・・・
多くの愛好家が憧れるように私も一度は踏みたい、行って見たいと思う山が
南日高三山と総称されるピリカヌプリ(1631m)とソエマツ岳(1625m)そして神威岳(1600m)である。
特にピリカヌプリは、南のコルから標高差300mもあり威風堂々とした山容はまだ写真でしか見た
ことがない。この標高差は日高全山でも随一のものらしくピリカヌプリ「美しい山」と奉られた山は
道内広しと言っても他にはないということだから、いつまでも気になる存在であることは間違いない。

そんな神々しい山にどう登れば辿り着けるのか?
無雪期なら十勝側のヌビナイ川右股から登るのが一番容易で沢も美しいと言うが、それでも私たち
にはレベルの高い上級者向きの沢であり安易には近寄れない。
近年、野塚岳とトヨニ岳直下に国道236号線通称「天馬街道」の野塚トンネルが開通してからは
トヨニ岳の稜線を辿るルートが一般的となり登頂への夢はグッと現実的になったが、こちらも
ナイフリッジと呼ばれる痩せ尾根と標高差のあるアップダウンを繰り返すため経験と技術そして
天候等に恵まれなければ辿りつけない難問をクリアーしなければならない。

色々な情報を網羅し自分たちで挑戦出来るルートは、やはりトヨニ岳を経由する南尾根から北上し
ピリカヌプリの往復でやるしかないと結論付ける。

2010年5月1日最初の挑戦は、野塚トンネル十勝側出口の駐車帯から出発しトヨニ岳東峰へ登る
ルートを選択して決行した。しかし、尾根に辿りつく前に沢の渡渉で靴を濡らし呆気なく敗退。
あれから6年も経過しているが、夢絶える事無く毎年のように気に掛けた計画はしている。

そんな中で、条件さえ揃えば「日帰り」で行けないか?と無謀とも言える計画を考える。
往復14時間~15時間は掛かるかも知れない。でも体力だけは自信がある二人・・・「行って見る?」
こんな発想は神々しい山に対する冒とくだ!と知りつつ試してガッテンの軽いノリも私たちらしいのかも
知れない。

当然の如く・・・
自分たちの甘さを知らされた日高の山の洗礼を受ける事になったが、収穫も多く次なるステップに
繋がって満足の山行を終えた。


<参考>
天馬街道・・・1979年に着工するも工事には困難を極め1990年に全線が繋がる。
         1997年9月25日に全線開通した。


★ 前日は大雨・・・
4/23 予報通り現地に着くと雨が降っていた。それも大雨・・・。
そして、雪が無いことに唖然とする・・・。

暫くの間、車の中から勢い良く流れる沢をじっと見つめながら思案する。
諦めて止めた場合のサブ山行は、芦別の「鉢盛山」と決めていたが・・なんとも諦めきれない。
長靴を履き傘を差し外に出て再び沢の近くまで歩いてみた。
勢いはあるが浅く大きな石を伝って行けば靴を濡らさず渡渉は出来そうと見る。
しかし、二股から上流の残雪がどうなのかガスでまったく見えなかった。
そんな時、一台の車が隣に停まり若い男性が降りて来て話し掛けて来た。
埼玉から来たと言う登山者で先週も仲間とここに来たらしい。その時もすでに雪は無く
少し上流まで歩くとSBがあって渡渉出来たらしいが、登った沢は本来の沢の隣だった。
沢は雪で埋まっていたらしいが、登った稜線からトヨニ岳までの距離が延びたのと悪天で
ピリカまでは行けず引き返したという。下りで本来の沢を降りると稜線から標高700m付近まで
沢は雪に埋もれていたという情報を得た。

明日登るなら一緒に・・・と言われたが、まだ決めかねていたので曖昧な返事をして別れた。
その後、再び夫婦の協議で「いい情報があったので取り敢えず行って見るか!」と結論が出る。


★ 当日は快晴・・・
決行と決まれば次の行動は早い。
安着の場所はトイレのある駐車帯で14㎞ほど日高側に戻りトイレに近い場所に駐車する。
野塚トンネル日高側の「翠明橋」に近いトイレのある駐車帯は冬期使用停止で使えない。
雨は小降りとなりのちに霧雨そして止んで濃いガスが立ち込める天馬街道だった。

4/24 2:00起床
いつものようにコーヒーを落とし軽く朝食を取ってから登山口となる野塚トンネル十勝側出口の
駐車帯へ向かう。昨日話をした埼玉の若者は少し離れた場所に駐車していたが、私たちが就寝した
後に来たらしい。出発する時はまだ寝ているようだったので声を掛けずに出た。

朝立ち込めていたガスは次第に取れて視界が広がっていく。
登山口のP帯に着くと周りの山々を見渡す事が出来、上部山肌の残雪が確認出来た。
早々準備をしていると隣に車が停まって若い男性が降りて来た。昨日の方ではなくえりも町から来た
と言っていたが、「ピリカまで日帰りします・・」と早々に出発した。
沢の渡渉も難なく渡っていたが後に長靴を履いていたことが分かり納得。長靴は途中にデポしてあり
その後はアイゼンを付けて登っている様だった。

4:30 15分ほど遅れて私たちも出発する。



渡渉場所を選ぶのに10分ほどウロウロしたがなんとか靴を濡らさず対岸へ渡る・・・


沢右岸の残雪を利用しながら徐々に高度を上げる・・・


標高670m付近の沢、この上から雪で埋まって繋がっていた・・


情報通り標高700m付近から沢は雪に埋まっていたので歩き易かった。


標高約800mの二股では右股を選び登る・・・

★ 沢詰め・・・
昨日の沢残雪情報も役に立っているが、今朝会った先行する若者も700m付近から沢が雪に埋まって
いる事を知っているようで、まったく迷う事無く淡々と登る姿に若さ溢れる力強さを感じる。
とにかく早く私たちが渡渉に躊躇してる間にもう見えなくなる程先を登っていた。

登山口P帯の標高は約600m。標高差は僅か100mほどだが途切れ途切れの残雪斜面を登るのに
ちょっと苦労し45分ほど掛かってしまった。それでも先行者のトレースに助けられルートを拝借しての
タイムなので私たちだけなら1時間を超えたかも知れない。

沢の全面が雪に埋まる標高約710m付近でアイゼンを付ける。
昨日の雨も影響してか雪はほど良く締まっていてアイゼンが小気味よく歩き易かった。

先行者はもう遥か先で本流を登り稜線近くに居る姿を確認した。
約800m付近で二股に出合う。先行者は本流を登っているが右股沢も稜線まで雪で埋まって
いるように見えた。地形図を見ると本流詰めは稜線上の1151Pの南側に出、右股沢は北側に
出ると読める。距離で300mも違い沢の斜度も右股沢の方が少し緩いと見たので私たちは右股沢を選ぶ。
稜線の出合いは標高約1120mなのでその差は320m程だ。稜線が近づくと徐々に急斜度になるも
ジグを切りながら順調に登ることが出来た。そして雪も最後まで繋がりようやく主稜線に出た。


★ 思い出の主稜線再び・・・
私にとって野塚岳とトヨニ岳を結ぶこの主稜線には忘れられない思い出がある。
2005年3月、当時所属する山岳会の仲間とここを辿っていた。
「日高全山縦走・第二ステージ」と称し、野塚岳~神威岳まで7泊8日の計画だった。
初日は野塚岳の頂上直下でテント泊し、2日目はトヨニ岳北峰付近を目標にしていたが、南峰手前で
猛吹雪となり前にも後ろにも行けず現在地も分からずにビバークテントを張った場所だった。
今思えば1251Pの手前だったかも知れないが、翌日も吹雪は止まず計画を中止し下山を決めた。
吹雪の中テントを撤収し稜線を戻って1151P手前からエスケープ尾根を降りて野塚トンネルの
十勝側出口に下山した。稜線からエスケープ尾根に降りる時も大きな雪庇を崩すためロープで確保
しながら少しずつ雪庇を崩しルートを作った。少し下りたその瞬間雪崩が発生し立木の下に隠れて
難を免れた記憶も蘇る。

今回、時期は少し違えどトヨニ岳南峰まで登ったことでこの尾根の全体を知ることが出来た事は
私のとって大きな収穫である。



主稜線から少し歩いた場所から


野塚岳を背に快晴の稜線を辿り始める・・・


何度振り返っても飽きる事のない日高の稜線を今自分たちが歩いている幸せを感じる・・




とうとうここまで来たぞ~と喜ぶも・・・・



★ チーヤン初登頂も・・・
10:17 トヨニ岳南峰頂上 
ようやく辿り着いたトヨニ岳南峰。天候にも恵まれて妻チーヤンの初登頂である。
この先の稜線もずっと見えていたし妻としてはすぐにでも北峰へ向けて歩くつもりだったと言う。
しかし、それを制止一考を促す。
現在の時間とこれから掛かる時間の予測だった。そして天候も確実に下りを思わせる雲行きだった。

ここから北峰までなら約30分だろうが、北峰~ピリカヌプリまで3時間は掛かると見ていた。
つまり今からピリカまでは片道3時間半で往復なら7時間と計算すると南峰まで戻る時間が
17時半になる。そして登山口まで3~4時間掛かるとすれば暗闇の下山時刻だった。

何かあればビバーク出来る準備は出来ているが、敢えてそれをする必要はないだろう。
やはり私たちにとって「ピリカヌプリは日帰りで行ける山でない」と悟らされた南峰の登頂だったのだ。
日帰りでももしや・・・と思いつつ決行した計画だったが、予測していた結果でもありここまで来れた
収穫は大きかった。そう考えると満足の夫婦登山であり安全に下山して次なる計画に役に立ったと思う。
妻的にはあまり納得していない部分も見受けられるが、ピリカに行けないなら北峰も行かずに帰ろうと
提案する。次の計画でピリカを目指す時必ずや通過する北峰と1513峰なら今行く必要はないと言う。
確かに納得の説明だ。



4/24 トヨニ岳南峰(1493m) ・・・頂上より少し北側で撮影(背景は北峰)


強風のトヨニ岳南峰頂上にて・・・辿って来た南側を背に

★ 結果正解の下山・・・
11:05 下山開始
下山時の天候はまだ晴れているように見えるが、南峰付近では風が強く空の雲も
急に怪しくなって来た頃だった。ニセピークを降りて1251Pのトラバースを終える頃から景色は一変し、
雪雲に覆われたかと思うと急に雪が降って来た。
振り返るともう南峰は黒い雲に覆われて見えなくなり風も強そうで厳しい状況が予想出来る。
もしあのまま先に進んでいたら・・・と思うとやはりピリカまで届く事は無かったろうと都合の良い解釈。
先行している若者の事が気になるが彼ならきっと登頂して無事下山出来るだろうと信じて願う。



下山開始、前方はニセピークの1470P


辿って来た稜線と南の山々を望みながら下山する・・・


1251Pの手前、視界が悪くなって来た・・・


天馬街道が見える・・・


1251Pのトラバース・・・天気は晴れたり曇ったり雪降ったりでした


トラバースを終えて再び稜線を辿る・・・また南峰は見えてきたが安心は出来ない


下りで一番ひどい天候の時でした。吹雪状態が分かるかな?

★ 悪天は一時的?・・・
13:25 C1120下降点
ここから南峰まで登り3時間以上掛かった稜線も下りでは1時間20分だった。
天候の急変でほとんど休まなかった事もあるが、やはり基本下りの稜線で雪が意外にも腐らず
アイゼンを付けたまま埋まることなく歩けたのも時短の要因かも知れない。

C1120降下点に着いた時は暑い日差しが戻り上着を脱いだほどだった。
しかし、見上げる南峰から北の稜線は雲に覆われて見る事は出来なかった。
自分たちの居た場所では晴れたり曇ったりコロコロ変わりやすい天候だったが
今になってまた快晴、あの黒い雲は一時的だったのか?と思うものの後悔は無い。

沢の下りではアイゼンの底が時々団子化し足が取られそうになったが、それも愛嬌と蹴散らし
淡々と降りてしまったという感じだ。登りのトレースがまだ残っていたが下りでは思うがままに
残雪を利用した。

最後の渡渉もアイゼンを付けたままトントンと石を辿って対岸となり無事に下山を終了する。


14:35 登山口P帯着



登って来た右股沢を見下ろす・・・


670付近の沢再び・・・


車を確認して下山を実感する・・・


もう靴を濡らしてもいいやと思いつつアイゼンを付けたまま渡渉し無事下山を終える・・

★ 総括・・・
私たちの夫婦登山に「総括」という言葉は少しおこがましいと思うが、敢えて自分たちの今後を
思う時の材料とするためにもこの言葉で締めくくりたい。

計画は無謀にも「日帰りピリカ」であったが、実際に登って見てその厳しさを思い知る結果となる。
これを知り得ただけでも大きな収穫。次の計画へも大きなステップとなった。
沢を含めて稜線上の残雪は少なくまったく雪の無い場所もあったが、もし残雪が多くあったらタイムなり
登行難度はどう変わっただろうか?また、日帰り装備ではない重装備なら急斜度の沢か尾根を登る事が
出来たのか、ナイフリッジの通過に恐れをなしたかと未知なる思いが募る。

稜線上でのテント泊も久しくご無沙汰している。
雪洞を掘って泊まったことは夫婦登山ではまだ未経験だ。
厳しい山行でもアルコールは持つか持たないかの自問自答。
もっともっと力を付けて未知なる山へ挑戦したい。だから来年もまた来よう・・ピリカへ