1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。
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「あー、なんか昔からたまに出るんですよ。ああいうよく分かんないのが」
何事だったのか聞いてみると、番台の狐はそう言って耳を掻いた。
「でも誰かを害したとか何かを壊したとかじゃないんで、現状放っといてますね。あっ、でも言ってることは面白いからって、この間上司が「新解釈の『ランプの魔人と盗賊退治』がある」って劇団に脚本を売りに行ったんですよ。それが明日初演を迎えるんです。『嘘と虚(うつろ)の夢舞台』ってとこでやるんで、よければ」
渡されたビラの脚本のところには、先ほど会った白金の狐の男性の似顔絵が描かれていた。
「原典の『ランプの魔人と盗賊退治』……」
「そういえばそんなことを言っておったな……」
僕とアダムは一瞬顔を見合わせた。
「……つかぬことをうかがいますが、その上司というのはもしかして、創業者ご本人ですか?」
「ええ、そうですよ。狐の種族は長生きですから、なかなか世代交代も起こりません」
「……どうしよう。俄然見たくなってきた」
「……奇遇よな、我もだ」
「最近この街では、既存の物語や史実に創作や独自の解釈を盛り込んでまったく新しい物語を創るのが流行ってるんですよ~。面白いと思いますから、ぜひ」
明日の予定も決まったところで、さっそく人生初の天然温泉に入りに行った。とても気持ちよかった。
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「いや、そこが崩れては話が成り立たぬであろう」
「そりゃそうか……」
黒布のナニかがハッハッハと声をあげた。その音は笑い声のはずなのに、砂よりも乾ききっていて生きているという気配をまったく感じなかった。
「正解は、ひとつ、『少年はいつも大釜の前にいた』。ふたつ、『岩場に隠された宝』。これだけさァ」
「えっ、ランプの魔人は?」
「それは優先されるべきものじゃァない。活劇の整合性をとり、舞台を盛り上げるためのものだからねェ」
たしかに『ランプの魔人と盗賊退治』の一番の見せ場は、終盤の魔人と盗賊たちによる派手な立ち回りであるけれど、アダムが言った通りそもそもランプの魔人が登場しなければ話が始まらないはずだ。けどそれを指摘しようにも、黒布のナニかはもう僕たちのことなんか見ても聞いてもいなかった。
「ああ、口惜しや! 宝も知らず、ワタシを置き忘れたも知らず、この煮える湯と岩しかない島から船を持ち去った卑しい盗人どもめ! 末代までも呪うてやる! さらに呪わしきは賢(さか)しきあの狐よ! 隣の島からワタシを嘲笑い、宝を横取りした狐! ああ、恨めしや恨めしや!! キィィェァァアアアーーーー!」
突然立ち上がったかと思うと、黒布のナニかはそう叫んで出て行った。周りにいた他のお客さんたちは、我関せずを貫くか僕たちと同じようにギョッとした目を向けるかのどちらかだった。
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吹き抜けの高い木造の建物は休憩所にもなっているようで、番台以外にもベンチや畳敷きのスペースなどが用意されていた。
壁に『極楽湯戯場(サナトリウム)の歴史』という紙が貼ってあったので読んでみると、約二百五十年前に創業者はランプの魔人の力によって富を得て、この極楽湯戯場を開いたらしい。
「? あれって実話だったんだ……?」
「まあ井戸や鏡の中に住む奴もおるぐらいだ。ランプの中にいてもおかしくはあるまい……?」
半信半疑でアダムとそんなことを言い合っていると、すぐ後ろでブハッと吹き出す声がした。
「ずいぶんと素直で可愛いことを言うじゃねェかい。こいつはたんに客寄せのための、もっともらしいおとぎばなしさ」
ボロボロの黒い布を頭から被り、煙管をふかせた誰かだった。種族は人間っぽかったけど定かではないし、性別も曖昧だった。
「事実はタネも仕掛けもある、もっと残酷な話さア」
隙間から見える手足や胸元はガリガリに痩せて骨と皮しかなく、干涸びた倒木のような嗄れた声をしていた。
「『ランプの魔人と盗賊退治』の物語は今や世界中に広まり、何通りもの筋をなぞっている。だが知っているかィ? どれだけ分かたれても、けっして変わらない要素があるということを」
「……少年が魔人のランプを手に入れて、盗賊をやっつけるってところ?」
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「君たちは旅行者だね。この話、実はこの街から生まれたんだ。知っていたかい?」
「そうなんですか?」
「うん。だからこの絵がここにあるんだ。そうそう、よければ明日『嘘と虚(うつろ)の夢舞台』の島へおいでよ。原典の『ランプの魔人と盗賊退治』が上演されるんだ」
「つまりおぬし、役者か。このようなところでまで宣伝とは。ご苦労なことよ」
「どうかな。熱心なファンなだけかもしれないよ」
狐の男性はイタズラっぽい顔でウインクを落とすと去っていった。
いつもより広く見える茜色の空と橙色の海。それを眺めるここは、朱色の極楽湯戯場(サナトリウム)。
岩の底から始まる階段へ飛行船から直接降り、千本の鳥居の下をくぐった。頂上へ着くと、射的や輪投げへ誘う呼び込みの声や、肉を焼いたり飴を売ったりする屋台の喧噪で、雰囲気はどこか浮ついていた。屋台は空中にも出ていて、赤や黒の魚が泳ぐ水珠を浮かべた金魚売りの女の子が着物の袖を揺らして、こちらに向かって手を振ってくれた。占い屋の妖艶な猫耳の女性にふらふらと惹かれていくアダムは、しかっと握りしめておいた。
どこから流れ来てどこへ流れ行くのか、島の中央を横切る湯煙の川に架かる太鼓橋の向こうに宿場町の入口はあった。ここで全ての手続きをして、向こう側にあるそれぞれの宿に入るらしい。
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昔、あるところに、貧しいけれど心優しい薬売りの少年がいた。少年は老いた病気の母と町の外れで二人で暮らしていた。少年はいつも大釜で薬を煎じていたので、顔は火焼けして赤かった。
ある日、いつものように山に入った少年は、とある岩壁をリズミカルに「トットトトントン、トットットン」とノックをする盗賊団を見つけた。すると岩壁にぽっかりと穴が空いて、盗賊たちは中へ入っていった。そのとき少年の前に薄汚れた青銅のランプが転がってきた。家に持ち帰って磨いていると、突然目が三つある魔人が現れて言った。
「さあ、願い事を言いたまえ、我が主よ。どんな願いも三つだけ、たちどころに叶えてみせよう」
少年はまず、母の病気を治してほしいと願った。次に、岩壁の財宝を元の持ち主に返すよう頼んだ。
「いいのか? 財宝全て主のものにもできるのに」
だが少年の答えは変わらなかった。
翌日、元気になった母と町を歩いていると、盗んだ財宝を取り返されて怒った盗賊たちが呪わしい叫びをあげて襲ってきた。少年はランプの魔人に「盗賊たちをやっつけてほしい」と願った。
「いいのか? 望めば永遠の命も世界一の美女もお前のものだというのに」
少年の答えは一瞬たりとも迷わなかった。
「……よかろう。その願い、叶えよう」
こうして魔人の活躍により、町には平和が戻った。
めでたしめでたし。