水月光庵[sui gakko an]

『高学歴ワーキングプア』著者 水月昭道 による運営
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派遣切りシンポにて宣言文が出されました

2009年05月12日 | 庵主のつぶやき
さる5月10日の日曜日、日本居住福祉学会第九回大会にておこなわれた特別シンポジウム「ハウジング・プア 奪われる人権」にて宣言文が出されました。



宣言 「住まいという基本的人権をすべての人に」

2008年から急速に、仕事と同時に住居も失うという最も深刻な人権侵害が日本各地で起きています。派遣切りによって社宅や寮から追い出された人々は、野宿やネットカフェ難民へとあっという間に転落していきます。非正規雇用者に代表されるワーキングプア状態にある人たちは、家賃の支払いの遅れを理由に、立ち退きや、閉め出しの憂き目に直面しています。

2001年には既に国連社会権条約委員会において、震災被災者、日雇い労働者、野宿者の問題は取り上げられていたにもかかわらず、なぜこのような事態が今頃になって起きているのでしょうか。その原因として、日本の雇用政策に生じた大きな変化を見過ごすことはできません。1990年代以降、雇用人口全体のなかに占めるパート、派遣労働者、契約社員といった非正規雇用の割合は急激に上昇しています。政府・財界による規制緩和のかけ声によって、労働者派遣法が改正され、事業者は労働者を自分の都合に合わせて使えるようになったからです。正社員が使い勝手の良い派遣社員に置き換えられることで、社会の底辺に使い捨てという労働者層を生み出し、結果、新たな最貧層が形成されはじめました。新自由主義と市場原理主義が生み出した、このワーキングプア現象は、日本だけでなく世界的な問題となっています。人件費に対する究極の削減策が、人権という視点からは許されない領域にまで軽々と踏み込まれるなかで実施されています。

こうした非人間的システムは、本来、あらゆる政策立案の根底に据えられるべき、憲法、国際人権条約上の人権擁護・実現義務を軽視し続ける我が国の政府により、すべてを市場まかせにしてしまう意図的政策がとられたことによって、もたらされました。このまま市場に労働環境の全てをゆだねるこうした政策がとられ続ける限り、労働と収入と住居を中心とした生活水準・医療・教育を結ぶ問題は絶対に解決できません。

社会的弱者層が住まいの貧困(ハウジングプア)に直面することは、いまに始まった問題ではありません。シングルマザー、障碍者、外国人労働者、野宿労働者、単身高齢者及び高齢者世帯などが不当な扱いを受ける事例は、過去から積み重なっております。その根底には、憲法、国際人権条約を重くみない政府の態度こそがあるのではないでしょうか。本来、国民一人一人に保障すべき生存権・労働権そして適切な生活水準の権利の保障が、全く行われてこなかったことで、我が国の居住政策は死に体となり果てているのです。すでに、憲法制定から60年、人権条約批准から30年を経たというのに、これは理解に苦しむところです。

我が国における住まいのほとんどは、利潤追求を基本とする民間市場に委ねられてきました。その結果、公的賃貸住宅は全住宅のわずか6.7%を形成するに過ぎません。公的な住宅供給の不足は誰の目にも明らかなのです。年越し派遣村の映像が浮かび上がらせた住宅を失う恐怖は、国民の大多数に刻み込まれているはずです。公共住宅の整備は、人権の実現という観点から拡大されるべき喫緊の課題となっているのです。加えて、民間賃貸住宅を対象とした低所得者向け公的支援制度などの導入も必要となっているはずです。

「終の棲家」に住まう高齢者が理不尽に追い出される不安や、長期に安定して住める住居のない人たちが抱える心配は膨れあがるばかりです。これらを解消し安心して住み続けられる住居を確保できるような社会システムづくりが、今こそ求められていると確信します。強制立ち退きなどもってのほかです。解決に向けた道筋の第一歩は、非正規雇用にあるワーキングプアの人たちに対する認識を、安い労働力と考えるのではなく、社会を支える優れた技術と労働に対して極めて真摯な魂を持ち合わせた貴重な人材として認めることにあります。働く場を失い家をも失おうとしている人たちの現状を、自己責任とするのではなく、その原因を作ってしまった国家・社会全体こそが自己を内省し、解決に対する責任を引き受けることが今こそ必要ではないでしょうか。

これ以上の人権侵害の放置は許されないレベルにきています。政府、そして企業・労働組合をはじめとするNGOや個人も「他人に対し、属する社会に対して義務を負うこと、憲法、人権条約上の権利の増進・擁護のために努力する責任」(憲法12条、国際人権条約前文)を負うことを自覚し、対策を講じなければ、個人が社会のなかで最低限、健康で文化的な生活をおくるための権利は永久に失われるでしょう。社会問題に直面する弱者層に対する社会的排除の増大を、勇気を持って止め、自らのこととして社会的連帯を生み出す暖かい太陽のような政策こそが期待されています。

安心して心身を解放し、疲れた体を休め明日への鋭気を回復させ、夜には暴漢などに襲われる不安のない、人間の命の活動のための安全のシェルター、すなわち住居は、大地の上に生きるすべての人に等しく確保されるべきです。この居住の権利は、日本国憲法25条、そして経済的、社会的及び文化的権利に関する国際条約11条などで広く認められた個人の正当な権利であるのです。

2008年12月10日、世界人権宣言60周年を記念する日に国連総会は、労働の権利、居住の権利を含む社会権条約の個人通報制を全会一致で採択しました。これは、社会権条約上の権利を侵害された個人が直接国連に通報して自国政府への勧告を求めることを認める制度です。

居住の安定はすべての社会的権利の基礎であることを改めて確認するとともに、私たちはワーキングプア、ハウジングプアの人々と連帯して、安心できる住まいをこの手に取り戻すため、ともに立ち上がることを、ここに宣言したいと思います。

日本居住福祉学会 特別シンポジウム「ハウジング・プア 奪われる人権」 2009年5月10日

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