眼を開けば僕がいる。 **BNCTに夢を託して**

悪性脳腫瘍の妻との闘病生活を最新の治験療法(BNCT)や免疫療法の体験を交えて・・・。

ここにも闘う仲間がいる

2009-09-05 08:37:53 | 日常
一昨日の日経メディカルに掲載された卵巣がん体験者の会スマイリー代表片木美穂さんの一文を拝読しました。
ここにも病と苦闘しつつも医療機関、薬剤メーカー、そして厚生労働省に対してその思いを正面からぶつける仲間がいます。
ともすれば脳腫瘍という一つの病種の中に閉じこもりがちな私の考えを外に向けさせてくれた彼女たちの闘いでした。
病は違えども思いは全く同じです。
彼女たちの活動に敬意を表するとともに心よりエールを送ります。
以下は長くなりますが掲載された彼女たちの思いです。


舛添厚生労働大臣に直談判した卵巣がん患者の願い
適応外治療を受けたいという願いはわがままなのでしょうか
片木美穂(卵巣がん体験者の会スマイリー代表)

「何ができるかわからないけれど舛添厚生労働大臣に会ってくるよ」。松島麻子(仮名)さんは、静かに、でも覚悟を決めたように力強く言いました。

●卵巣がんについて
卵巣がんは1年間で約8000人が発症し、約4500人が亡くなる婦人科がんの中でも 極めて予後が悪いがんです。
自覚症状が出にくく検診で発見するのも難しいことから、多くの患者が進行がん になった状態で発見されます。そのため、抗がん剤治療が不可欠です。
標準治療(ファーストライン)としては、タキソールとカルボプラチンの併用療 法が世界中で行われており、日本も同様です。
しかし、日本では、カルボプラチンやシスプラチンといったプラチナ製剤に耐性 などが起きたときに、選択肢が少ないのです。
世界で卵巣がんのセカンドラインとして使用されている「トポテカン(ラグ13年)」、「ドキシル(ラグ10年)」、「ジェムザール(ラグ3年)」が、
2009年4月22日にドキシルが承認されるまで「適応外」という状態でした。

●厚生労働大臣面会の背景
麻子さんは、当会の会員の中でも一番の勉強家で、プラチナ製剤に耐性が起きた ときの治療法が少ないという現状をとてもよく理解していました。
麻子さんは2008年10月15日に当会がドラッグ・ラグ解消の署名活動を始めたときに、大学時代の友人に積極的に声をかけました。
大学時代に弁論部に所属していた麻子さんの友人の多くは、国会議員・地方議員として活躍しています。
卵巣がん患者が置かれている現状に驚いた仲間が麻子さんのもとに集まりまし た。
11月の初めに舛添厚生労働大臣に麻子さんが直接会えることになりました。
麻子さんに、同行してほしいと声をかけていただきましたが、署名活動のまっただなかで連日マスコミなどの対応に追われて調整がつきませんでした。
大臣に会うまで、毎日のように麻子さんと電話で打ち合わせをしました。
不安な時も、「私がマスコミのみなさんに報道をしていただき空中戦をする。
麻子さんが、大臣に直接卵巣がん患者の現状を訴える地上戦だね」といって励まし合いました。

●再発卵巣がん患者の現状と「ジェムザール」
麻子さんは、再発後の抗がん剤治療がいずれも効果がみられず、当時治療に使っていた抗がん剤は副作用も強く、辛い思いをしていました。
しかしその治療を受けなければ「もう手が無い」状態でした。
私たちがセカンドラインとして求めるうち、「ドキシル」はマスコミの報道などが後押しをし、2007年11月に迅速審査になり、
近い将来に承認されるだろうということでした。そのような背景から麻子さんが強く望んだ薬が「ジェムザール」でした。
「ジェムザール」は日本では、非小細胞肺癌、膵癌、胆道癌、尿路上皮癌に対して承認されています。
卵巣がんに対しては世界約60カ国で承認されており、複数の海外の無作為化比較試験等の公表論文で有効とされています。
NCCNのガイドライン、日本の卵巣がん治療ガイドラインにも再発卵巣がん治療の選択肢として記載されている抗がん剤です。
麻子さんは再発後、セカンドオピニオンに訪れた病院で「数か月ごとの刻みにはなるかもしれませんが、
抗がん剤治療をうまく組み合わせていけば、やがてドキシルが承認され、その次の手がでてくるかもしれない。頑張りましょう」と言われていました。
それは、治療を望む麻子さんに対する医師の励ましだったのかもしれませんが、麻子さんとっては生きる指針になったのです。
また、スマイリーでは多くの卵巣がん患者が適応外でジェムザールでの治療を受けていました。
2008年8月5日に日本テレビニュースリアルタイムで取り上げられた当会会員が、さまざまな治療を受けて効果が頭打ちになっていたときに
ジェムザールが奏功し無病期間を送っていたことも、麻子さんにとっては無視できない情報でした。

●適応外治療を受けたいという願いはわがままなのでしょうか
なんとか、ジェムザールを投与して貰えないか」。麻子さんの思いは強かったのですが、神奈川県立がんセンターの担当医は「適応外治療を絶対にしない」と告げたといいます。
「神奈川県立がんセンターは腎臓がん患者に対して混合診療していた」とマスメディアに取り上げられたことなどが、その判断の背景にあったのかもしれません。
医師の療担規則については麻子さんも知っていましたが、担当の医師からは適応外治療をしないことに対して、何も納得のいく説明がなかったといいます。
麻子さんと私は、スマイリーの会員から情報を集めました。国立がんセンター中央病院や千葉県がんセンター、
静岡がんセンターに通院している患者からは「ジェムザールの治療を受けたことがある」「医師から受けられると聞いた」という回答が複数あり、
埼玉県立がんセンター、神奈川県立がんセンターに通院する患者からは麻子さんと同じく「適応外治療を受けられない」という回答がありました。
「癌を告知され病院を選ぶ時に、誰だって、自分の治療が手詰まりになる可能性まで考えて病院を選びはしない。
海外に治療薬があって日本で承認されないことだって辛いのに、同じ日本で治療の選択肢が違うのですか!
適応外治療を受けたいという私の願いはわがままなのでしょうか!?」麻子さんの悲痛な声が胸を打ちました。

●大臣との面談、その後
2008年11月、麻子さんは支えてくれる仲間と一緒に舛添厚生労働大臣に面会しました。
世界であたりまえに受けられる卵巣がん治療を受けたいという切実な思いを伝えてきたといいます。
ただ、麻子さんの体調では霞が関に行くだけでも大変で、疲労の色は濃く、また副作用が強い抗がん剤治療を受けていたため、詳しく報告は聞けませんでした。
しばらくして、「神奈川県立がんセンターではどれだけ担当医を信頼し、願ってもジェムザールでの治療は無理だから、
病院を探して群馬県の総合病院に明日行くことになりました」と連絡がありました。
神奈川から群馬までの道のり、麻子さんの体調を思うと、患者がどうしてここまでの苦労をしなければならないのかと切なくなりましたが、
きっといつもの明るさで報告してくれるものと待っていました。
2009年元旦、麻子さんは天に召されました。まだ30代でした。
群馬で治療ができると私に電話をしたあと、腫瘍が腹部を圧迫することによる腸閉塞を起こし神奈川県立がんセンターに緊急入院したのです。
あと1日あれば、ジェムザールが受けられたのにと呟く彼女に、何を言えばよかったのだろうと今でも思います。
麻子さんを見送ってすぐ、2009年1月27日、厚生労働省に、卵巣がん治療薬の早期承認を求める署名15万4552筆を提出しました。
たった2ヵ月半で、これだけの賛同が集まりました。段ボール8箱、重さ約150キロ…。その中に麻子さんが集めた署名も入っていました。
4月22日、抗がん剤ドキシルは、申請から2年3カ月という異例の早さで承認されました。
しかし、その裏で、治療を願いながら多くの命が旅立ったことには変わりがなく、承認を知らせるファックスを手に取り涙が止まりませんでした。

●いまこそ適応外治療について考えるとき
麻子さんが期待した「ジェムザール」や「ドキシル」のように世界の多くの国で承認され、臨床試験でも有効というエビデンスがあり、
NCCNや日本のガイドラインにも掲載されていて、日本でも複数のがんで承認されているお薬があるとします。
それが、自分の病気には適応がなく、すでに特許が切れていて、治験などの予定も立っていなかったらどうしますか?
もちろん、承認されることが一番だと思います。しかし、治験や審査には4年も5年もかかり、多くのがん患者にはその時間がありません。
日本には公知申請(2課長通知)といって、公知の事実があれば、そのデータを使って承認申請ができるというしくみもあるようですが、
多くの企業担当者は「PMDAが公知申請をさせてくれない。他の薬が人質に取られている」といいます。
こういったことを考えると「承認される“べき”」というのは、きれいごとであり、「いのち」を第一優先で考えたときには、承認されるべきという考えすら、いのちを断ち切る高い壁になってしまいます。この日本の現状で、適応外での治療を希望するのは人として当然だと思いませんか?
適応外使用を考えるとき、効果よりも危険が高い治療や不利益な治療が行われるのではないかという不安も確かにあります。
医師にはプロ意識を持ち、「国ではなく医師」が医師を監視する「自浄作用」をもって正しい治療を提供していく取り組みが必要なのではないかと思います。
また患者も藁をもすがる思いだからこそ、患者力をつけ正しい治療にアクセスする必要があると感じています。
いのちと向き合う患者が担当医としっかり話し合い、薬のリスクとベネフィットを理解し、それでも治療を望んだ時に、
どうして国が「混合診療」だと口を出してくるのでしょう。
お別れの場に置かれた写真の中に、麻子さんが舛添厚生労働大臣に会った写真がありました。たった2か月前の出来事です。
「患者の現状を伝えたい、有効性が確認されている治療を受けたい」という麻子さんの思いは大臣に伝わったでしょうか。
当会ではいつも会員さんに伝えています。「この世には奏功率100%、副作用0%というお薬はない。だからこそ患者力をつけよう」。
治療したからといって全員が治るわけではなく、がんという病気を考えたら奏功する人はほんの一握りです。だからといって承認されないから諦めろというのでしょうか。
ドラッグ・ラグは改善しようと思えばいくらでも方法があると思うのです。もっと前向きに今の日本の現状を踏まえて検討する必要があると思うのです。
卵巣がん患者の現状を思うと「これじゃあ不作為による殺人じゃないか」と憤りを感じずにはいられません。
がんは部位ごとに適応追加が必要です。有効とされるすべての部位に治験が行われることは難しく、麻子さんと同じ思いをする患者は決して少なくないと思います。
適応外という言葉尻だけをつかまえて「悪」と考えないで、今こそ、患者が置かれている現状なども踏まえ、
前向きに適応外治療について考える時期が来たのではないかと思います。

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8 コメント

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記事紹介ありがとうございます (片木美穂@スマイリー)
2009-09-05 12:50:34
ポラリスさん

はじめまして。突然の投稿失礼いたします。
卵巣がん体験者の会スマイリーの片木と申します。
日経メディカルに掲載された記事をご紹介いただきありがとうございます。
この記事は、最初はMRICと言うところに掲載されており、転載大歓迎というMRICの趣旨から日経メディカルにもご紹介されたようです。
こうして私たちの思いが枝葉を広げてたくさんのみなさんに伝わることが嬉しく思います。
私は日々厚生労働省や医師、メーカーのみなさんとお会いします。
個人で見るとどの人も頭がよく素晴らしい人々ではあるのですが、それが一つの組織になったときにはビックリするような感情ない対応になります。
でもそこで怒っても仕方が無いので前向きに対策を練り頑張っています。
今、ドラッグラグはなくなったという医者がいます。この間も厚生労働省主催のセミナーでそう言ってました。でも、それは、その先生が担当する大腸がんや胃がんだけなのではないかと…。質問をしたら案の定そうで、婦人科とかはこまってるみたいですね。とおっしゃいました。ドラッグラグはなくなったといえばすべての病気になくなったと勘違いされることを考えていないのです。
だからこそ、声を上げます。時には心おられそうになるときもありますが、今日もポラリスさんのブログでのエールに心がまた修復されました。ありがとうございます。長いコメントでスミマセン。
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私もエール! (かめ)
2009-09-05 15:29:01
ポラリスさん同様の想いです。ドラッグラグはマイナーな病気に特に表れてると思います。豚インフルのワクチン海外輸入を迅速に!っておっしゃっているお人たちが安全性が保障されてないからといって、海外で承認されてる薬の承認をしぶるのは、矛盾してませんか?患者にリスクとベネフィットを十二分に説明した上での
選択の幅の広がるのを切に望みます。
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スマイリー片木美穂様へ (ポラリス)
2009-09-07 06:44:56
こんな片隅でアップしているブログを見つけてくださった事も驚きでしたが、
ご丁寧にコメントまでいただきありがとうございます。
公私ともに忙しく過ごされている事と思いますが、体調に十分注意され益々ご活躍されますことをお祈りいたします。
返信する
かめさんへ (ポラリス)
2009-09-07 06:54:12
今の医療機関で充分なリスクとベネフィットの説明を受ける事には諦めが先に立ってしまいます。
先の文章に書かれていました「患者力」・・闘う病に対する知識とそれに立ち向かう断固たる決意・・をつけ、
自身の身を守る術をつけなければと悲壮な思いに囚われてしまいそうです。
返信する
Unknown (忘れな草)
2009-09-08 22:00:29
時が経てば経つほどその思いが強くなります。
いえ、娘の現実に向き合っていたときの私は何も知らないままでした。
ただその時の時間を無事に過ごしてほしい、それだけを願っていたのです。

こうして時間が過ぎるにつれ、私にできることは何があるんだろうと思います。
こうして頑張っていらっしゃる方の努力が実を結んで、悲しむ人が一人でも少なくなること、いえ、いなくなることを強く願います。
笑顔で毎日を過ごしていけることを願っています。

なんだか、意味不明でごめんなさい。
返信する
情報公開を望みます (そよかぜ)
2009-09-08 22:06:09
ポラリスさん、病に立ち向かう
方がたの取り組みのご紹介あり
がとうございます。脳腫瘍も含
めて、難病に向かい合うご本人
やサポーターが病種の違いを乗
り越えて一致点で共同して取り
組めることは多いと思います。
海外で承認されている薬が日本
では承認されていないなど、ま
だまだ情報が一握りの方々のも
のになっていますよね!もっと
もっと情報公開をして治療の選
択の幅を広げて欲しいものです。
これが患者さん、サポーターの
切実な願いです。「患者力」で
すね!病に立ち向かう力を蓄え
ていかなくてはなりませんね!
内にも外にもですよね!医療行
政にも声をあげていかなくては
ね!
返信する
忘れな草さんへ (ポラリス)
2009-09-09 14:22:46
標準治療で為す術がないと宣告された時、私にとってはベネフィットもエビデンスもどうでも良いのです。
大きなリスクを背負ってでも、奏功するかどうか分からない薬剤でも治療法でも試してみようと思っています。
結果は私が一生背負っていけばいいと思っています。
そんな思いをお役所には分かって頂けないようです。
歯がゆい思いで今の薬事行政を見つめています。
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そよかぜさんへ (ポラリス)
2009-09-09 14:30:33
お仕事の大変な中いつもお気遣い頂きありがとうございます。
そよかぜさんのコメントがどれほど皆さんの支えになっているか計りしれませんが、
そよかぜさんの健康を第一に無理をなさらず私達に力添えを頂けたらと思います。
本来、行政や医療機関から出てくるべき情報がこのような方達の地道な活動から生まれてくるのを不合理と思いつつも感謝するばかりです。
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