セリとナズナ2 ~My Dramatic Life~ 

駆け出しデザイナーにして壮大な妄想家・セリの綴る脳内爛漫日記。

【短編小説】Ambition 1

2012-12-14 | Weblog2
 Ambition 【1】


 秒針は残り半周をきった。そろそろと、私は割り箸を両指で挟む。

「もう、全然進まないし」
先生の椅子がぐいっと軋む。物の扱いが雑なカンコのことだ。この揺り椅子も、私たちが卒業するまでにはお陀仏かもしれない。
「それ、壊したら先生泣くよ。いただきます」
溢れ出る湯気にのって、キムチの香りが美術準備室中に行き渡った。椅子を粗末に揺らしながら、カンコはちらちらとカップ麺に視線を送る。

 カンコの目がより一層細くなったのを見て、私は準備室専用の大きくて古い扇風機を、カップ麺と、自分の座っていた席と、その横にある窓とを一直線に結ぶ角度に傾けた。
重ったるいキムチ風味の空気は、徐々に外に向かって抜けていく。真夏の太陽に焼かれた校庭には野球部員とサッカー部員が数人、ちらほらと見えるだけだ。
お昼休憩に入ったので部員の多くはきっと日陰に避難しているのだろう。

 ふと、聞き覚えのある声が耳に入った。伸びきった麺を口に運びながら、私はその呼びかけに聞こえないふりをする。
「うわ、何。めちゃめちゃ匂うんですけど」
サッカー部のユニホームを着た、真っ黒な男子が窓に駆け寄ってきた。鼻の穴を膨らませたその顔は、テレビで最近売れてきたお笑い芸人に少し似ている。
「でしょ。もう酷いよねぇ」
と、カンコはわざとらしく苦い表情を作る。
「スーパーカップキムチ味。食べたい?」
そう聞くと、長谷川は汗でテカテカしている手を横に振った。
「や、いらねえ。あっついのによく食えるね」
相変わらず、眉をくいっと吊り上げてよく笑う。

 適当な話を適当にして、長谷川はアイスの買い出しに行ってしまった。
背番号23番は校門を出てあぜ道を元気に走っていく。その姿はどんどん小さくなりついには見えなくなった。
カンコに聞こえないくらいの息を吐いて、私はぬるくなった残りの麺に視線を戻した。



【2】へつづく

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