セリとナズナ2 ~My Dramatic Life~ 

駆け出しデザイナーにして壮大な妄想家・セリの綴る脳内爛漫日記。

【短編小説】Ambition 3

2012-12-14 | Weblog2
 Ambition 【3】


 『願いの虹』の「願い」の部分はカンコの担当だった。ちまちまと指を動かしている彼女によると、「願い」の部分は私たち二人のアイデアを上手く組み合わせたものになっているという。夏休みにデザイン画を考えているときには、どうしても何を「願い」に置くかが決まらず、結局お互いに好きなものをリストアップしカンコが後々まとめるということになった。
 出来上がってきたものを見る限り、それは三段のウエディングケーキであるらしかった。カンコの願いは「愛」で、私のからは「甘いもの」がチョイスされたようだ。なるほど、上手く表現されている。丁寧に丸められた、愛らしいバラの花を身に纏ったケーキは、あと数日で出来上がるだろうと思われた。

 作品の締め切りまであと四日と迫った日、柔らかなアーチを描いた虹がついに完成を迎えた。虹の七色は、直径3センチ程の棒状の粘土を七つ、一列に並べてくつけ帯状にすることで表現した。そのぽこぽこと丸みを帯びた赤褐色の表面は、水を付けた手のひらで何度も撫で、ツヤツヤとした滑らかな質感に仕上がっている。
 カンコが丹念に作り上げたウエディングケーキは、二人でゆっくりとてっぺんに乗せた。あとは土台を華やかに飾るのみである。カンコも私も、乾いた粘土が張り付いてボロボロになった手を打ち合わせて、あたかも作品が完成したかのように騒ぎあった。

「ねえ、運動部の午後練って五時からだよね?」
 散々喜び合った後、ぐったりした体を机に預けたまま私は言った。
「多分そうじゃない?」
 カンコは頬杖をついて『願いの虹』を見つめている。唇が微かににやついていた。
「明日の放課後、これ、見せてもいいかな?」
「虹だって分かるかねえ、あいつに」と、カンコはいたずらっぽく笑った。

 気がつけば、美術室には私たち二人だけしか残っていない。窓を閉めようとして外を見ると、ライトアップされた校庭ではまだサッカー部の練習が続いていた。
一人一人目で追っては見るものの、視力があまり良くないのと辺りが暗いせいで23番を見つけることは出来なかった。そんなことをしているうち帰り支度を済ませてしまったカンコに急かされ、早々に美術室を後にした。



【4】へつづく

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