セリとナズナ2 ~My Dramatic Life~ 

駆け出しデザイナーにして壮大な妄想家・セリの綴る脳内爛漫日記。

【短編小説】Ambition 2

2012-12-14 | Weblog2
 Ambition 【2】


 県の美術展まで、残すところ一ヵ月半となった。他の部員たちが作業する傍らで、まだ決めてもいない題材に私たちは頭を悩ませていた。と言っても、焦りを感じているのは私一人のようで、カンコはのん気に昨日見たDVDの話をしている。
「それでね、虹のてっぺんにこう、自分の願いを置くの」
好きなものの話をするとき、カンコの手はあっちに向いたりこっちに仰がれたりと忙しく動く。

「要は、自分の目から見て、虹の上に乗っているように見える位置に物を据えるのよ。映画ではさ、恋人とクリスマスに買ったスノードームに願いを掛けて虹に置くの。そのスノードームはね、結婚して新婚旅行で行きたいねって二人で話していたパリの風景が入ったもので、ラストでは主人公の男が一晩だけ、パリの街を亡くなった恋人と歩くところで終わってるの」
「ふうん、ロマンチックだね。でもさ、それって映画の中だけのジンクスだよね?」
「そりゃそうでしょ、実際に叶うわけないって。だからこそ憧れるんじゃん。今回のテーマとしても申し分ないでしょ、決まりだね」

「…何の話?」
 私の返事が気に触ったみたいで、みるみるうちにカンコの目が細くなる。
「もう、だから、美術展に出す共同制作のテーマ。粘土で『願いの虹』を作るのよ。いいと思わない?」
「粘土…ですか」
「やだ、気に入らない?じゃあ言い方を変える。「共同立体造形作品」で、どう?粘土で大きな虹を作ってさ、てっぺんに私たちの願いを置くの。高校最後の作品としてもいい線いってると思うんだよね」

 カンコの目にはもう、『願いの虹』の完成した姿が見えているのだろう。
この日めでたく私たちの作品は、粘土を使用しての立体造形ということに決まった。私としては、別に粘土が嫌なわけではなかったし、むしろカンコと一緒に作品を作っていくのが楽しそうだったので不都合な点は無かった。

 題材が決まれば作業は早いもので、赤土の粘土の取り寄せ、作品の土台の準備、『願いの虹』のデザイン、実際に形を作っていく作業までとんとん拍子に進んでいった。私もカンコも数年来触れることの無かった粘土に、最初は悪戦苦闘だった。
 ビニールに密閉された粘土は冷たくて重くて、その上想像以上に固い。全体重をかけて練りほぐし、空気を含ませ、手のひらの温度を移して柔らかくしていく作業に骨が折れた。そのうちに、少しずつコツを得てきて、力の入れ加減や、粘土が固まり始める時間を計算して作業できるようになった。

 何とか作品の全体像が見え始めた頃には、最後の夏休みが終わり慌ただしく二学期に突入していた。授業が終わってから作品制作にかけられる時間は多くても三時間弱。美術展までの残りの日数も指で数えられるほどになり、日に日に涼しくなっていく外の空気とは逆に、放課後の美術室は熱気で満たされていった。
 作品のメインとなる直径50センチの虹は、内側から粘土を支えるための針金は入れずに制作している。これは私たちが、粘土の中に不純物(この場合、針金のことになる)を混ぜることに、どうしても抵抗を感じたためであった。

「虹って、ふわふわしてて薄くって、今にも消えちゃいそうなものなんだよ。針金を入れるなんて邪道、絶対に嫌」
というカンコの理論に私も納得したので、先生はせっかく自宅から持ってきてくれた太い針金を、薄暗い準備室のどこかに閉まってしまった。
 今になって思えば、こんなにも純粘土製にこだわったのは「不純物の一切入ってない虹の完成」に、私たちは自分たちの願いの成就をジンクスとしてかけていたのかもしれなかった。



【3】へつづく

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