好きな情景を、絵のように書きたいだけ

2008-01-04 20:28:57 | こんなンで委員会
 
(陽光キラメク雨上がりの竹/自販機のそば、女郎花の綿毛)


「楢山節考」の新人賞の授賞式の夜から、私は深沢七郎という新しい人間に生まれ変わったのではないかと思う。恐ろしい晩だった。

今夜は一人でこんなところに来てしまったのだ。なんとなく意地悪の人たちに取り囲まれたと思い込んでしまったのだ。おっかないことと意地が悪いということを一緒にしてしまったのだ。

それ程私は非常識な、ものを知らない男だったのだ。私はその時、「楢山節考」という小説を書いたことに後悔していたのだった。

ボクは「おりん」のような老婆が好きで、ただ好きでという気持ちだけで書いたのだ。そんな軽い気持ちで書いたことは、何か罪悪でも犯したような気になってしまった。

あの小説を新人賞に応募する時、丸尾先生が「中央公論」の雑誌の募集規定の所を拡げて宛名を紙に書いて下さったのである。(こんなものが選ばれやしない)と思った。「中央公論」なんて官庁で発行しているような気がした。

(そんなカタイ雑誌で、こんなものが選ばれるわけがない)と思った。(出すだけムダだ)と思った。だがその反対に、(試しものだ)とも思ったりした。(とてもダメだ)ときめていたのに当選の電報が来たのである。

私は、あの小説が雑誌にのって、それでボクは用事がないのだと思っていた。苦しい授賞式の席で(こんな思いまでして賞金をもらうなら、来なければよかった)とも思ったりしていた。

中央公論社へ当選の電報を持って行って、窓口へ見せれば窓口の女の子が賞金の十万円をくれて、それを貰ってくれば、それでいいのだ、それで用事はないのだと思っていた。

今まで誰もホメ手がなかったのに、目の前で中央公論社の社長がホメたので、(もし、いい小説だったら儲けものだ)と思った。(こんなことをしてはいられない、そんなことを云われるなら、こんどははじめから一生懸命に書かなければ)と気がイライラしてきた。

その時はもう、ゼニなど貰わなくても良いと思ったほど、小説を書くということが恐ろしいことになっていた。

あの時、丸尾先生が、「今、中央公論社で新人賞を募集しているから、これを清書して出せよ」と云って下さった時に、「あの、宛名はどこですか?」と、云わなければよかったのに云ってしまったのだ。(深沢七郎『言わなければよかったのに日記』より)


深沢氏にとって、この授賞式というものがいかにオオゴトだったか、これで分かっていただけると思う。

昔、出版記念パーティというものに招待されて、先輩と一緒に行ったことがあった。本を出版した先生ご本人との繋がりであるから、義理でもないのだが(サイン本だって贈呈してもらったし?)、ただ、場慣れしていないせいか居心地はあまり良くなかったように記憶している。

有名人も来ていたけれど、こちらは別に”人脈作り”をする立場でもなし。先輩と二人で、偉い人たちのスピーチに拍手していただけであった。こういう時は、華のある社交的な人がウラヤマシクなってしまう・・・かな?

深沢七郎ワ~ルド、まだまだ続きます(予定)。どうにも可笑しいのに、悲しくもあり、身につまされます(笑)


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6 コメント

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遅ればせながら・・ (リラ)
2008-01-04 22:02:37
 大変遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
今日は、私のブログにお越し頂き、有り難うございました。
こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します。

 リンクの件、有り難うございます。
私の拙いブログでよろしかったら、いつでもどうぞ!
私も、早速リンクさせて頂きました。

 トーコさんは、読書家でいらっしゃるのですね。
深沢七郎の本は、生憎読んだ事がありません。
タイトルの言葉は、とても含蓄のある言葉ですね。

 まだまだ知らない事は、沢山ありそうです。
こんな私ですが、これからもよろしくお願いします。
篠井冨屋連峰 (山小屋)
2008-01-05 05:27:47
トーコさん、今日の文章を読んで何だか自分のことのように思いました。この作家とどことなく似ているところがあるようです。
営業が仕事でした。
知らない人と会うのは好きでした。
いきなり自分を表にだして本音で話しました。
会っている時間の半分は山の話でした。
それでも注文をくれました。
「商品を売る前に自分を売れ」がモットーでした。

華々しいことは嫌いでした。
頼まれて政治家のパーティにもでたことがありますが、拍手はしませんでした。
白々しく感じたからです。

トーコさんの文章にほだされて本音で書きました。
明日(6日)は「篠井富屋連峰」に行きます。
宇都宮集合で、宇都宮解散です。
トーコさんの近くですか?
リラさんへ (トーコ)
2008-01-05 14:16:32
さっそくのココロ良いお返事、ありがとうございます

ライラックの花のような、上品なリラさんに来ていただくと、私のブログもグレードが上がり、男性訪問者さんも喜びましょう。嬉しいことです

私の場合、一般ウケするところから若干ズレております所で、”ひとりうけ”している読書傾向なために、参考にはならないと思いますが。。。あはは

今年は、ぼちぼちと、よろしくお願いいたします~

山小屋さんへ (トーコ)
2008-01-05 14:34:56
まぁまぁ山小屋さん、明日はオニギリを忘れないようにね!(笑)

篠井・富屋ですか。そこ、家族4人で以前に登った事があります。神社の近くに車を置いて。

山小屋さんならお散歩程度のことでしょうけれど、私には、死ぬほど疲れた記憶しかありませんわ~。あはは。

こちらは、今日は風が吹いていて、とても寒いですよ。明日は風がないといいけれど。。。

もし餃子を食べるなら、「一品香(いっぴんこう)」という名前のお店にしてください。ラーメンも旨いです。ただし、並ばなければなりませんが・・・

本音トークのコメント、ありがとうございました
トーコさんへ (ken(森の時計と丘の風))
2008-01-06 09:53:57
トーコさん、おはよう!

人には様々な人生観があるんだな~!って感じました。

自分の人生観と比べながら…笑

ポチ!
kenさんへ (トーコ)
2008-01-06 13:28:52
kenさん、ありがとうございます

人生観なんて。。。私には百年早いような気もしますが・・・(笑)

少し悲しくて、辛い気もしますが、逃げてばかりでもいけないのでしょうね。それでず~っと、追いかけられてばかりでも、ツマリマセンしね。

貴重なコメント、ありがとうございました

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