タイ国経済概況(2020年8月)

1.景気動向
(1)タイ中央銀行(BOT)は7月31日に6月の経済報告書を発表。引き続き多くの経済指標はマイナスであるが、タイおよび諸外国のロックダウン緩和による経済活動の復帰を受け、前月と比べるとマイナス幅が改善した指標も見受けられる。輸出、民間消費、民間投資、工業生産指数が低調だった一方、政府支出は経常支出・資本支出ともに拡大した。観光産業は、外国人旅行者が4月よりゼロとなっている影響で引き続き低迷。輸出は前年同月比▲24.6%の160.7億米ドル、輸入は同▲18.2%の137.5億米ドルであった。また、消費者物価指数(CPI)は同▲1.57%、コアCPIは同▲0.05%だった。なお、BOTは7月8日に向こう一年のCPI上昇率が平均▲0.9%となる見込みを発表している。

(2)タイ工業連盟(FTI)が7月23日に発表した6月の自動車生産台数は、前年同月比▲58.5%の7.2万台だった。14ヵ月連続のマイナスながら、多くのメーカーが生産を休止していた4月の2.5万台、5月の5.6万台からは増加した。内訳は国内向けが同▲67.4%の2.9万台、輸出向けが同▲49.2%の4.3万台。上半期(1~6月)の累計生産台数は、前年同期比▲43.1%の60.6万台となった。また、6月の国内販売台数は前年同月比▲32.6%の5.8万台、輸出台数は同▲48.7%の5.0万台。上半期(1~6月)の累計国内販売台数と累計輸出台数は、それぞれ前年同期比▲37.3%の32.9万台、同▲37.4%の35.1万台だった。

(3)FTIが7月23日に発表した6月の自動二輪車生産台数は、前年同月比▲56.1%の9.0万台だった。内訳は完成車(CBU)が同▲52.1%の7.6万台で、完全組み立て部品(CKD)が同▲69.7%の1.4万台。上半期(1~6月)の累計生産台数は、前年同期比▲30.3%の87.7万台。また、6月の国内販売台数は前年同月比▲16.9%の12.5万台、輸出台数は同▲52.8%の4.0万台だった。


2.投資動向
(1)7月24日、タイ国鉄(SRT)はドンムアン、スワンナプーム、ウタパオの3空港を連結させる高速鉄道建設プロジェクトの、第2期区間開発に関する事業説明会を開催した。第2期では、ウタパオ空港のある東部ラヨン県からカンボジア国境と接するトラート県までの190キロメートル区間を時速250キロの高速鉄道で結ぶ計画。総事業費の試算額は1,017億バーツで、2028年の開業を目指しPPP(官民連携)方式での開発が検討されていること等が説明された。第1期区間にあたるドンムアン空港からウタパオ空港までの建設・運行に関しては、昨年10月に地場大手財閥のCPグループが主導するコンソーシアム、「イースタン・ハイスピード・レール・リンキング・スリー・エアポーツ」が受注している。

(2)7月9日、茂木外務大臣およびベトナムのファム・ビン・ミン副首相兼外務大臣が共同議長を務めた第13回日メコン外相会議がテレビ会議にて開催され、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage:UHC)達成および経済の一体的強化のための日メコン協力に関する共同議長声明」が採択された。各国は新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを支払い可能な費用で受けられる状態を指すUHCの重要性を改めて確認した。また日本はメコン諸国に対して感染症対策能力の強化、ASEAN感染症対策センター設立への支援、経済の強靭化支援を通じて新型コロナウイルスとの闘いを後押ししていく旨を伝えた。


3.金融動向
タイ中央銀行の発表によると、2020年6月末時点の金融機関預金残高は22兆30億バーツ(前年同月比+10.4%)、貸金残高は25兆4,943億バーツ(同+3.8%)といずれも増加。


4.金利為替動向
〈金利動向〉
(1)(7月の回顧)
7月のバーツ金利は5年を起点に長期金利が小幅上昇、短期金利は小幅低下となった。米国で一部ロックダウンが再導入となったことや米中対立激化等から米長期金利が低下した一方で、8月タイ中銀金融政策委員会(MPC)では政策金利の据え置きが見込まれていたことが主な背景。月初、米中の景気回復期待がバーツ金利を押し上げていたところに発表された6月タイ消費者物価指数(CPI)が、前年同月比1.57%低下と前月の3.44%低下から大幅に改善が見られたことからバーツ金利は上昇。その後発表された米経済指標が堅調な結果となりリスクセンチメントが一段と改善、これを受けてタイ10年物国債利回りは一時1.41%台まで上昇した。プラユット首相が内閣改造を9~10月に行う考えを明らかにしたことで政局リスクが意識されSET株価指数が下落、バーツ金利も下落となった。米国内で新型コロナウイルス感染再拡大が懸念されていた中、カリフォルニア州が一部ロックダウン措置を再導入し米金利低下となるとバーツ金利も低下。中旬、タイ中銀は新型コロナ前の水準にタイ経済が戻るのは2022年以降になる可能性があるが、現行の政策金利がゼロに引き下げられる可能性は低いとの見解を示した。またその際、マティ・タイ中銀副総裁はイールドカーブ・コントロール(YCC:長短金利操作)を検討しているが、流動性が潤沢なため量的緩和を実施しても景気回復に寄与しない可能性があると述べた。その後、ソムキット副首相以下、ウッタマ財務相を含む数名の閣僚が辞任したことでタイ経済・財政政策への懸念が強まり、バーツ金利は一段と低下。月後半、ワクチン開発で良好な結果を得たとの報道や欧州連合(EU)首脳会談で、7,500億ユーロの復興基金設立合意に達したことでリスク回避が弱まりバーツ金利も多少上昇する局面も。しかし米国が在米中国総領事館の閉鎖を命じ、中国が報復措置を取ったことで米中間の緊張が高まり、再びリスク回避姿勢が強まりバーツ金利は低下に転じた。米連邦公開市場委員会(FOMC)では、事前予想通り政策金利は現状の0~0.25%で据え置かれたが、声明で新型コロナ感染拡大の影響からの回復に向けてあらゆる手段を尽くすとし、必要な限り政策金利をゼロ近辺に留めると改めて表明したことや、米第2四半期GDPが統計開始以来最大の落ち込みを記録したこともバーツ金利を押し下げた。月末にかけてもトランプ米大統領の11月大統領選延期発言等が材料視されバーツ金利は低下し、タイ10年物国債利回りは1.26%台、同5年物利回りは0.78%台とそれぞれ前月末対比では0.01%、0.04%低下となったが、同2年物利回りは0.01%上昇となった。なお、9月末で任期満了となるウィラタイ・タイ中銀総裁の後任にセタプット氏が内定。同氏は現タイ中銀MPCメンバーで首相の経済顧問も務める。

(2)(8月の展望)
今月5日に開催されたタイ中銀MPCでは事前予想通り政策金利は0.50%で据え置かれ、景気に関しては6月で底を打ったが、回復には少なくとも2年はかかるとの見方が示された。新型コロナ動向、米中対立など外部環境は依然不透明であることに加え、タイ国内政治動向にも注意が必要。

〈為替動向〉
(1)(7月の回顧)
7月のドルバーツ相場は小幅上昇。前月リスク選好の戻りでバーツ高が進行していたが、7月に入って以降、米国をはじめとした新型コロナ感染の再拡大が見られたことや米中対立激化への懸念といったリスク回避の動きが強まる等、前月までの動きがいったん反転。月末にかけてはドル売りとなりドルバーツは上昇分の大半を失った。月初、ドルバーツは30.9台でオープン。米国や中国の景気回復期待の一方で米中対立激化が懸念されていた中、メルボルンでロックダウンが再導入されたことを受けてドルバーツは上昇。プラユット首相が内閣改造を9~10月に行うとの考えを示したこともバーツの逆風となった。その後、米カリフォルニア州でも一部ロックダウンが再導入されたことでドルバーツは一段と上昇し31.6台に。中旬、ソムキット副首相をはじめとした閣僚4名が辞任したことで、経済政策への懸念が台頭。米国での新型コロナ感染拡大、EU首脳会議での復興基金が合意に至らないこと等でドルバーツは一段と上昇し一時31.8台半ばを回復。しかし戻り売り圧力も相応にあり31.8台定着とはならず、さらにワクチン開発で良好な結果が出たとの報道や、EU首脳会議で復興基金が総額7,500億ユーロで合意に至ったことでリスクセンチメントが改善しドルバーツは下落。下旬には、米政府が在米中国総領事館の閉鎖を要請、中国も報復措置を取ったことやタイ6月貿易統計で輸出が前年比23%減まで落ち込んだこと等でドルバーツ上昇の局面もあったが、米国内での新型コロナ感染拡大およびそれに伴う景気への懸念や米FOMCのハト派的スタンス、米第2四半期GDPが統計開始以来最大の落ち込みを示したこと等からドル売りの流れとなりドルバーツは下落。月末にはトランプ米大統領が11月に予定されている大統領選延期を示唆したことでドルバーツは一段と軟化し、31.2割れでクローズ。

(2)(8月の展望)
今月5日に開催されたタイ中銀MPCでは政策金利は事前予想通り据え置きとなった。声明文では、タイ国内でのロックダウンの緩和やグローバルで経済活動が徐々に回復していることからタイ経済も徐々に回復、しかしながら、経済活動が新型コロナ前の水準に戻るまでに少なくとも2年はかかると指摘。米国内で新型コロナ感染拡大に歯止めがかからないことや米中対立の激化への懸念がむしろドル売りを誘発していること、また先月のEU首脳会議での復興基金設立合意によるリスクセンチメントの改善はドルバーツの上値を押さえる要因。一方で、新型コロナ感染は予断を許さないことや今後のタイ政治動向には一定の注意が必要。


5.政治動向、その他
(1)7月12日、タイ政府は新型コロナウイルス感染拡大による経済支援策を官報に公示、即日施行となり、歳入法典に基づき一定の条件を満たした事業者は月額賃金が1.5万バーツ以下の従業員の、賃金の3倍の金額を経費計上することが可能となった。2019年9月30日までに終了した会計年度の売上が5億バーツ以下で、従業員数が200名以下であること。また、2020年の4~7月の各月末の社会保険加入従業員数が同年3月末から下回っていないこと等が条件として挙げられている。

(2)タイ政府は7月31日付で非常事態令第9条に基づく決定事項(第13号)を官報に掲載し、タイ全土を対象とした非常事態宣言の適用を8月31日まで延長する旨を発表した。


(注)本資料は情報の提供を目的としており、何らかの行動を勧誘するものではありません。
投資等に関する最終決定は、お客様ご自身で判断されますよう宜しくお願い申し上げます。


情報提供:
三井住友銀行バンコック支店 SBCS CO., LTD.

                                                 
 
 
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