タイ国経済概況(2020年9月)

1.景気動向
(1)国家経済社会開発委員会(NESDC)は8月17日、2020年第2四半期の経済成長率を前年同期比▲12.2%と発表した。内訳を見ると、輸出が同▲28.3%(物品輸出:同▲15.9%、サービス輸出:同▲70.4%)、輸入が同▲23.3%(物品輸入:同▲19.3%、サービス輸入:同▲37.9%)、民間消費と民間投資はそれぞれ、同▲6.6%、同▲15.0%でともに減少。一方で、政府支出と政府投資はそれぞれ、同+1.4%、同+12.5%でともに増加した。産業別では、農業が同▲3.2%、製造業が同▲14.0%、サービスが同▲12.3%。産業別の詳細においても、建設(+7.4%)等を除き軒並みマイナスとなった。また同日、NESDCは同期の失業率を2.0%と発表。失業率はここ数年、1%前後で推移しており、大幅な悪化となった。

(2)タイ工業連盟(FTI)が8月20日に発表した7月の自動車生産台数は、前年同月比▲47.7%の8.9万台だった。15ヵ月連続で前年同月比マイナスとなった一方で、前月比では5月以降プラスが続いている。内訳は国内向けが同▲48.0%の4.6万台、輸出向けが同▲47.4%の4.4万台。1~7月の累計生産台数は、前年同期比▲43.8%の69.5万台となった。また、7月の国内販売台数は前年同月比▲24.8%の5.9万台、輸出台数は同▲39.7%の5.0万台。1~7月の累計国内販売台数と累計輸出台数は、それぞれ前年同期比▲35.9%の38.8万台、同▲37.7%の40.0万台だった。

(3)FTIが8月20日に発表した7月の自動二輪車生産台数は、前年同月比▲26.9%の14.4万台だった。前年同月比マイナスながら、前月比では+60.6%と大幅プラスとなった。内訳は完成車(CBU)が同▲23.7%の11.9万台で、完全組み立て部品(CKD)が同▲38.7%の2.5万台。1~7月の累計生産台数は、前年同期比▲29.8%の102.2万台となった。また、7月の国内販売台数は前年同月比▲7.9%の13.7万台、輸出台数は同▲40.1%の3.9万台だった。


2.投資動向
(1)タイ国投資委員会(BOI)が発表した投資統計によれば、上半期(1~6月)の新規投資申請件数は前年同期比+7%の754件、申請金額は同▲17%の1,589億バーツだった。このうちタイ政府が誘致を強化している重点産業への申請が金額ベースで52%を占め、中でもBOIが4月に新たな奨励策を発表していた医療産業については、申請件数が同2.7倍の52件、申請金額も同2.2倍の131億バーツと大幅に増加。また、海外直接投資(FDI)は新規申請件数が同+5%の459件、申請金額は同▲34%の759億バーツであった。国・地域別では日本が申請件数99件、申請金額226億バーツで最多だったが、申請金額は同▲45%落ち込んだ。

(2)バンコク日本人商工会議所(JCC)は8月28日、2020年度賃金労務実態調査の概要を発表。2020年の賃上率(中央値)は製造・非製造業ともに4.0%、2019年度の賞与(中央値)は製造業が3.4ヵ月、非製造業が2.5ヵ月であった。なお、本調査は4月13日調査票発送、5月22日締切のため新型コロナウイルスのその後の影響については反映していない。


3.金融動向
タイ中央銀行の発表によると2020年7月末の金融機関預金残高は22兆1,735億バーツ(前年同月比+11.2%)、貸金残高は25兆5,699億バーツ(同+3.8%)といずれも増加。


4.金利為替動向
〈金利動向〉
(1)(8月の回顧)
8月のバーツ金利は長期を中心に上昇。米国をはじめグローバルに、新型コロナ対策として財政支出が拡大していることによる債券の需給懸念やタイ政治不安等が背景。前月の米連邦公開市場委員会(FOMC)がハト派的に捉えられたことから米金利が低下地合いとなっていた中、月初バーツ金利も弱含んで推移。5日に開催されたタイ中銀金融政策委員会(MPC)では事前予想通り政策金利は現行の0.50%で据え置かれた。景気に関してはロックダウンの緩和で経済に回復の兆しが出ていると指摘した一方、経済活動が新型コロナ前の水準に戻るまでには少なくとも2年かかると指摘。政策金利については、過去と比べても近隣諸国と比較してもすでに非常に低くもはや主役ではないとしたが、緊急時には有している手段を活用する用意があるとした。またトランプ米大統領が中国の一部アプリが関わる取引を禁止する大統領令に署名したほか、香港のキャリー・ラム行政長官らに米政権が制裁を科すことを発表。中国はこれを受けて米国当局者や共和党議員等に制裁を科すと報復を発表し、米中の対立激化への懸念が高まった。一方、米国で追加経済対策の協議が難航していた中、トランプ米大統領が失業保険追加給付延長措置を含む大統領令に署名したことで米金利が上昇となった。これを受けてバーツ金利も上昇した。その後発表されたタイ第2四半期GDPが前年同期比12.2%減と予想ほどは落ち込まなかったとはいえ、アジア通貨危機以来の落ち込みを示したことで、バーツ金利は一時小幅下落となった。しかし、タイ国内で2014年のクーデター以降最大規模となるデモが行われた後、デモに関わった人権派弁護士が逮捕される等、反政府デモの活発化やタイ政治への懸念等からバーツ金利は上昇となった。さらに米FOMC議事要旨でイールドカーブ・コントロール(YCC:長短金利操作)の導入に消極的であることが明らかになったことで、米金利が上昇したことに伴いバーツ金利も上昇。ジャクソンホールでの年次シンポジウムでは、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が平均インフレ率目標の導入を示唆した。この直後、米金利は低下したが消化後には上昇に転じたことでバーツ金利も上昇。タイ10年物国債利回りは1.50%台、同5年物利回りは0.92%台とそれぞれ前月末対比では0.24%、0.14%上昇、同2年物利回りは0.09%上昇となった。

(2)(9月の展望)
今月初めにプリディー氏が財務相在任わずか26日で突然辞任を表明。タイの政治、経済への不安が高まったものの内閣改造後の追加経済対策はプラユット首相が主導権を握っていることから、財務大臣交代が財政政策に与える影響は基本的には限定的と考えられるが、不在期間が長期化すると政策の決定・執行に影響があることには留意が必要。また、特に長期金利は米金利に連動しやすいことから米金利動向にも注意が必要。今月は15~16日に米FOMC、23日にタイ中銀MPCの開催が予定されている。

〈為替動向〉
(1)(8月の回顧)
8月のドルバーツ相場は上下するも結果的には小幅下落。米FOMC議事録でYCCの導入に消極的であることが明らかとなったことや、タイ国内ではアジア通貨危機以来となるGDP成長率の落ち込みと経済が不調となっている中、2014年のクーデター以降最大規模の反政府デモが行われ、また反政府集会が活発化していったこと等でドルバーツが上昇する局面もあった。しかし、ジャクソンホールでのパウエル米FRB議長の講演で平均インフレ率目標の導入が示唆されたことで米金利が長期間にわたって低金利となるであろうとの見方となり、再びドル安の流れとなりドルバーツは月間では小幅下落となった。月初、ドルバーツは31.2台でオープン。前月の米FOMCがハト派的に受け止められた流れや米国での新型コロナ感染拡大に歯止めがかからない一方、米議会で追加経済対策が難航したことでドル安が継続しドルバーツは一時31割れに。5日に開催されたタイ中銀MPCでは事前予想通り政策金利は据え置きが決定された。景気に関してはロックダウンの緩和で経済に回復の兆しが出ているとの指摘の一方で、経済活動が新型コロナ流行前の水準に戻るまでに少なくとも2年かかるとした。またバーツ高が景気回復に水を差す可能性に懸念を示し、必要な措置を講じる方針を示したことで警戒感が出たことや、米中対立激化への懸念でドルバーツは上昇。反政府デモが活発化しタイ政治への懸念が台頭したことや、タイ第2四半期GDPが前年同期比12.2%減とアジア通貨危機以来の落ち込みを示したことで、ドルバーツは一段と上昇し一時31.6台に。しかし輸出勢のバーツ買いフローも相応にあったことから一巡後は反落。月末近くに開催されたジャクソンホールでの年次シンポジウムでの、パウエル米FRB議長の講演をきっかけにドル売りとなりドルバーツは下落し、31割れを試すも失敗。その後は印中の地政学リスク等から反転し31.1台でクローズ。

(2)(9月の展望)
今月初めにプリディー氏が財務相就任後わずか26日で辞任したことを受けて、タイ政治、経済への不安が高まり足元ドルバーツは上昇。内閣改造後、追加経済対策はプラユット首相が主導権を握っていることから、財務大臣交代が財政政策に与える影響は基本的には限定的と考えられるが、不在期間が長期化すると政策の決定・執行に影響があることには留意が必要。今月は15~16日に米FOMC、23日にタイ中銀MPCの開催が予定されている。


5.政治動向、その他
(1)7月にソムキット氏をはじめとする閣僚が辞任したことを受け、8月12日、新閣僚が正式に就任、プラユット改造内閣が発足した。以前から外務相を務めるドーン大臣も副首相を兼務することとなり、副首相は6名に増えた。しかしながら9月1日、財務相に就任していたプリディー氏が辞任を表明、同月2日付で辞職した。
(2)タイ政府は8月25日の閣議にて、付加価値税(VAT)の税率7%の適用期間について、期限となっている今年の9月末よりさらに1年延長することを承認した。VATの税率は法律で10%と定められているものの、長らく暫定税率7%が適用されており、10%への移行は先送りされ続けている。
(3)タイ政府は8月28日付で、タイ全土を対象とした非常事態宣言の適用を9月30日まで延長する旨を官報に掲載した。非常事態宣言の延長は5度目となる。


(注)本資料は情報の提供を目的としており、何らかの行動を勧誘するものではありません。
投資等に関する最終決定は、お客様ご自身で判断されますよう宜しくお願い申し上げます。


情報提供:
三井住友銀行バンコック支店 SBCS CO., LTD.



 
 
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