砂蜥蜴と空鴉

ひきこもり はじめました

♯74 焼却

2006年03月22日 | ログ
新鮮な肉の焦げる匂い。
死後12分。
死んでいる事を除けば生前と何も変わらぬ姿だろう。

灯(あかり)は何の感慨もなく灰へと変わっていく死者を眺める。
感慨を抱くようでは焼失委員会のメンバーは務まらない。

世紀末を四半世紀越えた頃、ようやく世界は終わりを迎え始めた。
人はそれを「ゲルニカ」と呼んだり「エンドロール」と呼んだりする。

人類の圧倒的な規模での自殺者の増加。
皮肉な話だ。
世紀末は人々に終焉を語り自殺者を増やした。

しかし人々が恐れた人類の存亡は病原菌でも
宇宙人の襲来でも隕石の衝突でもなく
ただ、ただ人自身の自殺によって始まったのだから。

たぶん新世紀を待たずして死んだ人々には理解出来ないだろう。
何しろ毎日大勢の人間が「理由もなく遺書を残して」死ぬのだから。

空白の遺書。
怒りも悲しみも恨みすら記述されない死者の手紙。

それは生きてる人間へ死の原因を伝える訳ではなく
ただ「私は自分の意思で死んだ」という簡潔なこの世への事務手続きだ。