砂蜥蜴と空鴉

ひきこもり はじめました

蓮華

2005年03月23日 | ログ


―――紅い花が咲いていた。
六月の雨は色彩の濃度を薄めていく。

―――残酷なことに生きていた。
四肢五体は無事であり、腹だけが一閃に裂かれ血を吐き出す。
まるで蓮華のように、路地裏で、その美しい花は咲いていた。

手は庇うように下腹を抑え
けれど血液は水溜りを染め上げるように流れていく。

―――それは土手先に咲く蓮華のように。
誰にも看取られることなく死んでいく。

息が。
熱が。

末端から臓腑へ、やがて心臓へと。
ゆっくりと失われ、ゆっくりと死んでいく。

花は思う。
短い一生であったと。

花は笑い、忌々しげに見る傍観者に短く遺言した。

「―――こんにちは」