―――紅い花が咲いていた。
六月の雨は色彩の濃度を薄めていく。
―――残酷なことに生きていた。
四肢五体は無事であり、腹だけが一閃に裂かれ血を吐き出す。
まるで蓮華のように、路地裏で、その美しい花は咲いていた。
手は庇うように下腹を抑え
けれど血液は水溜りを染め上げるように流れていく。
―――それは土手先に咲く蓮華のように。
誰にも看取られることなく死んでいく。
息が。
熱が。
末端から臓腑へ、やがて心臓へと。
ゆっくりと失われ、ゆっくりと死んでいく。
花は思う。
短い一生であったと。
花は笑い、忌々しげに見る傍観者に短く遺言した。
「―――こんにちは」