発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

精神疾患の根っこは「外胚葉障害」

2018-08-15 14:36:51 | 精神科医療
 こころの病について調べてきて、ある疑問を持つようになりました。
 それは、同じ薬が違う病名の精神疾患に使われている事実。
 
 例えば、抗精神病薬はもともと統合失調症の治療薬ですが、それがうつ病や双極性障害にも用いられます。てんかんの薬として有名なバルプロ酸は精神安定薬としても用いられます。

 薬物の添付文書から適応疾患名を抜き出すと、

(例)ジプレキサ®(一般名:オランザピン)
 ・統合失調症
 ・双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善
 ・抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)

(例)デパケン®(一般名:バルプロ酸ナトリウム)
 ・各種てんかん及びてんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)の治療
 ・躁病および躁うつ病の躁状態の治療
 ・偏頭痛発作の発症抑制

(例)エビリファイ®(一般名:アリピプラゾール)
 ・統合失調症
 ・双極性障害における躁症状の改善
 ・うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)
 ・小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性

 等々。

 さて、医療の現場では「診断的治療」が行われることがあります。
 その疾患を疑われるけど確定診断ができない場合、治療薬への反応を観察することにより診断精度を上げること。

 例えば、乳幼児の気管支喘息。
 乳幼児は感染症でもゼーゼーすることが少なからず経験され、その時の症状は喘息と区別することが困難です。
 そこで喘息治療薬の気管支拡張剤吸入への反応をみることにより、診断に近づく手法がしばしばとられます。
 気管支拡張剤(ベネトリンやメプチン)吸入後にゼーゼーが軽減すれば「この子は喘息の可能性があります」、まったく無効なら「感染症による気管支炎で喘息発作ではありません」と説明できるのです。

 この「治療的診断」という視点から精神疾患を見ると・・・同じ薬が効くなら同じ病気ではないか、病名を区別する必要があるのか?
 という素朴な疑問が生じますね。

 さて、今回読んだ『「精神病」の正体』(大塚明彦著、幻冬舎発行、2017年)は、この疑問に直球で答えてくれる内容でした。



 著者も「同じ薬が効くなら、表現型としての症状の多様性はあるが病気の根っこは同じなのではないか?」という疑問を持ち、それを突き詰めていったら「精神疾患は外胚葉由来生活障害(外胚葉由来のその人固有の特性による生活障害)である」ことがわかった、という内容です。
 特に患者さんの「感覚異常・感覚障害」に注目し、検討を重ねた結果、私たちがこれまで「精神の異常」と考えていたものは、感覚の特異性やADHD・ASDといった発達障害の特性とほぼ置き換えることができ、そしてその多くが抗ADHD薬で治療できるという結論に至ったのです。

 私の現在の精神疾患についてのイメージは次の通りです;

うつ病】投薬と生活環境調整によりコントロール可能で、廃薬も可能。
双極性障害】投薬でコントロール可能であるが、廃薬はできない(一生継続)。
統合失調症】薬でコントロール可能であるが、未治療では進行性に人格破壊に至ることがある。

 治療に難渋するこれらの疾患も、抗ADHD薬を上手に使うことにより、多くの患者さんで症状が改善し平和な日常生活が取り戻せる可能性を著者は例示しています。
 現在多剤併用療法をせざるを得ず、勝つ日常生活に支障を来している患者さん達に、一筋の光が当たったような気がします。
 記載内容が今後の検討で更に確実な科学的事実と証明されれば、上記3種類の精神疾患診療は激変し、患者さんが日常生活・社会生活を支障なく送れるようになるのではないか、という期待が持てました。

 ただし、抗AHDH薬だけでは太刀打ちできない残された課題として以下の病態があるように感じました;
・ASD(自閉症スペクトラム障害)
・社会不安障害
・うつ病、双極性障害のうつ相

 「単一精神病論」(いろんな精神疾患の原因は一つでそれは外胚葉障害)という説を読んで、吉益東洞(1702-1773)の「万病一毒説」を思い出しました。

 著者によるメッセージ;
長くつらい症状に苦しんできた患者さんは、精神病という呪縛から自らを解き放ってほしい。そして平均的な人とは少し違うところがあっても、プラスもマイナスも含めてこれが自分なのだと自信を持って、人生を楽しめるようになってほしい。


<備忘録>

□ 日本の精神病床数は欧米諸国平均(1000人あたり1床)の3倍で、全世界の精神病床数の1/5を占める。
 日本の精神病棟は、精神疾患患者を治療する場所というよりも、精神疾患患者を社会から隔離して、一生をそこで過ごさせる「精神障害者の住処(すみか)」のような機能を果たしてきた。

□ 「精神分裂病」の名前の由来
 1908年にスイスの精神医学者ブロイラー(Blueler. E 1857-1939)が、早発性痴呆を「連想分裂をもった精神障害のグループ(スキゾフレニア)」と命名した。ブロイラーのつけた名称は「連想が分裂する、つまり思考の道筋に通常とは異なる飛躍や乱れがある」という特徴を捉えたものだったが日本ではこれが「精神分裂病(法改正により統合失調症が正規)」という言葉に置き換えられ、一般化した。
 この疾患名が「精神がバラバラになり、ついには人格までが変わってしまう恐ろしい不治の病」というイメージや、社会の偏見をさらに助長することになった。

□ 脳内伝達物質の役割
 現在約60種類が確認されている。

【ドーパミン】喜びや達成感など、快感をもたらす。意欲ややる気、向上心などの源になる。
 不足:物事への意欲や関心が薄れる。
 過剰:不眠や感情の暴走、幻覚などの精神症状につながる

【ノルアドレナリン】交感神経刺激作用があり、意欲ややる気を高める反面、不安や恐怖、緊張などにも深く関わる。

【セロトニン】ドーパミンやノルアドレナリンの暴走を抑え、気分や感情を整える。

□ 脳内伝達物質と精神疾患に用いられる薬物
【クロルプロマジン】(コントミン®)ドーパミン遮断作用

□ 抗精神病薬の歴史
1.第1世代抗精神病薬
・ドーパミンを遮断して統合失調症の陽性症状(幻覚や妄想など)に有効  → 統合失調症の「ドーパミン過剰説」
・しかし陰性症状(引きこもりや感情の平板化など)にはあまり効果が得られず
(例)クロルプロマジン、ハロペリドール
2.第2世代抗精神病薬
・1990〜2000年代にかけて陰性症状の改善を目的に開発された。

 日本の精神科医療では、諸外国では見られないような、多剤大量処方が行われていることが現在問題視されている。
 多剤併用で最も多いのは第1世代の抗精神病薬と第2世代の抗精神病薬の組み合わせであり、3-4種類を併用する藜芽目立つ。
 統合失調症の陽性症状(幻覚や妄想など)に効果があるのは第1世代であり、この薬を処方すると、今度は陰性症状(自閉など)が目立ってくる。このように症状が変化する度に、それに見合った薬を出しているとおのずと薬の種類が増えてしまう。

□ 抗うつ薬の歴史
 1950年代にノルアドレナリンやセロトニンの濃度を高める薬物に抗うつ作用があることが発見された。
→ うつ病の「モノアミン(※)仮説」(モノアミンが何らかの原因で減少すると抑うつや意欲・関心・喜びの喪失などのうつ症状が起こる)
 そこでモノアミンを増やす抗うつ薬がたくさん開発されて現在に至る。

※ モノアミン:ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどの気分に関係する神経伝達物質の総称。

□ SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の功罪
 製薬会社のキャンペーン(「うつ病はこころの風邪」など)により社会現象を引き起こしうつ病患者が不自然に増えた(過剰診断の可能性)。
 有効率はは約3割で、深刻な副作用(衝動性が高まり、衝動的に自傷や自死、犯罪などの事件をおこす)があるため、欧米では軽度から中等度のうつ病にはSSRIを用いない方針の国が出てきている。

□ DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)の歴史
 その基礎は、ドイツの精神科医クレペリン(Kraepelin, E. 1856-1926)が提唱した疾患分類「早発性痴呆(現在の統合失調症)」と「躁うつ病(双極性障害)」の2分類に始まる。
 1952年に発刊以来、現在までに改訂を重ねてきたが、改訂事に精神疾患の分類が細分化・多様化する傾向がある。
 これには、精神疾患の「症状」に着目して薬物療法が開発され、さらに薬の作用から新たな症状がクローズアップされるというwindに、雪だるま式に精神疾患の種類が増えてきた要素もある。
(例)社交不安障害(社会不安障害)は最新のDSM-5(2013年)では、分離不安症・選択的緘黙・限局性恐怖症・社交不安症・パニック症・広場恐怖症など、11種類に分けられている。
 
□ 抗ADHD薬の登場
 抗ADHD薬は、神経伝達物質のドーパミンやノルアドレナリンに作用して多動性や衝動性、不注意を抑えることで症状を改善させる。
 仕事をしている成人男性には集中力を高めるコンサータを、女性や年齢が高い人には感覚や集中のバランスが整うストラテラを処方することが多い(著者)。

【アトモキセチン】(ストラテラ®) NRI(ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
 2009年に18臍囲化の子どもに承認され、2012年に18歳以上に承認。
 非中枢神経刺激薬で効果が現れるまでに少し時間がかかるが、1日2回復用で効果を持続させられ、副作用も穏やか。
 著者によると、ストラテラのイメージは「高級赤ワイン」。多動や衝動、過集中が治まり、気分がゆったりして視界が広がり、生活や行動のバランスが取れるようになる。

【メチルフェニデート】(コンサータ®) 中枢神経刺激薬(ドーパミンやノルアドレナリンを増やす作用)
 2007年に18臍囲化のADHD治療薬に認可され、2013年に18歳以上に拡大承認された。
 朝1回の服用で薬効が約12時間持続する徐放剤。
 著者によると、コンサータのイメージは「白ワイン」。視界は狭いがハッキリする。仕事など必要なことにしっかり集中できるようになった、思考がクリアになったという感想を患者さんからよく耳にする。

リタリン®(メチルフェニデート)の功罪
 中枢神経刺激薬で覚醒剤と同様の作用を持ち、一部の医師が誤った処方を続けたことにより、リタリンの乱用・依存症が社会問題になり使用できなくなった(現在はナルコレプシーという睡眠障害の治療にのみ使用される)。
 ひと昔前に「ボーダーライン(境界性人格障害)」と言われていた人たちの中に、安定した生活を送りたいがためにリタリンを自分で購入・服用していた人(「リターラー」)がいて非難の対象になったが、徐放剤(コンサータ®)が登場して再評価されるようになった。

□ ADHDの特徴3つ〜成人の場合〜
 ADHDの中でも多動性・衝動性の目立つタイプもあれば、不注意が中心のタイプもある。
 以下の症状は、おそらくほとんどの人が「自分も当てはまるところがある」と感じる内容となっている。ただ、いくつか当てはまる言動があっても日常生活で特に困ることがなければ、障害とは考えない。

【多動性】落ち着きのない言動
・長時間じっとしているのが苦手
・いつも焦って考え行動する
・順番を待てない
・貧乏ゆすりなど無目的な動きをする
・しゃべりすぎる

【衝動性】感情や言動の抑えが効かず暴走してしまう
・人の話に割り込む
・質問が終わる前に答える
・空気を読まずに思ったことを口にする
・衝動買いをする
・ふとしたことで激しく動揺したりカッとなりやすい

【不注意】全体としてだらしのない人、忘れっぽくて困った人
・仕事などでケアレスミスが多い
・忘れ物、なくし物が多い
・時間管理が苦手で遅刻が多い
・約束や期日を守れない
・外からの刺激で気が散りやすい

 しかし大人のADHDの診断法で臨床に役立つようなモノはほとんど存在しなかったが、DSM-5(2013年)でようやく大人の診断に対しても使用できる表現が改訂された。しかしこれとて実際の臨床現場でうまく機能するとは思えない(著者)。

□ 精神疾患の症状をADHDの症状に“翻訳”する
 私たちがこれまで「精神の異常」と考えていたものは、感覚の特異性や、ADHD、ASDといった発達障害の特性とほぼ置き換えることができる。
(妄想)現実の物事から意識がそれて、無関係な考えに浸るADHDの「不注意」の症状の一つとも捉えることができる。
(おしゃべり、猛烈な速さでしゃべる)「多動」の症状
(躁状態)ほとんど寝ずに動き続けたりしゃべり続けたりする状態は、まさに「多動」そのもの
(依存)ギャンブル依存、買い物依存、食べ過ぎ、飲み過ぎ、タバコの吸いすぎといった過剰な行動は、欲求や衝動を抑えられない「衝動性」や「多動性」の現れ、記憶の能力が低くすぐに忘れてしまう「不注意・物忘れ」のためまた同じ事を繰り返してしまう。  → トピナ®(一般名:トピラマート)、抗ADHD薬が有効。
(強迫性障害)発達障害の「不注意」と「物忘れ」の反動によって起こる  → ストラテラ/コンサータで見事に解消する。
(詐欺の被害)“ひとがいい”ので断れない。計画性のなさは「不注意」で、繰り返すのは「物忘れ」。
(季節性うつ病)気温低下、冷えという刺激によって皮膚感覚が過剰に反応し(感覚過敏)、脳の機能に影響を与えている。
(自傷行為)自分を傷つけたい、死んでしまいたいという「衝動性」  → 抗ADHD薬有効

□ 精神疾患患者の持つ“認知のゆがみ”
 神経伝達物質のバランスの乱れから、多くは認知のゆがみが生じている。
 そのため、「職場の人が全員、自分をダメなヤツだと思っている」というような過度の自己否定に陥ったり、反対に自分のミスや奇異に見える言動を正当化し、責任は周囲の人にあるといった訴えをすることがよくある。
 自分は病気ではないと考える“病気の否認”“病識の欠如”もよくある。

□ うつ病診断のコツ(本質)
 うつ病のポイントは「睡眠障害(特に早朝覚醒)」と「日内変動(体内時計のズレ)」の2つである。

□ 精神科受診患者の7割以上に何らかの感覚過敏があり、9割がADHDを中心とした発達障害(ASDと重なるケースを含む)に該当する。

□ エビリファイ®(一般名:アリピプラゾール)の適応疾患から読み取れること
 ドーパミン・システム・スタビライザーと呼ばれ、脳内のドーパミンが少ないときは補い、多いときには減らす作用機序により、ドーパミンのバランスを適切な状態に整え、精神症状を改善する。
 世界一の売り上げを記録した抗精神病薬であり、適応となる精神疾患がどんどん拡大している。
(2006年)統合失調症の薬として大塚製薬が発売
(2012年)双極性障害の躁状態における改善
(2013年)うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)
(2016年)小児期の自閉症スペクトラム障害に伴う易刺激性

・・・様々な病名が付いた種々の精神疾患が同じ薬で治ると言うことは、同じ一つの病気なのではないか?

□ ASD(自閉症スペクトラム障害)患者は自身が社会・家庭生活で苦しい思いをしている
 今、自分自身がこの世の中でどのような立場、立ち位置にいるのかが理解できない。周りの人たちが何を考えて行動しているのかを感じ取ることができない。
 まわりの人の気持ちや感情が読めないため、人と会話を交わすことも不安になり、常におびえながら生活をしている。精神安定剤や睡眠薬などの大量服用によって不安を抑えながら、かろうじて生活しているため、薬物依存と診断されがちである。
 ASDは薬では治らない。不安だけは和らげることができるが、空気を読むようにできるようにはならない。
 ASDの対人関係の技術を繰り返し伝えても、すぐにADHDの「不注意」のため忘れてしまうのでそこで立ち往生してしまう。

□ ADHDは「陽」、ASDは「陰」
 ASDの人たちの方が、人生を送る上での苦痛は遙かに大きい。

□ 単一精神病論
 統合失調症や双極性障害などの精神疾患の現任は単一であるという説。
 ドイツの精神科医グリージンガーにはじまり、日本でも精神病理学者の千谷(ちたに)七郎を提唱した歴史がある。
 最近では武田雅俊氏のコメント;
「(統合失調症と双極性障害の)両社には共通点も少なくない。例えば、地域を問わず発症率は共に1%、若年成人に初発し、慢性に経過し、50〜70%の遺伝率、性差・地域差がない。」
 東京大学や国際電気通信基礎技術研究所(ATR)が人工知能(AI)を用いてASDを判別する技術を開発し、この技術により「ASDと統合失調症の脳活動には高い類似性がある」ことがわかってきた。

□ 抗ADHD薬の開発ラッシュ
センタナファジン(大塚製薬)ドーパミン・セロトニン・ノルアドレナリンのすべてに作用する「トリプル再取込阻害」で、最強の抗ADHD薬。
・インチュニブ(塩野義製薬)一般名:グアンファシン。2017年5月に発売された。
・ダソトラリン(大日本住友製薬)

<参考> 「ADHDの治療に効果のある薬のまとめ

□ 感覚異常は才能にもなれば、精神症状にもなる
 人並み以上に鋭い感覚を活かして、様々な分野で活躍している人もたくさんいる。
(視覚)デザインや芸術
(聴覚)音楽
(嗅覚・味覚)料理
(触覚)理容・美容業界

□ 内胚葉・中胚葉・外胚葉
 人は受精後2-3週間で以下の3つの部分に分かれ、そこから人間の体の各機関へと文化していく。
(内胚葉)消化管、膵臓、肝臓、肺・気管支
(中胚葉)筋肉や骨格、皮下組織、心臓・血管、リンパ管、泌尿・生殖器、腎臓・副腎、脾臓
(外胚葉)目・耳・鼻、皮膚の表皮、中枢神経系(脳や脊髄)

□ 外胚葉の発達のアンバランスが精神疾患の原因ではないか?
 聴覚や視覚、触覚などの感覚情報を生み出す感覚器と脳とは、同じ外胚葉から分化する
→ 外胚葉の発達に障害があると、神経細胞で作られるドーパミンをはじめとした神経伝達物質のバランスが崩れたり、脳内や神経の情報伝達回路に独特の偏り・個性が生まれ、それが発達障害の症状や感覚過敏を作る。
→ 発達障害と感覚異常の二つは、別々の症状に見えるけれども、実はいずれも「外胚葉の発達のアンバランス」から来ている状態である、という理論が成り立つ。

□ 外胚葉由来器官の働きはセンサー系、情報処理系、コントロール系に分けられ、その障害は様々な症状とリンクする。
【センサー(感知)系の異常】過剰反応と無反応
 五感の異常が現れる。過敏なときはささいな刺激にも過剰反応が起こる。逆に感覚が鈍麻していると、においがわからない、寒さ・暑さを感じにくいなど、反応が鈍くなることもある。
【情報処理(認知)系】不注意(物忘れ、部屋の片付け、ボーッとしている)、過注意(こだわり)
【コントロール(制御)系】
(脳内)衝動(浪費、ギャンブル、暴力、飲酒・・・カーッとしやすい)、衝動抑制(けち)
(対外)運動系では多動(おしゃべり・・・ソワソワと)、少動(なまけ、無欲)
(体内)体内時計の乱れ(フワフワと)
(体調)体調不良(不眠、過眠、拒食、過食、肩こり、背部痛)

□ 統合失調症の幻覚は、聴覚過敏から生まれる。
 感覚過敏、とくに聴覚の過敏から来るものではないかと考え、抗ADHD薬(ストラテラ/コンサータ)で治療するとピタリと止まる例を経験する。ただし少量だと効果がなく、量が数mg多すぎただけで症状が悪化する。
 著者は現在、幻聴の治療にストラテラ/コンサータを基本に、ロナセン®(非定型抗精神病薬、一般名:ブロナンセリン)を組み合わせて使用し、高い効果を上げている。

□ 慢性疼痛も外胚葉の発達アンバランスによる感覚異常で説明可能。
 慢性疼痛では、痛みを繰り返し感じていると痛みを脳に伝える神経も過剰な興奮が続いてしまい、さらに痛みを強く感じるという悪循環が起こっている。
 抗ADHD薬により、皮膚感覚とそこから伝わる神経の興奮が抑えられることで激しい痛みが消える。
 著者は、ストラテラ/コンサータに加えて、リボトリール®(抗不安薬、一般名:クロナゼパム)をよく処方している。

□ ASD(自閉症スペクトラム障害)とSAD(社交不安障害)
 ASDの特徴として「空気が読めない」ことが挙げられる。
 人の表情などから感情を読み取ることや、相手がどう思うかを想像するのが苦手である。そのため、本人に悪気はないが思った琴をそのままストレートに口に出してしまい、相手を怒らせたり、傷つけたりしてしまう。
 また、言葉を字義通りに受けとるので、周りの人が冗談で言ったことに本気で反論するなど、会話がかみ合わない。
 これはASD患者からすれば、なぜかわからないけど突然人に怒られる、突然人に拒否されるという体験が続くことになる。こうした経験が積み重なると、周りの人がいつ、どういう反応をするのかますますわからなくなり、常に周囲の人に対して不安や恐怖を感じるようになる。
 その結果が、社交不安障害という状態である。

 著者はASDに対してエビリファイとSSRIのパロキセチンを併用して治療しているが、ADHDほど効果的な薬はまだない。

□ 精神疾患のなる樹木の種は外胚葉障害
 ADHD、ASDといった発達障害や感覚過敏は、外胚葉から作られる脳や神経、感覚器官の生まれながらの機能の異常である。
 そして、そこで生じる緊張やストレス、不安、進学・就職・対人関係の挫折などが、ある時を酒井に睡眠障害や食欲不振、気分の異常な効用や抑うつ、不安障害、幻覚・妄想といった様々な症状となって表面化する。
 外胚葉由来の脳や感覚の機能障害を植物の「種」に例えると、その種が芽を出し、成長するにつれてさまざまな困難さという枝が伸びていき、その先に派手な症状という花が咲く。
 その枝葉や花に対して「統合失調症」や「双極性障害」「うつ病」「社会不安障害」「強迫性障害」「依存症」といったさまざまな名前をつけて治療しようとしてきたのが、これまでの精神医療ではなかったか?
 大切なのは、様々な症状の大元にある「種」を治療することである。

□ ASD患者さんはイヌよりもネコを好む
 イヌは人間の感情を読んで反応するが、それがASDの人にとっては不快、気味が悪いと感じられる。その点、ネコならば人間の感情を読まないので一緒にいて快適で安心。

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