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発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

「はじめての認知療法」(大野裕著)

2014-04-06 20:30:46 | 
講談社現代新書、2011年発行。

前項(「開き直る」心のセラピー)と同じ著者です。
こちらは概念論に終わることなく、実際の認知療法の入口まで解説してあるので、説得力がありました。

「あとがき」にエッセンスが書かれているので引用します;
「認知」という言葉は硬いですが、ものの考え方・受け取り方のようなもの。
私たちは自分のまわりで起きていることを自分なりの方法で判断し、解釈しながら生きています。
ですから、同じ場所で同じ体験をしていても、人によってその受け取り方は様々です。
「認知療法」というのは、認知に注目することで、気持ちや行動をコントロールする治療法です。


一つの現象をどう捉えるか、には個人差がありますが、ストレスがかかると偏り・歪みが生じがち。
それを自己分析することにより自覚し、バランスがよい方向へ向けていく思考訓練法、と私は受け取りました。

確かに「思い込み」によるデメリットは自分の経験でも多々あります。
うつ・不安障害など、病的バランスに陥った時だけでなく、ふだんの生活にも役立つ考え方だと思いました。

<紹介されているお役立ちHP>

「心の健康」(厚生労働省)・・・うつ病の認知療法・認知行動療法マニュアル(平成21年度厚生労働省こころの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」)他がダウンロード可能。

★ 「うつ・不安ネット」・・・著者が2008年に解説したセルフヘルプ用認知療法活用モバイルサイト。
①「簡易抑うつ症状尺度(QIDS・J)」を用いたうつ度のチェックがサイト上で可能。
② 認知再構成のために、困った状況、その時の感情、自動思考、自動思考の根拠と反証を書き込んで、考え方のバランスを取る練習ができる。自動思考の根拠と反証を書き込むと適応的思考の案が自動返信されてきて、それを推敲することでバランスのよい考え方をする練習ができる。
③「こころ日記」を使って自分の心に目を向けながら毎日の生活を整理したり、「こころ体温計」や「こころの変化天気図」を使ったりして行動活性化の手助けをする。
④ 問題解決の技法を用いて、効果的で実行可能な解決策を考えることができる。
⑤ うつ病や不安障害の説明、認知療法のスキルやリラックス法が、テキストや動画などで解説、紹介されている。マインドフルネスによる気づきを助ける動画も活用可能。
⑥ 毎週金曜日に著者のメルマガが届く。

メモ
自分自身のための備忘録。

認知は「自動思考」と「スキーマ」の二つのレベルに分けられる。
自動思考】・・・比較的表層的なもので、ある体験をしたときに瞬間的に頭の中を流れる思考やイメージを指す。自然に、そして自動的にわき起こってくる考えやイメージという意味。
スキーマ】・・・とは自動思考の基礎になっているその人なりの「こころのクセ」であり、その人がずっと持ち続けている基本的な人生観や人間観である。これは、生まれながらの素質と環境の要因の影響を受けながら、それまでの体験を通して形作られてきた個人的な確信で、その人の心の規則になって考え方や行動をコントロールしている。
 自動思考が極端すぎると、現実を客観的に見つめることができなくなって、かえって自分を追いつめてしまうことになる。思うように事態が改善しなかったり、つらい気持ちが続いているときには、そうした自動思考に無理がないかどうか要確認、これが認知療法である。認知療法ではまず自動思考に注目して認知の偏りを修正し、現実に目を向けながら問題を解決していく中で、次第にこころの規則(スキーマ)にも目を向けていくようにする。

否定的認知の三徴
 うつ状態の時、私たちは自分を責めるようになっており、人間関係にも自信をなくし、そして将来についてもどうしても暗く考えてしまう。このように、自分自身、周囲との関係、将来の三つの領域に対して悲観的に考えるようになっている認知の状態を、アーロン・T・ベック博士は「否定的認知の三徴」と呼んだ。

認知を変えるには
 気持ちや行動をコントロールしたいと考えたときには、気持ちが動揺したときの考えやイメージ(=自動思考)に注目して、それが極端になっていないかどうかを調べてみるようにするとよい。ただし、自動思考が間違っているとか正しいとかという判断するのではなく、どの部分が極端でどの部分が現実に沿った判断なのか、現実を通して丁寧に確認することが大切である。

認知療法の流れ
1.症例の概念化・・・問診を通して症例を理解し、患者の考え方の特徴(スキーマ)を明らかにする。
2.行動的技法と認知再構成法を同時進行
行動的技法
 下記の技法を望井って考えのバランスを取り、うつや不安などを和らげていく過程を手助けする。
・行動活性化:治療者が患者さんの問題を一緒に整理しながら、日常の生活の中で楽しいことややりがいのあることを増やしていく。
・問題解決技法:具体的な問題を解決するスキルを伸ばしていく。
・アサーション(主張訓練):自分の気持ちや考えを適切な形で相手に伝える。
認知再構成法
 患者さんの気持ちが大きく動揺したりつらくなったりしたときに、どのようなことを考え(自動思考)、それが気分や行動にどのように影響しているかを現実に沿いながら検討していく。そうすることで、自動思考の内容と現実との「ズレ」に気づくことができ、柔軟でバランスのよい考え方ができるようになって、気持ちが楽になる。
3.スキーマの修正
 最後に、患者さんのこころのクセ(スキーマ)を理解して患者と共有し、必要であればそのスキーマを修正し、治療が終結する。

問題を解決する手順
1.問題リストを作る
 今気になっていることを思いつくまま書き出す。
2.解決目標を設定する
次にあげる「チェック項目1」の条件を満たすものを取り出して最初の目標にする。
・チェック項目1
① 自分自身にとって重要である
② 解決可能である
③ 具体性がある
④ 将来につながる
・チェック項目2
① これまでに同じような問題に直面したことがあるか
② そのときにどう対処したか
③ それは成功したか
④ 成功しなかったとすれば何がよくなかったのか
⑤ 成功したとすれば何がよかったのか
・チェック項目3
① この問題が解決できたときのメリット
3.問題解決技法
① 問題解決志向:問題に取り組める精神状態を作る。問題解決を妨げている自動思考を書き出してみて、それに反論してみるとよい。
② 問題の明確化と設定:取り組む課題を決める。すべての問題を一度に解決することは困難なので(だからこそ悩んでいる)、何が問題かを具体的に考えて一つだけ選び出す。
③ 解決策の案出:ブレイン・ストーミングをする。問題を絞り込んだ後は、その問題に対してできるだけ多くの解決策を考えてみる(数の法則)。ばかばかしいと思うものも却下せずに全て書き出すことが大切。落ち込んでいるときや不安になっているときには、よい方法まで切り捨ててしまっていることがあるので。
④ 解決策の決定:解決策の利点と欠点を検討し、実行策を決める。ただし完璧な方策というものは存在しないので、ほどほどによい解決策を模索すべし。 
⑤ 行動計画の立案:解決策の行動計画を立てる。計画は簡単なものから複雑なものへ、やさしいものから難しいものへと進んで行くようにする。うつ状態の時には気持ちが焦っていることが多く、元気だったときを基準にして物事を行おうと考えがち。そのためにどうしても目標を多核設定してしまいやすいので、意識的に目標を低めに設定するように心がける。
⑥ 解決策の実行:行動計画に基づいて実行する。
⑦ 結果の評価:成功すればその行動を続ける、うまくいかないときは必要に応じて②から④のいずれかに戻って同じ手順を繰り返す。計画通りにできなかったからと言って、自分を責めないようにすべし。落ち込んでいるときにはマイナス面ばかりを見てしまいがちなので、自分の予測がどの程度現実的だったかを客観的に評価して、今後の行動に生かしていくことが大切である。

人間関係はストレスの最大原因である
 アメリカの精神科医ホルムスとレイによるストレス評価法(点数);
1.配偶者の死(100)
2.離婚(73)
3.夫婦の別居(65)
4.交流・刑務所入り(63)
5.家族の死(63)
6.けがや病気(53)
7.結婚(50)
8.解雇(47)
9.夫婦関係の和解調停(45)
10.退職(45)
11.家族の病気(44)
12.妊娠(40)
13.性の悩み(39)
14.出産(39)
15.転職(39)
16.経済状態の変化(38)
17.親友の死(37)
18.職場の配転(36)
19.夫婦げんか(35)
20.1万ドル以上の借金(31)
21.担保・貸付金の損失(30)
22.仕事上の責任の変化(29)
23.子どもの独立(29)
24.親戚とのトラブル(29)
25.自分の輝かしい成功(28)
26.配偶者の転職・離職(26)
27.入学・卒業・退学(26)
28.生活の変化(25)
29.習慣の変化(24)
30.上司とのトラブル(23)
31.労働時間・条件の変化(20)
32.転居(20)
33.転校(20)
34.趣味やレジャーの変化(19)
35.宗教活動の変化(19)
36.社会活動の変化(18)
37.1万ドル以下の借金(17)
38.睡眠習慣の変化(16)
39.家族団らんの変化(15)
40.食習慣の変化(15)
41.長期休暇(13)
42.クリスマス(12)
43.軽度な法律違反(11)
・・・良い体験をしたときも人はストレスを感じる。結婚は50で解雇よりもストレス度が高い!

気持ちを伝えるキーワード「みかんていいな」
「み」・・・”み”たこと(客観的事実・状況)
「かん」・・・”かん”じたこと(自分の気持ち)
「てい」・・・”てい”あん(提案)
「いな」・・・”いな”(可否を尋ねて否定された場合の対案)

(例)ある会社員がうつ病で自宅療養に肺って間もなく、様子を尋ねるメールが上司から届いて動揺し、しばらく連絡を取らないで欲しいと頼んだときのメール;
「お気遣いいただきましてありがとうございます。メールの内容を拝見しましたが、私はまだ心身ともに不安定な状態にあります(客観的事実・状況)。そのために、長目の休養が必要で、その間は仕事のことは考えないようにした方がよいと主治医から言われています(客観的事実・状況)。たしかに、仕事のことを考えると気持ちが動揺しますし、体調も悪くなります(自分の気持ち)。少し気持ちが整理できれば自分の方から連絡させていただきますので、それまで待っていただけないでしょうか(提案)。ただ、会社の事情もあると思いますので、どうしても必要なときにはご連絡いただければありがたく思います(対案)。」

■ わかりきったことを質問されると、見下されているような気持ちになってきます。「絶対言うことを聞くものか」という反発心さえわいてきます。


「開き直る心のセラピー」(大野裕著)

2014-04-06 20:29:10 | 
 新講社、2008年発行。

 著者の肩書きは慶応義塾大学保健管理センター教授で、巷では「認知療法」の第一人者とされているそうです。
 手元にある数冊の著書から、取っつきやすそうなものを選んで読んでみました。

 う~ん、ちょっと期待外れかな。
 「開き直る」ことに関して、10ページですみそうな内容を、あれやこれやと膨らませて繰り返し書いているだけ、という印象が拭えず、途中で退屈してしまいました。

 現状を受け入れる、自分の能力を認めて無い物ねだりはしない、それから次を考える・・・まあ、言い回しはいくらでもあります。

 役に立ったことと云えば「人生の目標と生きる意味は違う」という文言でしょうか。
 この二つを一緒にしてしまうといろいろ苦しくなってくるけど、分けて考えられれば穏やかな生活が手に入る、という含蓄のある言葉。
 よくかみしめたいと思います。

 それから「人間はもともとわかり合えないもの」という言葉に目がとまりました。
 村上春樹の初期三部作「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」のどれかに出てきたフレーズと記憶しています。
 村上氏のテーマは当初 detachment であり、そこから生まれた文言です。
 しかし後年、それが attachment に変化してきたことを彼自身認めていますね。
 彼の作品が世界的に受け入れられている理由は、detachment/attachment の過程に共感するからではないでしょうか。

 「わかり合えないから、わかろうと努力を繰り返した方がいい」
 なるほど。

「鬱の力」(五木寛之&香山リカ対談集)

2014-04-06 20:27:06 | 
幻冬舎新書、2008年発行。

言わずと知れたお二人(作家の五木氏、精神科医の香山氏)による対談集です。
前項目と同じくこれも「うつ病」関係の本ですが、必ずしも鬱を否定的に捉えていない題名に惹かれて読んでみました。

五木氏の、
「鬱は力、無気力な人は鬱にならない」
「20世紀後半から21世紀初めにかけて、社会全体の流れが『躁』から『鬱』へ転じてきた」
「鬱の時代には、鬱で生きる」
というとらえ方は医者にはない発想で、斬新に聞こえました。

前半は知的好奇心をくすぐられ面白く読ませていただきましたが、後半は話が一般論化しすぎて焦点がぼけてしまったのが残念です。

メモ
自分自身のための備忘録。

2007年の子どもの「うつ病」有病率
 小学5年生から中学1年生の対面調査(何百人)で、7.4%が精神科医から見るとうつ病という診断に当てはまった。とりわけ中学1年生は10.7%と高率。

うつ病の生涯有病率
 一生のうちに1回うつ病になる率が15%、女性は5人に1人、男性は10人に1人。
 今の精神科医療の世界では、統合失調症の重症例が激減し、代わりに増えているのがうつ病である。特に10代から20代の若い人や子どもの間で、うつ病がものすごく増えている。

うつ病の診断は簡単?
 今の診断基準だと、原因はともあれ2週間鬱状態が続いたら「うつ病」と言わざるを得ない。けれど私は、それをうつ病と言っちゃいけないと思う。「うつ病」と「うつ状態」は分けて考える方がいい。心の健康には、抗うつ剤に頼るよりも、自分の内面に向き合う方が有効な場合もある(香山)。

「うつ」を広辞苑で調べると・・・
 第一義には「草木の茂るさま。物事の盛んなさま」と書いてある。エネルギーと生命力にあふれているにもかかわらず、時代閉塞のなかでそのエネルギーと生命力が発揮できない。そのうちに中で何となくもやもやとしてくる「気のふさぐこと」というのは、あくまでも第二義。
 「鬱蒼たる樹林」というときの鬱は、肯定的な表現であり、だから「無気力な人は鬱にならない」と僕(五木氏)は言っている。エネルギーと生命力がありながら、出口を塞がれていることで中で発酵するものが鬱である。
 鬱の奥には「憂」という、外に向けられるホットな感情と、「愁」という、人間の実存を感じたときに起こる何とも言えないものという、二つの感情があり、要するに人間的だということ。この時代に鬱を感じるということは、その人がとても繊細で、人間的で、優しい人間であることの証拠である。

米国精神医学会の「DSM-」の功罪
 それまで診断基準が世界各国でバラバラだった状態であったが、1980年に発表されたDSM-がグローバリゼーションの役割を果たした。
 DSM-では、鬱の背景を一切問わない。失業して鬱になった人も、脳に問題があって鬱になった人も、貧困などの社会的要因で鬱になった人も、その症状が2週間以上続いていればうつ病ということにするという、非常にシンプルな診断基準になった。
 それまでは重視されてきた病因論的診断から症状だけによる診断へと、あまりにも急速に変わってしまい、精神科医の中でも大きな混乱が起きている。精神科医は今、自分で自分の首を絞めているような状態になっている。

SSRIはドラッグに近い?
 新しい抗うつ剤であるSSRIはドラッグ(麻薬)に近い。それまで主要薬だった三環系抗うつ剤は、例えば今私が飲んでも眠くなったり口が渇くだけで、少しも効かない。ところがSSRIっていう、1990年代後半から世界中で圧倒的にシェアが大きくなった抗うつ剤は、これもアメリカのグローバリゼーション戦略の一つといわれているが、俗称「ハッピー・ドラッグ」といわれるくらいで、元気な人が飲んでもある程度効く。
 この薬が登場したこともあって、精神科の診療現場では「うつ病」と「鬱な気分」を区別しなくてもよくなった。どちらにしても結局、治療法はある種の薬を出すだけでよくて、まったくもって便利になってしまった。

「悲しいときには明るい歌ではなく悲しい歌を聴きたいもんなんだよ」

神のいない日本では、どんなに自分が孤独になっても神だけは見捨てないという、最後のよすがもない。
 欧米における神は「誰が見捨てても愛してくれるもの」という役割があり、ここが決定的に違う。日本には、一神教的な絶対神としての神がいないので、いわば神無き人生を送らなければならない。おそらくキリスト教文化圏の人たちの鬱と、神無き民族にとっての鬱というのは違うような気がする(五木)。

ヨーロッパのエコロジーは人間中心
 キリスト教は根本的に、エコロジーには合わない。自然をどんなふうに開発しようと、草木を切ろうと魚を捕ろうと、生活を豊かにするためには何をしてもいい、というのが基本だから。
 ヨーロッパのエコロジーの考え方は、これ以上木を切ったり、海や大気を汚したりすると、大事な人間の生活まで危うくなるから、もっと制限しようという発想で、あくまで人間が中心である。

日本における鬱の文学の系譜
 夏目漱石は完全に鬱、芥川龍之介も鬱、宮沢賢治だって多少躁の気もあるけど、基本的には鬱の人(五木)。

アメリカは「神の国」である。
 明治以来の西欧理解はひどく偏っている。アメリカがいかに「神の国」で、合衆国憲法とか独立宣言に、どれくらい神という言葉が出てくるか日本人は知っているだろうか。司法・行政・立法の全部にわたって神が関係していて、経済も含め、あらゆる所へ神の影が落ちている国なのに、アメリカというのは物質文明の国だという受け取り方をしてきた経緯は正しい理解とは言えない。

「うつと気分障害」(岡田尊司著)

2014-04-06 20:22:34 | 
幻冬舎新書、2010年発行

岡田先生は小説家でもあり、文章の流れがなめらかで読みやすいのでついつい買ってしまいます。
「子どものうつ」への興味が再燃し、本棚から取り出して読んでみました。

新書版ながら、必要十分な内容。
いや、興味が無いと読破しにくいボリュームかもしれません。
特に薬物療法の項目は、医師の私でも辟易するほど詳しく解説されています。

まず、「うつ」の頻度の高さに驚きました。
「生涯において一度はうつ病に罹患する人の割合は全人口の15%」
「従来は生涯有病率1%とされてきた躁うつ病は、近年定義が変わり程度の軽いものを含めると10~15%」

そういえば、私の勤務医時代の最後の方は燃え尽きて「うつ状態」と云われてもおかしくない状況だったことを思い出しました。
若い頃は「感情は理性で抑えられる」と信じていましたが、感情や気分の暴走をコントロールするのが如何に難しいかを思い知らされました。

著者はうつ病を「ストレスに対する過敏反応」と表現しています。
何百万年も続けてきた狩猟採集の生活スタイルがこの数千年(特に直近100年)のうちに激変する中で様々なストレスが発生し、それを処理するシステムの構築が追いつかない状態、と。

なんだか、アレルギーに似てますね。

また、「うつ病」と「双極性障害」(従来の躁うつ病)の鑑別が大切なことを繰り返し述べています。
双極性障害でも、躁状態が軽くて目立たないタイプ(双極性II型障害)はうつ病と誤診されてしまう傾向があると。
なぜ問題なのかは、治療薬が異なるから。
双極性障害に抗うつ薬を投与すると、効かないばかりか躁状態を助長して自殺を含めたトラブルの元になり得るのです。
ただ、両極に「うつ病」と典型的な「双極性障害」を置き、その間に様々な病型が分布していると考えるべきだ、とも記されています。

診断の項目では、私にはどうもピンと来ないアメリカ精神医学会の診断基準「DSM-」について、フムフムとうなずける解説がありました。
病気/疾患を分類する方法には2つあり、一つは病因(病気の原因)分類、もう一つは症状分類。
病因で分類できればそれに越したことはないけれど、うつ病は完全に原因が解明されておらず、症状で分類せざるを得ない。
そしてDSMはこの症状だけによる仮の分類レベルにとどまっているとのこと。
だから将来原因が判明すれば、どんどん診断名も変わっていく可能性がある・・・ちょくちょく変わると混乱して困ります(苦笑)。
なお、「気分障害」というイメージの湧きにくい分類名も、このDSM-からだそうです。

薬物治療の重要性を説く一方で、ライフ・スタイルを変えないと再発の危険から免れないことも強調しています。
「完璧主義よ、さようなら」
というフレーズがうまい(座布団一枚!)。
「完璧主義の人は、100%できていなければ失敗だと思いがち。その結果、よい結果が出ていても不満な部分の方に目が行ってしまい、喜びよりもストレスを生んでしまう。」
「100点にこだわる考えを卒業し、50点で満足、60点・70点なら大満足できるような体質に心の持ち方を変えていくことが、ストレスを減らし、対人関係をスムースにし、うつや躁を防ぐことにつながる。100点にこだわると何事も苦行になってしまうが、50点で満足できるようになれば、何事も気楽に楽しむことができるようになる。50点で満足できると云うことは、できなかったことやよくなかった点ではなく、できていた点やよかった点に目を注いでいるということ。」
「よくなる人というのは、よい点に目を向けられる人。逆に悪いことの方にばかり、どうしても目が向いてしまう人はなかなかよくならない。」

素晴らしいアドバイスです。
でも、50点ではテストが不合格になってしまうなあ・・・。


メモ
 自分自身のための備忘録。

うつ状態が認められるのは、動物の中では哺乳類から。
 乳を与えて育てるという愛着の仕組みを持つ哺乳類は、子どもや仲間を失った時(対象喪失)に、うつを思わせる反応をしたり、喪の儀式のように見える行動を取る。他にも絶望感がある限界を突破してしまったとき(疲労困憊と絶望)、仲間から拒絶された時(見捨てられ)にも動物はうつになる。

双極性II型障害の発見とソフト・バイポーラー
 1970年代に双極性障害にも従来知られていた激しい躁状態とうつを繰り返すタイプとは別に、軽い躁状態とうつを示すタイプがあることが報告された。ダナーは前者を双極性1型、後者を双極性II型と名付けた。
 アメリカの精神医学者アキスカルは、病状としてだけでなく、性格においても気分の循環性の波(躁状態が無い場合も含めて)が見られる場合には、双極性スペクトラム(スペクトラムは「連続体」の意)として理解することを提唱した。その状態は「軽度双極性障害」(ソフト・バイポーラー)とも呼ばれた。
 今日、カテゴリー(分類範疇)ではなくスペクトラムとして、気分障害を理解する考え方は広く受け入れられ、単極性うつ病と双極性1型障害を両極として、その間に様々な程度の双極性の傾向が存在しているのだと考えられている。
                     
うつでみられる睡眠障害
 不眠になる場合と過眠になる場合がある。メランコリー型では早朝に目が覚めて眠れないというのが典型だが、非定型うつ病や季節性うつ病、双極性障害のうつ状態では、うつになると長く眠るようになり、朝が起きられなくなると云うことが多い。

双極性障害の場合には、励ましや誘いが、必ずしもマイナスとならない

子どもの気分障害では、症状が軽く見えたり、反応性があって、楽しいことをしているときには元気そうに遊んでいたりするので、病気だとは気づきにくい。

体内時計
 体内時計のリズムは視交叉上核が刻んでいる。それに合わせて副腎皮質ホルモンや甲状腺ホルモン、メラトニン(松果体由来)などのホルモンの分泌も日内変動し、体温など生体のリズムが作られている。
 視交叉上核は24から25時間の固有のリズムを持っているが、同時に外界の明るさによってリズムを調整している。この調整の成否は、朝の訪れる時間と、日照時間の長さにかかっている。つまり、体内時計のずれを修正するためには、朝、太陽光に触れることがまず大切になる。もう一つ大事なのは、十分長く太陽光の射す、明るい場所で過ごすことである。
 太陽光にこだわるのには理由がある。人の光りに対する感受性は弱く、通常の照明の明るさでは昼間と見なされず、体内時計の修正は起こりにくいのである。体内時計の固有のリズムは24時間より少し長目であるため、外の光りに触れずに生活していると、次第に生活時間が後ろにずれていきやすい。つまり、遅寝遅起きになってしまうのである。

体内時計の狂いと対策
 うつになると朝起きられず昼過ぎまで布団で過ごしてしまうのに、躁になると早朝から目覚めて活動を始めるというケースも多い。
 起きにくい時期もダラダラ眠ってしまわないように、努力して起きることが大事である。どんなに遅くとも午前中のうちに起きるようにする。眠ってしまう場合も、一旦起きて、できるだけ布団で撥ねずに、ソファなどでうたた寝するなどの仮眠に止めておく。午前中寝てしまう場合も、カーテンを開け、部屋はできるだけ明るくし、日の光が降り注ぐようにしておく。夜にテレビやパソコンなどの画面を長時間見たり、運動したりすることは避ける。
 体内時計をリセットする上で重要なのは、一日のうちで、最初に太陽の光を浴びる時刻と、太陽の光に触れる時間である。

夜型生活はうつの温床となる
 うつ病の人では徐波睡眠と呼ばれる深い睡眠が減少し、REM睡眠と呼ばれる、夢を見る浅い眠りが増加する。徐波睡眠が減少すると、疲労が蓄積しやすくなり、意欲や気分の低下が助長される。
 現代人の睡眠は質量共に劣悪化している。現代人は短く湿の悪い睡眠で、過酷なストレスに耐えているのである。暗くなると眠り、日の出と共に起きる狩猟採集民は平均10時間の睡眠を取るという。19世紀までは、人々は9時間たっぷり眠っていた。ところが現代人は7時間の睡眠を確保するのがやっとであり、ビジネスマン達は5-6時間の睡眠で仕事に駆り立てられている。日本人の平均的な睡眠時間は、この20年だけでも1時間以上短くなっている。

社会で孤立する個人
 うつ病がほとんどみられない狩猟採集民では「一人の時間」という概念自体が存在しない。常に人々は気心の知れた家族や仲間と行動を共にしている。幸福度が世界で一番高いというブータンでの生活も、家族や村落の人々とのつながりが基本になっている。彼らが、多くの日本人が一人で暮らしているという話を聞くと、なんて可哀想な、と涙を流して同情するという。
 日本における戦後の社会の変化は、人と人とのつながりを希薄にし、個人が孤立しやすい状況の進行を加速してきた。大家族から核家族へと移行してきたとき、多くの人は煩わしい伝統や家父長制から解放されたことを喜んだ。だがそれが、さらに単身世帯の急増という事態にまでなると、寂寥感や孤立感を覚えるようになっている。

ノルウェイとデンマークは自殺率が大きく異なる。
 うつ病や自殺の増加の背景には、社会の解体という現実がある。社会の解体が進み、社会が共感的な絆よりも、契約や利害というドライな関係で動くようになると自殺が増加することに、一世紀近く前に活躍してデュルケームはすでに気づいていた。同じ北欧の国ながら、ノルウェイとデンマークは自殺率において大きな違いを示すが、家父長的で共同体的な人間関係を基本とするノルウェイでは自殺が少なく、核家族化し、個人の経済的な自立を優先するデンマークでは自殺が多いのである。

悲しみや落ち込みや失敗を受け入れ、共有する心理・社会的絆の崩壊がうつや気分障害に苦しむ人を増やしている。
 一方で、自殺の防止を叫びながら、もう一方で、失敗することを許さない風潮が強まっている。本当に自殺を減らそうと思うのなら、一度や二度失敗しても挽回することができる、もう少し寛容で、懐の深い社会を目指す必要があるのではないだろうか。

本当の豊かさを経験できない子どもたち
 子どもにとっての豊かさとは、物質的なものよりも心理・社会的な豊かさである。
 受験戦争や習い事に追われ、母親の監視する視線に晒され、子どもの本当の気持ちよりも、周囲の期待や思惑を押しつけられているということが、多くなっていないだろうか。