COCCOLITH EARTH WATCH REPORT

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納豆のねばり成分で作った安価で使いやすい水質浄化剤が途上国の子ども達を救う

2009-04-21 22:38:11 | Weblog
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はじめに
 4月9日夜11時台のBS1きょうの世界の特集で「グリーン・アース:納豆の粘り成分を使って世界に安全な水を」が放送されました。大阪のベンチャー企業を立ち上げた小田兼利さん(68歳)の、安くて使いやすい水質浄化剤を開発して、発展途上国の子ども達が安全な水を飲めるようにしたいとの願いが込められた番組でした。
上水道の整備された日本では、災害時でもなければ飲み水に不自由することはほとんどありません。しかしユニセフの報告によれば、世界で9億人が不衛生な水を飲み、それが原因で毎日4000人以上の子ども達が、下痢や脱水症状で命を落としているのです。

阪神・淡路大震災被災が開発のきっかけになった
 技術開発の専門家だった小田さんには、1995年の阪神・淡路大震災を被災して水の大切さをしみじみと味わったことが、水の浄化技術開発に取り組むきっかけになりました。やがて納豆のねばり成分であるポリグルタミン酸(後述するように、より正確にはガンマポリグルタミン酸)が、水中の不純物や細菌を吸着して沈殿する性質があることを知った小田さんは、本格的に水質浄化剤の研究・開発に取組み、2002年には日本ポリグル(Nippon Poly-Glu Co., Ltd., http://www.poly-glu.com/)というベンチャー企業を立ち上げました。上水道の普及した日本ではほとんど引き合いがなかったのですが、2003年、販路拡大に発展途上国を訪れたことが転機になりました。

発展途上国の水事情
 淡水資源の乏しい海外では、逆浸透による海水の淡水化が威力を発揮しています。この方法は沢山の微小な孔を持つ細管の束に強い圧力をかけて原水を通し、孔から浸み出した水を浄化された水として使います。機械とエネルギーが必須で、豊かなアラブの産油国なら導入できますが、発展途上国の貧しい村人達にはとても手が届きません。小田さんのやり方では、ポリグルタミン酸を含む灰白色の粉末少量を、濁った原水に加えてかき混ぜると、不純物を吸着したポリグルタミン酸の凝集物が沈殿します。沈殿をタオルなどで濾過して除いてから煮沸すれば、安全な飲み水になるのです。番組でも紹介されましたが、この方法は3月にトルコのイスタンブールで開催された世界水フォーラムでも機械に頼らない簡便な方法として注目を浴びたそうです。
 なお、ポリグルタミン酸は生物が作り出す安全で保水性(水分の含みやすさ)が高く、自然界で分解されやすい物質なので、医薬品、健康食品、化粧品関連ばかりでなく、工業、農業、土木業、環境などの分野で広く利用されています。

発展途上国における小田さんの活躍
 発展途上国での水質浄化剤の大きな需要を感じた小田さんは、メキシコの水質汚染のひどい村、中国蘇州の世界文化遺産「獅子林」の池、サイクロンに襲われたバングラデシュ、インド洋大津波の被害を受けたタイなどで水質浄化活動に取り組んできました。発展途上国の人々に受け入れられるポイントは、一家族当り年間600円程度という薬剤の安さと、誰でも簡単に使うことができる手軽さです。小田さんは日本に帰ってくると蛇口を見ただけで、アフリカの子ども達が汚い水を入れた水つぼを頭上に載せてとぼとぼ歩いている姿を思い出し、何とか頑張って浄化剤をきちっと届けるために、未だバテルわけにはいかないと語っていました。

今後への期待
 バングラデシュやインドでは、地下水の砒素汚染で、深刻な被害が出ています。小田さんは大阪大学大学院工学研究科の宇山 浩教授との共同研究で、水中の砒素の除去と同時に、殺菌効果を併せ持つ新たな浄化剤の開発に目処がついたそうです。実用化されると、処理された水をろ過するだけで飲み水に使えるようになります。また、徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部 安澤幹人助教授らとの共同で、磁性を帯びた浄化剤を使って、不純物を含む沈殿を磁石に吸着させて除く研究も進んでいるそうです。

備考:ポリグルタミン酸の構造

 図1の上段に示すような構造のグルタミン酸が多数つながり合ったものがポリグルタミン酸です。生体の重要な構成成分であるタンパク質は、様々なアミノ酸が多数つながり合ったものです。それらアミノ酸に共通な構造として、α(アルファ)でマークした炭素原子(C)に、アミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH 赤)が付いています。隣接し合うアミノ酸のα位のカルボキシル基とアミノ基から水(H-OH)が外れて、-CO-NH-からなる結合を作ることで、多数のアミノ酸がつながり合った構造になっているのです。ところが、グルタミン酸のγ(ガンマ)でマークした炭素原子に付いているカルボキシル基(-COOH 青)も、アミノ基と-CO-NH-結合を作れるのです。実際、納豆のねばり成分であるポリグルタミン酸は、図1中段の直鎖型γ-ポリグルタミン酸のように、γ位のカルボキシル基のCO とα位のNHの結合で多数のグルタミン酸がつながり合った形になっています。前述のようにα位のカルボキシル基もアミノ基と-CO-NH-結合を作れるので、人工的に図1下段のように分岐したものを作ることができます。方々に分岐が入ると、架橋型γ-ポリグルタミン酸になります。架橋型の方が保水力が大で、重量比で5000倍もの水分を含むことができるそうです。
 日本ポリグルHPの製品情報によると、少なくともPGα21Ca、ポリグルタミン酸架橋物、PG-Mの3種の製品があります。保水性の高いポリグルタミン酸は、強制的に脱水・乾燥しなければゲル状(水を含んだゼリー状の形)で存在しますが、PGα21Caは扱いやすい灰白色の粉末で、ポリグルタミン酸と無機のカルシウム塩からなり、PG-Mは磁性を持たせた製品です。それ以上の詳しい情報や、砒素の除去に関する文献情報は、特許がらみのことらしく、Web検索では見つかりませんでした。

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