COCCOLITH EARTH WATCH REPORT

限りある地球に住む一地球市民として、微力ながら持続可能な世界実現に向けて情報や意見の発信を試みています。

先住民マオリの世界観に学んだ環境立国ニュージーランド

2013-11-28 00:03:03 | Weblog

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目 次
はしがき
1.ニュージーランドはどんな国か?
2.文字を持たないマオリの文化
3.マオリの言葉
4.マオリの人たちがニュージーランドの環境政策に果たしている役割
5.マオリの知恵を生かす大きな開発プロジェクト
6.マオリ文化を教育に生かす
7.番組を締めくくったキーワード
あとがき
追 記
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はしがき
 先日、テレビでエル・ムンド「環境立国ニュージーランド~マオリの精神に学ぶ~」を視聴した。既にご存じの方も多いと思われるが、我々が本当に大切にすべきことは何かを考えさせる含蓄深い番組と思われたので、視聴記を兼ねて感想をまとめてみた。なお、エル・ムンドはスペイン語で「世界」を意味する言葉で、NHK BS1で放送されている教養・情報番組である。



1.ニュージーランドはどんな国か?
 ニュージーランドは、壮大なフィヨルド、活火山群、巨木の生い茂る森など観光資源豊かな国である。注目すべきことは上図のように、ニュージーランドはエネルギーのおよそ8割を水力などの自然エネルギーでまかない、持続可能な社会を目指す環境先進国なのである。その底流にあるものは、「人間は自然の一部に過ぎず、それを支配するものではない」とする先住民マオリの世界観なのである。マオリは約1000年前、ニュージーランドに上陸してきた民族で、その伝統的文化にはポリネシア系民族やアイヌとも類似性がみられる。現在、ニュージーランドの人口の15%、およそ70万人がマオリである。番組は、執筆家・アーティストプロデューサーとして大成功をおさめ、2010年にニュージーランドに移住して、半自給自足生活の体験やメッセージを日本に発信している四角大輔さんをゲストに迎えて進められた。
 四角さんによれば、ニュージーランドについて意外と知られていないのは、リベラルなことであるという。公用語は英語であるが、数年前にマオリ語も公用語なり、国歌も英語の後でマオリ語の歌詞が流れる。小学生が皆マオリ語を話せるほか、手話も公用語になっている。世界で最初に女性参政権ができた国で、同性愛の結婚も認めてられており、これらには先住民マオリの存在が大きいという。

2.文字を持たないマオリの文化
 ニュージーランド北島にあるロトルアは、マオリの文化を色国濃く残す町として知られており、至るところにマオリの伝統的彫刻が飾られている。伝統工芸を教えるマオリ美術工芸学校の彫刻コースには12人の若者が学んでいる。文字を持たないマオリは彫刻に歴史を刻んできた。たとえば下図の渦巻き模様は天体を表している。最もよく用いられるシダは生命力や繁栄の象徴とされている。こうした図柄をパドルに刻むことで、マオリの人々は航海の安全を祈ったとう。曾祖母からマオリの血を受け継ぐ主任教授のクライブ・フューギルさん(64)は、「マオリは自然に敬意を払い、自然を大切にしながら生きてきました。マオリにとって、自然とは生活のすべてなのです。人間と自然とは決して切り離すことができない関係にあることを、彫刻を通して伝えてきたのです」と語っている。



3.マオリの言葉
 もうひとつ人々が大切にしてきたものはマオリの言葉である。シンガーソングライターのメイシー・リカさんは、マオリ語を使って人々の自然に関する考え方や、哲学を歌にしてきた。彼女はニュージーランドミュージックアワーでも、マオリ語アルバム賞を受賞している。メイシーさんの祖先の人々はおよそ1000年前、北島ファカタネ海岸に上陸してきたと伝えられている。海を敬い、海を恐れ、海とともに生きたマオリの人々の自然に対する考え方は、残された言葉一つ一つに生きているとメイシーさんは感じている。しかし、母親のレベッカさんはマオリの言葉をほとんど話すことができない。19世紀、イギリスの支配のなかで学校でのマオリ語の使用が全面的に禁止された結果、1960年代には人々のおよそ4分の3がマオリ語を失ってしまった。マオリ語による教育が認められたのは1980年代に入ってからであった。メイシーさんは、「マオリ語は、文化、歴史、信念、すべてが詰まったもの。これからもマオリの歌や音楽とともに、私は生きていきたいのです」と語っている。
 四角さんが一番好きな言葉は MANAであるという。日本語でいうと、品格とか人徳とかに相当する。人はいろいろな間違いを犯す中で、生まれつき持っているMANAを失っていく。しかし人にMANAも与えたり、人からMANAを貰ったりもできる。感謝されることはMANAを貰うことになる。貨幣経済の中で、我々は全てお金で換算したくなるが、彼らの基本的価値観はお金ではなくて、MANAをもらう、つまり感謝されることを重要視している。これがマオリの根底にあって それが白人達を含めてニュージーランド全体に影響を与えていると四角さんは語っている。

4.マオリの人たちがニュージーランドの環境政策に果たしている役割
 ニュージーランド北島の東部に位置するテ・ウレウェラ国立公園は、東京都とほぼ同じ面積の原生林が広がるニュージーランド屈指の自然の宝庫である。樹齢千年を超える巨木ノーザン・ラタ、オウムの嘴に似た花を咲かせるカカビーク、そしてニュージーランドのシンボルとされる飛べない鳥キーウィ(Kiwi)など貴重な動植物が生息している。マオリの人々は政府機関の自然保護省と協力して、この豊かな森の保護に一役買っている。外来の肉食動物が入って来たため、この100年でキーウィ生息数は十分の一に激減した。自然保護省が作成した保護計画に基づいて、キーウィの生態に詳しいマオリの人々が害獣を防ぐフェンスや罠を設置し、生息数を回復させている。マオリの人々と活動する中で、自然に対する考え方や接し方を学んだという自然保護省のレンジャー リチャード・ワグナーさんは、「マオリたちはカイティアキタンガ(Kaitiaki Tanga)という独特の自然保護の考え方を持っていて、次世代だけでなく、5世代6世代後のことを考えて自然を守ろうと努力するのです」と語っている。カイティアキタンガはマオリ語で永続的な保護を意味する言葉で、大地が育んだ自然とそこに生まれえるあらゆる文化を、何世代もわたって守り続けようという考え方である。番組に登場したマオリの女性は、「人間は大地の一部に過ぎず、大地を支配する存在ではありません。人間は自然界では最も弱い存在です。私たちは自然から守られているのです。自然は敬うべきものなのです」と語っている。

5.マオリの知恵を生かす大きな開発プロジェクト
 日本と同じように火山が多いニュージーランドでは、地熱を利用した発電所が各地で建設されている。番組で紹介されたナ・アワ・プルア地熱発電所は2010年に運転を開始、地下2000mから組み上げた熱水で水蒸気を発生させ、日本のメーカーが開発した高性能タービンを回して140メガワット(14万キロワット)、一般家庭に換算すると14万所帯分の電力を供給している。勿論周辺の自然環境にも配慮、発電に使用した水蒸気は再び水に戻し、パイプで地下に送ることで水脈が枯れるのを防いでいる。また、火山性の物質の流出で周辺環境を汚染させないよう、川の水質を厳重にチェックしている。この発電所は電力会社と地元マオリの人々の合弁事業で、会社は発電所機能を、マオリの人々は土地を提供した。この土地はかつてマオリの人々が暮らす森であったが、ヨーロッパからの入植者達が牧草地に変えてゆき、1981年にマオリに返還された時には、森は失われていた。マオリの土地に発電所を建設するにあたり、一番求められたのは将来を見据えた自然環境への配慮であった。マオリのアロハ・キャンベルさんは、「この地域の環境のことは、私たちが一番よく知っています。だから電力会社との議論を重ね、最良の結論を導くことを心がけています。ここは私たちの土地です。発電事業は持続可能なものにしてもらわなければなりません。そうすれば、この土地を何世代にもわたって受け継いでいけますから」と語っている。マオリの人々は伝統の自然保護の知恵、カイティアキタンガを実現するため、発電所の経営に参加したのである。今マオリの人々はこの土地に森を取り戻すため、事業から得られる配当金で植樹を行っている。植えているにはかつてこの一帯に生い茂っていたニュージーランド固有の樹木である。マオリの人たちの知恵が未来につながるクリーンエネルギーに生かされているのである。

6.マオリ文化を教育に生かす
 国立ノンカタハ幼稚園には、ヨーロッパ系子供20人とマオリの子供20人が通っている。体操しながらマオリ語の歌を歌うなどカリキュラムにマオリ文化を積極的に取り入れている。ニュージーランドには1996年に制定されたテ・ファリキ(Te Whariki)という教育カリキュラムがあり、全国の幼稚園、保育園などに適用されて、白人文化だけでなく、マオリ文化も教えるように奨励されている。縦横に素材を編み合わせて様々な模様を作る手芸ように、テ・ファリキは編み込むという意味を持っている。テ・ファリキは、教育にも多様な文化や考え方を取り入れようというものである。この幼稚園では、様々な場所でマオリの文化に触れられる工夫を凝らしてある。子供たちがビーチと呼ぶ砂場にはTangaroa(海の神)、菜園の脇にはRongomatane(農業と平和の神)、Haumiatiketike(野菜の神)などが飾られている。こうして子供たちは、やおよろずの神がいるマオリの世界観に少しずつ親しんでゆく。
 保護者達の反応は、「子供のころからマオリの文化に接することは良いことだと思います。私も家で子供たちにマオリの文化を教えてもらっているのです」、「二つの文化が共存して行けば、もっと良い国になると思います。マオリの言葉や文化を取り戻したことは本当に良いこと みんなにとってね!」、「過去から私たちが学んだことは、無知は時に恐怖を生むということです。異なる文化が一緒にいることが当たり前だと子供たちに感じて欲しいのです」と肯定的である。かつて同化政策でマオリの民族と文化を否定してきたニュージーランドには、マオリとの共生の道を歩み始めたことで、子供達ひとりひとりの個性を尊重する教育が実現しているのである。

7.番組を締めくくったキーワード
 番組を締めくくるキーワードに四角さんが選んだ言葉は、SYNBIOTIC(共生)であった。ニュージーランドの原生林は、生き物がお互いに支え合う共生状態にあって、森として美しい形になっている。ニュージーランドでは、共存が難しい一神教と多神教が、お互いを否定しあわないことで、共存を実現している。お互いに認めあい、否定しあわない、ニュージーランドはそういう国である。エル・モンドという世界では、人と自然が共生して欲しい。人種とか、国籍とか、性別に関係なく共生していきたいという願いを込めて、四角さんはSYNBIOTICを選んだのである。

あとがき
 今まで環境先進国といえば、日本は別としてアイスランド、スウェーデン、デンマーク、ドイツなどを想起しがちであったので、ニュージーランドがこれほど進んでいると知って、自分の不明を恥ずかしく思った。環境先進国ニュージーランドの底流には、「人間は自然の一部に過ぎず、それを支配するものではない」とする先住民マオリの世界観がある。人間社会でも初等教育から多様性を認め合うカリキュラムが組まれている。国土面積では日本が38万平方キロ、ニュージーランドが27万平方キロと大差はないが、人口密度では日本が約21倍多い。人口密度の高い日本がニュージーランドのやり方をそっくり真似るのは無理があるが、次世代だけでなく、5世代6世代後のことを考えて自然を守ろうとする努力、MANAの精神、そして多様な文化を認め合う寛容性はぜひ踏襲したいものである。人種とか、国籍とか、性別に関係なく共生していきたいという四角さんの願いに強い共感を覚えた。

追 記
 四角さんの詳しい活動については、四角大輔インタビュー:自然エネルギー率79% 財政危機を乗り越えた未来の国ニュージーランドに学ぶをご覧ください。

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