目 次
はじめに
1.日本のエネルギー事情とバイオコークス開発の背景
2.バイオコークスの物性
3.石炭火力発電のためのバイオコークス半炭化
4.ビニールハウスの熱源としてのバイオコークス利用
5.番組の中でのまとめ
考 察
1.日本のエネルギー事情とバイオコークス開発の背景
2.バイオコークスの物性
3.石炭火力発電のためのバイオコークス半炭化
4.ビニールハウスの熱源としてのバイオコークス利用
5.番組の中でのまとめ
考 察
はじめに
5月3日のNHK EテレのサイエンスZEROで「進化型バイオマス燃料 バイオコークス」が放送された。この番組はおがくず、賞味期限切れ茶葉、雑草の茎、もみがらなどのバイオマス資源に適度の加圧・加熱処理を加えることで、石炭の代替え燃料が作れることを示す興味ある内容であったので、遅ればせながら視聴記としてまとめてみた。
1.日本のエネルギー事情とバイオコークス開発の背景
資源エネルギー庁のエネルギー白書2014によると、下図左の円グラフのように、石炭は2012年の日本の一次エネルギーの23.4%を占めている。総消費量は1億7000トン余りで、一人当たり年間1トン以上が使われている。その主な用途は下図右のように鉄鋼業や発電である。鉄鋼生産は溶鉱炉中で石炭コークス(石炭を蒸し焼きにして硫黄などの不純物を除いたもの)を燃やして1500℃に加熱した溶鉱炉の中で鉄鉱石を溶融させて行われる。木材は500℃くらいで燃え尽きてしまうので使えない。番組では石炭コークスに10%のバイオコークスを混入させて、十分な高温が得られるかどうかの実証実験が紹介されたが、結果は目標を上回る1574℃に達し、鉄鋼の性質にも影響せず、30%くらいまで代替え可能ではないかと期待された。
番組に開発者として出演した近畿大学理工学部教授の井田民男さんによれば、バイオコークスは全ての植物から作れるという。12年前、間伐材のチップに圧力をかけて整形した木質ペレットの性能を高められないかと加熱と加圧を組み合わせて試行錯誤を重ねている中で、比較的低温の180℃で加熱したところ、上半分が光沢のある黒に変色した円柱状固形物ができたことがきっかけになった。実演では乾燥させた茶葉を粉砕してシリンダーに入れ、荷重4キロ(20メガパスカル)をかけて180℃で15分間加熱後に放冷して、プラスチックのような光沢のある円柱が得られた。
2.バイオコークスの物性
植物体は主にセルローズ繊維とそれを束ねるリグニン、それらを接着させるヘミセルローズでできている。温度を上げて行くとまずヘミセルローズが融け始め、圧力を加えるとリグニンも反応して内在する水素と酸素を水として放出する。圧力をかけ続けながら冷却すると、リグニンの構造も変化して、それまでは結合していなかった炭素同士が結合してエネルギー密度が高まった活性リグニンになる。融けていたヘミセルローズが固まることで圧縮されたまま固定され、石炭コークスより5~10倍堅いものができる。高温でも長時間ゆっくり燃える性質があり、2000℃を超える燃焼にも耐える。リグニンが多い材料ほどよいものができる。
植物体の主要構成成分は炭素、水素、酸素で、燃焼させると空気中の酸素と反応して二酸化炭素と水になり発熱する。バイオコークスでは水素と酸素が追い出されているので炭素含量も炭素と炭素の結合力も高くなり、燃やすと植物をそのまま燃やすより高い温度を生み出せる。
次の図は茶葉を1分当り10℃ずつ上げた時の重量変化を示す。100℃までは水分蒸発で重量が減るが、200℃までは温度が上がっても重量があまり変化しない。200℃を超えると炭素が一酸化炭素に変わって放出されるので重量が減り、エネルギーが無駄になる。バイオコークスは加熱を180℃で止めているので、内在炭素を有効に使えるのである。バイオコークスを作るのに使うエネルギーは、バイオマスの持つエネルギーの3%以下で済むという。
量産にはマレーシアジョホール州の工場でパーム油の搾りかすから一日2トンを生産し、月に40~60トンを直輸入する体制にあるという。製鉄に利用するには毎日確実にバイオコークスを供給する義務があり、年中コンスタントに入るパーム油の搾りかすが不可欠である。
3.石炭火力発電のためのバイオコークス半炭化
前出の2012年の石炭の用途別比率を示したグラフのように、石炭の43%が電力に向けられている。石炭火力発電では高温高圧の水蒸気でタービンを作動させるため、石炭を粒径70mに砕いた微粉炭(炭素含量80%)を使ってボイラーの温度を3000℃まで上げている。バイオコークスで得られるのはせいぜい2000℃止りなので、発電に利用するには発熱量を上げる品質向上が必要である。バイオコークスの成分組成の炭素は50%余りなので、井田さん達は酸素を除くことで微粉炭の組成に近付けることを目指した。バイオコークス加圧下で330度に再加熱すると、しばらくして水蒸気が出てきた。元からあった水分ではなく、残存物質中の水素と酸素が結合してできた水蒸気である。1時間後には体積が元の半分くらいに減って、炭素含量が石炭火力発電に利用可能な77%まで高まった、黒っぽく崩れやすい物質(半炭化バイオコークス)に変わった。原材料をバイオコークス化した際、リグニン同士が反応して高温耐性物質に変わったので、後から330℃に加熱しても炭素は残り、水素と酸素が除かれたのである。井田さん達は試行錯誤を重ねながら加熱条件の最適化に取り組んでいる。
4.ビニールハウスの熱源としてのバイオコークス利用
神奈川大学准教授の伊東弘行さんはもっと身近な分野でバイオコークス利用の研究に取り組んでいる。冬季に農家のビニールハウスを低温でも持続的に保つ必要がある。バイオコ-クスをそのまま燃やすと、表面から内部に向けて燃焼が進むので、後になるほど燃焼面積が減り、暖房効果が下がってしまう。そこでバイオコークスをシャープペンシルの芯のように送り出しながら先端で燃やすことで、安定した暖房効果が得られている。
5.番組の中でのまとめ
番組の終わりに、バイオコークスの可能性が語られた。バイオコークスはコンクリートと同じくらい安定で、バイオマスのように発酵してガスが発生するおそれはない。地域特有の素材やごみを如何に安く集め、安価な燃料を供給して日本のエネルギーを下支え行くことが期待される。井田さんは、家庭で食べるバナナの皮を使って各家庭でバイオコークスを作り、暖房に使えるような簡単な装置ができればよいと語っていた。
全てのバイオマスから作れることが、バイオコークスが世界に広がっていく一つのポイントになる。化石燃料資源は一部の国に偏っており、輸入せざるを得ない国が多い。それぞれの国に合ったバイオコークスを作れば、エネルギーを奪い合うことなく、それぞれの国のバイオマスエネルギーで自立して行ける世界がつくれる夢も語られた。火力発電も変わって、日本のエネルギー事情が変わるかどうかについては、以下で考察したい。
考 察
比較的緩和な処理で、様々なバイオマス資源から安全に保存できるバイオコークスを作れるのは非常に魅力的である。問題は何を材料に選ぶかである。間伐材をバイオマス発電に使うために、森林の乱伐・荒廃を招いてしまっては元も子もない。今まで利用されていなかった地域特有の素材を生かすことが大切である。
パーム油の搾りかすから作ったバイオコークスが、製鉄や火力発電で石炭の代替えになりうることも驚きであった。パーム油の大量生産で生じる廃棄物の有効利用ともいえるが、パーム農園開発のために森林破壊が進んでいることを思うと、もろ手を上げて賛同できない思いがした。日本は鉄鉱石であれ、石炭であれ、バイオコークスであれ、海外資源に依存する構図になってしまう。驚いたことに、日本の人口(総務省統計局によれば27年5月に1億2688万人)一人あたり、年間で1.3トン以上の石炭が使われていることである。これをバイオコークスで代替えするのは不可能である。政府は既得権益を守るため、原子力発電をベースロード電源として原発再稼働を進めている姿勢であるが、事故の危険性と廃棄物処分の目途が立たない点から容認できない。温暖化防止のためには、省エネと再生可能エネルギー開発を急がねばならない。