首都圏、特に都心部の鉄道といえば、10両など長い編成の電車がひんぱんに行き来する様子を思い浮かべる人が多いだろう。都心と郊外を結ぶ急行や特急などが走る大手私鉄の路線などがその例だ。本数が多く便利そうなイメージから、こういった路線の沿線は部屋探しでも人気が高い。「住みたい路線ランキング」などでも、東急東横線や田園都市線、京王線、小田急線などは常連だ。

その一方で、都区内であっても2両や3両編成の電車が行き交う短距離の路線もいくつも存在する。東急池上線などがその例だ。短い電車が走る小さな路線というと「都会のローカル線」のようなのんびりしたイメージから、長い編成の電車が行き交う路線と比べて利便性ではやや劣るのでは? と思う人もいるかもしれない。

だが、実際のところはどうなのだろうか。

実は本数が多い!池上線

23区内で3両編成以下の電車が走る路線は、東急電鉄の池上線と東急多摩川線、東京メトロの丸ノ内線・方南町支線と千代田線の北綾瀬支線、東武鉄道の亀戸線、大師線だ。このほか、路面電車を含めれば都電荒川線と東急世田谷線がある。

このうち、JR山手線に直接接続しているのが池上線だ。五反田駅と蒲田駅を結ぶ約10.9キロメートルの短い路線で、走る電車はすべて3両編成の各駅停車だ。

同線はJR山手線の五反田駅をまたぐ高架から出発する。山手線からはホーム上のエスカレーターを上ればすぐだ。筆者が乗車した際は、3両編成の電車内はあらかた席が埋まっていた。

この線で有名な駅といえば、メディアでもよく取り上げられる「戸越銀座商店街」の最寄り駅である戸越銀座駅だ。2015年度の乗降人員は1万9746人。ホームから跨線橋や地下道なしですぐに改札があり、商店街にすぐ出ることができる。最近は木をふんだんに使った駅の設備改良で話題となった。駅とホームが一体化し、道路とも直結している路線のためか、ベビーカーや車椅子で乗車する人も多く、地域に根ざした路線であることがわかる。

このように書くとのんびりしたムードの路線に思えるが、実は平日の日中でも1時間あたり10本が運転されている。朝8時台の五反田方面行きは22本もあり、なんと同時間帯のJR山手線五反田駅の外回りよりも多い。短距離の路線で電車も短めとなると地味な印象を受けるが、利便性は高いのだ。

各駅停車の本数は意外に少ない

一方、長い編成の電車が走る大手私鉄の「本線」といえる路線はどうだろうか。戸越銀座駅と乗降人員がほぼ同じ(2015年度1万9974人)駅として京王線の代田橋駅(世田谷区)を見てみよう。

京王線の代田橋駅。新宿から約5分と利便性の高い立地だが静かな環境だ(撮影:小佐野景寿)

代田橋駅は新宿駅から京王線の各駅停車で2つ目。都営新宿線と直通する京王新線の分岐駅である笹塚と、京王線・井の頭線の乗り換え駅である明大前にはさまれた小さな駅だ。乗降人員は特急に次いで速い「準特急」以下の列車が止まる笹塚(乗降人員7万9406人)、全列車が停車する明大前(同6万0135人)と比べるとだいぶ少ないが、その分、駅周辺は落ち着いた雰囲気が漂う。新宿まで2駅という環境にありながらも静かで住みやすそうなエリアだ。

だが、電車の本数は決して多くない。京王線は平日の昼間でも多くの列車が走っており、特急などすべての種別が止まる隣の明大前に発着する列車は同時間帯でも21本あるが、同駅に止まる各駅停車は上り・下りとも1時間あたり6本。10分おきということになる。

大手私鉄主要各線の、始発駅から1〜3つ目に存在する各駅停車しか止まらない駅の平日日中(12時〜14時ごろ)の1時間あたりの本数を比べてみよう。京王線・小田急線・西武新宿線・京成本線・東武伊勢崎線が6本、東急目黒線・西武池袋線・東武東上線が8本、京急本線が9本、東急東横線・東急田園都市線が10本だ。

路面電車スタイルの東急世田谷線も日中6分おきの運転だ(撮影:小佐野景寿)

一方、3両編成以下の電車が走る各線はどうだろうか。東武大師線・亀戸線・東京メトロ千代田線北綾瀬支線が6本、丸ノ内線方南町支線が7〜8本、都電荒川線が約9本、東急多摩川線・池上線・世田谷線が10本。都内東部の3路線は1時間あたり6本とあまり多くはないが、そのほかは前記の主要各線と比べて遜色ないどころか、東急の3路線は田園都市線や東横線と同じ頻度で、6分おきの運転だ。ちなみに、5両編成で上記の路線より電車の編成は長いものの、路線延長が12.7キロメートルと短い井の頭線も7〜8本運転されている。

遠く郊外から多くの利用者を都心に運ばなければならない路線は、速達性を高めるために多数の急行などを運転している。このため、都心に近いエリアの各駅停車しか止まらない駅の本数は、全体の運行本数に比べてそれほど多くないことが一般的だ。

いっぽう、短距離の路線は「遠くから速く」輸送する必要性が薄いため、すべて各駅停車でも事足りる。さらに、電車の編成が短いと1本あたりの輸送量が少ないため、利用者の多い路線であれば必然的に本数は増えるのだ。利用者から見れば、使える電車の本数が多いことは大きなメリットだ。

一見地味でも便利な路線を探そう

「都区内に住む」ことを考えた場合、短距離で短い編成の電車が行き来する路線は往々にして路線のブランドイメージはそれほど高くなく、「住みたい路線ランキング」などの上位にこれらの路線が入ってくることはなかなかない。だが、例に挙げた池上線戸越銀座をはじめ、こういった路線の小さな駅周辺には、地域に密着した魅力のある街が多数存在している。

春から東京で暮らし始めた人も多いだろう。首都圏の地理や街の特徴に慣れていない場合、住みたい場所はイメージが先行しがちかもしれないが、一見地味でも交通・生活の利便性が高い街や駅、路線は多い。鉄道が主要な交通手段の東京近郊で暮らす場所を選ぶにあたって、各路線の特徴をとらえることは重要だ。短距離で短い編成の電車が行き来する路線は、ちょっとした散策にも向いている。休日などに出かけてみると、意外に便利な街にめぐり会えるかもしれない。


久しぶりに東京の空気が吸いたくなったよ。