2013年6月7日、アメリカのカリフォルニア州の南、サンディエゴも近いサンオノフレ原発が廃炉になるという発表がありました。所有するサウス・カリフォルニア・エジソン社が決定したものです。

サンオノフレ原発には3機の原子炉がありましたが、1号機はすでに廃炉、1983年と84年に営業運転を開始した2号機と3号機の出力108万kWのPWRを廃炉にするというものでした。

2011年1月に3号機の三菱重工製蒸気発生器に放射能漏れが見つかって以来、運転を停止していましたが、最稼働させることは永久になくなったことになります。

 

S.C.エジソン社のサンオノフレ原発廃炉決定に追い込んだ要因の一つは住民運動でした。

運動のきっかけは福島第一原発の事故です。

昨日、「福島原発事故の米国への影響」と題する集まり(主催は原子力資料情報室)で、住民運動のリーダー、トージェン・ジョンソン(Torgen Johonson)さんの話を聞く機会がありました。

 

私には、「市民――本当は『志民』という字を当てたいところです――の力を結集した地域力が未来を決める」というメッセージがいちばん心に響きましたが、以下にトージェンさんの話の要点をまとめました。

トージェンさん自身、福島原発事故までは原発の安全性に特に関心はなかったといいます。

2011年3月下旬に、福島から8812kmも離れたトージェンさんの町で売られているミルクからセシウムが検出されました。

 

そこでわずか48kmしか離れていないサンオノフレ原発の安全性に懸念を持ち調べてみたところ、機器も運転管理にも問題がありながらS.C.エジソン社は安全ばかり強調していること、アメリカの主要メディアは福島事故をじゅうぶんに伝えていないこと、政府の西部放射線監視ネットワークが放射性降下物情報を公開していないことなどがわかりました。

住民は情報の真空地帯に置かれていたのです。

 

そこでトージェンさんは、同じ心配をしている人を探し出しグループをつくりました。

サンオノフレ原発は、日本と同じように近くに地震帯があり津波の恐れもある海抜ゼロのサイトに立地しています。また、周辺に5つの活断層があります。

 

まずそれらについて、原発周辺の市町村議会に福島事故を踏まえて安全性に関する議論を尽くすよう要求しました。

廃炉への道は簡単であったわけではありません。

地元の経済が原発に負っている事情は日本と同じです。地元の税収、雇用がなくなったとこの損害を心配する声もありました。

それにはデータで説得しました。

 

たとえば、アメリカのプライス・アンダーソン法は、原発が事故を起こした時の賠償上限額を規定しています。

それによるとサンオノフレ原発が事故を起こした時の48km圏に対する最大賠償額は126億ドルとなります。

そこで比較のために、サンオノフレ原発から48km圏(30マイル圏)16km圏(10マイル圏)の住宅資産を自治体ごとに算出しました。住宅は個人の金融資産だからです。

すると48km圏の合計は4355億ドル、16km圏で472億ドルになりました。

福島と同じ破局的事故が発生した時の損害と、廃炉が現在の経済に与えるの損害を比較したときの結論は自明です。

これで事故で失われるものの大きさに対する理解が広がりました。

 

また、40年前の建設当時に反対運動をしていた人たちが、今回は「教師」の役を果たしました。世代間のつながりができたのです。

3・11以前は電力会社が出す情報は楽観的なものばかり、3・11以降も安全、安価、高信頼性、クリーンといったPRが主でした。

しかし、津波、地震、活断層、経済的調査など、内部告発や各種市民グループの発信する情報がたくさん出るようになって、自治体議会での議論へとつながっていったのです。

 

原子炉格納容器の設計者から「設計寿命は40年にすべしとしていた」という情報も市民に伝えられました。

福島からカリフォルニアに移住してきた2つの日本人家族も集会に参加し、住居移転に伴う「想像を絶する悲惨な経験」を伝えました。

2013年6月4日、トージェンさんらは「福島:カリフォルニアへの現在の教訓」という講演会を開きました。アメリカ原子力規制委員会のヤツコ前委員長、プラッドフォード元委員、原子力産業界の重役だったガンダーゼン氏、日本から菅直人元首相などを招いて、公開の場でサンオノフレ原発の安全性について発言しました。

S.C.エジソン社の廃炉発表はその3日後でした。

 

サンオノフレ原発で2009年、2010年に交換した2号機、3号機の蒸気発生器は日本の三菱重工製でした。

この蒸気発生器からの放射能洩れが廃炉への最後の一撃になりました。

交換直後から異様な騒音、振動がありました。S.C.エジソン社は市民との会合で「問題ない」としていましたが、放射能洩れが起き運転停止しました。

事故の説明で最初は「ピンホールができた、洩れた放射能は歯医者の治療で受ける放射線程度」と言っていましたが、実際はかなりの洩れでウソの説明でした。

運転が停止されて市民は、「南カリフォルニアの住民は原発なしでも暮らして行ける」ことを知りました。まさに、現在日本の運転中の原発はゼロですが、暮らしに支障はないのと同じ状況でした。

トージェンさんは、ノーベル賞を受賞した経済学者ジョセフ・スティグリッツの言葉「利益を私有化し、損失を社会化するシステムは必然的にリスク管理に失敗する」という言葉を引用し、「コストと便益を勘案すると、結論は自明です。原発のリスクの大きさについて、住民が中心に関わり、決めて行く。文明社会の市民にはその権利がある」と語りました。

 

トージェンさんたちの市民連帯ネットワークの活動を箇条書きで紹介しておきます。日本の私たちにも役立つ具体的な8つの行動例だと思います

1)地域、国内、国際市民社会グループ(NGOなど)との協調

2)ブログやビデオによる独立した情報発信

3)地元、地域、国内、国際的な報道機関やレポーターと関係を構築し、主流メディアを通じての情報発信

4)選挙で選ばれた人、労働組合、市民グループへの働きかけ

5)法的、立法的救済措置の活用

6)活動的なNGOへ協力要請、地域、県(州)、国レベルの公的機関への公開質問状、請願活動

7)一般市民への働きかけと教育活動

8)公的機関の開催するフォーラムに参加、市民やNGO自身によるフォーラムの開催