アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

韓国映画つるべ打ち<5>『春の夢』

2017-07-05 | 韓国映画

またまた前回から時間が空いてしまった「韓国映画つるべ打ち」。7月22日(土)から上映の始まる「ハート アンド ハーツ コリアン・フィルムウィーク」の上映作品をあと2本ご紹介する予定でいますので、もう少しお付き合い下さい。先日は短編映画『あの人に逢えるまで』(2014)をご紹介しましたが、今日はとってもユニークな作品『春の夢』(2015)です。

©2016 LU FILM,ALL RIGHT RESERVED

 『春の夢』 公式サイト  

2015年/韓国/韓国語/110分/原題:춘몽/英語題:A Quiet Dream
 監督:チャン・リュル
 主演:ハン・イェリ、ヤン・イクチュン、ユン・ジョンビン、パク・チョンボム

 配給:スプリングハズカム
※7月22日(土)~8月11日(金) シネマート新宿
 7月29日(土)~8月11日(金) シネマート心斎橋

 ©2016 LU FILM,ALL RIGHT RESERVED

『春の夢』は、1人のマドンナと、3人の男たちが織りなす物語です。3人の男たちは上写真右から、街のチンピラであるイクチュン(ヤン・イクチュン)、脱北者のチョンボム(パク・チョンボム)、そして大家の息子ジョンビン(ユン・ジョンビン)です...と紹介していくと、「あれ、役者の名前が役名になっている」と思われることでしょう。さらに韓国映画に詳しい方は、「この3人、名前に聞き覚えがあるし、どこかで見た顔だ」と思われるはず。そうです、この3人、いずれも韓国映画の名作を撮ったことのある若い監督たちなのです。ヤン・イクチュンは『息もできない』(2009)の監督・主演、パク・チョンボム(ジョンボム)は『ムサン日記 白い犬』(2010)と『生きる』(2014)の監督・主演、そしてユン・ジョンピンは『許されざる者』(2005)の監督・出演のほか、『悪いやつら』(2011)や『群盗』(2014)などの監督と、3人ともそうそうたる経歴の持ち主です。その彼らが、居酒屋の女主人イェリ(ハン・イェリ)の前に顔を揃えては、ぐだぐだとした日々を送る姿を描いたのが本作です。

 ©2016 LU FILM,ALL RIGHT RESERVED

モノクロ画面に登場するのは、他愛のない日常の1コマばかり。そんな中でも小さな事件は起きて、寝たきりの父(イ・ジュンドン<イ・チャンドン監督の実弟>)を抱えるイェリの苦労や、不当解雇されたチョンボムの未払い賃金を求めての闘い、ジョンビンの持病やイクチュンの抱えるゴタゴタなどが合間合間に描かれていきます。ラスト近くでチョンボムの元カノの美女(シン・ミナ)が訪ねてきたりする、ちょっと盛り上がる事件もあるのですが、どんでん返しのような結末を迎えても3人の日常は変わらないまま。しかし、一貫して低調な3人のキャラクターが不思議な味を醸し出していて、まさに『春の夢』を見ているような感覚で、このモノクロ映画の流れに入り込んでいくことができます。

 ©2016 LU FILM,ALL RIGHT RESERVED

それにしても、芸達者な名監督3人の演技には、脱帽するしかありません。『春の夢』の監督であるチャン・リュル(張律)は、『キムチを売る女』(2005)や『豆満江』(2009)、『慶州』(2014)などで知られる、中国生まれの朝鮮族の監督です。1962年生まれという、1975年生まれのヤン・イクチュン監督や、1976年生まれのパク・チョンボム監督、1979年生まれのユン・ジョンピン監督から見ると一回り年上の監督なのですが、「普段から3人とはしょっちゅう会う仲で、このメンバーで映画を撮ったら面白いな、と冗談で話していた」とのことで、その冗談から出たコマが本作と言うことができそうです。監督と出演者との親密さゆえか、素で演じられているような3人の演技が面白く、舞台となったソウルの水色(スセク)洞という場所もそんなユルさを引き立ててくれます。

 ©2016 LU FILM,ALL RIGHT RESERVED

こんな監督とキャストの中に身を置くことになったヒロイン役のハン・イェリは大変だったと思いますが、父親が中国で浮気して生まれた子供で、中国から韓国に移住してきた娘、というチャン・リュル監督自身が投影されたような役を芯のある演技で見せてくれ、とてもチャーミングです。一番素敵だったのは3人と一緒に映画を見に行くシーンで、映画館で起きる一瞬のハプニングには魂を奪われました。これまであまり印象に残らなかった女優さんですが、30代になって存在感が増すタイプの人かも知れません。

©2016 LU FILM,ALL RIGHT RESERVED

昨年の秋、東京フィルメックスの審査員として来日していたパク・チョンボム監督から、公衆浴場で湯船につかっている映像をスマホで見せてもらったことがあるのですが、そのシーンも出てきて、「この作品だったのか」と納得。パク・チョンボム、ヤン・イクチュン、そしてユン・ジョンビン監督の作品がお好きな方は必見です。それと、シン・ミナのファンの方もぜひお見逃しなく。短い出演なのですが、モノクロのシン・ミナはそれはそれは雰囲気があって美しく、このヒロインで1本映画を撮ってほしい、と思わせられました。パク・チョンボム監督、まさに”役得”でしたね~。最後に韓国版の予告編と、「ハート アンド ハーツ コリアン・フィルムウィーク」の4本一緒になった予告編を付けておきます。

영화 '춘몽' 예고편


映画『あの人に逢えるまで』『バッカス・レディ』『空と風と星の詩人 ~尹東柱の生涯~』『春の夢』予告編



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「映画ログ」でインド映画特集 | トップ | 7月のインド映画『裁き』を... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

韓国映画」カテゴリの最新記事