小さな地方都市の、それも中心から外れて「駅前」ってことだけで存在しているような商店街に、店を出しています。
年々シャッターを下ろしたままになっている店舗が増える通りですが、商店会は今年、「細々とでもしぶとく商売させてもらいます」と街灯を流行りのLEDに取り換えました。
そのLEDのせいなのか、この時期になるといつの間にか飾られていた桜の造花は、どうやらお役御免になったようです。
「今夜から明日にかけては雨もようです」
早くお花見に行けと促す天気予報を見ていると、店の前に一台の車が停まりました。
入口の真ん前に停まったのですからお客様に違いないと身構えると、親子と思しき3人がハッチバックを開けて自転車を降ろし始めました。
そして、娘さんが支える自転車をご両親がぬれティッシュのようなもので拭いています。
そうなると私のすることはひとつ。
自らの点になった目を無理やり大きく見開き、三人の様子を観察し考えるだけ。
どうしてここで自転車を拭いているのかを。
娘は駅前で友達と待ち合わせをした。
娘は待ち合わせに遅刻しそうだった。
両親が娘と自転車を車に乗せて、待ち合わせの時間に間に合うように飛ばしてきた。
車から自転車を降ろすと埃がかぶっていて気になった。
待ち合わせの相手は……
そんなことを考えていると、娘さんは自転車を押して道を渡りはじめました。
お母さんがその後に続き、お父さんは車に。
そして、母娘が向かった先は駐輪場。
駐輪場のおじさんとお母さんが話をしています。
そうか、わかった、わかった。
駐輪場の月極め預かりの新規申し込みなのね。
娘さんは近々入学を控えた新入生で、この駅まで電車で通ってくることになったんだ。
そして、駐輪場に預けたその自転車に乗って、学校までの風を切って走るのね。
桜の花も菜の花も見られない殺風景な商店街にやってきた小さな春でした。
☆昨日、某掲示板に書き込んだら、珍しく「いいね!」をいただきました。
せっかくなので記録の意味でこちらにも置きます。