水にただよう浮草日記

自称文人、でもあっちへこっちへ行方定まらない。そんな浮草が芝居、映画、文学、美術、旅に関してのコメントを書き連ねます。

こまつ座 「頭痛肩こり樋口一葉」

2022-08-17 17:54:05 | 日記・エッセイ・コラム
こまつ座 「頭痛肩こり樋口一葉」 
ラストがあまりにも美しく、哀しい。
白装束の美しい幽霊たち、生きていたときは不条理に泣き、苦しい人生を歩んだ女たち。生から解放され幽霊になって、やっと仲良く、穏やかに微笑んでいる。
人生はあまりにつらい、死んで、純白に輝く幽霊になってやっと微笑みを浮かべることができたなんて、あまりに悲しい。
若くして戸主となり一家を支えなければならない家父長制というもの
借金、生活苦、貧困から逃れられない社会
女に学問はいらないという男尊女卑の時代から、明治という西洋化の波の中で自由を求めようとする女たち、そこに立ちはだかる古い慣習と階級というもの
世間体を気にする見栄っ張りの母親が重たい、家族という存在
師事した先生との実らない恋
なんとしても小説で身を立てようと苦闘する夏子こと樋口一葉
一葉が小説で描いた女主人公も登場する
十三夜のお関のような、夫の仕打ちに耐え切れず実家に戻ろうとする女
にごりえのお力のような、苦界に身を沈めやけっぱちになり、人の亭主を虜にする悪い女
そして、さまざまな恨みつらみを抱え成仏できない妖しい幽霊、花蛍が現れたり消えたりしてストリーを展開し、夏子の胸の内を聞こうとする。いわば総体として女代表。
全体に張りめぐらされた因縁の糸の網を手繰ろうと、行きついた先は、それは井上ひさしなので、権力の最高位に行きつくのだが、それは本ドラマのテーマではない。
明治時代の女性の生きづらさを語って、なお現代の私たちに、あの時代から何が変わったのか、と強く問いかけるドラマ
ラスト、一人残された夏子の妹邦子、気丈に立ち上がり、大きな仏壇を、母や夏子、多くの女の霊が宿る仏壇を背負い歩き始める、その姿を追うように、微笑みながら見守る幽霊たち。邦ちゃん、がんばって生きて!
大きな荷物を背負った邦子こそ、現代の女性たちかもしれない、私たちは解放されたのだろうか?
明治という時代背景で1980年代の演劇の再演でありながら、新鮮で斬新な感動、♪ぼんぼんぼんの16日に地獄の蓋があく、♪こころの穴をうめて~などの劇中歌が耳から離れない。
女優たちが美しく、きりっとした強さ、美しい立ち居振る舞いが忘れられない。