水にただよう浮草日記

自称文人、でもあっちへこっちへ行方定まらない。そんな浮草が芝居、映画、文学、美術、旅に関してのコメントを書き連ねます。

劇団青年座「DNA」

2019-08-29 09:04:05 | 日記・エッセイ・コラム

劇団青年座「DNA」

脚本の中村ノブアキという人は企業ものの演劇で名を挙げた人とのこと。青年座でやるとなると、企業の話に加えて現代に生きる女性たちの葛藤が描かれることになる。

舞台セットは四分割、キャリアウーマンの女性と夫の住まい、その女性のインテリアデザイン会社、夫のPC関連の企業の休憩室、そして会議室。

小型ロボットを売り出している先端企業、粉飾決算まがいの売上高操作が問題になる。異議を唱える若手女性社員、部長と部下の板挟みの課長、サラリーマンであれば会社の方針に従ってなんぼ、と血気盛んな女性社員を諫める男性、この男性がそのキャリアウーマンの夫だ。会社の方針が間違っているからと言ってすぐ辞めるなどと考えないで、徐々に変えていくように自分が努力するしかないのだ、と言う。

男性は会社でごたごたして疲れて帰っても休まらない、奥さんも疲れてイライラしている。やっとインテリア会社を立ち上げたのだから、子供は産みたくないと言うし。実は前は同じ会社の同僚であったが、結婚を機に辞めたのだ。結婚したら同じ部署で働けない、という暗黙のルールがあり、女性は会社に留まれば総務に異動になることになった。その後インテリアの会社を友人と二人で興した。やっと軌道に乗り始めたというのに、その友人が、妊娠したので、会社を離れるという。二人で頑張ると約束したのに、裏切られたと怒る。 夫も結婚前は「子供は要らない働いている君が好きだ」と言っていたのに、欲しいと言い出した。いろいろなことで怒り狂う女性の前に、お姑さんがやってくる。

そんなに肩ひじ張らないでも、昔から誰でも自然に子供を産み、育ってきたのよ、会社はサポートするし、みんなで助け合いましょう、などと言われ気持ちが落ち着いていくという。

サラリーマンという中産階級、自立を目指すその妻の葛藤を語るホームドラマ。

メッセージは?

姑さんに会ったとき、体は大丈夫と聞かれた、それは子供はまだかというメッセージ?結婚したら、子供はまだかと皆思っている?

同じ部署内で結婚した場合、女性のほうが異動になる、その理由が女性は結婚すれば子供が産まれ仕事に専念できなくなるという常識がある?

子供を産めば、保育園探しで大変?

子供に淋しい思いをさせるとか虐待とかしない自信あるの?

子供の産むのに、タイムリミットがある?

しっかりとこういうことを見る側に考えさせる強い演出の力、俳優の力を感じる。


 

しっかりとこういうことを見る側に考えさせる強い演出の力、俳優の力を感じる。


「烈々と燃え散りしあのはなかんざしよ」

2019-08-29 08:55:54 | 日記

新宿梁山泊 シライケイタ作

「烈々と燃え散りしあのはなかんざしよ」

奇想天外な舞台装置やドラマティックな演出の梁山泊が、あの温泉ドラゴンの、どちらかというと朗読劇に近いセリフを中心にした作品をリメイクしたらどうなるのか、大いに期待を抱いて出かけた。

温泉ドラゴンのは、舞台装置はただ一つの板というか、横斜めに長い木だけ、同じ俳優が何役もやり、金子文子の幼少期や朴烈との出会いなど、時代がさかのぼったり、戻ったり、唐突に場面転換が行われた。観客は急な展開の中でさまざまに想像を膨らますことができたような気がした。あの大正時代という時代の閉塞感、貧しさ、暗さ、余儀なく無政府主義に傾いていく文子、その生と死の潔さを描いたすばらしい演劇だった。

それに対して、梁山泊のは、時代の年表などをスクリーンで映し出すなど分かりやすく、文子の幼少期を本当の子供をもってするなど、派手な喧嘩や立ち回りなどで盛り上げ、よりリアリズム、カラフルでビジュアルなもの、大衆演劇風に仕立てた。ラスト、文子に降る桜吹雪、残した数々の獄中での短歌をスクリーンに映し、情に訴えた。

私は韓国映画「金子文子と朴烈」を見ている。そこに裁判官役で守珍が出演していることも見ている。素晴らしい映画だった。それを踏まえて梁山泊のこの芝居を見ざるを得ない。唐十郎の作品で最下層の人々や日韓の事を描くことに徹底している金守珍がどれほどこの映画に、どれほど金子文子と朴烈に感動したことだろう。戸籍もなく育ち、何度も男に捨てられる母、7才で女郎屋に売られそうになり、朝鮮半島で伯母に女中同様に扱われ、東京で勉強して社会主義を学び、上野で朴烈と出会った。それを劇的に語りたい、その思いが溢れていた。

温泉ドラゴンの芝居のことは忘れ、まったく別な芝居として見たほうがいいけれども。