瑞原唯子のひとりごと

「遠くの光に踵を上げて」第50話 リング

「ようこそ、いらっしゃいませ」
 レイチェルが門まで、レイラ、ジーク、リックを出迎えた。
 今日はアンジェリカの誕生パーティである。三人は連れ立ってやってきた。ジークとリックはまるきり普段着だが、レイラはひとり気合いを入れて、ワインレッドのベロア調ワンピースで若づくりをしている。
「約束のモノ、ちゃーんと持ってきたわよ」
 レイラはウインクをしながら、底の広い白無地の紙袋をゆっくりと掲げた。がさつな彼女にしてはめずらしく丁寧に扱っている。レイチェルはにっこり微笑みながらそれを受け取った。
「ありがとうございます。面倒なことを頼んでしまってすみません」
「なんの、なんの。こっちも楽しかったし、ね!」
 レイラはジークとリックに振り返り、同意を求めた。
「はいっ!」
 リックは元気よく返事をした。だがジークはむすっとして顔をそむけた。
「どうしたんです?」
 レイチェルはきょとんとして尋ねた。
「いいの、いいの、気にしないで。自分の不甲斐なさにへこんでるだけだから」
「え? 不甲斐なさって?」
「ふふっ、あとでわかるわよ」
 レイラは白い歯を見せて、いたずらっぽくニッと笑った。

 重厚な扉を開け、レイチェルは三人を中に招き入れた。ジークの家がすっぽり入るのではないかというほどの玄関ホール、緩やかなカーブを描く幅広の白い階段、それと対照的な赤い絨毯、きらびやかなシャンデリア。いつもながら圧倒される光景だ。
「アンジェリカ? みなさんがいらしたわよ」
 レイチェルが声をかけると、アンジェリカは応接間の扉から、ちょこんと顔だけ出した。少し困ったような顔で、恥ずかしそうに笑っている。
「大丈夫だよ、ほら」
 サイファは優しくそう言うと、後ろからアンジェリカの肩を抱き、玄関ホールに連れ出した。
「…………」
 三人は目を見開いて、呆けたように見つめた。
 彼女は深紅のロングドレスをまとっていた。腰からふんわりと広がったベルライン、肩を柔らかく包み込むパブスリーブは、レイチェルと同じシルエットである。黒いチョーカーについた小さなバラが、可愛らしいアクセントになっている。いつも身軽なミニスカートやミニのワンピースばかり着ている彼女のドレス姿に、三人は思いきり意表をつかれた。
「やっぱり変よね。着替えてくる!」
 無言の視線に耐えきれなくなったアンジェリカは、顔を真っ赤にして逃げようとした。
「かわいいわ! すっごいかわいい!!」
「うん、似合ってるよ!」
 レイラとリックは我にかえり、顔をぱっと明るくすると、口々にそう言った。しかし、ジークはいまだ無言のままである。
「ジーク、あんたもそう思うでしょ」
「え……ああ、まぁ……」
 レイラは気を利かせてジークに振ったが、彼は目を伏せ、曖昧に口ごもった。アンジェリカは顔を曇らせうつむいた。
「やっぱり変なのね……」
「あははっ、気にしないで。あのバカ照れてるだけなのよ。かわいいってくらい素直に言えばいいのに。なーに意識しちゃってんだか」

…続きは「遠くの光に踵を上げて」でご覧ください。

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