【‘Tempura’を食べるウチの娘】
さて、この前、僕の友人であります masahero (マサヒロ)さんのところで話題になっていた記事と似た内容になりますが、今回は、セブを中心とした地域で話されているビサヤ語の性質と、これまで僕が運営している日本語教室の中や、僕の日常生活の中で、出会った言語に関する何とも‘珍妙’な御話について触れたいと思います。
最初にお断りしておきたいのですが、僕は言語学者ではなくて、元々は単なる英語屋です。(…それで、一応は、飯のタネには出来ますが、例えるなら、プロ野球で言えば、精々、‘一軍半’のレベルであり、レギュラー-スラスラと同時通訳をこなすような方々-のレベルには、まだまだ及ばないと言った程度のモノです)それ故、今回の御話も、聞きかじりの言語学の知識から、僕が思う事を言うだけで、別に学術的な根拠があるものでも何でもありませんので、(…と、言うか、一応ネット上での調査もしたのですが、言語学的にも諸説あって、‘これだ!’と結論付けられていない内容のものも含むという事ですので)御了承下さい。
まず、上の画像で、‘tempura’と書きましたが、これは、日本語で言う‘てんぷら’です。こちらの‘てんぷら’は、どうやら、日本から持ち込まれたモノらしいのですが、魚肉の練り製品を油で揚げたモノで、日本の‘揚げはんぺん’に近いモノです。こうした代物を、日本の僕の両親の実家周辺の地域では、同じく、‘てんぷら’と呼んでおり、その辺りの共通項が、僕にとっては、‘不思議な感動’もあります。
しかし、ここで言いたい事は、日本人にとって、‘てんぷら’に含まれる‘ん’の音は、ローマ字にすれば、'N'(エヌ)だと、強く信じておられる皆さんが殆どじゃないかと思いますが、ラテン語系の言語の‘ん’の音は、m もあれば、n もあるし、ng もある訳でして、実は、日本人にとっての‘ん’は、かなりのモノが、'M'の音に属しているので、フィリピンでは、tenpura とは、やらないで、彼らが聞いたままのtempura と表記している訳ですね。
ところで、フィリピン各地に現在存在する172種類もの言語は、オーストロネシア語族(東南アジア マレー系言語)に属していて、実は、日本語も、この語族の原始言語に少なからぬ影響を受けていたようです。そして、現在のフィリピンの言語は、元々はマレー系の言葉をベースに、スペインの植民地として300年以上に渡る支配を受けた事、そして、スペインの後には、アメリカが半世紀以上に渡って、その跡を継ぎ、英語の普及に努めた事から、スペイン語や英語(共にラテン系言語)の影響を強く受けているのですね。
…聞いた話では、本州周辺で話される日本語ですら、南方から渡来した人々によってもたらされたオーストロネシア語族の原始言語の影響を受けていると認められる中、沖縄の周辺では、地理的な条件から、その影響がもっと色濃く、元来の沖縄周辺の言語は、母音が‘あいう’の3つだったようです。
そして、古来、フィリピン周辺で話されていた言葉もこれに似た性質があったようで、特にセブで話されているビサヤ語には、現在でも、a i u (あいう)の3母音しかないが、タガログ(フィリピノ)語は、スペイン領となってから、スペイン語の5母音 a e i o u (あ・え・い・お・う)を取り入れて、5母音にしたという事らしいのです。
そんな訳で、特にセブを中心とするビサヤの人々は、元々、a i u の3母音しかない所へ、英語他の要素を取り入れたものだから、元々、よく似た音である
U(う) と O(お)
それに、
I(い)とE(え)
…を混用する傾向が見られるのです。
と、言う訳で、やっと‘タイトル’の内容に触れられるのですが、ウチの娘-2歳8ヶ月-の母語は、ビサヤ語になりつつありますが、(割合としては、ビサヤ語が5、英語が3、日本語が2…位で話します)どうも母語の影響が強すぎて、具体的には、おめめ(o・me・me)と、おみみ(o・mi・mi)の判別がしにくいようで、僕が、
『おみみはどこ?』
と聞けば、目を指したり、
『おめめはどこ?』
…と聞いたら、耳を指したりと、‘言語背景による難聴’を感じるところです。(苦笑)
まあ、しかし、こうした事については、寧ろ、自然な事であり、過敏になる必要なんて何にもなくて、正直に言えば、一般的に日本人が不得意であると言われる、英語の L と R の発音や聞き取りは、一応はプロの領域に踏み込んでいる僕にでも、未だに厄介な代物である事に変わりはないのです。(…ちなみに御存知だとは思いますが、日本語の‘ら行’は、L でも R でもない、それらに似てはいるが、実は独特な発音なのであり、僕の母語である日本語には元々、純粋な、L も R も無いのだから、英語のネイティヴスピーカーではない僕にとっては、仕方がないと割り切るしかないのですね)
また、(他)言語を話す訓練は早ければ早いほうが良いという意見には、僕も賛成なのですが、娘の事例を通して、勿論、個人差はあるのでしょうが、母語の影響というものが、こんなに早いうちに出るとは思いもよりませんでした。(…或いは、これは、母語の影響ではなく、言語がまだ固まっていない内の自然な反応なのかも知れません。-要は、I と E なんて、元々、似たような音なのだからという事になりましょうか...)
先に挙げました、masa-hero さんの綴りについても、日本人が普通にローマ字読みをすれば、‘マサヘロ’になってしまいますが、フィリピン人或いは、アメリカ人辺りに読ませても、ほぼ間違いなく、‘マサヒロ’に限りなく近い発音をすると思います。(因みに、‘英雄’を意味する'hero' という英単語の発音は、カタカナ表記すれば、‘ヒーロー’に近い発音になりますから、お分かり頂けると思います)
ちなみに、もう少し、突っ込んで言えば、日本人が‘あいうえお’は、ラテン系言語の‘a i u e o’に符合していると理解している事についても、実は、‘偶々、それに近い音を当てはめているだけ’なのであり、それが絶対であると思い込むのは、‘ある種の狭量’なのかも知れません。多分、もっと柔軟に捉えた方が、他言語の理解がしやすくなるんじゃないか…僕はそんな風に思っています。
…そんな訳で、実は、こちらで日本語を教えるにあたって、僕が真っ先にフィリピン人たちに教えるのは、この‘母音の発音の違い’であり、僕が実際に‘あ・い・う・え・お’と、発声して、彼らにそれを真似てもらう事から始めます。
そして、その後で、実際に日本語の単語の発音練習に移るのですが、僕が必ず、彼らに練習してもらうのは、
ねこ (neko) と にく (niku)
えき (eki) と いけ (ike)
おねえさん (o ne e san) と おにいさん (o ni i san)
くぼた (kubota) と こぶた (kobuta)
…以上の組み合わせです。
これらは、僕が、ここで生活していて、まだ日本語を教える前から主にセブで出会った日本語を多少は話せるとか、日本語勉強中と言った類のフィリピン人の口から発せられた言葉に戸惑った経験から、
‘これを間違えたらマズいシリーズ’
…のような感じで、代表的なモノをリストアップしたのです。
前の説明から、既にお気付きだとは思いますが、これらの言葉は、彼らセブの人たちに(或いは、フィリピン人全体でも同じ傾向にありますが)、ちゃんとした発音の基礎を教えないで日本語を喋らせたら、先ず、間違いなく、‘逆にやってしまう’組み合わせなんですね。
…例えばですね、そうしたフィリピン人たちが、日本で暮らす機会を得た場合に、道に迷って、実際には、‘駅に行きたい’のに、
‘いけ に行きたいです’
なんて、やってしまったら、話がトンでもなくややこしくなる可能性が高いですよね。
また、背が低くて、メタボ体型の久保田(或いは窪田)さんに、
『コブタさん!』
…と呼びかけては、やはり、まずいって事でしょう。(…最近では、ご丁寧にローマ字読みの入った名刺も多いですから、それを‘そのまま’読んじゃったら、間違いなく、こうなりますよね)
或いは、肉屋さんへ行って、
『ネコ下さい』
…も、どう考えてもまずいですよね。
更には、実際に、こちらで日本語を話せるフィリピーナとご結婚された日本人男性が、結婚前、そのお相手に、“コンド、ジッカ、キテネ。‘オネエサン’ショウカイスルカラ。”と聞かされて、行ってみたら、
お兄さんが出て来た
…そんな御話もありました。
…まあ、そんな風で、フィリピン通の方々が、日本で就労中のフィリピーナたちの口調を真似て、
オカニ (おかね)
とか、
オニガイシマス (おねがいします)
…やっておられる様子をよく見かけますが、これは、特に、音声を介さず、アルファベットで書かれた辞書などを参考に日本語を覚えたフィリピン人たちにとっては、無理からぬ事なんですね…(苦笑)
…さて、そんな訳で、僕の教えている生徒たちには、その辺りの事をキッチリと教えまして、発音面ではかなりウマくなって来たと感じますが、書き取り試験を課すと、どうしても母語に引っ張られるのか、未だに、‘トンでもハップン’の間違いをする人がいます。下に例を挙げますので、一体何の事か、皆さんも想像してみてください。
1.きんきゅうしゃ (…僕は、反射的に‘救急車’かと思いましたが...)
2.うばき (…???)
3.おま (…???)
4.むりさん (日本人名です)
…(正しい)解答は下の方に
1.けんきゅうしゃ (研究者)
2.おばけ (お化け)
3.うま (馬)
4.もりさん (森さん)
…言葉って、面白いですね。(笑)
多分…なのですが、僕の場合には、当時、ウチの親に先見の明があったようで、小学校に上がったか上がらなかったかの頃に、ほぼ強制的に英会話をやらされた事があり、教会関連で、アメリカ人との会話練習も経験した上、テレビの‘セサミストリート’などを訳も分からないのに、ずっと見ていたような調子で、そこで‘慣れた音’が耳に刻まれて、成人してからの本格的な英会話トレーニングにも比較的、楽について行けたのかも知れませんね。
それを思うと、まだまだ、ウチの娘などは発展途上で、日本語もちゃんと聞かせてやれば、やはり第二の母語となる可能性も高そうで、ちょっと安心です。(笑)
gonさんのコメントも興味深かったです
付け加えると伸ばす音の概念がないんですよね
私の友人にゆうかとゆかがいますが、嫁には区別がつきません
弟が結婚した相手がゆかなので嫁にとってはゆかが3人いる状態のようです
日本語については岩波新書、大野晋著の日本語の起源がおもしろかったです
ねこ (neko) と にく (niku)
えき (eki) と いけ (ike)
おねえさん (o ne e san) と おにいさん (o ni i san)
くぼた (kubota) と こぶた (kobuta)
この発音なんか今妻と言葉で悪戦苦闘している私にとって笑っちゃいます。
試しに自分で発音したらんんーーーー確かに
講釈抜きに理解できます。
周波数についても何となく分かります
改めて他の人に文章にして貰うと良く理解できることが多いですね、大変勉強になります
でもやはり最初は戸惑いましたよね。以前私のブログにもあげた例ですが「エリ」という名のタレントが「ire」と書いた時は正直驚きました。
しかし母音が「あ・い・う」しかなかったなら納得ですよね。「い」と「え」、「う」と「お」など聞くとさほど違いは無いですしね。
先日やっと‘アイヌ‘の人々が日本の先住民族だと認める判断がニュースになっていました。この国は幾重にもいろんなところから人がやってきて、拓いて、棲みついて・・・でもちがう文化をもってる人と人とが融和するのって結構時間とエネルギーのかかるものですよね。
以前なにかの記事でか本でか忘れましたが、アジアの‘民族大移動‘は多くの場合、中国での人口の爆発的増加(経済力の拡大?)に起因する。といった事をよんだ覚えがあります。その事への好悪の感情は人それぞれでしょうが、人と金と技術が文化と一緒になだれ込む訳ですから、争いも含めていろんなドラマが生まれるし、言葉や言葉の発音・表記にも影響を残すんでしょうね。
>愚民には愚民に相応しい末路が待っているわけです。知らぬが仏
(匿名)さんこんにちは。ご意見拝見しました。なるほど正しいんやろうなぁって思いました。
でも・・愚民とされているのはどの『くくり』なんでしょうか?為政者?為政者を選んでいる国民?人民?
>100万人単位の飢餓死を日本のシンクタンクは予測しております。
「飢餓死」するのは、多分私の家族です。
飢餓死するのが「相応しい」人間なんてどこにいるんですか?
愚民?飢餓死する方が愚かなんですか?
>知らぬが仏
・・・って、嗤ってるアナタは何者なんですか?フィリピンの経済が縮小しても‘餓えないで嗤っていられる‘ウラヤマシイ階層‘にいらっしゃるのかなぁ・・
大工さんをダイクって言う人もデェークっていうひとも話題のそれかな?ちなみにおらほ(私の方)では、犬のことをエヌっていいます。
でっけぇ「えぬ」がぁおっきな「おうき」なもりんなかのきぃのすたでなぁてるよ。
家族が飢餓死する僕も、大きな森の木の下で泣きます
ここのところ、ただでさえ、非常に忙しくて、ブログに手が付けられなくなっていたところへ、追い討ちをかけるように、体調不良に襲われまして、(この事は後程、記事にてアップします)やっと、今日、辛うじて復帰(?)して来たような状態です。
この後、個別に返信させて頂きます。
日本語のように母音の連続で、長音を作るのは、フィリピン人に限らず、英語圏の人間には、御指摘の通り、難しいようですね。‘おじいさん’と‘おじさん’、‘おばあさん’と‘おばさん’の区別なんかが、凄く良い例で、これも場合によってはトラブルの元ですよね…(苦笑)