急な坂道を自転車で猛スピードで下る。
地面は大粒のじゃり。ところどころツルツルの粘土も顔を出している。
自転車はバウンドしながら走っていく。が、ハンドルを取られて、前輪が制御を失う。転んだ、いや、とんだ。
息子の体は、地面に打ちつけられた。
◇
いまの落ち方、首からだったらヤバいかも…。
が、息子は即座に立ち上がる。
「イッテー!」
満面の笑み。自転車の前輪も、カラカラと回って笑っているようだ。
ズボンの膝から血がにじんむ。でも、息子の笑顔は止まらない。
喜びが、痛みを凌駕しているのだ。
◇
ちょっと前の話。
9月24、25日、1泊2日の日程で新潟県の山の中のキャンプ場に息子と2人で行ってきた。
ブナ林の中の、不整地の野営場。オートキャンプ場のような快適な平坦地ではない。
はっきり言って、人気はなくて、湿気は多い。
おかげで無料、騒がしいオートキャンパーもいなかった。
キャンプサイト(自分が寝る場所)の石取りや整地もしたし、水を運ぶ大変さも経験した。
で、ついでに、冒頭のような、じゃり道の危険も楽しんだ。
◇
自転車は震災の後は玄関にしまったままだったからタイヤはぺしゃんこだったし、サッカーボールもしなびていた。空気を入れ直して、持ってきて本当によかった。
久しぶりに伸び伸びと遊ぶ息子の姿。炊飯やおかずの支度をしながら横目に入ってくるその姿を感じて、実は涙がこぼれそうだった。
◇
息子の学校では10月9日に運動会が行われるが、会場は公共施設の体育館。学校の校庭は使えない。
◇
返す返すも、東京電力は取り返しのつかないことをしでかしてくれた。
歴史に残る暗愚、「安全神話」。
なんと罪深いことだろう。
◇
キャンプ場からの帰り。野原で、なんと、オニヤンマを捕まえた。
飛ぶスピードが速い上に休むことも少なく、大人でも捕まえることが困難な虫だ。
加えて、堂々としたトラ縞の巨躯、エメラルドの複眼。強くて美しい虫なのだ。
◇
私自身、実は、元気なオニヤンマをきちんと捕まえたことはない。
透明な窓ガラスに突っ込んできて気絶してしまったオニヤンマを拾って、「オレがゲットしたぜ」みたいなヤツばっかり。実は、オニヤンマやギンヤンマをちゃんと捕まえたヤツなんて、実はあまりいない。
オニヤンマは、憧れ。
憧れて尚、手の届かない虫だった。
そんなことを聞かせていたので、思いがけずゲットしたオニヤンマに息子は大喜びした。
◇
「学校に持ってって、みんなに見せてあげな」
「うん!」
しかし、しばしの間を置いて「郡山に連れて行ったらかわいそうだよ。(放射能が)高いんだから。(放射能の低い)ここで逃がしてあげようよ」と息子。
そうか。
虫たちにも、あらゆる生命に迷惑かけてるんだよね。
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