「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.273 ★ 中国日本商会の画期的改革から1年、進み始めた投資環境改善 組織改革後1年間でハブ機能強化がもたらした成果

2024年04月19日 | 日記

JBpress (瀬口 清之:キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)

2024年4月18日

蘇州に進出している日本企業も多いSiggy NowakによるPixabayからの画像)

 

中国日本商会の組織改革から1年

 2023年4月に中国日本商会が組織改革による機能強化を図ってから1年が経過した。

 会長職については、5大商社の中から順番に選出する1年任期の輪番代表制を改め、商社に特定せず、企業の代表による複数年任期制に変更した。

 新会長にはパナソニックホールディングス代表取締役/副社長、中国・北東アジア総代表の本間哲朗氏が就任した。

 それとともに、中国各地の日本企業の商会組織との連携緊密化を目指している。

 従来、各地の商会組織は地域内の互助会的性格が強かったが、改革後は地域をまたがる横断的な連携を通じて、中国全土における日本企業の投資改善要望を中国日本商会に集約し、一括して中国政府に改善を求める機能が強化された。

 以下に紹介するいくつかの新たなプロジェクトや、地域を越えた協力体制強化のための同商会幹部の地道な努力の積み重ねがこうした機能強化を支えている。

(1)景気・事業環境認識アンケートの実施を通じた投資環境改善要望

 2023年9月から四半期ごとに標記アンケート調査を開始した。

 以前から中国日本商会では、毎年1回、「中国経済と日本企業白書」を作成し、中国各地の日系企業が直面している課題の分析および解決のための提案を取りまとめ、中央・地方政府との対話促進を図っていた。

 しかし、米国や欧州の商会組織が頻繁に各種アンケートや投資環境改善要望書を作成し、積極的に中国政府に働きかけているのと比較すると、日本商会の活動は見劣りしていた。

 この新たにスタートした調査の結果を整理することによって、中国の投資環境に対する日本企業の要望を頻繁に中国政府に伝えることが可能となり、米国、欧州の商会組織との機能格差がある程度縮小した。

 現在、中国は1990年以来最悪の経済状態に直面していることから、中国政府は外資企業の誘致にかつてないほど積極的に注力している。このため、この調査を通じた日本企業からの投資環境改善要望の動きを高く評価している。

 その要望に沿って各地で投資環境を改善すれば、日本企業の対中直接投資拡大を促進することが期待できるためである。

 アンケートの1回目(2023年10月結果公表)は約8300社を対象として1410社から、2回目(2024年以月結果公表)は約8000社を対象として1713社からそれぞれ有効回答を得た。

 この有効回答数は、同様のアンケートを実施している中国米国商会(約900)、中国欧州商会(約600)に比べてはるかに多い。

 それもあって中国政府商務部のハイレベル幹部との定期会合がスタートするなど、この調査が中国現地の日本企業から中央政府に対する投資環境改善要望を伝える重要なベースとなっている。

 中国日本商会が実施するアンケートは現地企業の生の声を反映していることから日本国内の中国経済に関する誤解の解消にも役立つはずである。

 例えば、第2回アンケート(2024年1月結果公表)では、中国の事業環境の満足度について「非常に満足」 および「満足」の回答が54%(前期比3ポイント増)となったほか、「中国国内企業よりも優遇されている」および「中国国内企業と同等に扱われている」の回答は78%(前期比3ポイント減)に達した。

 これらの数字は中国現地に進出している日本企業の中国市場に対する評価が比較的高いことを示している。

 これは日本国内でのメディア報道によって多くの人々が抱いている中国市場のネガティブなイメージとは大きく異なっていることが分かる。

 しかし、これまでのところ日本国内のメディア報道は、足許の投資拡大に消極的な企業が約半数に達した一方、積極的な企業が15%にとどまるといったネガティブな面だけを強調し、アンケート結果の客観的な分析の全体像を報じていない。

 このため、アンケートの結果が日本側にきちんと伝わっていない。

 今のところ、こうしたネガティブなバイアス報道による中国市場に対する誤解は解消されていない。

 しかし、今後中国日本商会会長による記者会見での説明や各種インタビュー記事のメディアでの露出が増えるとともに中国の現場第一線の情報が共有され、徐々に誤解が解消されていくことも期待できる。

 すでに一部の主要メディアに同会長の中国の投資環境に関するポジティブなコメントが紹介されており、一般的なメディア報道とは異なる現場第一線の実感を伝えている。

(2)中国各地の商会組織との連携強化

 組織改革後の中国日本商会では、中国各地の日本企業の商会組織との連携強化を目的として、前掲のアンケートに協力した中国各地の日本企業に対して、調査の結果を丁寧にフィードバックし、コミュニケーションの緊密化に力を入れている。

 それに加え、同商会幹部は上海、天津など主要都市の日本企業の商会組織を訪問して意見交換を行い、直接対面形式でのコミュニケーションにより、関係緊密化を図っている。

 特に、日本企業の世界最大の集積地である上海市の商会組織(上海日本商工クラブ)との連携強化に注力している。

 そのために一部の幹部が北京・上海双方の理事会メンバーを兼務し、定期的に開催される理事会等での情報交換を通じて相互交流することにより連携強化を図っている。

(3)日本国内の経済団体とのコミュニケーション強化

 最近、日本から中国を訪問した経済界の大型ミッションは中国日本商会幹部との対話を通じて、現地の日本企業の事業改善課題を認識し、それを踏まえて中国政府側との会談に臨んでいる。

 そのため、大型ミッションの代表が中国政府高官との面談において、中国現地の事業課題と密接に関係する内容について意見交換できるようになっていると考えられる。

 こうした実績もあって、日本の経済界のリーダー層も中国日本商会の存在意義を高く評価している模様。

 これらの大型ミッションの訪中に際しては、中国日本商会としても毎回の交流を重視していることから、双方の幹部同士の面談が定例化する可能性が高いと見られている。

(4)日本政府によるサポート

 こうした中国日本商会の機能強化が中国政府との新たなコミュニケーションルートを確保する上で有効に機能し始めていることに中国現地の日本大使館・総領事館も注目している。

 大使館・総領事館と各地の日本企業の商会組織との連携は以前から存在していたが、今後これが一層深まっていく方向にあると考えられる。

 つい先週も金杉憲治・在中国日本国大使が天津市を訪問した際に、天津市の陳敏尓書記との会談や天津市主催の夕食会に日本商会幹部が同席した。

 このように大使が中国の地方政府幹部と面談する際に中国日本商会幹部が同行することにより、現地政府と日本企業の対話促進を図っている。

 以上のように中国日本商会は組織改革後1年という短期間に、中国各地の日本企業、中国の中央・地方政府、日本の経済界、日本政府のそれぞれとの連携を強化し、重要なハブ機能を担うようになった。

 この意義は非常に大きい。

 こうした大きな成果を生んだ組織改革の裏には、商社が従来輪番で享受していた既得権益を放棄した貢献があった。

 日本企業の投資環境改善という全体の利益のために個社の利益を放棄することは実際には非常に難しいことであるが、それを断行したリーダーがいた。

 そしてそれを周囲から支えた人々もいた。これらは利他の精神がなければできない。井戸を掘った人々の陰徳である。

 その精神は現在の中国日本商会の幹部にも引き継がれ、新会長のリーダーシップの下、個社の利益を超えて、日中両国経済の発展のために素晴らしい貢献が継続されている。

 今後、中国各地の日本企業、中国の中央・地方政府、日本の経済界、そして日本政府との連携が一層強化され、中国日本商会のハブ機能が投資環境のさらなる改善と日中両国の経済発展に大きく寄与することを心から願っている。

瀬口 清之 (せぐち きよゆき)

キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹   東京大学経済学部卒業後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所の客員フェロー、北京事務所長、国際局企画役を経て、2009年4月から現職。 論文に「教育まちおこし構想 小中学校を核にした地域社会を活性化する」(2002年)、「"Dissolution of Mutual Distrust" Relations among China, Japan, and the United States, since the 1990s」(2005年 ランド研究所内部ペーパー)、「環渤海地域経済開発構想の展望と課題」(2008年)などがある。  

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