「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.328 ★ 中国、吠えまくりの「戦狼外交」から微笑みの「パンダ外交」へ急旋回の真意 東アジア「深層取材ノート」(第234回)

2024年05月16日 | 日記

JBpress (近藤 大介:ジャーナリスト)

2024年5月14日

5月6日、訪仏しフランスのマクロン大統領から歓迎を受け、笑顔を見せる中国の習近平主席(写真:Best Image/アフロ)

「恫喝」から「微笑み」へ

 全国人民代表大会(3月5日~11日)を終えた後、習近平政権が、外交を活発化させている。その主なものは、以下の通りだ。

<アメリカ>
3月27日 北京で習近平主席がアメリカ企業の約20人のCEOらと面会
4月2日 習近平主席がジョー・バイデン米大統領と電話会談
4月7日 北京で李強首相がジャネット・イエレン米財務長官と会談
4月26日 北京で習近平主席がアントニー・ブリンケン米国務長官と会談

<ヨーロッパ>
4月16日 北京で習近平主席がオラフ・ショルツ独首相と会談
5月6日 パリで習近平主席がウルズラ・フォンデアライエンEU委員長、エマニュエル・マクロン仏大統領と三者会談
5月6日 パリで習近平主席がマクロン仏大統領と会談
5月8日 ベオグラードで習近平主席がアレクサンダル・ブチッチ・セルビア大統領と会談
5月9日 ブタペストで習近平主席がオルバン・ヴィクトル・ハンガリー首相と会談

<ロシア>(予定)
5月15日 北京で習近平主席がウラジーミル・プーチン・ロシア大統領と会談予定

<アジア>(予定)
5月26日、27日 ソウルで李強首相が岸田文雄日本国首相、尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領と会談予定

 このように、これまで「戦狼外交」(狼のように戦う外交)と揶揄(やゆ)されてきた習近平政権が、突然、微笑みの「パンダ外交」を始めたのだ。

中国の「戦狼外交」を象徴する人物の一人、中国外交部報道官だった趙立堅氏(写真:ロイター/アフロ)

こちらも戦狼外交の担い手の一人、華春瑩・中国外交部部長助理(写真:VCG/アフロ )

 この背景には、一体何があるのか? 考えられるのは、以下の2点だ。

中国人は「中国経済の好調」を信じていない

(1)に関しては、中国の官製ニュースだけを見ていると、中国経済はいつも絶好調だ。だが、来日する中国人に話を聞くと、「経済がよくなってきた」「景気が上向き始めた」と言う人は皆無である。

 国家統計局などが発表している「公式統計」を見ても、以下のように、とてもほめられるものではない。

・第1四半期(1月~3月)の主力の国有企業の全国規模以上工業企業利潤は、前年同期比(以下同)-2.6%。
・3月の貿易額は-5.1%(輸出-7.5%、輸入-1.9%)。
・3月の住民消費価格(CPI)は+0.1%。
・2月の若年層(16~24歳)失業率は15.3%。
・第1四半期の全国不動産開発投資は-9.5%。うち住宅投資は-10.5%。
・第1四半期の商品家屋販売額は-27.6%。うち住宅販売額は-30.7%。
・第1四半期の不動産開発企業の手元資金は-26.0%。
・3月の70大中都市中古住宅販売価格は、前月比で+1都市、-69都市。

このように、中国経済には、いまだ「晴れ間」が見えない。もしもこの先も、「ほしいがままの戦狼外交」を強引に推し進めたなら、習近平政権のスローガンである「中華民族の偉大なる復興という中国の夢の実現」は、さらに遠のいてしまうに違いない。

 そこで、微笑みの「パンダ外交」に転じたことが考えられる。日本にとっても世界にとっても、ベターな選択だ。

中国にとって望ましいのは「バイデン大統領」

(2)に関しては、11月5日のアメリカ大統領選挙まで半年を切った現在、世界は「マチトラ」(トランプを待っている)の国と、「コワトラ」(トランプを恐がっている)の国に二分されてきているように思える。

「マチトラ」の指導者の筆頭は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長や、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、ハンガリーのオルバン首相らだ。強権的な指導者に多い。

 逆に、「コワトラ」の筆頭は、ドイツのショルツ首相、フランスのマクロン大統領、そしておそらくは、日本の岸田文雄首相もそうだろう。先月の岸田首相の訪米は、「トランプ対策」をバイデン大統領と練る一面もあった。こちらは先進国や、民主国家のリーダーに多いのが特徴だ。

 こうした分類に従うなら、中国は強権的な国なので、一見すると「マチトラ」かと思える。ところが中国人の誰に聞いても、「それは『老いぼれバイデン』がこのまま続けてくれた方がいい」と言う。

トランプ復権は「悪夢」

 思えば習近平政権は、多分に予定調和的な社会主義政権である。年間のGDP成長率も、3月に全国人民代表大会で決めて、そのラインに沿って実行していく。もっと長い5カ年計画もある。

2019年6月、大阪で開催されたG20サミットの際に首脳会談を行ったトランプ大統領(当時)と習近平主席(写真:AP/アフロ)

 そんな習近平政権にとって、「予測不可能」なことでは他に例を見ないトランプ大統領の復権は、「悪夢」と言えるだろう。サイコロはいまよりもいい方向に振られるかもしれないが、悪い方向に振られるかもしれない。そんなロシアンルーレットのような国際環境は、まっぴらごめんなのだ。

 もしも悪い方向に振られた場合(かつその方が確率は高そうだが)、いまの脆弱な中国経済では、ぺシャンとなってしまうかもしれない。

 というわけで、今月下旬に日中韓サミットが開かれたなら、ヒンヤリした日中関係も、少しは「雪解け」になるかもしれない。日本の経済界は、「中国へのビザなし渡航解禁」に期待をかけている。

近藤 大介

ジャーナリスト。東京大学卒、国際情報学修士。中国、朝鮮半島を中心に東アジアでの豊富な取材経験を持つ。近著に『進撃の「ガチ中華」-中国を超えた?激ウマ中華料理店・探訪記』(講談社)『ふしぎな中国』(講談社現代新書)『未来の中国年表ー超高齢大国でこれから起こること』(講談社現代新書)『二〇二五年、日中企業格差ー日本は中国の下請けになるか?』(PHP新書)『習近平と米中衝突―「中華帝国」2021年の野望 』(NHK出版新書)『ファーウェイと米中5G戦争』(講談社+α新書)『中国人は日本の何に魅かれているのか』(秀和システム)『アジア燃ゆ』(MdN新書)など。

*左横の「ブックマーク」から他のブログへ移動


最新の画像もっと見る

コメントを投稿