東洋経済オンライン (財新 Biz&Tech)
2024年6月26日
世界的なEVシフトを追い風に急成長した中国の車載電池業界だが、将来に暗雲が広がってきた。写真はEVと車載電池の両方を自社生産するBYDの輸出車両(同社ウェブサイトより)
急成長を遂げた中国の車載電池業界が、早くも淘汰の時代を迎えつつある。
業界団体の中国汽車動力電池産業創新聯盟(動力電池聯盟)が5月30日に発表した年次レポートは、車載電池市場の最新動向として需要サイドに構造的変化が生じていることや、上位の電池メーカーによる(市場の)寡占化が進んでいることなどを指摘した。
このレポートによれば、中国は2024年も引き続き「新エネルギー車」の世界最大の市場であり、年間販売台数は前年比14%増の1083万台、それらに搭載される車載電池の総容量は同36%増の527GWh(ギガワット時)に達する見通しだ。
(訳注:「新エネルギー車」は中国独自の定義で、電気自動車[EV]、プラグインハイブリッド車[PHV]、燃料電池車[FCV]の3種類を指す。通常のハイブリッド車[HV]は含まれない)
電池の需要に構造的変化
だが、2023年初めからテスラや比亜迪(BYD)が仕掛けた価格競争をきっかけに、中国の新エネルギー車メーカーのほとんどがコスト重視に舵を切り、電池の需要に構造的変化が生じた。
その象徴と言えるのが、PHVやレンジエクステンダー型EV(EREV)の急成長だ。車載電池だけで走行するEVは、航続距離を稼ぐために大量の電池を搭載する必要があり、それがコスト高の要因になっている。
その点、PHVやEREVは(エンジンを併用するため)同じクラスのEVに比べて電池の搭載量が3分の1で済み、メーカーはコストを大幅に抑えられる。さらに消費者の間でも、電池切れの心配が小さく価格も相対的に安いPHVやEREVを積極的に選ぶ傾向が強まった。
その結果、2023年からPHVやEREVの販売の伸び率がEVを上回るようになった。中国汽車工業協会のデータによれば、中国市場における同年のPHV販売台数(EREVを含む)は280万4000台と、前年比84.7%増加。これに対して、EVの販売台数は668万5000台と絶対数では2倍以上だが、前年比の伸び率は24.6%にとどまった。
PHVの台頭とEVの成長鈍化は、車載電池メーカーにとっては大きな誤算だった。EV販売の高い伸びが続く前提で数年前から建設してきた電池工場が続々と稼働する中、需要の伸びが減速したからだ。
中国の車載電池メーカーは、EV販売の高い伸びを前提に生産能力を急拡大してきた。写真は最大手のCATLが江蘇省に建設した電池工場(同社ウェブサイトより)
それだけではない。動力電池聯盟のレポートによれば、2023年に中国で生産されたEVは最大航続距離が400~600キロメートルの車種が約6割を占め、600キロメートルを超える車種は12%しかなかった。EVだけを見ても、電池の搭載量は(コスト志向の強まりを受けて)頭打ちなのだ。
こうした構造的変化により、数年前までの車載電池の供給不足は完全に過去の話になった。今後は電池メーカーの淘汰が避けられないだろう。
上位5社で市場シェア97%
すでにその兆候は出ている。動力電池聯盟のレポートによれば、2023年に中国で生産されたEVやPHVには合計51社の電池メーカーの車載電池が搭載されたが、その数は2022年より6社減少した。
と同時に、業界内では(規模のメリットを生かせる)少数の上位メーカーに市場シェアの集中が進んでいる。上位3メーカーの2023年の市場シェアは合計78.8%、上位5メーカーでは96.8%に上った。
ある自動車メーカーの関係者は、車載電池業界の今後について匿名を条件に次のような見方を示した。
「新エネルギー車メーカーはすでに淘汰の段階に入っており、生き残れる企業は多くない。車載電池業界はサプライチェーンの川上に位置するため、生き残りはさらに困難だろう。仮に生き残る新エネルギー車メーカーが10社だとすれば、生き残る電池メーカーは多くても5社ではないか」
(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は5月31日
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