「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.22 ★ 「中国政府が救う神話」崩壊の衝撃!中国“影の銀行”が債務超過5兆円で破綻…波紋は?

2024年01月28日 | 日記

DIAMOND online  (真壁昭夫:多摩大学特別招聘教授)

2024年1月16日

Photo:PIXTA

能登半島地震の発生とその報道で日本国内が動揺する一方、中国では史上最大級の破綻劇が起きていた。15日、中国のシャドーバンク(影の銀行)大手、中植企業集団が破産したのだ。ピーク時の運用資産が20兆円を超えた巨大企業は、不動産バブルの崩壊にのまれ、急激に経営が悪化。これまで政府保証を信じてきた国民心理や中国の株式市場は、不安定さを増している。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

中国国民が信じてきた政府保証が崩壊か

 1月5日、中国のシャドーバンク(影の銀行)大手、中植企業集団(中植)が北京市第一中級人民法院に破産清算を申請し受理された。中国で史上最大級、債務超過は5兆円規模とみられる今回の破産は、経済に大きな負の影響をもたらすと考えられる。8日以降、投資家の中国株売却は増加したとみられ、株価は不安定な展開になっている。

 中植の破産をきっかけに、人々が信じていた“暗黙の政府保証”は崩れ始めたとの見方もある。これまで中国では、主要な企業の債務不履行(デフォルト)などが起きても、「政府が救済に動くから投資家に損失は及ばない」との一種の思い込みがあった。2023年8月に中植集団の債務超過が表面化しても大きな混乱にはならなかったのは、そのためだ。

 しかし、中国政府は、投資家の保護や金融システムの健全化などを強化しなかった。その結果、中植は破産に追い込まれた。政府の経済政策、金融行政に対する国民の不安は高まり、景気の本格的な回復には相当の時間が必要との懸念が、一段と上昇した。

 今後、中国では、「信託商品」(不動産向けローンなどを投資信託に仕立てた金融商品)と呼ばれる、高利回りの投資商品を売却する投資家が増加するだろう。バブル膨張期と反対に、「売るから下がる、下がるから売る」という負の連鎖が加速する可能性があり、投資に依存してきた中国経済は一段と厳しくなるはずだ。

シャドーバンク大手・中植はなぜ破産したのか

 シャドーバンク大手である中植の破産は、中国の不動産バブル崩壊が、金融部門の一部であるシャドーバンキングセクターに波及していることを示している。

 リーマンショック後の中国経済では、マンション建設など不動産投資が大幅に増えた。政府が、不動産投資によって景気を下支えし、経済の成長率を引き上げようと狙ったのだ。地方政府は、碧桂園(カントリーガーデン)など大手デベロッパーに土地を売却し、デベロッパーは、シャドーバンクなどの金融機関から資金を調達し、マンション建設を急速に増やした。国民の投機熱の高まりもあり、マンション価格は上昇し続け、不動産バブルは膨張した。

 それと同時に、富裕層から一般の個人投資家に至るまで、中植グループなどが設定する信託商品への需要も急増した。ピーク時、信託商品への資金流入が増加したことで、中植の運用資産規模は約20兆円に膨れ上がった。群集心理が膨張する中、中植は、不動産市況の上昇でビジネスを拡大できると“コントロール・イリュージョン”(自分たちがマーケットを支配しているという過度な全能感)を強めた。

 20年8月、中国政府が財務指針「3つのレッドライン」を実施すると、デベロッパーの資金繰りは悪化し、不動産バブルは崩壊に向かった。中植傘下の中融国際信託は、不動産関連の債券の価格が“割安”と判断し、経営が悪化した不動産企業への貸し付けを増やした。中融国際は、急速に経営状態が悪化した中国恒大集団(エバーグランデ・グループ)などからも資産を買い取った。

 しかし、中植の予想に反して中国の不動産市況は悪化した。中植の不良債権は急増し、資金繰りは急速に悪化。グループ企業が設定・運用した信託商品のデフォルトも発生し、23年8月、一部顧客は返金を求める抗議活動を起こした。

大手生命保険会社とシャドーバンクの関係

 中植の破産によって、信託商品などに“暗黙の政府保証”が付いているという思い込みは低下したはずだ。

 中国の金融業界では、4大国有銀行など大手行は、相対的に信用力が高い国有・国営企業への融資を優先する傾向が強い。一方、信用力が低い中小企業、民間企業、地方政府傘下の融資平台などに貸し出しを行ってきたのがシャドーバンクだ。

 シャドーバンキングとは一般的に、通常の銀行融資を受けられない相手に、高金利で貸し付けたり、投資したりする手法をいう。資金源は、銀行が販売する金融商品であり、商品の多くが短期間で償還を迎える。

 中国ではシャドーバンクの重要性が高まるにつれ、信託商品などの元利金支払いが遅れると、「政府が支払いを保証するはずだ」との希望的観測が増えた。リーマンショック後はさらに、暗黙の政府保証への期待が高まった。

 その典型例が、中国の大手生命保険会社だ。18年以前は、信託商品のリスクの高さ、投資先企業の事業内容の不透明さなどを理由に、シャドーバンクに資金を貸し付ける生命保険会社は少なかったといわれる。ところが、18年頃から徐々に大手生保はシャドーバンクへの投資を増やした。信託商品などのデフォルト懸念が高まれば、政府が救済に動くという思い込みがあったのかもしれない。

 しかし、中植の破産によって、暗黙の政府保証はあくまでも思い込みにすぎなかったことが明確になった。北京の裁判所は、「中植は“明らかに”返済能力を欠いた」と厳しく指摘している。

 23年11月の時点で、中国の不動産やシャドーバンクの専門家の間では、中植の不良債権問題に起因する投資家の損失額がおよそ560億ドル(8兆1200億円)に達するとの見方があった。

 一方、中国政府も無策だったわけではない。23年11月、国家金融監督管理総局(NFRA)は信託会社などへの監督を厳格化した。

 ただ、中国政府は、資金繰りが悪化したシャドーバンク企業に公的資金を注入し、投資家を守るところまでは踏み込まなかった。中植の顧客の多くが富裕層であったため、同社の破産は金融システムに深刻な影響を与えないと判断したのかもしれない。

 中植は、返済能力を欠いたまま放置された。破産をきっかけに、暗黙の政府保証への懸念は高まった。政府の対応の遅さを改めて認識する主要投資家は増えている。

深刻化する中国の景気低迷への懸念

 現在、中国の不動産市況が下げ止まる兆しは見られない。今後、中植の破産によって信託商品の返金を求める投資家は増え、信託会社などは資産売却を急ぐことになるだろう。不動産分野から流出する資金は増え、実体経済の下振れ懸念も高まる。株価の下落リスクは上昇し、海外への資金流出も勢いづくと予想される。

 マンション建設の停滞感は中国全土でいっそう深刻化するはずだ。土地の需要は追加的に低下し、地方政府の主要財源である土地譲渡益も減少する。経済成長率の低下によって税収に下押し圧力がかかり、財政破綻リスクが上昇する地方政府も増えるだろう。

 中国の景気対策は地方政府が担うことが多い。財政悪化によって、中国がインフラ投資を積み増して景気対策を講じることは難しくなる。基礎資材や建設機械などの需要も減少し、生産活動や設備投資を抑制する企業は増えるだろう。

 それに伴い、若年層を中心に雇用・所得環境の悪化も加速すると予想される。消費者心理の悪化も避けられない。中国ではマンションが完成する前に購入契約を締結し、ローンの返済を始めることが多い(予約販売)。購入したのに遅々として完成しない状況が続けば、返済を拒否する個人は増える。債務返済を急ぎ支出を減らす家計や企業も増え、デフレ圧力は追加的に高まる恐れが高い。

 中国経済が負の連鎖から本格的に脱却することは当面、難しいだろう。中央銀行による資金供給などを支えに、中国の23年の新規融資は前年比6.8%増の22兆7500億元(約464兆円)だった。増加した融資の多くは、国有・国営企業などの目先の資金繰り確保などに回ったようだ。

 例えば鉄鋼業界では生産能力の過剰が明らかであり、そうした中で融資を積み増すことは経済運営の効率性を高めるよりも、むしろ将来の不良債権予備軍になる恐れが高い。シャドーバンク大手である中植の破産により、投資に依存した中国経済のメカニズムの“逆回転”が加速したと考えられる。

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