The Wall Street Journal (Stella Yifan Xie)
2024年1月16日
Photo:NurPhoto/gettyimages
【香港】中国が近年にない深刻なデフレに陥っている。世界第2位の経済大国の需要低迷は、全世界に悪影響を及ぼしかねない。
多くの中国人が経済の先行きを懸念し、支出に消極的だ。12日発表の公式データによると、中国の12月の消費者物価指数は3カ月連続で下落、生産者物価指数も15カ月連続のマイナスだった。
モルガン・スタンレーのエコノミストは中国の現状を1998年のアジア金融危機以来「最長かつ最も深刻」なデフレと表現。アジア金融危機では過熱したアジア各国の景気が後退し、回復するのに何年もかかった。
西側の多くのエコノミストは最近まで中国で多少のデフレが起きることを歓迎していた。中国からの輸入品のコストが下がり、他地域のインフレ圧力の緩和につながったからだ。昨年の米国のインフレは一年を通じておおむね減速傾向が続いたが、12月には若干加速した。
しかし西側のインフレ懸念が緩和する中、中国のデフレがさらに大きな懸念材料となった。デフレは中国で経済的苦境が続いていることを示しており、同国に進出している西側企業の売り上げが減少する可能性がある。
また中国企業が過剰在庫の輸出攻勢を一段と強め、西側企業と競争を繰り広げ、貿易を巡る緊張がさらに悪化する恐れもある。
欧州連合(EU)は昨秋、中国が安価な電気自動車(EV)を市場に大量に流入させているとして、中国政府の補助金が果している役割について調査を開始した。太陽光発電など他産業の企業も同様の懸念を示している。
アブソリュート・ストラテジー・リサーチの新興市場担当エコノミスト、アダム・ウルフ氏は「中国の根強いデフレまたは極めて低いインフレによって貿易黒字が増加し、世界の他地域との間でより多くの貿易摩擦が生じる恐れがある」と述べた。
こうした状況を受けて物価の下落を反転させ、成長を取り戻す取り組みの強化は中国政府にとってさらに喫緊の課題になりつつある。より強力な刺激策がなければ中国経済は1990年代に日本が経験したような負債デフレのスパイラルに陥りかねない。日本では物価の下落を受けて企業が賃金を削減し、消費者が購入を先送りした結果、需要がさらに低迷してデフレが進むという悪循環が起きた。
モルガン・スタンレーの中国担当チーフエコノミスト、ロビン・シン氏は中国の「刺激策の規模とスピードが重要だ」と指摘。「デフレが長引けば長引くほど、大きな刺激策が必要になる」と述べた。
中国税関当局が12日に発表した直近の貿易データはこうしたリスクの一部を浮き彫りにした。12月の輸出は前年同月比2.3%増と若干弾みがついたが、輸入は低調で、国内の消費者はまだ支出に慎重なようだ。
貿易データによると、2023年の貿易は一年を通じて不調で、輸出は前年比4.6%減と7年ぶりに減少。米国向けの直接輸出は2019年以来初めて減少に転じた。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを実施し、中国製に代わる製品を他から調達する米購入者が増える中、需要の後退を反映した。
中国は西側から制裁を科されているロシアと関係を強化することで失った貿易を部分的に補った。昨年のロシアとの2国間貿易は過去最高の2400億ドル(約34兆8300億円)に達した。大量のガソリン車を含め、中国からロシアへの輸出は46.9%増加し、ロシアから中国への輸入も12.7%増えた。
しかしノムラのエコノミストは「中国企業はロシア市場で存在を確立しているが、こうしたハイペースは2024年末まで続きそうにない」と指摘した。
2023年の中国の貿易黒字は8230億ドルで、過去最高だった前年の8780億ドルからわずかに減少した。
世界の他地域の需要が安定する中、アナリストは今年は昨年ほど輸出が中国経済の足を引っ張ることはないとみているが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)下やそれ以前の中国の景気が活況を呈していた頃のように輸出が成長の柱になるとは考えていない。世界の成長は依然として弱含んでおり、地政学的な緊張から西側企業は引き続き中国のサプライヤーに代わる調達先を探している。
モルガン・スタンレーのシン氏は「中国が自国の経済問題を解決するのに輸出に頼ることができる時代は終わった」と指摘。政策当局は緊縮財政を放棄し、経済を消費主導にリバランスして、輸出以外に成長を後押しする方法を見つける必要があると述べた。
中国ではコロナ規制解除後の経済活動の回復が失速。首脳陣は何カ月も国内需要を再喚起しようと躍起になっているが、消費者は不動産市場の低迷と若年失業率の高さに警戒感を強め、支出を減らし貯蓄を増やしている。
それでも中国人民銀行(中央銀行)は昨年、中国のデフレは一時的との認識を示唆した。エコノミストがより強力な景気刺激策を繰り返し求めているが、政策当局者は消費者需要を押し上げる可能性のある現金給付など、家計の直接支援は行っていない。
中国国家統計局が12日に発表したデータによると、12月の消費者物価指数は前年同月比0.3%下落したが、下落幅は11月の0.5%から縮小した。変動が大きいエネルギーと食品を除いた12月のコアインフレ率は0.6%だった。
多くのエコノミストはデフレ圧力がそう簡単には反転しないとの認識を示している。
ソシエテ・ジェネラルのアジア担当チーフエコノミスト、ウェイ・ヤオ氏は中国の消費者物価の上昇率は年末までに1%まで回復する可能性が高いが、価格への下方圧力はすぐには緩和しないと予想した。
「われわれの見解では、国内需要の低迷による中国のデフレ圧力はかなり長く続く可能性がある」と同氏は話した。
2023年通年の消費者物価の上昇率は0.2%と中国当局が設定した3%前後の目標値を大幅に下回り、2022年末のコロナ規制解除後にインフレ率が急上昇するという1年前に一部が示した予想は実現しなかった。
12月の生産者物価指数は前年同月比2.7%下落し、2022年10月以来15カ月連続でマイナスとなった。11月は3%の下落だった。
中国国家統計局によると、石油価格の下落と一部の工業製品の低調な需要が生産者物価を圧迫した。
中国当局は利下げや民間の企業経営者向けの優遇税制措置など成長を回復させるための措置を講じている。10月にはインフラプロジェクトに資金を供給するため1370億ドルの国債を追加発行した。
こうした対策にもかかわらず、最近のデータを見る限り中国経済は7-9月期(第3四半期)に成長が改善したものの、その後は勢いを失っているようだ。複数の調査によると、工場やサービスセクターの活動は縮小している。また、新築住宅販売は引き続き低迷している。
世界の投資銀行は今年の中国の経済成長率を4~4.9%と予想している。これは世界基準で見ると相対的に高いが、以前の中国と比べると著しい減速だ。多くのエコノミストは中国政府が5%前後という目標を維持するとみており、今後さらなる刺激策が講じられる可能性がある。
シティのエコノミストは先月、顧客向けのメモで、デフレ懸念があることから中国が今年4-6月期(第2四半期)から政策金利を引き下げる可能性があると述べた。 「デフレ、信頼感、活動の間で起こり得る悪循環を避けるのに政策をちゅうちょする時間はない」とシティは述べた。
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