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Retro-gaming and so on

弟切草

ドラクエI〜Vまで開発を担当していた(エニックスの下請け、とも言う・笑)チュンソフトの単独デビュー作品。
そもそも、当時のソフトハウスで「スーファミのライセンシーになれる程会社が順調だった」ってのは珍しいんだ。非常に資金を回すのが上手かった、って言う事が出来るだろう。
「いや、ドラクエ売れたから当然でしょ」ってのは早計で、通常、こういうのは、どれだけ売れようと「契約時に払われる開発費用」以上のモノがチュンソフトに入る事は無いと思う。
基本的には、「下請け」ってのはゲームが売れようが売れまいが「取り分」ってのは最初から変わらず、言い換えると「ゲームが売れなくても」取りっぱぐれは無いが、「売れたと言っても」増額される事はないだろう・・・売れた分の何%が貰える、と言うような所謂歩合制的なシステムじゃない限り。
そんな中、「開発担当からスーファミのサードパーティになれる」程会社が発展した、ってのは極めて珍しいと思う。以前コンパイルの項でも書いたが、そもそも任天堂のサードパーティになるには多額の資金を必要としたんだ。コンパイルはサードパーティになれる程の資金を回せなかった。チュンソフトは回せた。ここには確実に経営に付いての差がある。
かつて、任天堂のサードパーティになるには多額の契約料、あるいはカセット発注料が必要、との事で、これは任天堂の横暴だ、と言われてた。でも結果、個人的には正しかった、と思うんだ。「資金が出せない会社」はすなわち「経営が怪しい会社」であり、任天堂が自社のハードウェアを守るには「豊富な資金力」と言うのをハードル、ないしは篩として設定するのは非常に合理的、なんだ。
皆あまり気づいてないみたいだけど、原則、「ゲーム開発中」ってのは金が一銭もその会社に入ってこない、って意味になる。しかしその「金が稼げない期間」でも会社は社員に給料を払い続けないとならない。
そうすると、その「金が入ってこない時期」に社員に給料を払い続ける為、には「会社が暫くの間社員に給与を払い続けられる」資金力が無いとダメだ。だから資金をキチンとプールして回せるような会社じゃないと任天堂は参加を認めなかった、って事になる。任天堂はサードパーティにクソゲーばっか作らせるつもりは全くなかったわけだ。
「どんな会社でも開発/参加可能な」環境は本当にダメだ、と思う。iPhoneのゲームを見てみろ。とにかくガチャだらけ、広告だらけ、だ。ゲーム製作では上にも書いた通り「日銭が入ってこない」。結果、「ガチャ」や「広告」でやっとこさ日銭を稼げる手段をゲーム製作会社は手に入れたが、そこにあるのは「プレイヤーに対するステージクリアへのペナルティとストレス」しかなく、結果プレイヤビリティがサイテーな、ダメでクソなゲームばっかになる。ハッキリ言うと、任天堂は、存在しなかった時期から自社のプラットフォームが「iPhoneのようなダメなゲーミングプラットフォームになる」事を一番畏れてた、と言えるだろう(※1)。
もちろん、こういう任天堂の方針はゲーム開発のノウハウがない「大企業」に有利に働いた。ゲームの経験がないのにポニーキャニオンとかビクター音楽産業とか、そう言う「クソゲーばっか作る」他業種の参入を招く。そしてサードパーティにアーケード屋が多かったのもそういう理由だ。結果、PC向けの弱小ソフトハウス虐めに見える。
でも考えてみてご覧?当時のPCゲームなんざ基本、同人ゲームレベルだ。それで良かったにせよ、どうして「売れて」も会社が発展せんかったんだろうか。会社の社長はせっかく儲けた金を、会社を育てるのに使わずキャバクラなんかで豪遊してたんじゃねーの?
「しっかり経営戦略を持ってた」ソフトハウスの方が、結果少なかった、って程度の話にしか過ぎない。
それだけ、の話だと思う(※2)。
コンパイルにはそれがなかったが、チュンソフトはそれが「あった」んだ。だから会社が大きくなって成功した。コンパイルは消えた。チュンソフトは創業してから40年を迎える。

さて、スーファミのサードパーティになれる程発展したチュンソフト。第一弾ソフトをどーするか、ってなった時、社長の天才プログラマーだった中村光一氏のアタマの中にあったのは、「手っ取り早く作れるソフト」だったらしい(笑)。開発に時間をかけなくて、かつ、皆の耳目を集めそうなソフト。
今だと「サウンドノベル」って単語、っつーか言い回しはある程度有名だけど、この「手っ取り早くソフトウェアをでっち上げたい」って思った時に思いついたのが、昔懐かしき、パソコン黎明期の「テキストアドベンチャーゲーム」だったらしい。

PCのテキストアドベンチャーゲーム、「ZORK」。

ここで間違っちゃならないのは、ファミコンで既にたくさんあった「グラフィカルアドベンチャーゲーム」ではなかった、と言う辺りだ。むしろ、どっちかと言うと絵を減らして、もっと古典的な「テキストアドベンチャーゲーム」を選択する、ってのがさすが「天才プログラマー」であり、黎明期のパソコンを良く知ってる「ゲーマー」、中村光一氏の慧眼だ。
まさしく「温故知新」を地で行ってる。
黎明期のパソコン用の「テキストアドベンチャーゲーム」を枠組みとしながら、選択肢によるストーリーの分岐、それにより、「何度も遊べるゲーム」を目指す・・・後の「トルネコの冒険」なんかの「不思議のダンジョン」シリーズもそうだけど、中村光一のアタマの中では、どうやら「何度も遊べる」と言うのが非常に重要なキーワードだと思える。
そして往年のテキストアドベンチャーのように、テキスト表現があくまで「主」。画像はテキストを補完する為に存在し、また、その当時から家庭用ゲーム機では当たり前になった「音楽」や「効果音」が効果的に用いられる。
これにより、グラフィカルアドベンチャーゲームにより「滅亡した」と思われたテキストアドベンチャーゲームがカタチを変えて「復活」したわけだ。これをチュンソフトは「サウンドノベル」と称したが、このシステムに衝撃を受けたのか、それから他社によるこのスタイルを真似たゲームやエロゲが一世を風靡した、と言うのは記憶に新しいだろう。
オリジネーターであり、こういう事が出来るチュンソフトの「底力」はマジでスゴイんだ。流行りを追わず、他のメーカーじゃ「気づかない」事をやってのける。そこに痺れる憧れる、っちゅーわけだ。

ところで、この「サウンドノベル」と言うジャンルのゲーム。最高傑作なのは「かまいたちの夜」(2や3ではない)だ、ってのは異論がない辺りじゃないか。
一方、サウンドノベル第一弾、「弟切草」は正直言うと、まだまだこなれてなく、個人的には「プロトタイプ」と言う印象が強い。
「かまいたちの夜」の場合、土台がミステリーな為、選択肢に「必然性」があり、ゲーム進行は確実に「プレイヤーのコントロール下」にあった。
一方、弟切草の場合、ホラーベースの為、選択肢に「必然性」がない。んで、恐らくだけど、乱数による分岐も存在するんじゃないか。そして選択肢に拠る「選択」によりストーリーが変わるんだけど、選択肢が出る以前と選択後の「ストーリー」に整合性がない、と言うのがしばしば出てくる。つまり、選択肢以前のストーリー展開にあった「伏線」が選択肢選択後には「全く意味を成さなくなる」と言うのが多かったんだ。
結果、初回プレイ時には「そこそこ楽しめる」のが、二回、三回、とプレイすると、「意味不明なストーリーのつながり」と言うアラが出てきて、素直に楽しめなくなるんだ。
それが僕が「プロトタイプだ」と言った理由だ。何度もプレイすると「ゲームとしてのアラが出てきて、整合性が無くなる」と言う辺りが大きな、しかも致命的な欠点、だと思っている。
弟切草は、まだまだ「何度も楽しめる」と言うような完成度ではない。










なお、弟切草の脚本は、プロの脚本家で、「人造人間キカイダー」やアニメ映画「ゴルゴ13」の脚本を書いた長坂秀佳が担当している。

※1: まぁ〜、とにかくiPhoneのゲームの広告はヒドい。
いつぞや書いたウザいRoyal Matchの広告は最近は落ち着いて見かけなくなったが、今度代わりに出てきたのがPayPay/Line Pay/楽天ポイントを利用したポイ活なるソフトの宣伝だ。「お金が欲しくないですか?」と広告がとにかく下品極まりない
そしてその日本語がとにかく怪しい。中国製だか韓国製だか知らんが、ヒドい日本語が流れる。アタマが痛い。「Tik Tok Liteで満足感ある動画を」の満足感ある動画ってどういう日本語ですか。
明らかに、AI翻訳で訳した文章をそのまま流してます、って体裁だが、AI翻訳って実際はクソの役にも立たない、ってのがよく分かる(笑)。
とにかく不快な広告だらけ、だ。そして不快な広告、ってのは一律金をかけてない
Appleはこのテの詐欺まがいの広告をキチンと審査しているのだろうか。してないんだろうな。
事実上、Appleは世界最大の規模を誇るスパム広告会社になっている。

※2: 継続的に家庭用ゲーム機に参加するのも大変らしい。上にも書いたが、クオリティ的には当時は「PCゲームは同人レベル」「家庭用ゲーム機用ゲームはプロの仕事」って言う程違いがあった。
従って、家庭用ゲーム機に参加する、と言うのはイコール、開発費用がPC用じゃ考えられない程かかる、って事だったんだ。
有名なトコで、「18禁ゲーム解禁」だったセガサターンに参加したエロゲメーカー「アボカドパワーズ」の話がある。PC-9801でのヒットゲーム「黒の断章」のセガ・サターン移植版は大成功、ヒット作となるが、そのヒットでは制作費が回収出来なかったらしい。PC版と違い、家庭用ゲーム機デビューとして気合の入った移植だったわけだが、それじゃ売れても儲けが出なかった、との事。
セガは続編移植を打診したがアボガドパワーズはそれを断り、結局家庭用ゲーム機市場から撤退する。セガも「出せ出せ」と言うだけで、全く資金的なサポートをしない、と言ういつもながらのダメさ加減を見せている。
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