7月最後の日曜日、きょうも晴れ。
日の出とともに一斉に始まったセミの合
唱で目を覚ましたパパは、網戸越しに夏
の空を見上げ、きょうも暑くなりそうだ
ね、とつぶやいた。
歯を磨いて顔を洗い、身支度を整えて家
を出た。
春に満開の花びらをたたえた桜の木は、
今は青々とした葉を茂らせている。
寒くもないのにパパは両手をポケットに
入れて歩いている。
桜の木の下を通り過ぎ、いつもの交差点
で横断歩道を渡ってお店に向かう。
お店に着くと、ひととおりお掃除を済ま
せ、これまでと同じように珈琲を淹れ、
テーブルに新聞を広げて読んでいる。
でも何だか無表情なんだな。
ところがね、
淹れたての珈琲を口に運んだとき、ちょ
っぴり、ほんのちょっぴりだけ、その顔
がほころんだ。
その珈琲は、いつもより甘く、滑らかで
透き通ってたんだな。
それは、きのうの朝焼いた珈琲。
そういえば、煙突から白い煙が出てるの
見えたもんね。
焙煎するときに記録した温度や時間のデ
ータでは、イマイチの結果だったから、
焙煎はなかなかうまくいかないと落ち込
んでたんだけどね。
何かがきっかけで美味しいやつに仕上が
ったんだろう。
新聞を読み終えたパパは、焙煎のデータ
表を取り出してきてしげしげと眺め、
ある数値の傾向を見つけてうなずいてい
る。
ははぁん、きっとこれがうまくいったポ
イントだ、って感じでね。
パパは、そうやって
少しずつ、少しずつ前に進んでいくだろ
う。
橋のたもとの小さな喫茶店の上では、き
ょうも入道雲が笑っている。
美味しい珈琲に仕上がった理由?
誰にも言っちゃダメだよ。
実はね、入道雲がお鼻をピクピクさせた
のさ。
そう、サマンサのようにちょいと魔法を
かけたのね。
パパ、元気を出せ〜!って・・・
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