原題 Im Labyrinth des Schweigens
塩尻の東座で見ました。
映画見るために塩尻までなんて、ホント、「ずくがある」と思いますが、この映画、どうしても見たかったです。というのも、あの時代のドイツはヒトラーのホロコーストの問題をどう捉えていたのかに興味があったからです。
この映画の舞台となったのは、第二次世界大戦終戦後13年が経過した1958年の事です。この時代、ドイツ人の多くが、今では当然のごとく知られているナチスのユダヤ人への虐殺行為を全く知らなかったという事実に非常に驚かされました。また、当のユダヤ人自身も報復などを恐れて、戦争時代の事を全く語らなかったと言う事です。
そういう時代にあって、当時の若き検事らがある告発によって、戦争時代のナチスの行為の全貌を暴こうとした事からこの映画のストーリーは始まります。
容疑者8000人という人数が浮かび上がりますが、当時のドイツ国民はみんな多かれ少なかれ、ナチスの影響をうけていた訳ですから、この捜査というのも、大変だったようです。また、主人公の父親もナチス下で活動していたという事実を知るにつれ、主人公の心の中の葛藤も大きくなって行きます。ですが、アウシュビッツを訪れ、やはり「正義の追求」を決意し、これらの捜査に没頭するようになって行きます。
このように、ドイツとナチスというのは切っても切れない間柄なので、そういう環境でナチスの罪を裁くという事は、ドイツ人全体のアイデンティティを揺るがすような事ではなかったのでしょうか。
今でも同様の裁判が継続的に行われていて、先日も90何歳かの人が裁判にかけられているようなニュースもありましたが、これも大変な驚きです。
全編ドイツ語でしたが、「The Last Cop」で慣れていたせいか、特に気にもなりませんでした。
ストーリー展開も無駄な所もなく、123分という時間の長さが感じられませんでした。非常にまじめな内容の映画ですが、引き込まれるものがあります。
この映画の中で特に気に入っている場面が、検事らがユダヤ人の生存者から証言を聞く場面です。
主人公の検事が自ら一人一人証言を聞くのですが、その時秘書のエリカ(ハンシ・シュミット)が記録係として同席しています。が、当初、エリカはどのような証言なのかは全く知らされなかった訳です。が、ユダヤ人の証言はおそらく悲惨極まりない内容だったのでしょう。映画の中では、この証言自体、音楽のみで、実際何を語っているのかわからないようになっています。
でも、その証言を聞き終えたエリカは思わず、窓辺で慟哭しむせび泣くのです。彼女のこの演技で、悲惨な証言を聞いたの¥だろういうががと想像出来ます。
また、このような描写をする事によって、アウシュビッツでの想像を絶するような行為のみに焦点を当てず、検事達の戦いの方により強く焦点を当てたいという制作側の意図があったのかと思われました。
今回主役を演じた、ドイツの俳優、アレクサンダー・フェーリングさん。「イングロアス・バスターズ」にも出演していたとか。ドイツでは新進気鋭の人気スターのようです。また、主人公の恋人役を演じたフリーデリーケ・ベヒトさんも、素敵でした。「ハンナ・アーレント」でも主役を務めたという事で、この映画も見てみたいと思っています。
日本ではハリウッド映画ばかりが多く上映されていますが、ヨーロッパにも演技達者な俳優さんも多く、また品質の良い映画も沢山あると思うので、ヨーロッパ映画もいろいろ見てみたいという希望もあります。
じっくり見たい人向け。また、ドイツ史に興味がある方向けと思います。
という事で評価は
🍎🍎🍎
ですね。
「顔のないヒトラーたち」予告