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シンガポール&美浜 発信 文左衛門の部屋

写真集★シンガポール&美浜の海・景色・街・食
私小説★男女・愛・起業・歴史・外国・人生
コラム★心の梅雨を飛ばす気

人生海図 第2章 (14) (No.25)

2015年01月10日 10時36分07秒 | 小説
第2章(14)(No.25)

「ママさん、おおきに。首が薄皮一枚でつながったわ。みんなのおかげや。」

「何言うてるんや。水臭いこと言わんとき。あんたがこつこつ積み上げた信頼が一気に集まりサポートしただけや。うちこそあんたに感謝や。
ええオトコ見せてみせてもろたわ。そや、あの若いもんとこ行って、みんなで京美人と乾杯しておいで。あのオトコ労ったらな、浦瀬はんのオトコがすたるで。
はよ行き。由布子ちゃんとこ電話しといたるから。」

浦瀬と岡崎が『oui』に着くと、顔をくしゃくしゃにした山下とおなじくらいにくしゃくしゃにした由布子がシャンパーニュと共に待っていた。

「浦瀬はん、堪忍どっせ。うち知らんこととは言え。山下はんからみんな聞きました。うち、どないしたらええんか分からんようになってたら、
山下はんが、浦瀬はんは諦めへんと言うてはったんを信じましょ、言うて二人でお祈りしてましてん。ほんなら、GINKOのママさん電話くれはって、
薄皮一枚つながった、言うて、ほんで、浦瀬はんともうお一方向かわれるから、シャンパーニュ用意しといたらええやといわれましたんどす。
うち、山下はんと思わず万歳してしもた。お店のお客はん笑ろてはったけど、かまへんのどす。山下はん、お若いのにええお人どすな?おなごはこんな人好きにならなあきまへんな。」

「由布子はん、おれにもしゃべらしてーな。まず、山下、岡崎、おおきにや。今宵のことは忘れへん。二人になんかあったら、飛んでいくさかい、
今後ともよろしゅうや。由布子はん、今夜のことはいつか起きることやってん。しやから、あんたはなんにも責任感じたらあかんで。これはきっちり、頼んます。そやそや、由布子はんが持たせてくれたシャンパーニュが決め手になったんや。あれなしにはどないもしようがなく、今頃返り討ちや。あれなんちゅうの?」

「はい、ここにご用意させてもろてますえ。クルグ85年ものビンテージ。乾杯どすな?こちらのお方は?」

「はい、岡崎といいます。浦瀬の同僚で、いつもこいつの尻拭いしてます。それでもいいやつなんで、こんなやつを飛ばす会社の気持ちが分かりません。
京人形だとママさんに言われてましたが、本当ですね。すみません。見とれていてご挨拶遅れてしまいましたが、それじゃ、みんなで、浦瀬奪還を祝して、乾杯。」

みんな一気で飲んでしまった。

勝利の美酒ではなかったが、苦くもなく、信頼の糸がつながった喜びの味だった。

初めてのシャンパーニュに酔ってきた山下が、美人と話すことができただけでも役得だったといい始めた頃、淳之介は東京の騒ぎを知らずに、シンガポールチャンギ国際空港に着いた。

第2章完

2015年1月10日

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人生海図 第2章(13) (No.24)

2015年01月04日 08時50分09秒 | 小説
第2章(13)

山下が出かけるのにあわせたように、エレべーターから賑やかな空気と華が舞い込んできた。

直美の取り直しは成功しているようだった。

「ようこそ、GINKOへ。お久しぶりどすな?偉うなりはったし、カラオケ屋には足が遠のきますな?ま、ええです。今夜は暇やけど、隠しVIPへ行きまひょ。
たまに使わんと、カビ生えるしな。」

ママの声で、少しよいがさめてきた取締役は直美を振り返り、

「なんだ、面白いところとは、GINKOか。ここならよく来ている。折角の夜にくることはないじゃないか?直美?」

ママの前では大きなことが言えないのを知っているので、それを隠すための牽制を入れた。

「ああ、あんな、先に言うとかなあかん。今日ばったりと六本木の駅で浦瀬はんに会うたんや。ほんで、うちに無理やり来てもろたんや。なんやあんたらの飲み会がある
言うとったけど、あんたも知っとるうちのお父ちゃんの会社のアジア統括の高木はん、お一人でシンガポールから来て立ち寄ってくれはる予約がはいとったんや。
浦瀬はんやったら同じ大阪出身やし、シンガポール在住やろ、今の時期、うちみたいなとこでも忙しいから、うちが無理やり話し相手にと引っ張ってきたんや。
高木はんは、お忍びやから、言わんといてくれ言いはったけど、なんや、ややこしそうやから、諒解とって話しとるんです。浦瀬はんは、向こうでわざわざあんたの
好きなもんお土産に買って来はったんや。そやから、まず聞いたってな。いきなり怒ったらあかん。悪いのは、うちや。」

「そんなことまでしなくても、電話で済むことなのに、あいつは何を勘違いしているんだ。岡崎君。」

ママの言葉に逆らえない自分がいることを知っているので、矛先を岡崎に向けた。

「いえ、浦瀬はいつも離れているので、われわれと社内連絡の距離感が違うのだと思います。私の方でもっと密に連絡をと思うのですが、ワンマンオフィスですから、
タイミングがなかなか合わず、携帯も圏外がおおくて。東京の我々から見ると、どんな状況なのか判断できないことも多く、今日のようなずれた結果が起きてしまいました。
申し訳ありません。」

「折角来てくれはったんやし、浦瀬はんはうちが頼んで、VIPでお土産と共に待ってもらってます。どうぞ、こちらへ、直美ちゃんご案内して。」

「はい、よーさん、こちらです。私たち、このVIP初めてなの。楽しみだわ。」

直美が先頭に立って、VIPのドアを開けると、浦瀬が入り口に立っていた。

「浦瀬君、ちゃんと知らせてくれればいいんだよ。君の働きはよく部長から聞いているよ。ご苦労さん。」

「は、遅くにすんません。取締役のお気に入りと伺っていましたので、知り合いを通じて手に入れました。クルグ『Krug 85年ものビンテージ』です。」

「何、クルグの85年ものビンテージ。俺はこれなしでは生きていけないくらい好きなんだ。ありがとう。君も飲みたまえ。直美ちゃん、ママさんにお願いしてね。
シャンパーニュは、開けるとき少し注意が必要だから。君が怪我でもしたら、僕は大変困るから。」

「ところで、先ほどの話は浦瀬君にした方がいいのでしょうか?あまり時間もありませんし。」

「部長、無粋だな。まずは、クルグで乾杯していい気分になってから、浦瀬君と相談していけばいいじゃないか?」

黒服が来て、クルグをそれぞれのグラスに注いだ。

「ママさん、音頭を願いします。」

「はい、今年もありがとうございました。来年もよろしくお願いします。海外で一人、頑張っている浦瀬はんにも祝福を。乾杯!」

ママの牽制で少し気分はそがれた格好だが、好きなクルグ85年ものビンテージを飲み、好きな女、直美を前にして、取締役は芳醇の気持ちになっていた。

「ヨーさん、さっき言ってた浦瀬さんのお話ね、あれはなかったことにできないの?私たちにお花まで下さって、いつもヨーさんが飲みすぎたりしたときは、
しっかり送ってくれたり、私たちには、シンガポールから私の好きな蘭をお誕生日やクリスマスに送ってくださっているの。言わないでと言われてるけど、
そんな浦瀬さんがどっかに行かれると、私、もう蘭を手に入れられなくなる。直送のは、なんか違うのよ。だから、なんとかして。よーさんのお仕事に口出ししないと
決めてるけど、浦瀬さんは別。いまどきこんな昔タイプの人いないし、あの、若い人、山下さんなんかは、目標にしていると聞いたわ。何とか、考え直してもらえないかしら?」

「直美にそこまでしてくれているとは知らなかった。ありがとう。しかし、君の処遇については、役員会の決定があるので、取り消しにはできない。役員会で、
経費を減らすために、地元のエージェントを使う案が可決されてしまったんだよ。現場を知らない連中が決めたんだ。単純に経費の数字だけを見て。現場で苦労している君
から見ると、なんと無謀なことだと思うだろうが、決まった以上変えられない。が、しかし、方法はないこともない。これだけ色々な人たちからサポートされている君を
原案とおりに処遇したら、私は銀座も六本木もいけなくなってしまう。そこでだ、6ヶ月間で、地元エージェントと顧客獲得競争をするのはどうか?それで君が勝てば、
君をシンガポール支店長にして、君が望むなら、無期限駐在も可能にできるが?私としてできることは、ここが限界だ。それでいいならここで、文書にして、ママの立会い
サインをもらう。どうかね?」

「浦瀬君、これは破格のオファーだぞ、あり得ないことだが、これだけの人たちがサポートしている君に対するわが社の最大の感謝の印だ。」

「取締役、部長、分かりました。そのオファーお受けします。今月残りで色々準備して、旧正月明けから6ヶ月でいいでしょうか?」

「取締役、本来は来月早々ですが、習慣は変えられません。旧正月明けから6ヶ月ということで、地元エージェントにも正式な契約をする方向で役員会を取りまとめて
いただけませんか?」

「浦瀬君、私もシンガポールにいたことがあるから、君の事情は分かるし、地元エージェントも同じことを言うだろう。よしそれで決まりだ。ママに言って、
紙とペンを持ってきてくれたまえ。ここで約束しよう。これでいいね、直美ちゃん。これ以上は無理。浦瀬君にチャンスを与えるのが精一杯。」

「ごめんなさいね。お仕事に口出しして。浦瀬さんがよければ、私はいいです。ありがとう。よーさん。今夜のことは忘れない。」

「浦瀬、よかったな。だが現実は厳しいぞ。お前があれだけやっても取れなかったんだぞ。新規顧客。」

「岡崎、分かっているが、選択肢はない。色々感謝している。」

ママとの立会人の署名が終わると、浦瀬がコンビニでコピーをとり、ママも一部もらった。

「あんたもたまにはいいことできるんや。やっぱり、クルグと直美ちゃんやな。これからどうする?もう用件は終わりやから、そのボトル持って、どっかで飲みなおしたら?」

「そうだね。そうするか?直美ちゃんどこに行こうかな?」

「はい、私にお任せください。」

「じゃ、我々はこれで、君らも好きにしていいよ。いい娘たちばかりだから。」

取締役が帰ると、部長は同伴の女性を連れて出かけた。

岡崎についていた女性にタクシー代を渡して返した。

2015年1月4日
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人生海図 第2章(11) (No.22)

2015年01月02日 08時31分05秒 | 小説
第2章(11)

由布子は浦瀬の身に重大な異変が起きたことを悟った。

恐らく今夜の飲み会のドタキャンが招いたのだろう。

自分が私のことを話したいと思うことが先で、浦瀬の微妙な立場を慮る余裕がなかったことを改めて、思い知らされた。

恐らく、明日浦瀬は来られないだろう。

渡とこんな形で再会するとは夢にも思わなかった。

今まで自分がしてきたことの清算を迫られているように思えた。

こんなときこそ、私に傍にいて欲しいと思った。 

今夜は、麻子のところに潜り込むしか考えられなかった。

銀座に向かっているタクシーの中で、緊急メールの666を受け取り、すぐに山下から緊急番号に着信があった。

「先輩、いまどこですか?悪いですが六本木に戻ってください。Zの直美さんが、Zでは取締役がカッコつけたがるから、
自分のお姉さんだった人がやっている六本木のお店のVIPを押さえてくれたのです。そこへ行くまでに、何とか取り直しするので、
浦瀬さんは、先にお店に行って待っていてくださいとのことです。それからこれは凄く大事です。シャンパーニュの『Krugビンテージ』
必ず用意してくださいと。取締役の大好物です。お店ではびっくりするほど高いので、外で買って持ち込んでください。お店の了解は取っています。
先輩こちらは、取締役、部長のところに岡崎さんが何とか潜り込もうとしています。わたしは、GINKOで待機しています。え、ちょっと待ってください。
場所変更です。GINKO直行です。あそこのママさんは、取締役がまだ部長なりたての頃かわいがってもらったうちの大口取引先の会長の娘さんだそうです。
取締役は平の頃からママさんにお世話になっているとのことです。私は、アマンドで待機しています。先輩から、GINKOに連絡してくれますか?取締役たちは、
直美さんたちがうまく気を取り直しながら行くことになります。『Krug ビンテージ』は、忘れないでください。もう行きます。俺も先にGINKOに行って、
直美さんたちが向かうのを聞いたら、アマンドへ移動します。先輩がんばってください。諦めないでください。まだチャンスはあります。頼みます。」

「おおきに。ありがと。わかった。そうする。おおきに、山下。」

電話を切ると、運転手に六本木のイモ洗い坂へ行くように言った。

折から、暇な時なので、そして、何か切迫感を感じた運転手は、快く六本木に向かいながら、

「すみません、つい聞こえてしまいました。私はリストラ組でした。営業をやっていました。成績だけがすべてで、みんなで表も裏も足の引っ張り合いをしていました。
しかし、結果的に、全員時期は違っても整理されてしまいました。今お電話を掛けられてこられた方、大事にされるといいです。今日は、いいお話に接することができて、
久しぶりに人心地です。ありがとうございます。最後まで諦めないでください。しかし、こんな話をする運転手は失格ですわ。はい、もうすぐです。」

「ありがと。外国に住んでるんやけど、日本もまんざらやないな、あんなええ奴がおる。そのためにも頑張らあかん。諦めへんで。おおきに、運転手はん。失格やのうて、
人心地の運転手はんや。」

この「諦めへんで」の一言が、浦瀬をこれから向かう状況に力を発揮できるようにシフトさせたのかもしれない。
 
2015年1月2日
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人生海図 第2章(10) (No.21)

2014年12月29日 09時07分53秒 | 小説
第2章(10)

由布子はそこまで言うのがやっとだった。

いぶかしげながらも、サービスと言う言葉が関西人の浦瀬をくすぐり、由布子の顔色の変わったことはとっくに忘れ去られていた。

渡一樹、由布子にとって忘れたくても、忘れられない名前だった。

学究と外食業。めったに外食しない渡が、六本木に来ることなどありえないと思っていた由布子にとって、大きな衝撃だった。

由布子が、ワイン研究と称して、フランスに行く時に、振り切った元フィアンセが渡一樹だった。

由布子は何に不自由ない渡との結婚が現実化してくるにしたがって、自分の中にあるもう一人の自分が、これでいいのかとしきりに問いかける声を抑えることができず、
麻子に相談したところ、麻子の英国学究時代のルームメイトがフランスの自宅のワイナリーに戻っていたので、そこでワイン研究をするからという理由を作り上げ、
逃げるようにして、フランスに行った。

由布子としては今から考えられないほどの箱入り娘だったので、気持ちに引きずられていく自分を抑えることもできず、まして渡の気持ちなど考える余地もなかった。

フランスでまだ心が混乱しているうちに、婚約破棄の手紙を両親に黙って送り、一時、勘当状態になっていた。

麻子の尽力で、渡はなんら行動を起こさず、そのまま由布子を待っているのか分からないけれど、独身状態だと麻子から聞いていた。

今の由布子であれば、もっと違った手を打てたけれど、自分自身が正気ではなかったときに下した判断の重さと相手を傷つけたという自責の念が今もあった。

だからこそ、私には真剣に立ち向かい、私にも心が荒れているときに、重要な判断をさせたくなかった。

その私のためにと思ってとった行動が、渡との再会と浦瀬との思わしくないことへとつながっていくことなど、由布子に予想できなかった。

由布子が裏で、休んでいる時、浦瀬の携帯電話の緊急番号がなった。

船舶の事故などに関係する緊急連絡用の番号でめったになることはないので、間違いかと思って表示を見た。

山下とある。浦瀬の子飼いの若い社員で、浦瀬にあこがれていた。

「なんや。どないしたんや。この番号にかけてくるようなことが起きたんか?」

「あ、先輩すみません。仕事じゃなくて、先輩の緊急事態です。今どこにおられますか?」

「何、俺の緊急事態やと?お前酔うてんのか?俺は六本木や。今、用がすんで、一人でええもん飲んどる。」

「そしたら、すぐに銀座のいつもの店に来てください。えらいことが起き始めています。大変だと思って部長のタバコ買いに行くのにかこつけて電話しています。
部長がご立腹どころか、取締役まで急に来られて、なんか、浦瀬さんを交代どころか、子会社転出の片道切符で、今月末にも呼び戻すような事態です。
先輩の同僚の岡崎さんが事前にキャッチして、今夜、部長をたらしこもうと思って、仕掛けた飲み会なのです。事前に言うと先輩がまた暴れたりしたら、
めちゃくちゃになると言う岡崎さんの判断でかん口令が出ていたのです。今なら何とか、ましなように回復できる可能性もありそうです。
タバコ買いに出るとき岡崎さんが先輩に緊急電話しろとサインがありました。もうすこし繋ぎますから、もし移動するとしたら、クラブZです。取締役の彼女がいます。
内緒ですけど、その彼女と岡崎さんの奥さんがスポーツジムの友達で、奥さんからもその彼女直美さんに電話して、先輩のこと取り直す方向に飲み会を誘導して
もらうように手配しています。みんな、ガラッパチの先輩が大好きなのです。一生懸命やっています。とりあえず、いつもの店に向かってください。動き出せばすぐに、
緊急のほうのメールを出します。Zにむかうときは、333です。事態急変は、666です。お願いします。」
 
浦瀬は山下の電話が終わっても呆然としていたところに、気持ちを取り直した由布子が戻ってきた。

「浦瀬はん。どないしはりました?ご気分がお悪いようやったら、裏で休まはりますか?それとも、お車呼びまひょか?」

しばらくして、真っ青な顔の浦瀬が、

「あ、由布子はん。お顔な、ようなったで。悪いけど、車呼んでくれるか?もしものことやけど、あした、俺が行かれへんことになっても、
『小野』に行って渡センセの相手してくれへんか?詳しいことはまたや。あんたみたいなええ女がいてくれて、宝田は幸せやな。」

浦瀬が話している間に、手招きで手配させたタクシーが到着した。

由布子は、とっさに、予約客用の冷えた『Krug』を渡した。

「ありがと。由布子はんは何でもお見通しやな。今日ここで飲んだことがどんなことになろうとも、あんたのせいやないで。俺は自分で来たのが先や。
あんたの招待はその後や。ええな。忘れんといてや。頼んますわ。渡センセ、とりわけ、宝田。機会があれば、シンガポールで3人で飲んだくれまっせ。
ほな、おおきに、さいならや。」

2014年12月29日 
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人生海図 (9)  (No.20)

2014年12月22日 07時59分41秒 | 小説
第2章 (9)

しばらくして、由布子スペシャルを自ら運んできて、

「浦瀬はん。もうすぐ予約の方お見えになるので、少しだけお話聞いてくれはる?あんまりおもしろいことないけど、大事どす。」

「うん、それや。今日、聞きたかったかったんわ。宝田、帰ったんやろ?なんでや?」

「お仕事絡んでるみたいで、うち詳しいこと分かりまへん。けど、急なお電話の後、真っ青なお顔どした。そやから、うち、帰まひょというてしもうたんです。
飛行機とか手配しやはったから、うち、お姉ちゃんに車借りて、成田空港までお送りしたんどす。そのとき、厳一はんが、見てはったんどす。うち、知らんかったけど、
よっぽどうちも慌ててたようで、今日の開店は、厳一はんが黙って来てくれて、やってくれはったんどす。うち、ほんまに、ぼけぼけどす。すんまへん。
こんな話ししかでけんと。折角来てくれはったのに。」

「ほうか。ほんなら、明日の研究者との顔合わせでけへんな。残念やな。」

浦瀬がシャンパーニュ・グラスを一気で飲み干したのを待って、

「浦瀬はん、宝田はんの代わりにうちやったらあきまへんか?浦瀬はんやから言いますけど、うち、週末シンガポールに行きますねん。荷物届けなんて言うてますけど、
会いますねん。そのとき、うちがそのセンセに会うとったら、宝田はんのお役に立てるん違いますやろか?」

「そら、手ぶらより、由布子はんみたいな才色兼備の女性がいてくれはると、男ばっかりのとこらが華やかになりまっさかい、こっちからお願いですわ。そやけど、
小野マスターの奥さんということやのに、そんなシンガポールまで行ったりしてええんでっか?」

「はい。そのことはもう少ししたら、お話さしてもらいますさかい、今は聞かんとって。堪忍どす。ところで、そのセンセのお名前は?」

「学校の名前は伏せて欲しいと言われとるけど、名前は、渡 一樹センセ。」

渡と聞いて、由布子は一瞬耳を疑った。

「あの、すんまへん、今自動車の音が騒そうて、よう聞こえまへんかったんどす。あの、渡し船の渡はんで、下のお名前は、平和の和の和はんどすか?」

「いや、苗字は、渡やけど、名前は、和数字の一に、樹木の樹で。もうすぐ40くらいや思うけど。急にどないしたん。顔真っ青やで。もうすぐお客はんくるんやろ、
まずいでそんな顔。今日は急なことで疲れたんとちゃう?俺一人で飲んで帰るから、予約のお客はん来るまで、裏で休んどったらええんちゃうか?今日は、おおきに。
宝田の事は内緒にしとく。個人事業主やから、何やケチつけに来る奴がおるかも分からんよって。もちろん由布子はんが向こう行かはるのはもっと極秘や。とにかく明日、
待ってますわ。ちょっと顔合わせしたら、ええようにしておくわ。宝田のために、書いたもんを用意してもらうようにしておくさかい。安心してや。」

「おーきに。浦瀬はん、優しいお方どすな。男はんにもおなごにも。ほんなら、お言葉に甘えさしてもらって、裏で一呼吸さしてもらいます。堪忍どす。
何もおもてなしでけへんさかい、今日の御代は、由布子の愚痴聞いていただいたお礼にサービスいうことにさしてもらいたいんどす。今度は、しっかりいただきますよってに。
すんまへん。」

2014年12月22日
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