**馬耳東風**

エッセイ・世相・世論・オカルト
  アメリカ・中国問題・
    過去・現在・未来

ニューヨーク譚(ものがたり)星条旗の由来

2016-03-29 | 世事諸々
ビックアップルとはニューヨークの愛称で、土地っ子が使うしゃれた呼び名です。この街はいつも活気に満ちていて、五番街からブロードウエイに至る街路はファションの街としても有名です。その先のブロードウエイは世界一の演劇の町で、華々しいミュージカル劇場などが軒を連ねています。古くからのニューヨークの住人や、この町で働く人々は愛情をこめてビッグアップルとこの呼び名を口にします、由来を訊くと、アップルとは大都市の隠語だという人もいます。映画のゴッドファーザーにも、ニューヨークの路地裏で車を止めてリンゴを買うシーンがありました。リンゴは街の象徴なのでしょうか。

本当の由来は別にあるそうです。少し前の ニューヨーク市観光局の冊子にも紹介されていた話だそうです。アメリカが移民で膨張していた1800年代、フランスからの移民の中にイブリンと言う名の美しい娘がいました。その美貌は当地の成功者の子弟達の間でも評判になり、その中の一人にハミルトンという男がいて、ひときわ熱心にイブリンに言い寄り交際を始めました。しかし、結婚には至らずもてあそばれて破綻に終わります。

イブリンは無言で耐えて、やがて事業をはじめます。裏稼業です。成功者の子弟だけを相手にする高級売春宿で、それは大繁盛したということです。イブリンはイブと呼ばれ、客は総てアダム、売春婦はアップルと呼ばれました。聖書の中でアダムとイブが神に食べてはいけないと諭された禁断の背徳のリンゴです。神の掟を破り・・・イブがその後どうなったか紹介されていません。どのような経緯があったにせよ、ビッグアップルという呼び名が残ったということです。

このビッグアップルのニューヨークは1674年までオランダ領でニューアムステルダムと呼ばれていました。オランダ人はマンハッタン島を ニューネザーランドと呼び、1626年、新任のオランダ総督がこの島を先住民のレナベ族から総額24ドルで買取っていたということです。有名な話だそうです。ドルの他にもガラス玉の装飾品など贈ったところレナベ族長は喜び、その後、内陸部から毛皮など運んできて交易を始めていたのですが、

あるとき新移民の集団が、交易品を携えてやってくるレナベ族を襲撃し、毛皮などを強奪、一族を皆殺しにしたのです。その上、証拠隠滅のため女子供まで一族全員を切り刻んで海に捨てたといいます、しかし、一族の少年が一人だけ逃げ帰って報告したので族長の知る所となりました。レナベ族の復讐が始まりマンハッタン島のいたるところで、孤立して暮らしている農家や牧畜業者が襲われ、皆殺しにあいました。

女子供の頭髪を剥ぎ取って見せしめにする(インディアンの残虐行為)はこのとき始まったといいます。その後、襲撃は中心部にまで及び、オランダ軍は対応策として防御壁(ウオール)を張り巡らせます。その名残が現在のニューヨーク金融街の呼び名になっているウォール街です。

そのご、北米植民地戦争などもあり、オランダ人にはその地が益々住み難い土地となり、南米各地での敗戦を機にマンハッタン島をそっくりイギリスに引き渡してしまいます。イギリス人は早速、呼び名をニューヨークと変えました。母国のヨーク州から新ヨーク州、ニューヨークとしたのです。

100年後、アメリカ合衆国はイギリスから独立して新しい国家を樹立することになります。合衆国というのは自治制の州が寄り集まった国(連邦)で、このときニューヨーク州を含めて13州でした。現在は50州になっています。

現在のアメリカ合衆国の国旗は、英語で スターズ アンド ストライプス つまり星条旗です。左上の星の集団は50個で現在の州の数、横線(ストライプス)は13本で建国当時の13州を表しています。意味深いのです。アメリカは建国以来の移民の国なので、国民として忠誠を誓う対象は国旗であり、のちに国歌も追加されます。すべての新移民は入国を認められると聖書に手を置いて国旗と国歌に忠誠を誓い、国民になるのです。

それは大統領就任式でも同じで、新大統領は聖書に右手を置いて国家への忠誠を誓います、そのためかどうか、ユダヤ人はアメリカ大統領にはなれない、と言われているのです。ユダヤ教の聖典タルムートが使われることはないからです。

異彩ルネッサンス、天才がぞろぞろ、文明の飛躍

2016-03-26 | 世事諸々
ネサンス待望 (Renaissance)

現代物理学の始祖、ガリレオ・ガリレイがイタリアのピサで生まれたのは1564年、同じ年の4月26日、ウイリアム・シエークスピアがイギリスのストラッドフォードで産声を上げています。文学・演劇史上二人といない俊才で現代劇の礎となる劇作を数多く残しています。

しかし、ガリレオもシエークスピアも、同年生まれで同時代育ちではあっても、生まれも育ちも活躍分野も違ったので、中世の世の中、生存中に面識があったとは思えません。それどころか、おそらく互いにその存在すら知らなかったと思えるのです。二人がどこかで交叉したという記録も形跡もないからです。

シエークスピアが死亡したのは1616年4月23日で、奇遇なことに同年同日、古典文学の名著ドンキホーテの作者、セルバンテスもスペインの片田舎で歿しています。そして同年6月1日、日本で何があったかというと、徳川家康が夕食にてんぷらを食し、食中毒で大往生を遂げています。

何が言いたいかというと、人類の歴史のうねりのどこかで、優れた人材が世界各地に同時多発的に出現し、芸術科学文化全般で、百年に一度、千年に一度の飛躍をもたらす時代があるようだということです。天才達は特に意識することも誇ることもなく十数有余年の生涯を終え、引き潮のように一斉に足跡だけを残して去っていくのです。

そのあとは、凡夫の時代で、同じ種子を繰返し撒く農地のような、文明も文化も連作障害を起し停滞した時代となるようです。

Renaissanceはフランス語で Re=再 naissance=誕生 なので再生と理解されています。ルネッサンスは周知の通り、16―17世紀のヨーロッパで起こった文芸復興と呼ばれているものです。この時期に上に挙げた人達が同時期に生まれ同時代に歿しているのです。ミケランジェロ、レオナルド・ダビンチ、レンブラント、フランシス・ベーコン、ルーベンス、フアン・ダイク、エル・グレコ・・・書き並べることも出来ない程の異才、天才が生まれ、歿しているのです。

再生とは何からの再生か、諸説ありますが、最も考えられるのは紀元前5-3世紀の、人類史上初の、あるいは現代文明で最初の、飛躍の時代ではなかったかと考えられるのです。

釈迦=BC463-383, 孔子=BC551-479、ピタゴラス=BC582-496、ソクラテス=BC469-399、プラトン=427-347年、アリストテレス=BC384-322・・・ と誰でも知っている名前が重なるように同時代を生きています。人類黎明期の文明を築いた始祖達の名前が続くのです。

誰が名付けたかルネッサンスとは時代の要望でもあったのでしょうか。16―17世紀の際立った進歩・発展の時代で説明の必要もないほど誰でも知っていることです。

我々の時代は歴史のうねりのどの位置にいるのか、自明のことだと言う人もいますが、20世紀は、振り返れば第二のルネッサンスだったと述べている人もいるのです。

1903年にライト兄弟がアメリカ・ノースカロライナ州の片田舎で初めて動力飛行機で数百メートルを飛び、そのわずか66年後の1969年にはアポロ11号が月に着陸、ニール・アームストロングとエドウイン・オルドリンが月に降り立ち、人類最初の足跡を月面に残しています。光陰矢のスピードの科学技術の進歩だったのです。

この世紀はまたロケット工学のみならず、文明・科学・芸術・文化の飛躍があり、やはり Renaissance であったかともおもわれるのです。


来年は、米中の親密化・日米の希薄化?

2016-03-22 | 世事諸々

アメリカの大統領選挙の勝敗予測が(日本政府にも)ようやく届いたのか、今まで歯牙にもかけていなかったドナルド・トランプ候補の確かな浮上に留意し、今後チームを作ってトランプ対策にも取り組むとニュースの片隅に報じられていました。

元ニューヨーク市長でトランプ以上といわれる富豪のマイケル・ブルームバーグが(トランプ大統領)だけは阻止したいと、自ら二大政党外で立候補すると宣言していたのですが、先般、それを取り消したので、11月の本選挙でヒラリー・クリントンとドナルド・トランプ、の争いになるのはほぼ確実となりそうです。

ブルームバーグは12年間のニューヨーク市長時代に穏健な人格と穏当な政策、同性婚も認めた非差別主義者で広汎な人気と支持をえていて、人格見識ともに現在のどの候補より優れているともいわれ、大統領選に出馬すれば・・と長らく望まれながら今回も空振りに終わったのです。

ユダヤ系でユダヤ教徒というのが重いブレーキで、ユダヤ人はアメリカ大統領にはなれない、というジンクスをブルームバーグでも破れなかったようです。

ヒラリー・クリントンの親中国の度合いは深く、現在の選挙資金の大口の幾つかが在米帰化中国人富豪からのもの(違法ではない)といわれています。オバマ大統領が就任直後、国務長官だったヒラリーが(夫のビル・クリントン大統領当時からの)アジア政策での中国重視を助言していて、そのため日本・韓国軽視外交になったものと(日本政府は)理解していたようです。

ヒラリー。クリントン次期大統領では不安が大きく、ドナルド・トランプは未知数でも選挙中の言動から親日的とは言えず、外務省筋はあれやこれや屋上屋を重ねる推測・憶測に眠れない日々を過ごしているようです。

中国はどうみているか?

中国からみるとヒラリーは意中の人物で、ドナルドでもそれほど悪くはない、彼は人権主義者でも、人道主義者でも、非差別主義者でもなく、アメリカ式正義漢でも勿論ない・・その範疇から遠く離れた圏外にあるのがドナルド・トランプとみているからです。

本質は(ドイツ人ではあるが)シエークスピアのベニスの商人のスピリットで成功した、金銭万能主義者で、判断基準は利益の多寡であり、利を提供すれば御しやすい人物、と分析されているかも知れません。その証拠に・・・

昨年10月、習近平主席はアメリカ最後の公式訪問でオバマ大統領を直接訪問と思いきや、最初に降り立ったのはワシントンDCではなく、西海岸のワシントン州シアトルでした。

最初の訪問先はシアトル郊外のボーイング社で、そこでは大型旅客機300機を(いきなり)正式発注、同時に737型機の組み立て最終工程施設(工場)を中国国内に作ることを要求、条件にして、前例のない大量契約を結んでいます。

次いで、米中ビジネス・ラウンドテーブルと称する、アメリカのトップ企業の経営者との懇談会を開催しています。
出席者はマイクロソフト、アマゾン、アップル、IBM、アリババ、といったトップ企業のほか30社に及んでいます。

その後の晩餐会で
キシンジャー元国務長官
ヘンリー・ポールソン元財務長官
ビル・ゲイツ夫妻 
などと旧交を温めたそうです。

同じワシントン州内で、信じられないことながら、アメリカの原発企業とのジョイント・ベンチャーとはいえ、原子力発電所(数基)の受注に成功していると報じられています。

翌日、サンフランシスコに移動、その郊外のビル・ゲイツ邸を訪問、中国でボイコットされているGoogle解禁問題など長時間滞在して極秘の話し合いをしたとされています。(外国通信)

ついで、カリフォルニア州庁舎を訪問、懸案のロスアンジェルス・ラスベガス間の新幹線建設を正式に受注したと報じられています。前州知事のシュワルツネガーが来日の折、試乗し絶賛した新幹線は、結局中国に発注されていたのです。

政治家というより実業家のドナルド・トランプの感性なら、大統領になると、おそらくこの習主席の訪米時の精力的な経済活動を高く評価するに違いありません。中国非難は直ぐにも解消して、より親密なウインウインの経済協力関係に両国を発展させるとでも表明するかも知れません。

習近平主席は先を見越して、いずれの大統領候補にも有無を言わせぬ布石を敷いていたかに思えます。

ここまで経済界に深く浸透されると、アメリカの新大統領も、中国のアジアに於ける摩擦などに深く関与するつもりはない、と宣言するかも知れません。世界中で露骨な自国優先の時代が、はや始まっているのです。

日本に対しては為替の不均衡を言い立て、また日米安保条約の不公平を指摘、変更を迫る、ような事態になるかも知れません。トランプの民間の同業者が(いみじくも)述べているように、トランプ式ビジネス交渉術は、とにかく自分の要求を大声で怒鳴り、憎言悪語で相手を貶め(古いタイプのユダヤ商人)さながらにことを運ぶというものです。

国が相手でも、それは同じかも知れません。日本にも試練のときが訪れそうです。

ヒトラーの遺言(時代は巡り)中国

2016-03-20 | 世事諸々


1944年4月30日ヒトラーと愛人のエーフアは総統官邸の地下壕でソ連軍に追い詰められて自決しています。エーフアは前日結婚式をあげていて、もはや愛人ではなく、夫婦になっていて、仕合せそうに見えたそうです。

ヒトラー自身も、敗戦の将ではあっても、世界中の非難を浴びる極悪非道の大悪人に(いつの間にか)なっていたとは露知らず、最期には穏やかな人間の表情で介添えの秘書官二人を部屋から追い出したということです。

その日、同じテーブルで最後の晩餐ならぬ昼食を共にした秘書官の記述にはそう述べられています。また、この秘書官はヒトラーの最期の言葉も伝えています。それは歴史の必然を述べているかのように、淡々と忌憚のない語調だったそうです。

「ナチズムは、呼び名は変わるにしても思想は変わらない。一世紀を待たずして、それは世界のどこかで甦り、また大戦になるだろう。しかし今度はアメリカの勝利とは限らない」

本当にヒトラーの言葉だったのかどうか、疑いはあるにしても、(捏造された雑言の一つかも知れませんが)ドイツのネオナチの台頭とは別のところで、それ以上の類似した状況が今起りかけているようにも思われるのです。

ヨーロッパの弱体化(1930年代に似ている)、フランスやイギリスの自国中心主義、ドイツの商業主義。他国のためやヨーロッパのため、世界のためという思考を、アメリカをはじめ主要国すべてが失っていると思われ,1930年代のヒトラー台頭時の状況を彷彿とさせるものだそうです。

昨年10月、中国の習近平主席がイギリスを訪問していますが、イギリスは政府・王室をあげて近年にない質実共に最高の歓迎ともてなしをした、と中国国営メディアが伝えています。中国がこの訪問の期間中に300億ポンド(5兆5千億円)規模の投資をイギリス国内で行うと表明していたからです。

あたかも中国が南シナ海の岩礁と砂洲で出来た、満潮時には水没する暗礁を埋め立て、陸地化して領土とし、飛行場を建設、周辺海域を国際法上の領海と宣言、領有権を主張して周辺国(ベトナム・フイリッピン)それにアメリカとも対立を深めていたのです。強引な領海権の確立はアメリカも周辺国も一切認めないと対立している最中だったのです。

イギリスはかってのようにアメリカの同盟国の立場はとらず、中国の主張を容認する態度、あるいは無干渉を示していたのです。

1939年、ヒトラーがチェコのズデーデン地方に侵攻、住民の多数がドイツ系であるのを理由に同地域の領有を宣言、ついでポーランドに侵攻し無血占領したときの状況に似ているのです。イギリスのチェンバレン首相は平和主義者(気弱で優柔不断)だったのでポーランドまでならと、ヒトラーを容認していたものと、数十年後に悪評価かされています。当時のヨーロッパでも各国が平和主義ならぬ利己主義の時代だったのです。

アメリカも尖閣列島については、施政権は日本にあるが日本領とまでは明言出来ないとしています。次期大統領の理解度次第ですが、尖閣列島そのものに今後は関与しないと言い出すかもしれません。世界の構図が変わり目に来ているようにも思われるのです。

中国はこれまでのやり方を見る限り、ヒトラーが近隣国に侵攻を開始した頃の様相に似ています。アメリカ・イギリスのリアクションと本気度を窺いながら、どこまでアジアに関与する心つもりがあるか、見定めながら領土・領海の拡大を目指しています。

アメリカは次期大統領次第ですが、日本への関心度が変わると思われています。ヨーロッパは、イギリス、フランス、ドイツまでが、アジアに於ける日本の比重を、すでに中国ほどには重く見てはいません。日中間の軋轢の存在すら深くは知らないかもしれないのです。

従って、中国の尖閣列島への侵攻が仮にあったとしても、干渉してくるとは当の中国も考えてはいないようです。意見も述べない無関心かも知れないのです。沖縄から米軍が軍事撤退(する可能性あり)すると、その後に中国が軍事侵攻してきてもポーランドの時のように(優柔不断に)放置するとも思われます。沖縄は本来中国に所属するものと強く主張するでしょうから。

中国が巧妙なら軍事侵攻ではなく、民間人の大移住を計り、ヒトラーがズデーデンで主張したように人口比で沖縄の領有権を主張するかも知れません。近年ロシアが同じ事をしています。ウクライナのクリミアでロシア系住民を扇動して住民投票を行い、クリミアのロシア所属を大多数が望んでいると多数決で決議(したと称して)クリミアを取得しています。

国土の所属など歴史を遡って申し立て、また現在人口の比で領有を強く主張すれば、時には戦うことなく領有できると、強国ほど考えがちです。

沖縄には長年の米国施政とその後の基地化によって、反米傾向が強く、中国にとっては思う壺かも知れません。沖縄の領有権は歴史的事由からでも(探せば)主張でき、住民の意思表示よるものと(策を弄して)主張することも可能でしょう。

案外、その日は遠くないかも知れないのです。現在、沖縄の中国人居住者は増加の一途にあるそうですから。

ヒトラーの今の評価は極悪非道の悪魔的人物像ですが、あと数百年たてばアレキサンダー大王が近隣諸国を攻めまくった話、程度の好悪に差のない評価になるかも知れません。所詮、ヒトラーも人間、時間の経過でいつの日か反転して偉大な人物像になるかも知れないのです。


アメリカ、理想の国の衰退

2016-03-19 | 世事諸々
アメリカは誰にも等しくチャンスがある国、幸運の前髪を掴めば途方もない成功も夢ではない、といわれて久しい国ですが、健康サプリメントの広告ほどにも本当ではありません。実情は、ささやかな希望すら叶えられていない人々が大勢いる国、といったほうが多少なりとも真実に近い表現になるかもしれません。

ニューヨークでもロスアンジェルスでも、だれでも否応なく目にするのが富裕の中の貧困、マクドナルドの店の前で物乞いする老若男女のすさんだ姿、人混みにも裏通りにも、年々増えている英語もおぼつかない物乞いの姿、虚ろな目をして悄然とした人々の群れ、土地の人によると、昔も物乞いはいたが彼らは人間的だった、朝夕には挨拶を交わし、ときには笑顔を見せ、コインを幾つか振舞われると丁寧に礼を言ったものだった・・と。どうしたというのでしょうか、ほんとうに。

アメリカ東部の一流大学医学部に研究者として招聘されていた日本人医師の話です。医科大学卒業後研究者の道を選び、それなりのキャリアを求めて所属先を探していた所、上記の大学医学部K教室の研究者募集要項をみつけて応募し採用されたのでした。研究内容は新薬開発及び臨床試験とあったので望むところでした。

その大学で数年研究者として過ごせばそれだけで立派なキャリアになるので期待は大きかったのです。ところが行って見るとその大学のK教室勤務は数日間のみで転勤させられました。大学から一時間ほどドライブしたさきにあるメリーランド州の原野ともいえる荒涼とした場所で、そこにコンクリート剥き出しの窓の少ない建物があり、地上より地下が深い、退避壕にも見える色彩のない建物だったそうです。厳密には新薬開発の研究施設というよりその実験動物の施設で、新薬を動物に与えて効果を観察し、解剖し記録するといった仕事の連続だったのです。

仕事の半分は動物の飼育管理でアメリカ人の医者の卵の誰一人引き受ける者のいない仕事だったのです。その証拠にこの施設で働いていた(研究者)は全て外国人だったそうです。日本人医師の(共同研究者)はバングラデッシュからの全額給付留学生で、そうと知るとワナにはまった気がしたそうです。それでもキャリアのために2年間の契約期間を済ませて帰国したそうです。

ひと頃日本でももてはやされた経歴にMBAというものがありました。ハーバード大学MBAというのが最高のものということでその資格者はたいそう誇りにしていました。MBAとはマスター オブ ビジネス アドミニストレイション、という経営学修士号でビジネスの世界では最高のキャリアとみなされていたものです。日本でもこの資格者は銀行でも商社でも投資会社でもリーダーとして優遇され政府の経済関連諮問委員にも数名名前を連ねていました。アメリカ流の、したがって世界の最先端経営学理論であり、その理論は強いカリスマ性を有していたのです。その影響下で、

競争なくして成長なし・・・という力強いフレーズがこの頃の首相の口癖でした。一体どんな成長を期待していたのでしょう。

国際競争力のためと称して労働条件を犠牲にし、低賃金雇用を可能にし、そのためすざましい格差社会が現在進行形で日本でも蔓延しているのです。現在、若者の25%は時給労働者であり、昔流にいう日雇いで、雇用は必要な時必要なだけ、というMBA思想(雇用者有利)に支配されて、このありさまです。最近、それでもMBAに違和感を覚える人も増えてきて、MBAはひょっとするとアメリカによる日本人洗脳の有効な手段ではなかったのか、と一抹の不審を抱くものも増えています。この理論の敷衍はアメリカに利があり、なかんずくアメリカの富者に集中的に有利になると疑われているからです。

会社は誰のものですか、株主のものでしょう!

とは霞ヶ関の経済産業省の官僚でもあった村上某の言葉で、テレビ生出演中に自信に満ちた声で言い放ったものです。MBA保持者でカリスマ性もありましたが、さすがに、ただちに頷く者はいませんでした。それ以前に松下幸之助というさらなるカリスマの心地よい言葉がまだ耳に残っていたからです。

「会社は従業員みんなのものです、従業員は家族です、不況だからといって家族をクビにすることはありません・・・」

会社と従業員の関係について、彼我に相当な理解の開きがあったのです。

アメリカの投資家は(日本のため)に投資をするものなど一人もいません、投資家は常に利己的なのです。利ざや稼ぎの短期投資が殆どで、体力のない日本の会社を物色、その株式を数ヶ月かけて大量に取得すると、遊休資産の土地などを売却しろと株主総会で主張します。売って株主に配当すべきである、と平然と主張するのです。そして、過剰な従業員は解雇すべきと、これもまた当然のことと主張します、それが彼らの経営理論だからです。そこには自己利益以外に一片のセンチメントもないのです。

勿論、その主張は日本の会社にだけ向けられたものとはいえません、自国においても、おそらく世界のどこの国であってもそのように主張するものと思われます。それが、アメリカ流だからです。しかし、アメリカにおいてもこうしたアメリカ流があまねく是認されているわけではないのです。大いに批判にさらされつつあるのです。

最近の新しい傾向といえばその通りでしょうが、今になって、人々は漠然とながらこれまでのアメリカの流には不安を抱き始めていてるようです。貧困が混在する繁栄では、どんな暮らしも快適とはいえず、ひもじさに囲まれて食べるハンバーガーがお美味しいはずはないからです。