**馬耳東風**

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民主主義の黄昏(たそがれ)

2016-02-29 | 世事諸々
中国の若い作家でブロガ-の韓寒(ハンハン)がいみじくも指摘しているように民主主義はイデオロギィーというより(行政の一手段)ツールに過ぎない、大工道具の鋸や鉋、左官のコテなどと同様、使っているうちに癖で右に左に傾き・・民主主義もそんな風で、使い手の遣い勝手で、アメリカでも日本でも、変な具合に変形しているのは、もはや隠せない事実ということです。

政権の交替はあっても政治家の交代が少なくなり、同じ顔ぶれ(同族)が何十年も政治を寡占しているのは周知の通りです。中央政治も勿論ですが、地方政治ではその傾向が一層甚だしく、市長や市議会議員の無投票当選が繰り返されているところは珍しくなく、民主主義の基本である投票権を奪われている観すらあるのです。地方居住者ならたいてい知っていることです。市町村長やその議会議員が選挙を行わず何期も居座っているのは信じ難いことながら事実です。新人の立候補を阻止する(金銭で立候補辞退させる)仕組みさえあるのではないかと疑われています。従って地方政治では人材の流動性が滞り、権力の寡占が数十年に及ぶことも少なくないのです。

アメリカでも同様で、大統領の顔ぶれもクリントン家やブッシュ家の員数がいまだに重複し、上下両院議員の顔ぶれも然りで、一族のリレーが繰り返されているといわれる所以です。

日本もアメリカも民主主義の衰えは明らかで、国会議員の多くが議員バッチを親から子へ、配偶者へ、兄弟姉妹へと選挙区つきで譲渡され、未熟であっても必ず当選して、能力に関わりなく重要な国政の地位に居座っているのです。

民主主義国家の政治は寡占されていて、本来の民主主義との解離は大きいのです。そして、本当の問題は、この状況を変えることが誰にも出来ないということです、自由平等を謳う民主主義のパラドックス、といわれる所以です。

その昔、アメリカのペンシルベニア州ゲティスバークで宣言された民主主義の理念、人民の人民による人民のための・・・という文言から大きく外れたものになっているのです。民主主義の行き着く先は・・よくて、シンガポールのリークアンユーが創設した独裁体制民主主義もどき・・

中国が法治国家を目指し(現にそのように宣言している)、加えて言論の自由が許容されるなら、あるいは(韓寒の言うように)現今の民主主義国家より優れた政治体制をつくることが出来るかも知れません。

韓寒とは中国の若者のオピニオン・リーダーで、作家で3億人がフォローするブロガー、と紹介されている、新興国に特有の俊英です。今年ようやく30歳で鋭い中国政府批判も多く、言論は常に綱渡り状態、それゆえに面白く、今の中国の若者たちの思考も垣間見えるので以下に〔少しだけ〕彼のブログに述べられた主張を紹介してみたいと思います。

中国が民主化するために:

「仮に中国がそうしたいと思って、完全に民主的な、正真正銘公平な選挙をやったとしても、勝つのは共産党だよ、今の中国で共産党以上に金のあるやつなんていないから」(民主主義は金)

「そう、民主主義は先進国の高尚な制度などではなく、単純に私利私欲の衝突を調停するためのツールと思えばいいのだ、今中国では利益集団同士の衝突が激化している、去年は18万件の群集事件(デモ、ストライキ、暴動など)が起きている。その対応に治安維持費が5500億元と、軍事費なみのコストが掛かっている、それでも利害関係の衝突を押さえ込むことすら出来ていない。そこで、安くて便利なツール、民主主義の導入を推薦したい。民主主義を導入すればいろんな群集事件は、そもそも発生しない」(発生しているが)

韓寒〔ハンハン〕は民主主義を知らない国の知らない世代の若者ですが、西側民主主義を横目に揶揄しているのです。一昔前の(天安門事件の頃の)学生運動では理想とされた民主主義も、今では共産主義同様(中国でも)色褪せて見えるのです。

一昨年、中国で世界の注目を集めた事件がありました。広東省の一農村で共産党地方支部の職員を村民が集団で追出し、農民の自治組織を設立、しかし数日後、武装警官に取り囲まれたという事件です。末端行政を支配してきた村役人(共産党員)が勝手に村の土地を企業に売り飛ばし収益を得たというのが発端だったそうです。全国津々浦々に同様の問題はあり、共産党中央の頭痛の種でもあったのです。

広東省の問題解決には紆余曲折があって、その後解決したそうですが、どう解決したのかは不明です。しかしその後、共産党の末端組織に民主選挙を導入する話が持ち上がっていたそうで(嘘か真か)、それが実現すれば村役人の横暴が一気に抑制されること必定です。韓寒のいう民主主義がツールとして役立つことになるのです。

中国の(AIIB)本当は何のため?

2016-02-16 | 世事諸々
アジア・インフラ投資銀行(AIIB)の設立目的は、アジアの途上国支援、いまだにインフラ(道路、水道、港湾、発電・送電、鉄道敷設など)未整備の国々は多く、中国はその手助けをしたいと、この銀行設立を思いついたというのですが、他利主義は中国らしくないので日本は疑って不参加でした。

案の定、今ではあからさまになっているのですが、中国がこの銀行を作った本当の理由は、昨年来急速に落ち込んだ景気、中国製品にたいする需要の減少、世界の工場といわれた中国の商品生産力が需要を失って軒並み生産設備過剰と在庫の山に苦しめられ、今や多くの企業が瀕死の状態、その苦境脱出対策に立案されたのがAIIBだったのです。

それはまた建設業界の救世主にもなります。中国国内の建設不況は一層深刻で、日本の大手重機メーカー(コマツ)が、中国における建設重機類の稼働率を(各重機に盗難防止用無線機がついていて稼働状態が判る)係数化してその深刻さを伝えているのです。

国内の大型工事は四年後完成予定の新北京空港のみで、オフイスビル、住居ビルなども、ひと頃オーバーヒートした投機のせいで、地方都市にまで不要に林立して、空き家だらけといいます。新しいビル建設はほとんどないということです。

そんな中で知恵を絞って考えだしたのがAIIB構想だったのです。(他人のふんどしで)まだ相撲はとれる、と考えたのでしょう。巧妙な外交力で世界の主要57か国の賛同を集めて新年早々に(AIIB設立総会と加盟国の)サイン会を開いています、早々にスタートをきったのです。

アジアの途上国を見渡せば(たしかに)インフラ未整備の国はいくらでもありそうです。資金を融資すればインフラ工事契約は容易に取れそうなのです。インドネシアの新幹線敷設計画(ジャカルタ・スラバヤ間)も全面的な融資を条件に日本のオファーを退けて受注しています。AIIBの融資によて、さらに多くのインフラ工事をアジアの国々から受注できるものと考えているのです。

中国は、日本人が思っている以上に世界の信用を勝ち得ています。AIIB設立にはイギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、とヨーロッパ主要国を勢ぞろいさせ、いまは日本とアメリカの加入待ちと自信ありげなのです。アメリカも日本もいずれ参加するものと考えているようなのです。

アメリカは今年大統領選挙の年で、次期大統領がヒラリー・クリントンに決まれば、アメリカのAIIB参加はすんなりと決まり、大いに期待できると考えているようなのです。

ヒラリー・クリントンは経済重視の世界観をもっているので、アジアではどこよりも中国を重要視している(と中国は考えています)のでAIIBの重要性は理解していて、積極的に参加してくるものと考えているのです。

日本は所詮アメリカのしっぽで自主性はなく、アメリカ次第というわけです。しかし、日本のAIIB参加こそ最も望まれるもので、膨大な資金需要を満たすには日本の参加が(不可欠)とも思われ、また途上国向け融資は無担保の場合が多いので、そのリスク負担を共にする必要もあるからです。

先進国の不況は余剰不況ともいえるもので、生産力が大幅に需要を越えている状態です。過剰設備と在庫の山が定期的に訪れるのが世界経済不況で、買い手がない状態・・。

しかし見渡せば、アジアはまだまだ需要の宝庫です。多くの途上国があり、未舗装道路、水道・電力不足、灌漑用水池、未耕農地、鉄道、港湾設備の不足・・資金さえあればインフラ整備の需要はいくらでもありそうです。

日本主導のADB(途上国向け融資銀行)は(中国が指摘する通り)融資条件が厳しく、また貸し付けに不熱心でもあり、中国のAIIBはその弱点をついたものになり得るのです。

中国のAIIB設立提案はいかにも唐突なものでしたが、視点を変えれば、その必要性を認めることも出来そうです。世界経済が下降局面で先進国が苦慮し、その余剰力をもてあますとき、途上国に向けるのは必然ともいえるのです。余剰が不足に向うのは自然の流れだからです。

中国(権力者)のプロフィール

2016-02-15 | 世事諸々
日本人にもお馴染みの、一見穏和な好々爺風の元中国首相、温家宝が、アメリカに27億ドル(3000億円)もの不正蓄財をしていた、とニューヨーク・タイムズ(Oct.26,'12)にすっぱ抜かれていますが、なぜか日本人の多くはそんなことも知りません。アメリカではハリウッド・スターのスキャンダルなみに広く知られていることです。ニューヨーク・タイムズが一面を割いて、温一族の利権、不正蓄財の構図を描き、これらの蓄積財産は温家宝が権力の座についた前後十数年で蓄えられたもの、と資産形成の詳細を暴いたからです。

日本の、中国に関する情報はその多くが香港、シンガポール、台湾経由で、取捨選択されるせいか、新鮮味に乏しく、輸入駄菓子を食する趣きです。日本人記者によるニュースは日中政府間交渉などつまらないものばかりでニュースとも言えず、関心は薄く、さもなければ小笠原沖の珊瑚密漁などですが、それさえも目前の事件にも拘わらず深く切り込んだ報道になっていません。中国ニュースは意図的に制限されているのかと疑われるほどです。

そのせいか、現在の中国の政治指導者の人物像なども殆ど紹介されていません。日本では何も知らない人が案外多いのです。中国のトップとはどんな人か、なかなか興味深いので、そのプロフィールを家族共々、以下に紹介してみたいと思います。

現在、中国の(トップ)最高指導者は国家主席の習近平ですが、これは誰でも知っていることでしょう。 しかし、弟がいて、その名前が習遠平、となると知る人は少ないかも知れません。また姉が二人いて長女は斎橋橋、次女は斎安安。

長女は北京の不動産開発会社を夫と共に経営していて、そのほか、広東省では「地下鉄地産開発」「電力工程』「公路建設」といった、中国語そのままでも内容が解る国家的な主要事業の多くをを掌握し、香港では有数の不動産建設開発会社を経営し、現在、当然ながら富裕で、それなりの生活をしているはずですが、中国の重要人物でありながら何故か、国籍は夫婦ともに中国ではなくカナダという、チグハグな謎を抱えているのです。

次女の斎安安は夫と共に広州で事業展開をしています。夫の呉龍は「広州新郵通信設備」と、これまた分りやすい企業の社長で、事業内容はチャイナ・モバイルの設備請負工事という独占事業です。それに加えて香港の中心部で商業ビル7棟を所有し、携帯電話企業、レアアース企業などの運営で資産の増大を諮り、目下大資産家への途を驀進中というイントロダクションになります。

弟の習遠平は北京で、「国際省エネ環境保護協会」の会長をしています。 一見、利権事業には見えないものですが内実は不明です。それはクリーンなものかも知れません。しかし、遠平は既に北京の不動産事業で十分な富を蓄えていて、オーストラリアに大邸宅を持ち、資産の多くも同国に移転済み、とみられているのです。国籍の取得は必要になれば何時でも、というお墨付きで、オーストラリアには富裕外国人優遇策があるということです。すでに多くの中国人富裕層がその枠で移住しているのは周知のことです。

習近平と弟姉妹の父親はすでに他界しています。母親は斎心心といい、広東省の深センでひとり老齢ながら矍鑠と暮らしているそうです。母親は古き善き時代の人らしく、私有財産には恬淡としていて、常々投資や投機行為をやめるよう、一族のみんなを諭しているということです。

これらの情報は主に香港の「明報」や「博訊新聞網」などによるものですが、そのなかでも傳才徳記者の取材調査は、中国では珍しく切り込みが鋭く、欧米のメディアに高い評価をうけているということです。

その他にも、欧米社会に伝わってくる中国情報はあります。官僚の不遇組がときたまアメリカのメディア(新聞社など)に幹部の不正蓄財をリークするものがいるということです。甘い蜜を独り占めすると、しばしば、部下の嫉みとなるのは何処も同じようです。

どこの国でも(税務署が言う通り)不正蓄財情報というのは内部告発なのですが、アメリカにはそれとは別に、CIA情報というものがあり、中国高級官僚や政治家達が以前から常習的に行っている”海外送金”情報の9割はアメリカ司法当局に(たぶん)把握されている、という隠れもない事実があるのです。

マネー・ローンダリングにうるさいアメリカでは、中国に限らず何処からであろうと、巨額送金はCIAの看視下にあって逃れられないということです。アメリカ国内やカリブ海諸国への巨額な現金送金は確実にCIAが把握するところだそうです。寛容でも怖い国、アメリカなのです。


風と共に去りぬ・・(麻薬の歴史考)

2016-02-12 | 世事諸々
風と共に去りぬ、という物語の舞台になった、アメリカのジョージア州アトランタはコカコーラの生誕地としても知られています。時は1800年代半ばで、アメリカが南北に分かれて4年間戦ったシビルウオーの主戦場でした。奴隷解放を主張する北軍と、それは受けいれられないと分離独立宣言をした南部11州の南部連合軍との戦いで、口火を切ったのは連合軍でしたが、最後に勝利したのはリンカーン大統領の北軍でした。

コカコーラの生みの親は敗北した南軍の従軍医でペンバートンという人ですが、故郷のアトランタに帰郷して、軍隊で覚えたコカインをワインで割ってのんだ経験から微量のコカイン入りアルコール飲料を考案して販売したところ好評でよく売れたそうです。ところが1886年のアトランタでは、あたかも禁酒法が施行されアルコール飲料は販売出来なくなりました。そこでペンバートンはアルコールを抜きシロップと炭酸水を加えて、コカコーラと命名して販売したところヒット商品になり、その後、コカインも多用すると体によくないと解って、1903年以降コカインも除き、健全な飲料水として販売を伸ばして現在に至っているということです。

コカインの所持や使用がアメリカで全面的に禁止されたのは意外にも1970年になってからだそうです。現在の銃規制と同様、麻薬が人に害を及ぼすと立証された後も法的規制はなかなか課されなかったのです。アメリカの宗家ともいえるイギリスでは、1920年代まで、アヘン、ヘロイン、コカインといった麻薬が万能薬として自由に販売され乱用に近い使われ方をしていたそうです。ワインと混ぜて医者が推奨した飲料もあり、当時のビクトリア女王も愛飲していたとのことです。ローマ法王も愛用した有名なコカイン入り赤ワインもあったそうです。

19世紀から20世紀初頭までは、ヨーロッパ全土で麻薬が過剰に常用されていた時代だったのです。ビクトリア女王の政府がアフガニスタンの高地に、アヘンの原料となるケシの実を大量に栽培する大農園をつくり、過剰生産になり、余剰量を中国に購入するよう強要し、拒否されると軍隊を動かしてアヘン戦争を起こしたのは日中戦争勃発の少し前でほぼ同年代です。当時にあっても卑劣に過ぎる歴史的事実でしたが、それに対するイギリスの謝罪など勿論なかったのです。それが良かったのでしょうか、今のところ中国が過去の歴史の反省を求めることもなさそうです。イギリス人が公式になにかを反省したり謝罪することは月が西から出るほとありえない、とフランス人が言うように、それは有り得ず、どの国家にしても戦後処理終結後に、さらに過去の歴史の責任を問うて何らかの賠償を得ようとするのは理不尽なことです。戦争や紛争が歴史そのものといったアメリカやヨーロッパでは、およそ考えられないことなのです。

イギリスでようやく麻薬類が法的に規制されるようになったのは1920年代末になってからです。現在の法律では、いうまでもなく、アヘン、ヘロイン、コカインの類は、世界中殆どの国で厳しく規制されています。所持、運搬しただけで死刑を宣告される国もあります。パナマの独裁者ノリエガ将軍が、コカインをアメリカに大量輸出するシンジケートのボスだったとして、一国の(大統領)にも匹敵する立場でありながら、アメリカ軍に捕縛され実刑を科せられたのはまだ記憶に新しい出来事です。

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世界はどう見ている、中国・・・(アメリカを追い越すか、後退か)

2016-02-05 | 世事諸々
中国の中東への参入はさながら干潟に潮が満ちて来るようだった、とドバイ商業省サリ参事官は2003年当時を振り返って質問者に答えています。ひたひたと素早く、、気が付けば膝頭まで水に浸っていた感じで、いつの間にか身辺に中国製品が溢れていたということです。今身に着けている衣類を含め、履物、寝具、鍋フライパン、キッチン用具、電気洗濯機、物干しロープ、文具から、健康器機、加工食品、テレビ、オーディオ、通信機器に至るまで中国製品で、かってはよく目にした日本製品などどこへいったものか、もう見当たらないとのことです。

中東は産油国で高所得者の多い国々でありながら、中国製品は安価で歓迎されているのです。品質も良くあらゆるものが揃っていて、品数も豊富で、今では生活に不可欠なものとなっているとのことです。ノスタルジーもあってか、中東の人々には愛着ひとしおの砂漠用(高級)大型テントがレジャー用に求められていますが(地中海人がヨットを持つように流行している)それも今では8割が中国製だといいます。

ドバイはアラブ首長国の一つで、近年の経済発展と砂漠の中に築いた近未来型都市で世界の注目を集めています。埼玉県ほどの面積に、2005年現在人口百二十万人程が住んでいるのですが、その10年前の1995年度の人口統計は68万人だったということで、経済発展に比例して人口は倍増しているのです。(2014年の人口は220万人、中国からの移民も増えている)

ドバイを空から見ると、湾に向かって長く首を伸ばした爬虫類のシルエットが見えます。世界最大の商業施設、ドラゴンマートです。長さ1.2キロ、広さは15万㎡、中国製品のために作られた巨大な交易市場なのです。それまで中東やアフリカから年間20万人を越えるバイヤー達が中国製品を求めて16時間以上も飛行機を乗り継ぎ、中国東部の義烏市にある中国最大の卸市場に集まって来ていたのですが、今ではドラゴンマートがその全てを肩代わりしてくれるのです。距離の遠さもさりながら、中国での取引は通訳を介して行われ苦労が絶えなかったのだそうです。

「その点このドラゴンマートでは通訳は不要です。英語かアラビア語がここの主要言語だからです。アフリカのどの国の人も商人ならたいていアラビア語が流暢に話せます(ここでは中国人も話せる)、距離もアフリカのどこからでも苦にならないものです」

ドラゴンマートの中には4千数百店舗が軒を連ね、三万人以上の中国人が働き、中国で出来た全ての製品を売っているのです。ライターからサングラス、アクセサリー、コーランや聖書用スタンド、家具類、医療機器、携帯電話、テレビや白もの電化製品、衣類からテント、レジャーボートからハイテクの工業製品に至るまで買えないものはないということです。ドラゴンマートに隣接して巨大倉庫群が港に向かって並んでいて、受注品をどの国に向けても短時間で発送出来る物流拠点になっているのです。

ドバイは今では観光地としてもよく知られています。沿岸から280m離れたところに人工島を作り、ドバイの象徴とも言える、世界一贅沢な七星ホテル、一泊最低15万円ともいわれるホテル、ブルジュ・アル・アラブ〔高さ310m〕が聳え立っています。船の帆を模したガラス張りの煌めく優美な姿は、テレビなどでもしばしば紹介されているので誰でも目にしたことがありそうです。建設当初はイギリスやアメリカ、それにアラブの国々の富豪が最大の顧客だったそうですが、2008年のリーマンショック以降、これらの客層が減り、代わって中国人富裕層が増え続け、今では年間宿泊数の3割に達する常連になっているそうです。ドバイでの中国人の存在感は大きく「中国のお客様が最も重要な顧客となっています。つい先頃も、中国人御一行様が50室予約されました」と、ホテルの新任マネージャーが誇らしげに電話インタビューに答えていたそうです。

2011年3月、イギリスのオックスフォード大学で中国・アフリカ会議が開催されました。その場所の選定には疑問もあったようですが、中国の急激なアフリカ進出に対する欧米の暗黙の批判が高まっていた折りなので、その正当性を述べるためあえてヨーロッパの一中心地のオックスフォード大学講堂を選んだものと思われています。

会議は中国によるパネルディスカッションで、イギリスをはじめフランス、ドイツ、スペイン、ポルトガル・・と旧植民地宗主国の政府関係者やジャーナリストが多数招聘されたそうです。

中国のパネリストは外交部のスポークスマンでもあった秦剛で、彼は中国のアフリカ進出がいかに途上国の発展に寄与するものであったか、中国も勿論潤ったがアフリカの多くの国々では貧困と騒乱が長年続き、疲弊していた、資本主義国のどの国も、誰も投資も金融もアフリカに向けて行うものはなく、中国としても大きなリスクを承知で・・・と論評していたのですが、長い演説の要点は二つで:
「アフリカ最大の問題は各国が自力では発展できない。中国の投資と金融、インフラの構築があって初めて行動し自立できた」
「中国がアフリカで成功した理由は、我々が決して外国の(人権問題)などに介入しなかったから」
というものでした。が、中国の内政不干渉政策は不変であると強調しながら、その国の国民をないがしろにしている強欲な独裁者に対しても不干渉というのは人道主義の片鱗もない汚い実利主義で、秦剛の演説はその事実を糊塗するものと、厳しい反論もあったようです。世界中の非難を浴びている独裁国家ばかりを狙って進出しているかに見える中国のやり方は、中国の本質を改めて思い知らされる、と西側からの批判は辛辣でした。

最後に手を挙げたポルトガル人のアナ・マリア・ゴメスのスピーチはその核心を突くものだった、と紹介されています。
「途上国に於ける開発というものは、グッド・ガバナンス、人権尊重、法の支配なくしては実現できません。強欲な現地エリートの権力者と利権でもたれあい、独裁を維持、長続きさせている中国の責任は大きい」
といい「被援助国の一部エリートだけが一層豊かになり国民は益々困窮している・・・」と続けていました。
秦剛は反論しなかったようですが、(それが資本主義というものだろう)と嘯いていたかも知れません。一方が豊かになれば他方は貧窮する・・・(アメリカでも日本でも、ヨーロッパでも、そうではないと誰に言えるか)と無言の反論をしていたかも知れません。

会議の終盤に立った中国側の講演者は年配の紳士で始終穏和な表情を浮かべて中国の善意と真摯な対応を簡潔にのべ、その結論に:
「今日の中国は欧米社会に代わる別の、新しい選択肢を提供していると言えます。もしかすると西側のものより我々の方がすぐれているかも知れないのです」

長いアメリカ駐在経験もある李国富という外交官でした。かねてより、アメリカ民主主義の批判者で、アメリカ国内でも他国より、よい政治が行われているとは言えない、と批判しているのです。「どの州のどの街のどのマクドナルドの店の周辺にもホームレスが物乞いし、たむろしている姿がみられます。これがよい治世と言えるでしょうか。人民は自由で抑圧されてはいないかも知れませんが、”尊厳”を失っているのです」と演説を締めくくっていたのです。

アメリカの大手世論調査機関、ビュー・リサーチ・センターが昨年、「世界で求心力を増す中国」 と言うテーマで世界の主要40カ国でアンケート調査をしていますが、その設問の一つは〔遠からず中国はアメリカを追い越す〕というもので、その正否を問うものでした。追い越すという意味合いは、経済、軍事、国際的影響力などで、総合的国力と解釈できるものとおもわれます。

結果は日本人には驚くべきものでした。YES,と答えた国はヨーロッパ主要10カ国全てで、それもフランスの66%がYESで34%がNOといった大差で中国の覇権の拡張、アメリカの衰退を予測しているのです。世界主要国のYESの比率が高い回答例は以下の通りです。
           YES   NO
フランス       66%  34%
スペイン       60   34
イギリス       59   35
ドイツ        59   37
イタリア       57   36
イスラエル      56   34
トルコ        46   33
オーストラリア    66   40
韓国         59   40
中国         67   27

これは何を意味するのでしょう、近年のアメリカの世界紛争地からの全面撤退、自国問題最優先とする国民の意思の表れ、などで世界の見る目が変わったのです。アメリカがアジアから撤退することもありうる、中国に覇権を譲る事もなしとは言えないと、わずかながら、日本人の根底にあったアメリカへの信頼感を揺るがせるものだったのです。

NOの比率が高いのは調査40カ国中アメリカと日本のほかでは、ベトナム、インドネシア、フイリッピン、ブラジル、ウガンダに過ぎず、インド、マレーシアなどは(その他の多くも)37・33といった僅差だったのです。

この調査でNOと答えた国々は、日本を含めて中国に何らかの軋轢と偏見があり、中国の世界の中での急激な覇権の拡大を好感していないということでしょう。偏見が事実を直視する妨げになっているともいえるようです。日本人の思いとは裏腹に、世界の大勢は中国が経済でも世界に向けた影響力でも日本をとうに凌駕していて、アメリカさえも越えて行く勢いがあると見ている、ということです。

この6月に行われた中国主催のAIIB(アジア・インフラ投資銀行)結成に世界の57カ国が参加を表明して、中国の北京に集まり、契約書類に署名をした事実が上の調査結果に符合し裏付けられているかに思われます。日本も同調はしないまでも、事実は受け止め、中国を(その力を)正当に評価する必要はありそうです。