**馬耳東風**

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日本の政治「手直し」しないと・・・やばいね

2016-03-17 | 世事諸々


「手直し」といても憲法九条のことではありません。
政治の構造改革をいつか何処かでする必要がありそうだという意見なのです。

自民党が参議院の議席を過半数、公明党とあわせて三分の二を越える勢いを目指していますが、自主憲法に改正するという目的のためとはいえ、国会での力関係で一強となるのは一時的であれ、なんであれ悪い政治になります。独裁政治に近くなるからです。

民主政治の基本は(理想は)2大政党の対立で行われるのが望ましいのですが、現在は一強多弱になっているようで、構図としては最悪といわれるものです。どこかで2大政党に収斂するのが資本主義制度下では必然なのですが、混迷が続いているのです。

2大政党が必然というのは、資本主義経済社会で対立するカテゴリーとは、雇用者と労働者以外にはあり得ないからです。労使の対立となるのです。喧嘩をする構図というのではありません。会社や企業、国の運営でも互いに協力関係でありながら、その生み出す利益の配分で必然的に対立が起こり、その調整に互いの権益代表が企業内や国会内に存在することになるのです。

現在の日本の野党には様々な党派が複数(多数)存在していて、それぞれ固有の思い入れがあり、しばしば労使対立のテーマ以外で争うようにおもわれます。それは結果として与党(雇用者側)を有利にする行為なのです。

例えていうと、労使対立の主要問題、給与(ベースアップ)を討議しているとき、野党の別の代表が自分達の固有の優先課題、社員食堂の改善を優先的に話し合いたいと言い出したり、別のグループ代表は、いや今優先すべきは女性差別問題だ、などとそれぞれの思惑を述べ議題を混乱させ、期せずして敵を利する行為をしているのです。

中心議題から焦点を外す行為は敵方が望む戦法で、今の野党は自らそれを行っているかに見えるのです。

次の選挙で野党の中核となり得るのは(数からみて)民進党かと思われますが、中核党が全野党に呼び掛けて7月の選挙では与党側を大勝させないことを第一の目標とする、と選挙協約する必要がありそうです。

一人区で野党の重複をさける、などといった協約は瑣末で急の役には立ちません。選挙で、共同戦線で戦うためには共通のテーマが必須です。全野党でテーマを一本化することこが望まれるのです。

与党の目論見である憲法九条改正問題は、選挙中に限り、全員で完全に無視することです。

ディベイト(討論)の基本に、相手の好む(得意な)テーマでは戦うな、という鉄則があります。与党の仕掛けてくるテーマは無視して、次の選挙では国民が耳を傾けそうなテーマで戦うべきです。色々ありますが「格差社会を直そう」「一日10時間働いても生活ができない馬鹿げた最低賃金を見直そう」「派遣労働法を撤廃」「終身雇用制でないまでも正社員制度に」・・等々。「みなさん、与党の大勝を許してはなりません。社会改革を達成しましょう」憲法問題は無視することです。

昔の社会党が考えそうなテーマを再考して野党が共有、与党側を狼狽させることができれば、負けても勝ちです。
今度の選挙の目標を野党は全員で明確化することです。目標はただ一つのはずです「与党を大勝させない、衆参いずれでも三分の二の議席は許さない」

くれぐれも忘我迷走しないことです。憲法改悪反対などと、虚しく叫ばないことです。それは敗北の道に他なりません。

その他、抽象論は次の選挙では控えるよう申し合わせ、全員でバーニー・サンダース風に社会主義者を標榜するのも面白そうです。教育費の無料化もいいですね(特に18-20歳の新有権者)は興味をもつでしょう。投票に参加したいと思うでしょう。選挙で勝てないまでも、大負けはしない、サンダースが今日まで善戦しているのを見習うのは良策に思えるのです。

蛇足:今の野党に肩入れしているのではありません。日本の政治の二大政党化とその均衡を願っているのです、よき日本の将来のために。

どこの国にもある歴史の汚点・・

2016-03-15 | 世事諸々
どこの国にも,
歴史に残された汚点はあるものです。 

欧米の,ヒューマニズムを理念とした近代歴史の中でも、今にして悔まれる汚点は、20世紀初頭に現われた優生学で、それを政財界・知識層あげて熱烈に支持した歴史的事実かもしれません。

優生学はダーウインやメンデルが動植物の交配から種の品種改良を行う上で優生遺伝、劣性遺伝の交配の法則を明らかにしたものでしたが、ダーウインの従弟にフランシス ゴルトンという人物がいて、その法則をストレートに人類にも当てはめた独自の優生学を理論化、実践を唱えたのでした。

しかし、あまりにも非道徳で現在に至るまで物議をかもす元となっているものです。ゴルトン優生学の要旨は概略以下のような記述でした。

「最高を残し劣性を排する・・・・犬のブリーダーは最強のオスと最賢のメスの交配で優れた犬種を作り、競走馬のサラブレッドの血統は改めて言うまでもなく証明されている、メンデルの法則による優生遺伝を人類にも当てはめ、劣性人間は排除しないまでも去勢すべき。崇高な精神、知性、芸術的才能は遺伝し、無能、虚弱、好色、酒乱、犯罪性格もまた遺伝する、犬や馬を選別的に繁殖するように人にもこの法則を当てはめれば数世代でイギリスから犯罪者や反社会人間は消え去り優れた子孫で満たされるだろう・・・(原文のまま)  

明確に述べられたこの優生学に欧米の政治・経済のリーダー達も、学術芸術のリーダー達も、モラリストも、左翼思想家まで、拒否反応を示すどころか、不可思議にも賛同していたのです。驚きというより当時の人間の徳性がそうだったのか、と思うほかないようです。

当時のアメリカの大財閥、カーネギィーやロックフエラー財団まで、何を意図していたのか双子や障害児の出産を制限する研究を、自国では出来ないのでヒトラー傘下のドイツの研究機関に資金を提供して委託していたということでした。

ヒトラーがこの学説の強い影響下にあったことは否定できません。 ヒットラーの野望が、エスカレートして近隣諸国の領土までに向かうことがなかったら、またイギリスやフランスに戦線を拡大しなかったなら、欧米戦勝国側も最後までヒトラーを追い詰めることまではしなかったかも知れません。第一次世界大戦の時同様、物量や国土の返還賠償で終結していたかも知れなかったのです。

そして、ユダヤ人に対するホロコーストも障害者や同性愛者、共産主義者の仮借ない抹殺も、案外、黙認・看過されていたかも知れないのです。そう思わせる空気も実のところ、少しはあったのです。 この時代、欧米人の人権意識は今ほどではなく(格段に低く)ユダヤ人やその他のヒットラーが嫌悪した人々を排斥する気持ちには、露骨にではなかったにしても通じるものがあり、それほど大きな違いはなかったかも知れないのです。

70年前の、それほど昔のことでもないのに、そのような暴論が反対論も少なく、まかり通っていたとは信じ難いことですが、ひとつの時代にはその時代の思潮があったのでしょう、今ではとても容認できるものではないでしょうが。

欧米の道徳律というのは、過ちが判明したら、その行為を自らやめることで自己修復になる、というものです。他者に対する反省も謝罪の必要性も感じることは少ないのです。賠償が必要なら支払い、それ以上事後に追加要求されることなど、欧米のルールにはないことなのです。

*この稿はWhen The Earth Was Flat という冊子中の(優生学に関する部分)を参照しました。著者は Graeme Donaldo 米国籍の著名なジャーナリストです。なぜこのようなテーマで今さら書いたのか、本人は理由を述べてはいませんが、弱者排斥のネオナチ優生学が姿を変えて、世界のあちこちで復活しはじめている危うさを感じたからでしょうか。

アメリカ大統領選、本音が勝つ時代

2016-03-08 | 世事諸々
「アメリカ大統領選挙も少し見えてきたね」
「共和党はどうやら、トランプできまりのようだ」
「民主党はヒラリー・クリントンが、バーニーサンダースの反撃でもたついている」
「圧倒的に優勢なはずのものが、泡沫候補といわれた相手に負けているのが今年の特徴」

「トランプはそうだね、サンダースは健闘しているが、まだ勝者ではない」
「サンダースが面白いのは選挙のテーマを自前で作って,今回の選挙の共通主題であるかのように繰り広げている」
「そうそう、他の候補者が討論の主題に据えている難民問題、中東戦争、中国問題、TPP、経済・金融、産業の活性化など、全部無視して」

「中・低所得者層がパッと目を覚ますテーマで訴えている。みなさん、自分の所得に満足していますか、(いいえ)最低賃金はこれでいいのですか(No)、私なら2倍にする、健康保険は国民にあまねく普及させる、国公立大学の学費は無料化、代わりに高所得者に増税する・・一握りの富裕層の勝手にはさせない・・国は国民みんなのものです!」
「じつに小気味がいい、国民は他の候補者たちの訴える面白くもないお題目など耳に届きません、中東戦争も中国も難民移民も、自分自身の所得問題に比べたら取るに足りないたわごと」

「サンダースが民主党代表に決まると面白いことになる」
「生粋のドイツ人(トランプ)対ユダヤ人(サンダース)がアメリカの地で再び対決か」
「因果はめぐる、だね」
「しかし、やはりヒラリーが最後には勝つという観測だ、組織票で最後はがっちりまとめるそうだから」
「しかし、サンダースは負けるにしても、選挙の本質を教えてくれたね、社会主義者として富裕層、ヒラリーやトランプに対立軸を作って労働者や学生に訴えたのがいい」
「国公立大学の学費無料化、教育の平等化だね、国民健康保険の完全普及、最低賃金の倍増、高所得者増税・・ヒラリーもトランプも真っ平ごめんだろうに」
「訴えることが分かりやすく、今の若者たち、貧困層、社会の中・低辺層に、干天に慈雨のような、しみこむ言葉fだ」

「日本の野党もまねるべきだよ、次の参院選で、日本の社会状況もアメリカと似たようなものなんだから、現状は」
「派遣労働制度は廃止にする、正社員雇用と社会保障保険費は半分会社負担など、昔に戻すべき・・とか。最低賃金を引き上げ、8時間働いたらだれでも暮らせる収入にする、そういう社会にすると訴えるべきだね、そうすれば、少なくとも自民党の圧勝は抑えられる」
「野党は選挙民の胸にしみこむ言葉で、耳を傾けたくなるテーマを語るべきだ、選挙の時だけでも」

「サンダースは今のアメリカで社会主義者を名乗り、労働者の味方、立場で訴えて解りやすいから成功している」
「支持者の熱狂振りはストレートだ、社会革命とまで叫んでいる」
「政治の対立原点は労使間で、経営者vs労働者、だからサンダースは原点に戻って訴えているのだ」

「主義主張や特定の法案反対、だけではインパクトに欠けるし、国民の大多数、中・低所得層にとって最大の関心事は、(何とか法案)反対、などでは絶対にないからね、自分のテーマを語るべきだ、そこを間違えていると、次の選挙でも、してやられる」

「選挙民の、特に若い人たちの本当の関心事は、自分の所得であり社会保障であり、若者なら学費の無料化、低減などで何とか法案や憲法改正などでは絶対にないんだから」

「国会議員は与野党ともに高所得者で、国民の所得不足には低関心だから」
「日本の野党もアメリカ並みに国会議員立候補者には金持ちが多い」
「昔の社会党出身者だっているんだから、演説だけでも復古調にすればいいんだ」
「そうそう、次の選挙で自民に少しでも勝つもりなら、ぜひサンダースを見習うべきだね」

トランプは祖々父の時代にアメリカに帰化したドイツ人移民で現在で4世、不動産業で成功を修め、ニューヨークの中心地にトランプタワーや国際ホテルなど数棟所有し、ニューヨークを拠点に全くの素人(政治経験なし)ながら大統領に立候補しているのですが、最初泡沫候補と誰もが信じていたのに、メキシコ・シリア難民など強固な排他主義的言動が時流に適合して、またアメリカ人の好きな(強いアメリカ)復活論が受けて大人気。

アメリカ国民のなかには現政権の優柔不断にも思える対外対処にいら立っているものも多く、トランプ候補の歯切れのよい過激な言動がカタルシスを生んでいるようにも思え、なにより、現在の国民の関心事を迷わず錐で刺し貫くような、サディスチックな指摘で人気を博しているようにも見えるのです。

トランプはまだ国際政治には疎く、アジア情勢など無知で不用意な発言が多く、韓国を軽んじ日本・中国問題などアメリカが関与する必要はない、とも発言していたとか。そんなこともあって、日本の中でトランプは案外不人気だそうです。

幽霊の有象無象 (あるなしのはなし)

2016-03-07 | 世事諸々
霊を見た(という)人は昔から多いのですが、肉親や近親の死を受け入れられず、悲しみに暮れていると、たまに死者の残影を垣間見るというものです。平安の昔からよく知られているのは、菅原道真の怨霊、平将門の怨念などで、たたりという語源になったものです。

久しく会っていない知己の姿を夢に見て不審に思っていると、その訃報が届いた、など世界のあちこちにある話です。また夜道を歩いていたり車で走っているとひと気のない通りの先に女性の姿を見る、旅先の宿でふと目覚めると枕辺に誰か座っていた、という類の話も多く百物語風で怖い話になります。

霊を見るという行為は必ず脳を経由するので脳の作為が入りやすいのは否めません。霊以外のものでも、見たいという欲求に脳が対応することはよく知られています。空腹時に食べ物を幻視する、砂漠で水を求めてさまようとオアシスを視る、などはよく聞く話です。幻視は押しなべてリアルで思わず手が出る、といいますから脳の作為とはいえ信じる人も多いでしょう。

霊魂を見た話は物語化され過ぎて、かえって真実を疑うものが多いのはやむを得ません。しかし、霊は実在する(と主張し)見た人も見る事が出来る人も現実にいるのだ、という人は昔からいるのです。

作家で評論家の立花隆さんが雑誌に書かれていたものですが、「うちのカミサンは普通、人の耳には聞こえない超音波を耳だけで聞き取れるようだ。主要道路の要所には交通量測定装置があるのだが、カミサンはそこを通りかかると急にウルサい音がする」というのだそうです。この装置は人の聴覚範囲外の超音波を出しているのだそうですが、それが(カミさん)には聞こえて喧騒さいというのだそうです。そのような(聴覚範囲外の音)を聞き取る人は稀ではなく、優れた音楽家などにみかける絶対音感がある人などで、目立たないながら、そのような人はかなりいるということです。「そんなわけで、同様に視覚についても、可視光線以外の領域まで見える人がいても不思議ではないかもしれない、オーラを見るという人はその類だろう」と立花さんは述べています。

生きている人の霊(変な表現だが)はオーラだろうと思われています。オーラが死後にも残存するのはよく知られている(?)ことだそうで、死後に現れる残像現象などがその類となるそうです。遠地で不慮の死を遂げた近親者の姿を、その時間に一瞬見たという話はよく耳にします。嘘の話でなければ、死後の残影はありうるのかも知れません。

立花さんも容認しているのは、人に限らず生命体には生命エネルギィーがあり、それが発する電磁気がオーラで、器具を使って測定も出来るということです。実在は人の目に見えるものの方がむしろ少ないので、見えないはずのもの(不可視範囲)が見える人という人達がいても疑うことはできない、そうなのです。

オーラの形状は今も昔も、外国の情報でもほぼ同じで、人型を包む楕円で繭に似てケバがあり、淡く光り、多くは暖色で、寒色もある、膨らみや弾性もあるというもの、生命力の強弱を感じさせるものと表現されています。

霊魂も物質で素粒子のひとつ、ニュートリノのようなもの、と言うアメリカの研究者もいるそうです。ニュートリノはノーベル賞受賞者の小柴昌俊さんが世界で初めて巨大地下貯水槽内観測でその存在を確認した素粒子で質量があるので物質だそうです。微小で、原子顕微鏡でも見えず、また、すべての物体を通り抜けるため感知も捕捉も出来ない幽霊のような素粒子と言われているそうです。

霊が見えない人は(勿論)大多数ですが、もっと多くの人がその存在を視覚や聴覚ではなく、触覚で知ることが出来るのではないか、という人がいます。神奈川県の樹齢七百年の樹木に囲まれた古刹の僧侶です。(老僧ではありません)

人は案外、そうとは知らずに幽霊に触れた経験を持っている、とその人は言うのです。その寺では山門から奥の院への長い石段があり、それを上る参拝者も多く、その中に、たまに、途中で足を止めて蹲るものがあるそうです。

急に足が重くなって動けなくなった、と訴えるそうです。それは概ね、霊の憑依で、それも複数霊のため重さを感じた結果とのことです。また、背中にシャツが張り付いたような感触を訴える人もいるそうで、(何かに)触られた、目に見えない何かと、明らかな接触感を身振り手振りで訴える人も少なくないそうです。

霊が人に害を及ぼすことはないので、寺では特に注意することもないと言っていますが、僧達はあきらかに幽霊の存在を日常的に認めているという風で、未成仏霊はいつくしめば馴染むもの、などと涼しい顔(あるいは生暖かい顔)で言っていました。

吉田茂(元首相)の手紙  (終戦の日何を思ったか) 

2016-03-05 | 世事諸々
明治維新以来の、日本の大転換点といえば先の大戦を置いてありません。その戦後の転換点に主役となった吉田茂(元首相)の、感慨と本音を,日米の緊迫した開戦前まで外務省の同僚だった来栖三郎に書き送った生々しい手紙です。日付けは昭和20年8月27日となっています。以下にその一部を紹介します。

敬覆、遂に来るものが来候、If the Devil has a son, surely he is Tojo,(悪魔に息子がいるなら、それはまさしく東条だ) 今までのところ我負け振りも古今東西未曾有の出来栄えと可申、皇国再建の気運も自らここに可蔵、軍なる政治の癌切開除去、政界明朗国民道義昂揚、外交自ら一新可致、これに加え科学振興、米資招致により而も財界立ち直り、遂に帝国の真髄一段と発揮するに至らば、この敗戦必ずしも悪からず、雨後天地又更佳、とにかく事態存外順調、ここに至れるは一に聖断による戦局終結・・(中略)かって小生共を苦しめたケンペイ君、ポツダム宣言に所謂戦争責任の糾弾に恐れを為し、米俘虜虐待の脛傷連、昨今脱営逃避の陋態(ろうたい)、その頭目東条英機は青梅の古寺に潜伏中のよし、(私が)釈放せられし当時、実は今に見ろと小生も内々含むところなきに非りしも、今はザマを見ろと些か溜飲を下げ居候、この間の味は老兄の如き娑婆にて楽をせし人にはわからず、是非一度経験をお勧め申度・・・以下省略。

日本の敗戦は世界史にも類をみない負けっぷりだったが、政治の癌、軍部の除去により国民の道義も回復し、敗戦も悪いことばかりではない、またよし。これからはアメリカ資本の助けで経済も工業も必ず復興する・・・と吉田茂は述べているのですが、これは驚くほどの慧眼です、終戦,からわずか十二日目、東京は一面の焼け野原、人々は打ちひしがれて自決するものも少なからず、といった状況下にこのように日本の未来を展望して明言できるとは、アメリカをよく知り日本人の底力をよく知っていた、一外交官を越えた、政治家としての有能非凡を示したものだったようです。

三月の東京空襲や八月に入ってからの広島長崎への原水爆による惨状をしり、その他の多くの都市も空襲で壊滅的被害にあっていましたが、それでも日本も日本人もめげることなく必ず復興再建して繁栄に向かうだろうと、この時期によく見通していたのです。

その同じ冷徹な目でこのたびの敗戦を、日本を破滅に導いた原因は愚かな頭目、東条英機にありと明確に述べています。今になって東条にあの戦争の終結を誤った諸々の責任を負わせる具体的な方法などありませんが、せめて靖国問題は再考すべきかもしれません。

無意味に死地にやられた特攻隊の若者達、太平洋の島々に散った数十万の兵士、戦艦大和の艦長だった伊藤整一ほか無為に散っていった陸海空の多くの将兵たちと、戦争の責任者の東条が同列に合祀されるのは中韓ならずとも、反発を覚えるものは決して少なくはないはずです。

靖国に祭られた一般将兵の御霊と共に、戦争のリーダー達が祭られる矛盾を吉田茂も決して容認するはずはないのです。苦々しい思いをしているに相違ないのです。

しかし、東条英機元戦時裁判被告を誹ることを、ここでは主意とするものではありません。当時の何が真実で何がそうではない、と本当のところは判らないからです。しかし、先般来日されたドイツのメルケル首相も指摘するとおり、戦後処理を終結させるためには戦争責任者を日本政府としても明確にする必要はありそうです。

ドイツがヒトラーを戦争の責任者として明確に指弾して、その政権に係わったもの全員を戦争犯罪者として罰したので戦後処理は終結しているのです。日本にいま出来ることは東条英機とその同類を永久戦犯として靖国神社からは分祀するか、神社側の遺族会の意向でそれが出来ないなら、小泉元首相が一度計画したように新しく一般将兵の御霊を祭る慰霊碑を別途建立するか、いずれかでしょう。

国の代表の総理は個人的な思いがあるにしても周辺諸国の意向にむやみに反発するより、相手の意向にも配慮して、すみやかに残余の(非物質的)戦後処理を行い、不毛な議論も堂々巡りも終結して欲しいものです。