**馬耳東風**

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どこの国にもある歴史の汚点・・

2016-03-15 | 世事諸々
どこの国にも,
歴史に残された汚点はあるものです。 

欧米の,ヒューマニズムを理念とした近代歴史の中でも、今にして悔まれる汚点は、20世紀初頭に現われた優生学で、それを政財界・知識層あげて熱烈に支持した歴史的事実かもしれません。

優生学はダーウインやメンデルが動植物の交配から種の品種改良を行う上で優生遺伝、劣性遺伝の交配の法則を明らかにしたものでしたが、ダーウインの従弟にフランシス ゴルトンという人物がいて、その法則をストレートに人類にも当てはめた独自の優生学を理論化、実践を唱えたのでした。

しかし、あまりにも非道徳で現在に至るまで物議をかもす元となっているものです。ゴルトン優生学の要旨は概略以下のような記述でした。

「最高を残し劣性を排する・・・・犬のブリーダーは最強のオスと最賢のメスの交配で優れた犬種を作り、競走馬のサラブレッドの血統は改めて言うまでもなく証明されている、メンデルの法則による優生遺伝を人類にも当てはめ、劣性人間は排除しないまでも去勢すべき。崇高な精神、知性、芸術的才能は遺伝し、無能、虚弱、好色、酒乱、犯罪性格もまた遺伝する、犬や馬を選別的に繁殖するように人にもこの法則を当てはめれば数世代でイギリスから犯罪者や反社会人間は消え去り優れた子孫で満たされるだろう・・・(原文のまま)  

明確に述べられたこの優生学に欧米の政治・経済のリーダー達も、学術芸術のリーダー達も、モラリストも、左翼思想家まで、拒否反応を示すどころか、不可思議にも賛同していたのです。驚きというより当時の人間の徳性がそうだったのか、と思うほかないようです。

当時のアメリカの大財閥、カーネギィーやロックフエラー財団まで、何を意図していたのか双子や障害児の出産を制限する研究を、自国では出来ないのでヒトラー傘下のドイツの研究機関に資金を提供して委託していたということでした。

ヒトラーがこの学説の強い影響下にあったことは否定できません。 ヒットラーの野望が、エスカレートして近隣諸国の領土までに向かうことがなかったら、またイギリスやフランスに戦線を拡大しなかったなら、欧米戦勝国側も最後までヒトラーを追い詰めることまではしなかったかも知れません。第一次世界大戦の時同様、物量や国土の返還賠償で終結していたかも知れなかったのです。

そして、ユダヤ人に対するホロコーストも障害者や同性愛者、共産主義者の仮借ない抹殺も、案外、黙認・看過されていたかも知れないのです。そう思わせる空気も実のところ、少しはあったのです。 この時代、欧米人の人権意識は今ほどではなく(格段に低く)ユダヤ人やその他のヒットラーが嫌悪した人々を排斥する気持ちには、露骨にではなかったにしても通じるものがあり、それほど大きな違いはなかったかも知れないのです。

70年前の、それほど昔のことでもないのに、そのような暴論が反対論も少なく、まかり通っていたとは信じ難いことですが、ひとつの時代にはその時代の思潮があったのでしょう、今ではとても容認できるものではないでしょうが。

欧米の道徳律というのは、過ちが判明したら、その行為を自らやめることで自己修復になる、というものです。他者に対する反省も謝罪の必要性も感じることは少ないのです。賠償が必要なら支払い、それ以上事後に追加要求されることなど、欧米のルールにはないことなのです。

*この稿はWhen The Earth Was Flat という冊子中の(優生学に関する部分)を参照しました。著者は Graeme Donaldo 米国籍の著名なジャーナリストです。なぜこのようなテーマで今さら書いたのか、本人は理由を述べてはいませんが、弱者排斥のネオナチ優生学が姿を変えて、世界のあちこちで復活しはじめている危うさを感じたからでしょうか。