『天女の涙』 ~倭国の命運や如何に~

今から1700年も昔の日本に栄えた古代都市、明日香京。謎に包まれた弥生時代をダイナミックに描く。

第 5 節 倭の国王

2016-03-08 10:21:11 | 長編小説
ここで、卑弥呼のことを紹介する。卑弥呼は、下界の倭の国王であり、王女である。天界の界師から授けられた修養を使い鬼道を操る。

登龍門はと言えば、通り抜けたか、通り抜けなかったかは、詳細を述べない。先へ進む。

兎にも角にも、天界の学問を下界で扱うのである。下界の民人は、さぞ驚いたことであろう。他の者が、マネなど出来る訳がないのである。

だからと言って、そのことが卑弥呼の狙いではない。もっと大きな夢・・・。下界の倭の民の平和と幸せを守り続けていくこと。それらの倭の国王としての責務が、卑弥呼の両肩にのしかかっていたのである。

それは、彼女でしか成し得ないが為の労苦と言えた。卑弥呼の苦悩は、彼女にしか分かり得ないものであったのである。

その卑弥呼のことを何故、由が知っているのか?実は、卑弥呼と由は遠戚であり、毘沙も福も卑弥呼のことを良く知っていたからであった。

ここで、卑弥呼の父母について詳述する。卑弥呼の父母は、天男と天女である。卑弥呼が、天界から脱界したとき、天界に取り残されたまま細々と暮らしている。天神ではなかったが為に、下界へ行くことなど叶わなかったのである。

卑弥呼は、両親を案じていたが、下界に降りてしまっては、どうすることも出来ない。仕方なく職人に命じて、父母によく似た木像をそれぞれ彫らせた。日夜、木像に添え物を欠かさず、伏拝しない日はなかったという。

卑弥呼は、脱界を後悔しなかったが、天界に残した両親には申し訳ないと感じていた。

由からみても卑弥呼の決断は、非情な一面を持つと言わざるを得ない。由が下界に行くのを躊躇うのは、そういう事情から来るものであった。

しかし、由はそれでも夢を捨てなかった。そういうところは、卑弥呼に似て、大器の片鱗を備えていたと言えるだろう。由は、誠に頼もしい天人の逸材であったのである。


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