『天女の涙』 ~倭国の命運や如何に~

今から1700年も昔の日本に栄えた古代都市、明日香京。謎に包まれた弥生時代をダイナミックに描く。

第 7 節 由の親友

2016-03-10 13:25:50 | 長編小説
次の朝、試験当日になった。夜が明けるまで、珍しく大荒れに荒れた天候となり、吹雪が視界を遮った。天界といえど天災は付きものである。

由は、吹雪のおさまった寒空の下、木枯らしの吹く草原の一本道を、天神山に向けて歩いて行く。辺り一面、銀幕の雪化粧であった。

そこへ「 由、おはよう。」と幼馴染みの京が、駆け寄る。講では知らぬ者のない美貌の持ち主である。その美しさは、由が梅の花ならば、京は桜の花に例えられるといった具合であった。

才色兼備の京は、由と双璧というより勝るとも劣らずといった女人である。何かと頼りになる彼女は、由の良き理解者であった。

「 由、祈祷書は忘れなくて。陰陽道の書物もよ。」やはり、京も十五だ。声が、透き通るように美しい。女人の色気と若々しさが、満ち満ちていた。由は、そんな京が大好きである。

「 京、私を心配してくれてすまないわ。でも、私は大丈夫よ。ところで、貴女こそどうなの?」

由も気持ちでは負けていない。張り合うことで二人の心は一つになる。二人は、顔を合わせると笑って駆け出した。走りながら由は、京を追う。朝のいつもの光景がそこにあった。

「 京…。私、今日の試験は貴女に負けるかも。でも、人生は長くて解らないものよ。」

京は、「 えっ⁉︎」と叫んで立ち止まった。髪は乱れても美しい彼女であった。「 由。今日は、試験が何より第一よ!試験に全てをかけるのよ。違わなくって!」京は、頭の回転が早い。由の一言を逃さなかった。

由は、心の内を悟られまいとして受け流す。「 京、ここは貴女の言うとおりね。今日は、何と言っても登龍門。勝ち負けを気にするようじゃダメね。黄泉の国に落ちないように気を引き締めないとね。」

「 それは私もよ。」と京は頷く。京は、自分の説が正しいからといって誇らない。彼女は、優しくて気配りができる性格の女人であった。

京は、かたくなな相手に対して無理強いをしない。キッチリと落としどころを作っておいて、そこへお互いに追い込んでいく。京の素晴らしいところは、相手を落とすと間髪を入れず、自らも落とすことが出来ることであった。

そんなこと簡単だね!と思われたら今すぐ実践してみて下さい。きっと周りの方から、大切にされること請け合いですよ。

さて、話しは、二人が登龍門の試験会場へ向かって駆けていくところまでを描写した。

二人はまるで、お互いの勝負を楽しみにしているかのようだ。講にいた頃は、いつものことであった。どんなことがあっても、すぐに打ち解けて仲良くなる。困難なことになればなるほど協力して助け合う。これらは、二人の優秀な性質の一端と言えた。


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