『天女の涙』 ~倭国の命運や如何に~

今から1700年も昔の日本に栄えた古代都市、明日香京。謎に包まれた弥生時代をダイナミックに描く。

第 4 節 卑弥呼

2016-03-07 20:42:22 | 長編小説
そして、登龍門の試験が近づいたある日、由は、秘めた想いを毘沙と福に告げた。

「 父上、母上のおっしゃることは良く解りました。下界のことは諦めます。わたくしは、母上のような美しく賢い天女になりとうございます。それ故、登龍門は是が非でも通り抜けて御覧に入れます。」

由は、キリリと引き締まった顔付きをして宣言してみせた。それは、十五とは思えない大人びた美しさであった。

毘沙と福は、安堵の表情を浮かべたが、表には出さず、由に語りかけた。

毘沙は、「 登龍門は、天か地ぞ。地獄に落ちぬよう万全を尽くすのだぞ。」と噛んで含めるように言い聞かせると、福は「 由、貴女なら天女になる資格は、十二分にあるはずです。もっと自分を信じなさい。」と優しく励ますのだった。

由は、たじろぎもせず父母の忠告を聞いていた。由は、由で期すところがあったのである。

それは、下界で活躍している卑弥呼の存在であった。卑弥呼は、元はと言えば天女である。しかし、天女であった彼女が何故、下界のそれも王女なのか?

界師も分からぬ掟破りは、その当時の由には、想像だにし得ない深い深い謎であったのである。



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