徒然なるままに修羅の旅路

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悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

In the Flames of the Purgatory 39

2014年11月20日 23時20分39秒 | Nosferatu Blood LDK
 
   *
 
「しかし――」 歩きながら、ベルルスコーニが口を開いた。
「ここまでまったく抵抗が無いというのも、妙な感じだな」
 確かにな、と――やたらと急な階段を降りながら、ブラックモアが小さくうなずく。
 確かに彼の言う通り、あの施設の建物に入った直後の大規模な戦闘以降、ここにくるまでまったく抵抗を受けていない。リーラたちが歩いているのは、研究施設の最下層中央部からさらに地下に通じる階段だった――まともな燈りが無いうえに一段一段の幅が冗談の様に狭く、さらに天井が低いのではっきり言ってかなり降りにくい。鎖の手摺をつけたのは設計者の唯一の良心だったのだろうかと、ほぼ絶望的な気分でリーラは考えた。
 この城が古城を模して現代の技術で建築されたものだとあたりをつけたのは彼女だが、どうやらその認識は改める必要がありそうだ――現代の建築士なら、省スペースで階段を造るために螺旋階段にするくらいはするだろう。なにが悲しくて一段の幅が七センチしか無い様な階段を、延々百メートル以上も降りなければならないのか。昇るときはさらに大変そうだと、リーラは鬱な気分で嘆息した。
 ブラックモアが魔術で作り出した鬼火のおかげでなんとか歩けているが、明かりが無かったら転落死確定だ。百戦錬磨の歴戦の聖堂騎士が階段から足を踏みはずして転げ落ちて死にましたなどということになったら、神の御許に召されたときに先達から笑い物にされるだろう。
 というか、ここで敵に襲われたらひとたまりも無い。階段を降りる前に『槽』に入ったままのキメラは残らず殺してきたが、すでに活動しているキメラや鎧の生き残りがどれだけいるかはわからないのだ。
「それにしても――」 ブラックモアが口を開く。
「聞こえるか? ふたりとも」
「ああ」
 ブラックモアのその言葉に、ベルルスコーニが小さくうなずいた。階段の降りた先、地下の奥深くから、ぎゃぁぁぁ、ひいいい、と途切れることの無い悲鳴が聞こえてきているのだ。悲鳴のおぞましさもさることながら数が途轍も無く多く、それがまるでコーラスの様なうねりのある不協和音になっている。
「どう思う?」
「さあね」 ベルルスコーニの言葉に、ブラックモアが投げ遣りに肩をすくめた。
「この先にあるのは地下牢か、でなければ拷問部屋かな?」
「実際のところは?」 リーラの質問に、ブラックモアは振り返らないまま答えてきた。
「どうだろう。地下牢ならこんなに地下深くに造ったって不便なだけだ――手足を縛って入り口から蹴り落としたほうが手っ取り早い。冗談はともかく、単純に『点』に距離が近いほうが魔術装置の効率は上がるから、この先にあるのは魔術装置で間違い無いと思う。悲鳴のほうに関してはなんとも言えないな」
「アルマゲストの構成員をディアス以外にひとりも見かけていないのと、なにか関係があるのかしら?」
「その線はあるかもね」
「ところで、魔術装置なんだが」 先頭を降りていたベルルスコーニがいったん足を止めて振り返り、
「我々で破壊出来るのか?」
「それは大丈夫なんじゃないかな。魔術装置ってのは通常施設の最奥部にあるから、魔術による干渉を防ぐためのファイアーウォールは複雑に組まれていても、物理的な攻撃は想定してないと思う。魔術装置が破壊される様な事態というのは、つまりその施設の陥落を意味するわけだし」
「なるほどな」 ベルルスコーニは小さくうなずいて、再び歩き出した。
「このえらく歩きにくい階段も、施設防衛の一環なのかと思ったよ」
「侵入者よりも先に、メンテナンスする魔術師が落ちて死んじゃいそうだけどね」
 リーラが茶々を入れると、ブラックモアが真面目な口調で返事をしてきた。鬼火の光でかすかに見えたが、とうとう階段に終わりが来たらしく、ブラックモアの口調がいくらか軽くなっている。
「案外そうかも。ディアス以外全員転落死したから、誰もいないのかもよ」 口調は真面目だが内容はネタらしい。なんと返事をしようかと考えていると、ベルルスコーニが振り返った。
「着いたぞ」
 その言葉通り、ほどなく階段が終わって平坦な床になった。すぐ横に扉があり、悲鳴はすでに最大音量でハードロックを垂れ流しているかのごとき有様になっている。
 あまりにひどいやかましさだが、耳をふさいで手もふさぐわけにはいかない――顔を顰めながら、リーラは扉を押し開けた。
 どうも、ブラックモアの予想は案外間違ってもいなかったらしい――死んでいないというだけで、生きているかも怪しいものだが。
 視界が突然開け、光が足りなくなったのでブラックモアが鬼火の光量を上げる。
 扉を抜けたその先は、直径五十メートルほどの円形の広間だった。閉塞感あふれる階段とはまるで別世界だ。
 そしてその円形の壁に、人間の顔だけが無数にくっついている。まるでデスマスクの様に一定の間隔をおいて人間の顔だけが貼りついており、それが途切れることなく悲鳴をあげているのだ。
「なに、これ――」
「魔術装置のメモリだろう」 リーラのうめき声に、ブラックモアがそう返事を返してくる。
「人間の脳を魔術装置を使ってたがいに接続して、それを――パソコンの物理メモリみたいに使うのさ。安価な方法で魔術装置を稼働させるための手段のひとつだ」 そう続けて、ブラックモアが足元の床を爪先で踏み鳴らす。
「組み込まれてる人間が死ぬとそのぶんの記録が欠落するから、記録媒体――ハードディスク代わりにはならないけどな。演算領域として使うんだ」
 床は細かな溝が複雑に刻まれており、その溝の中を赤い光が駆けめぐっている――その溝は床のみならず壁にも天井にも走っており、そのいずれも部屋の中央に設置された直径一メートル、高さ十メートルほどの黒い円柱から伸びていた。
「あれがそうか?」
 ベルルスコーニの質問に、ブラックモアが小さくうなずく。
「ああ、あれが魔術装置だと思う」
「なら、さっさと壊して帰るとしよう」
 ベルルスコーニが自動拳銃を手に歩を進め、おもむろに魔術装置に銃口を向けてトリガーを引いた。
 銃弾が正確に魔術装置の表面をかすめ、細かな欠片が飛び散る。
 それで物理的な破壊が可能であることを確認したのだろう、ベルルスコーニは拳銃を懐に戻し、魔術装置の基部まで歩いたところで足を止めた。
 左足を引いて姿勢を沈め、右手の五指をまっすぐに伸ばして、装置の表面に指先を軽く当てる――次の瞬間、彼は上半身のひねりだけで貫手を魔術装置に突き込んだ。
 びしびしと音を立てて魔術装置の表面に亀裂が走り、それが次第に装置全体へと広がってゆく。ベルルスコーニは肘まで喰い込んだ貫手をいったん引き抜いて一歩距離を取り、ついで拳を固め、今度は苛烈な踏み込みとともに再び装置に向かって打撃を撃ち込んだ。その一撃で脆くなっていた基部が完全に崩壊し、円柱状の魔術装置が折れてゆっくりと倒壊を始める。
 へし折られた魔術装置が、基部から離れ始めていたベルルスコーニの頭上に向かって倒れていく――ベルルスコーニの体を押し潰した様に見えた瞬間、魔術装置が今度は彼のいたあたりからまっぷたつに叩き折られた。
 地響きとともに崩れ落ち、埃を巻き上げる魔術装置の残骸の中で頭上に突き上げた拳を下ろし、ベルルスコーニが再びこちらに向かって歩き出す。
「帰るぞ」
 
   †
 
「――終わったか」 眼前に聳え立つ巨大な石像が動きを止め、その筺体に流れ込んでいた魔力が散逸したのを確認して、レイル・エルウッドはそうつぶやいた。
 蠍みたいに背中越しに尻尾を持ち上げたポーズのまま、バランスを崩した石像が横倒しに地面に倒れ込んで衝撃で粉々に砕け散る。
「全員無事か? ライル?」
「ああ」 石像を挟んで反対にいた息子が、こちらから見える様に手の代わりに千人長ロンギヌスの槍を振る。
「ブレンダン?」
「無事だ」 バーンズが今や瓦礫の山となった石像の陰から姿を見せ、そう返事を返す。
「グリーンウッド?」
「健在だ」
 グリーンウッドがそう返事をして、羽織った外套についた埃をポンポンと払った。
「あとは、あのこまっしゃくれた坊主を絞めて終わりか」 バーンズがそんなことを言いながら、大地を砕く雷神の槌ミョルニルを肩に担ぎ直す。
「――そうはいかないよ?」 背後から声が聞こえてきて、彼らはそちらを振り返った。
 アルヴァイン・ディストールが、ちょうど彼らが最初に昇ってきた階段をふさぐ格好で立っている。少年の姿をした老人は粉々に砕け散った巨石像に視線を向け、
「まったく――よくもやってくれたものだ。これでは天の庭ガーデンにとって代われる日は遠いな」
天の庭ガーデン? ああ、あのろくでもない魔術師コミュニティか」 グリーンウッドがそんな返事を返す。
「なんだ、あの吹けば飛ぶ様な弱小魔術師集団の代わりにヨーロッパで台頭するのが目的だったのか? ほかの魔術師コミュニティーに戦争を吹っ掛けるためにキメラと死にかけの弱った悪魔が必要だったと?」 憐憫を隠そうともしない半笑いを浮かべて、グリーンウッドが首をかしげた。
 彼は弱小と言うが、天の庭ガーデンは合計七千人もの魔術師と異能者を擁する欧州最大規模の魔術師コミュニティのひとつだ。二年ほど前に突如として消滅し、そのせいで縄張りを争い睨み合っていたほかの魔術結社同士のパワーバランスが大きく崩れ、新興の魔術師コミュニティの台頭とほかのコミュニティとの間での抗争、おまけにほかの大陸で増えた吸血鬼も欧州に流入して、聖堂騎士団も含むいくつかの対魔組織はその収拾に追われることとなった。
 のちに判明したところによると、『皇帝』を名乗る日本人の魔殺しによって壊滅させられたと聞いている――残念ながら、細かい情報までは掴めていないのが実情だったが。
 だがそんな大規模な魔術結社であっても、この男にとってはどうというほどのものでもないらしい――実際彼にとっても、アルカードにとってもそうだろう。最盛期の『アルマゲスト』は『クトゥルク』に転生した魔術師だけで五千人、その配下の吸血鬼を含めると一万三千人を擁する巨大組織で、当時はまだ存在していなかった天の庭ガーデンの三倍の縄張りを持っていたのだ――喧嘩を買ったふたりが『アルマゲスト』を壊滅させたときの混乱は、おそらく天の庭ガーデン壊滅時の比ではあるまい。
 なるほど、ここに至って『アルマゲスト』が活動を活発化した理由は天の庭ガーデン壊滅に伴う混乱ののちいまだ勢力域の定まっていない魔術師コミュニティの縄張り争いに介入するためらしい。
 現代におけるキメラ研究はあまり大規模には行われておらず、したがってあまり大量のキメラを量産出来る能力のあるキメラ研究者というのはそう多くない――アルカードはさんざん虚仮にしていたそうだが、先日東京の老舗ホテルを舞台に大規模なテロを起こしたステイル・エン・ラッサーレも含めて、能力のあるキメラ研究者は片手で数えられるほどしかいないのだ。
 だからこそ自力で繁殖することで一大軍団を形成出来るキメラの開発は、魔術師同士の抗争においては重要になる。魔術師はたいてい接近戦に脆いので白兵戦に長けたキメラに懐に入られれば弱いし、生体熱線砲装備型バイオブラスタータイプのキメラの射程距離はほとんどの魔術師にとって到底対応出来ないものだ。
 話がそれるが、ファイヤースパウンはキメラ学を持っていない――彼らにとっては自分たちの精霊魔術のほうが、キメラよりもずっと強力だからだ。
 アルカードに言わせると、ファイヤースパウンには――それが専門ではない者たちも含めて――グリーンウッドやアルカードには及ばなくとも、グリゴラシュ・ドラゴスと互角に戦える技量を誇る魔術師が三百人以上いる。
 彼らが精霊魔術師として世界最強を標榜していられるのは、アルカードの言葉を借りると探索能力と構築速度、そしてなにより射程距離がとにかく長いからだそうだ――つまり早期に発見して射程外アウトレンジ攻撃を行い、自分たちに被害が出る前に敵を殲滅出来る能力があるのが重要らしい。
 加えて懐に入られても、グリーンウッドの方針で刻印魔術によって霊体側から反応速度を補強され、さらにアルカードの教練を受けた彼らは十分な白兵戦能力を持っている――そもそも教会が聖堂騎士に対して行っている霊体を加工して施す補強、刻印魔術はファイヤースパウンの技術供与によるものだ。
 そんな彼らにとっては、キメラなどものの役に立たない――元々精霊魔術を極めた魔術師にとって、軍団・・を作ろうとでも考えない限りキメラなどなんの役にも立たないものだ。
 超音波攻撃も、熱波や冷気を発生させることも、高周波振動で対象を粉砕することも、射程距離数十キロのビーム攻撃に至るまで、キメラが出来ることほぼすべてを単独・・で再現出来るのが彼ら精霊魔術師であり、その最高峰に位置するのがグリーンウッド家を含むファイヤースパウンだからだ。
 つまるところ『アルマゲスト』も天の庭ガーデンも問題にならないほどの強力な魔術師コミュニティが、構成員わずか五百人のファイヤースパウンだった。そして彼ら全員を合わせたよりも、グリーンウッドひとりのほうが強い。
「さっき繁殖実験は失敗したと言っていたな。どのみちここにはおまえ以外の魔術師はいない様だし、別に俺たちが来なくてもその日は当分来なかったんじゃないか?」 嘲弄を隠そうともしないその言葉に、ディアスがすっと目を細める。
「そうだ。全員いなくなった」 両手を広げたディアスの指先からまるで金色の砂の様に光り輝く粒子が広がり、虚空で渦を巻く。
「私がひとり残らず、喰って・・・しまったからねえ――私が荒事が苦手だというのは訂正しておこう。私は荒事は得手ではないが――喰った・・・魔術師の中に、荒事を得意とする者はいる」
「なんだ。仲間がいないんじゃなかったのか」
 そう返事をしてから、グリーンウッドは右手を水平に伸ばした。
「いいや、間違ってはいないよ。私に仲間はいない――どのみち彼らは、私の仲間・・になどなりえない。偉大なるこの私の理想の体現者は、私ひとりで十分だ」
「どんな理想なんだろう」
「さあ? どうせろくでもないことだろう」 バーンズの口にした疑問に、ライル・エルウッドが投げ遣りな答えを返す。
「遠大なる理想だよ――その理想の礎となる第一歩を踏み出す準備を、君たちが粉砕してくれたわけだ」
「それがなにか?」 グリーンウッドの冷たい返答に、ディストールが表情を引き攣らせる。
「……それが全魔術師――否全人類にとってどれだけの損失か、君にはとうてい理解出来ないのだろうね」
「以前おまえたちを壊滅させても、ファイヤースパウンはなにも困らなかったが」 かぶりを振り振り、グリーンウッドがそう返事をする。
「あとあれだ、前に喧嘩を売られたときにも言ったがな――しょっぱなから間違っている天動説をぶちあげた本をバイブルにしている時点で、どんなに頑張っても大成はしないと思うぞ。理想の成就というのはあれか、世界中の小学校の教科書を地動説から天動説に書き変えるのか?」
 うわー、滅茶苦茶馬鹿にしてる。かたわらで息子がつぶやくのが聞こえてくる。どうも相手を虚仮にして煽っていくスタイルは、彼らの師と共通らしい。仲がいいのは似た者同士だからか。
「……許さん……」 わなわなと全身を震わせ、ディストールがそんなつぶやきを漏らす。
「許さん許さん許さん許さんッ! 虚仮にしやがって、このクソ坊主がッ!」
「一応言っておくと、俺のほうが年上だが」 あくまでも余裕を崩さずに、グリーンウッドがそう返事をする。
「出家をしたことも無い」
「黙れぇッ!」 よほど頭にきたのか口の端から泡を噴きながら、ディストールが腕を振り回した――腕の周囲で渦を巻いていた金色の粒子が投網を投げたときの様に大きく広がって、彼らに襲いかかってくる。だが次の瞬間には金色の粒子は統制を失って散逸し、ディストールも全身を十七個に分割されて崩れ落ちていた。
「――ふん」
 鼻を鳴らして、グリーンウッドが血糊のついた剣をそうする様に右手の手刀を軽く振り抜いた。
「煽るだけ煽って一撃かよ」 ぼやくバーンズに、
「平静さを失えば隙が出来る」 グリーンウッドがそう返事をする。
「初撃で爆発を起こして、それを煙幕代わりに逃げる算段もしていた様だしな――頭にきて逃走用の魔術構築が遅れれば御の字だ」
 グリーンウッドはそう付け加え、
「さっきも騎士団長と散々煽りあっていただろう」
「おまえが横から邪魔したがな」 混ぜっ返してから、レイル・エルウッドはディストールの屍から視線をはずした。
「これで片がついたか」 グリーンウッドがレイル・エルウッドの問いに小さくうなずいて、
「ああ。こいつ自身は肉体に細工をしている様だが、この状態から生き返ることはおそらくあるまい――真祖ロイヤルクラシックやその『剣』ならともかくとしてな。だが、念のために死体は焼却しておくべきだろうな。おまえたちはこのまま引き揚げてくれ。俺はこの城を消滅させてから引き揚げる」
「わかった。部下三人が戻ったらそうしよう。報酬は後日――」
「否、いい。俺を呼び出したのはヴィルトールだ。報酬の支払いなら、あいつにさせるさ」 幸い、あいつの腕が必要になりそうな遺跡の探索が控えていてな――グリーンウッドがそう続けて、その場で軽く伸びをする。
「正直なにか金品で支払ってもらうより、あいつの労働報酬のほうがありがたい――精霊魔術は使えなくなっていても、術式破壊クラック技能については今でも一級品だからな」
「そうか」 特に喰い下がらずに、レイル・エルウッドはうなずいた。つきあいの長さで言えば、たかだか八十年の聖堂騎士団よりほぼ五世紀のグリーンウッドのほうがずっと長い。
 術式破壊クラック技能についてアルカードが師であるグリーンウッドを凌ぐのは本人同士で認めていることで、彼がなにかにつけてアルカードを駆り出すことも少なくない。アルカードはアルカードで装備品の提供などの支援をファイヤースパウンから受けているから、そのへんはたがいに納得しているのだろう。特に金銭で支払いをしない代わりにほかの『層』に稀少な鉱物や薬草を採りに行ったり、あるいはグリーンウッドが言う様に彼らの手伝いをしたりして肉体労働で返すのだ。
「では、我々は引き揚げるとする」 地下に魔術装置があるという建物からベルルスコーニ以下三人の部下たちが姿を見せるのを確認して、グリーンウッドにそう告げて――思い出して付け加える。
「――が、あの橋は通れるのか」 一番最初の――グリーンウッドいわく『薄められた』橋、あれが通れる様になっていなければ、否十分跳び越えられる幅だから別に困らないが。
「魔術装置が破壊された時点で、普通の橋に戻っているはずだ――もとからあるものの質量をごまかしているだけだからな」
「そうか」
 レイル・エルウッドはうなずいて、近づいてきたベルルスコーニたちに視線を向けた。
「損耗は?」
「なにもありません」 ベルルスコーニの返答にうなずいて、レイル・エルウッドは空を見上げた――先ほどの神威雷鎚サンダー・ブラストの影響で、空はかなり荒れてきている――風もだんだん強くなってきており、じきに嵐になるだろう。この調子では、ここまでやってくるのに使った車のところまで濡れずにたどり着けるかどうか怪しい。
「ご苦労だった――さっき神威雷鎚サンダー・ブラストを撃ったから、じきに雨が降り出すだろう。奴はここにまだ用事があるらしいから、我々だけで引き揚げる」

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