徒然なるままに修羅の旅路

祝……大ベルセルク展が大阪ひらかたパークで開催決定キター! 
悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Dance with Midians 13

2014年11月08日 07時21分00秒 | Nosferatu Blood LDK
 
   *
 
 いったいなにが起こったのだ――混乱する頭になんとか冷静さを取り戻そうと努めながら、彼は周囲を見回した。
 前に帰ってきたのはいつだったか――数ヶ月ぶりに目にするブカレシュティの街は、すでに廃墟も同然だった。
 否、廃墟というのは語弊があるか――火もかけられておらず、建物にも破壊の痕跡はほとんど無い。見える範囲では屋外に人影は無かったが、周囲の空気には異様な臭いが漂っていた。
 嗅ぎ慣れた臭いだ――戦場では珍しくもないもの。噎せ返る様な血臭。
 近くにあった雑貨屋の建物に近づいて、店の中を覗き込む――すでに閉店したあとだったのだろう、店の前に並べている棚がひっこめられた店内は噎せ返るの悪くなる様な死臭に満ちていた。
 建物の中に足を踏み入れても、やはり人の気配は無い――しかしその代わりと言ってはなんだが、町中の空気に混じって漂っていた血の臭いは一気に濃密になった。
 この家の中に死体がある・・・・・・・・・・・
 店の中は明るい――壁に数ヶ所取りつけられた螺旋状の支えつきの飾り燭台の上で、蝋燭が煌々と燃えている。商台の上でペン立てに挿されたペンが、複数方向に伸びた影を揺らめかせていた。
「誰かいるか」 返事が返らないことをわかったうえで、彼はそう声をかけた――ここにいるのが敵ならば、返事はしない。住民がいるのなら、もう死んでいるから返事は出来まい。
 彼はそっと左腕に手を伸ばし、下膊を鎧う装甲の隙間に仕込んだ鞘に納めていた鎧徹を音を立てない様に注意して引き抜いた。やや細身すぎて握りにくい柄を握り直し、店の中へと足を踏み入れる――店の中は広いとは言い難い。まだ死体は一体も確認していないが、この町で虐殺があったことは疑い無い。その下手人がもしこの家の中にいたならば、長剣は邪魔になるだけだ。
 年季の入った壁には、まるで桶でぶちまけた様に派手に鮮血が飛び散っていた。だが、人間の首を刎ね飛ばしたときほどの量ではない。
 彼は背後を確認してから扉を閉めて、壁に引っ掛けられていた小さな箒を扉の内側に立てかけた。扉が開けば、箒の倒れる音でそれとわかる。
 さしあたり箒を立てかけたことで扉は放置して――そのまま静まり返った店の中を横歩きに進む。
 商台を注視し、隠れていた敵が襲いかかってきたら即座に対応出来る様にするために注意を払いながら、商台の横に廻り込み――そこで彼は絶句した。
 壁際に崩れ落ちる様にして、見覚えのある若い男が倒れ込んでいる。この店の主人の息子だ――否、もう父親から店を継いでいるのかもしれないが。
 眉をひそめながら、彼は男のかたわらにひざまずいた。
 これはなんだ――獣にでも襲われたのか?
 近寄って脈をとるまでもない――これ以上無いくらいに明らかに死んでいる。喉笛を引き裂かれたかの様に、右首筋から大量の出血の痕跡があった――壁に附着した夥しい量の血痕はこれだろう。それが斬撃で首の動脈を切られたというのならまだ納得がいく。だが、首筋に穿たれたふたつの孔はなんだ?
 獣の仕業ではない――獣に噛みつかれたのならば、こんな孔ふたつ以外は綺麗な状態にはならない。犬歯以外の歯列で、もっと広範囲に噛み跡が残るはずだ。
 あえて言うなら、蛇に近いが――
 それに――胸中でつぶやいて、彼は壁に視線を向けた。牙の様なふたつの孔は、動脈を貫通している。壁の血痕は、明らかにこの傷からの出血によるものだ。
 だがそこから大量の出血があったのはたしかだというのに、それにしては周囲に飛び散った血痕は驚くほど少ない。たしかに大量の血痕ではあるのだが、動脈を切断されての大量出血にしては少なすぎる。
 壁に飛び散った血痕は、すでに完全に乾燥している――だが一日も二日もたったという感じでもない。
 どういうことだ?
 すでに死んでいるのは疑い無い――呼吸も止まっているし、脈拍も無い。膚からも色が喪われている。おそらく壁に飛散したぶんが少ないだけで、全身のほぼすべての血液が失われている。そう判断して彼は店の奥、店舗と住居をつなぐ扉をくぐった。
 ただそれだけなのに血の臭いが一層濃密になり、彼は眉をひそめた。
 食卓の周りで、女性がふたり死んでいる――店主の母親と妹だ。おそらくは食事の用意の最中だったのだろう、木を削って加工した食器が転がっている。
 手前で床の上にうつぶせに倒れた五十前の年老いた男性は、さっき商台の奥で死んでいた男の父親だ――やはり首元を血で濡らして、床に突っ伏す様にして倒れていた。
 食卓を廻り込んでふたりの女性の遺体に近づくと、ともに首筋からの出血が死因であることがわかった。
 見開かれたままの妹の目を閉じてやり、立ち上がって食卓の上に並べられた食器に視線を落とす。簡素な食器は汚れていない――食事の準備中に襲われたということか。
 厨房に視線を向けると、女性の足だけが見えている――蔭に隠れてほかの部分は見えない。雑貨屋の親父は細君と長男(店主)、娘の四人家族だったはずなので、あれは店主の妻だろうか。 
 厨房に足を踏み入れる――竃では鍋が火にかけられており、灰汁取りの最中だったのか汚れた木製のお玉が床の上に転がっている。お玉は灰汁で汚れ、付着した灰汁は完全に乾燥していた。
 床の上に倒れていたのは、数件離れた服の仕立て屋の娘――出征前の時点で店主、つまりこの家の長男と結婚するのしないのという話をしていた娘だ。彼が出征している間に、この家に嫁いできたらしい。ほかの者たちと同様、首からの大量出血が死因の様だった。
 竈に視線を向ける――竈の火力が強すぎたのかそれともただ単に時間が経ちすぎたのか、元はスープであったとおぼしき鍋の中身は水分が完全に飛んで野菜が焦げつき、ひどい臭いを放っていた。
 おそらくは後者か・・・・・・・・――
 竈にべられた薪は完全に燃え尽きて、熱が感じられない――おそらく切った芋を鍋に放り込む最中であったのだろう、俎板の上に転がった皮を剥かれた芋に触れてみると、表面が完全に乾燥しているのがわかった。
 包丁を手に取り、剥き身の芋のひとつを割ってみる――中はまだ水分が残っており、ひっくり返しても黴が生えたりはしていない。長期間放置されたものではない。
 壁の燭台に視線を向ける――取り換えられたばかりらしい真新しい蝋燭は、半分ほどまで減っていた。
 しかし――なにがあったんだ?
 オスマン帝国軍の襲撃を受けたわけではない様に見える――オスマン帝国軍の襲撃を受けたのならば、建物に破壊の痕跡が無いのはおかしい。周囲には砲弾の着弾痕も小銃の着弾痕も無いし、矢も突き刺さっておらず火も掛けられていなかった。
 それに先ほどの店主の遺体もここに倒れている父親の亡骸も、そして厨房にいる三人の女性たちもそうだが、全員首を攻撃されたのが致命傷になって死んでいる――刃物で攻撃された痕跡は無いし、あの婦女暴行と略奪と放火しか芸の無い宗教狂いの猿どもが乗り込んできたのに店主の妻と妹に強姦の痕跡が無いのもおかしな話だ。
 彼らを殺したのは、オスマン帝国の兵士どもではない――おそらくはまだ彼らはここに到達していない。
 否――それ以前に、オスマン帝国軍はブカレシュティに興味など示すまい。
 すでにドラキュラ公爵は兇刃に斃れ、ワラキア公国軍は崩壊している。だが、近郊での戦闘でワラキア軍の残存兵力を粉砕したオスマン帝国軍がワラキアを制圧するのならば、まずは首都であるトゥルゴヴィシュテに行くはずだ。トゥルゴヴィシュテを放置してわざわざブカレシュティにやってくるというのは、いささか合点がいかないものがある。
 帝国兵どもの仕業ではない――それは間違い無い。では、何者が?
 裏口から屋外に飛び出して、周囲の気配を探る――裏口は閉まっており、きちんと施錠されていた。
 周囲に動くものの気配は無い。
 そもそも変だ――軍隊がやってきたなら、もっと被害が大きいはずだ。だが、周囲の家々には焼け跡も無く矢が突き刺さった様子も無い。建物に目立った外傷が無く火の手も上がっていなかったから、彼も実際に接近するまで状況に気づかなかったのだ。
 おそらく、周囲の家々も似た様なものだろう――そう判断して、彼は弾かれた様に地面を蹴った。
 彼がブカレシュティに戻ってきた理由はふたつある――ひとつめは残存部隊の一部を纏め上げて挑んだ決戦で大将首を獲りはしたものの、別動部隊の攻撃を受けて部隊が壊滅し、仲間とはぐれてしまったこと。
 ふたつめは、数日前に重傷を負って後送された彼の養父が、ブカレシュティの屋敷に戻ってきているはずだったからだ。
 長年ドラキュラ公爵とともにハンガリー王フニャディ・マーチャーシュのもとに身を寄せ、この数年間マーチャーシュの密偵として活動していた義兄グリゴラシュと、長年の友人であるアンドレアも養父とともにブカレシュティに戻っているはずだ。
 彼がブカレシュティに立ち寄ったのは、トゥルゴヴィシュテに向かう前に彼らの安否を確認しておきたかったからだ。
 あいつらはどうなった……?
 彼らふたりがブカレシュティにいるならば、この状況を放置したりはしないはずだ――何者がこの町を襲ったにせよ、少人数の相手であれば、彼らふたりで斃せないものはそういないはずだ。が――
 そうでないということは彼らがこの異変に気づいていないか、あるいはもうすでに――
 逸る気持ちを抑え込んで、彼――ヴィルトール・ドラゴスは疲弊した体に鞭打って足を速めた。そのあとはもう周りの状況や、周囲の家々の様子に注意を払ったりはしなかった――だから、彼は先ほど検分した亡骸が再び動き始めたことを知らないままだった。
 
   *
 
「で――」 こめかみのあたりを指で揉みながら、アルカードは口を開いた。
「おまえら、いつまでここにいるんだ?」
 リビングに置かれた液晶テレビの前にはいまだ片づけられないままプレイステーション3が放置されているが、さすがにもう飽きたのか電源が落とされていた。最終的に彼らが持ち込んだゲームソフトは十枚以上になっており、それらのパッケージが機体の横に積み上げてある。
 テレビは――アルカードがニュース番組をつけたために――今は二十一時のニュースが流れていた。
 ちょうどアメリカから輸入された牛肉に牛海綿状脳症、いわゆる狂牛病B S Eの原因となる病原体プリオンが蓄積しやすい脊柱が混入していた疑いがあると農林水産大臣が発表したというニュースが流れたところだった。
「あーあ、これでまたアメリカ産牛肉の全面的な輸入解禁が流れるな」
「うちの店は使ってないからどうでもいい」 アルカードはそう返事をして酒杯に残った日本酒を一気にあおり、
「そりゃあ年末に輸入が再開して、半月でこのざまだしな――アメリカもアメリカで、買ってほしいなら少しは品質管理を徹底すればいいものを」
「実際のところ、全頭検査って非科学的なのかね?」 フリドリッヒの口にした疑問に、
「さあな――貿易制裁をちらつかせて押しつけられたところで消費者が買うとも思えないが、『顧客の要望』ってやつなんだがな。全頭検査を拒否して無理矢理売りつけて、その結果がこの有様じゃ、アメリカ産の牛肉は品質管理が杜撰で危険だってイメージが定着するだけだろうにな」
「非科学的であろうがなかろうが、とりあえず全頭検査しとけってこと?」 アンの質問に、アルカードはうなずいた。
「それで納得して相手が買ってくれるなら、当然そうすべきだろう――別に日本向け以外まで全頭検査する必要は無いんだから。それで今回みたいなトラブルが起きないまま何年か輸入が安定して続いて、全頭検査の廃止を提案するのはそれからだろうよ」
 アルカードは軽く息を吐いて、
「そもそも日本国内じゃ、狂牛病対策として全頭検査を実施してる。この時点ですでに、アメリカ産牛肉には勝ち目が無いからな」
 二〇〇三年十二月にアメリカで牛海綿状脳症―いわゆる狂牛病B S Eが発生して以降、日本は国内の対策として国産牛の全頭検査を実施してきた。対してアメリカはわずか〇・七パーセントの標本調査で、消費者心理を考えれば敬遠されるのも道理というものだ。
「品質で劣ってるのに売れなきゃ文句言うってのが、貿易摩擦のときと同じ図式だよな。車とか」
「品質で追いつけませんと認めてる様なものだからな――道路事情の違いも産油国と石油輸入国の違いも考慮せずに、アメリカで走ってるのと同じ車をそのまま売ろうとしてるんだから当然そうなる。軽自動車が無くなったらコンパクトカーが売れるだけだし、最低限日本仕様だけでも操作装置を日本車とそろえないと洟もひっかけられないだろう」
「どういうこと?」 エレオノーラがそう質問してきたので、アルカードは酒杯に新たな酒を注ぎながら、
「ロシアは左ハンドルだったな――君が車を買う算段をしたときに、一般的な左ハンドル車と右ハンドル車、どっちを選ぶ?」
「左ハンドル車が国産ロシア車で右ハンドル車がトヨタだったら、右を選ぶけど」 アルカードはその返事に適当に首をすくめ、
「たとえば――そうだな――、日本車とイギリス車だったら、違いは細かな仕様だけになってくる。右ハンドル同士だからな。でも左ハンドルの場合は、操作感覚自体がまるで違う――メルセデス・ベンツみたいに操作機構の一部が完全に別配置になってることもあるからな。君がたとえばヴォルガに乗り慣れてたとして、いきなり右ハンドルのままのトヨタが市場に参入してきたとしたら買う気になるか?」
「操作感はねー。でも品質で上回ってることははっきりしてるわけだし」
 悩んでいるエレオノーラに、アルカードは適当に肩をすくめ、
「そうやって悩む人間がいれば、日本車はロシア市場で勝負が出来る。でも逆は成り立たないだろう――日本には十分に通用するメーカーがいくつもある。はっきり言ってしまえば、輸入車が無くても国内の自動車需要を満たせるくらいにな。アメリカ車はいい車なんだろう、アメリカではな――速度制限も緩いし、道幅も広い。産油国だからガソリンも安い――そういった環境だったら、いい車だろう。でもアメリカでいい車が他国でもいい車であると思ってもらえるかどうかは別問題で、日本はアメリカ車をそのまま持ち込んで『いい車』と認識してもらえる国じゃない。手を出してくれるのは一部の好事家だけだろう」
「あんたみたいな?」 混ぜっ返すジョーディの言葉に、アルカードはそちらを軽く睨んでからうなずいた。
「まあそうだな」
「じゃあ、日本車がアメリカで売れてるのは?」
 フリドリッヒがそんな疑問を口にする。さっきからさんざん飲んでいるにもかかわらず、まったく顔色に変化が無い。アルカードは酒杯に口をつけてから、
「小さくて扱いやすい、燃費もいい、輸出車はほぼ例外無く左ハンドル仕様になってる――車内で体がつっかえるくらいの巨体でもない限りは、アメリカ人にとって忌避する理由がなにも無い」
「――では次のニュースです。日本テレビの番組『ザ! 鉄腕! DASH』の人気コーナー、『DASH村』で使用している浪江町の炭焼き小屋が出火した事故について、浪江署と双葉地方消防本部は――」
「これ、確か三年くらい前にも火災起こしてなかったか?」 ジョーディがそんな言葉を口にする。知らなかったので残りの者たちに視線を向けると、エレオノーラがうなずいた。
「二〇〇三年の一月十九日。ちょうどまる三年ね」
「じゃあ次は二〇〇九年か」
「おいやめろ。冗談でも面白くない」 アルカードは溜め息をついてから、竹を模した銀製のぐい飲みに同じく銀製の徳利から透明な液体を注いだ。さっき届いた、北海道旭川の高砂酒造が醸造した生酒だ――吟醸酒 生酒の中の本当の生酒とラベルに書かれている。
「では次のニュースです。北海道渡島管内の上磯郡上磯町と亀田郡大野町が合併して新しく北斗市が――」
 どうやら市町村合併に関するニュースで、北斗の拳とは関係無いらしい。
「ハコダテはわかるけど、ホクトってどこかわからないな」
「隣町じゃなかったか? まあいずれにせよ、当面の問題は南斗市をどこに作るかだよな」 ジョーディが真面目くさった口調でそんな返事を返す。
「この街だって街の名前を冠した駅があるわけだけど、やっぱり北斗市も北斗駅が出来るのかしら?」
「市役所になる予定の上磯町役場の前に清川口って名前の駅があるけどな。北斗駅に名前を変えるかどうかは知らん」 アンの疑問に対するアルカードの返事に、残る四人がそろってこちらに視線を向ける。
「なんで知ってるんだ?」
「似た様なこと考えて調べたんだよ」 フリドリッヒの問いに、アルカードはそう答えて酒杯に口をつけた(※)。
「とりあえずはあれね、市長が空に向かって腕を突き上げてる銅像とか造らないと」 ベーコン巻きトマトをもぐもぐ噛みながら、アンがそう言ってくる。
「それは北斗駅じゃなくて北斗の拳駅だと思うけど。アン、どこでそんな漫画読んだんだ?」
「大学のキャンパス内の喫茶店に置いてあったの」
「そうか」
 フリドリッヒがその返答にもっともらしく腕組みしながら、
「従業員がみんな裸サスペンダーに肩パッド、あとモヒカンな世紀末救世主伝説風の駅か……それはそれで楽しそうだな」
「むさ苦しいだけじゃない?」
 身も蓋も無いことを言ってくるエレオノーラに、フリドリッヒが視線を向ける。
「わかってないな、そのむくつさがいいんじゃないか」
「いいか?」 とりあえずそこにだけ突っ込んでおいて、アルカードはベーコン巻きアスパラガスをつまみあげた。
「カサンドラ駅とかでいいんじゃねえ? 駅長の呼び名は駅長じゃなくて獄長。むしろ販売される駅弁が気になる」
「白ご飯の上に北斗七星の形に梅干しが七つ。おかずは無し」
「日の丸弁当より切なくないか? それ」 丸焼きにした豚肉の切り落としに爪楊枝を突き刺しながら、フリドリッヒがジョーディに向かってそんな返事を返す。
「でも梅干しが七つも入ってたら、持ちは良さそうだ。行楽シーズン向けだな」
「売れないと思うな、俺は」
「あと死兆星はどう扱うのか、それが問題だ」
「当然、モヒカンの顔をかたどった弁当箱に入ってるんだよな?」
「そこは出来損ないの三男のお面だろう、常識的に考えて」 新しい缶ビールを開けながら、フリドリッヒが意見を述べる――アサヒのスーパードライ。まあ、自前の酒なので好きにすればいいが。
「食べたあとは蓋を洗ってお面として使えるんだよ、きっと」 これはジョーディである。それはまあ、あってもおかしくなさそうだ。
「それじゃ蓋にバリエーションが必要になるわね」 アンがジョーディの言葉に、そんな返答を返す。
「長男と末弟のお面が取り合いになりそうな気がするけど」 意見を述べたのはエレオノーラだ。
「どこの縁日だよ――というかあれだ、二男をハブるな」 とりあえずやる気の無い突っ込みを入れてから、アルカードは酒杯を乾した。
「ちゃんと四兄弟でやらないと」
「『兄より優れた弟など存在しねえ!』か……懐かしいな」
「でもあの三男て、最期は塔だかビルだかの屋上から落ちて死んじまうんだろ。縁起が悪いからモヒカンでよくないか?」 ジョーディの発言に、
「上半身が爆発しながら辞世の句が『ひでぶ』も、十分縁起悪いだろう」 一時期全巻そろえていたジョーディの言葉に、フリドリッヒがそう混ぜっ返す。
「『あべし』とどっちがましかしら」 というアンの疑問に、アルカードは深々と嘆息した。
「そんな君にこの言葉を贈ろう、『たいして変わらねーよ』。あと雑魚扱いされてるが、ジャギ様はあれはあれで結構強いんだぞ」
 適当に手を振って、アルカードは再度杯に口をつけた。
「まああれだ、北斗市で離婚調停をやれば北斗親権の争いが見られる。北斗市が誕生したら、家庭裁判所を設置すべきだな」
「で、最終的には北海道から分離独立して北斗の県になるのね」 職員はみんなモヒカン肩パッドにサングラスで――そう続けるアンに、アルカードは軽く溜め息をついた。
「夢が広がるなあオイ」
 そこでニュース番組に飽きたのか、ジョーディがテーブルの上に置かれたリモコンに手を伸ばす。
「チャンネル変えてもいいか? ちょっと今日の映画を――」
「映画といえば、アルカード知ってる?」 アンが話を振ってくるので、アルカードは彼女に視線を向けた。
「なにを?」
「アーノルド・シュワルツェネッガーがバイクで事故を起こしたんだけど、アメリカの二輪車の免許を持ってなかったんだって」
「否、知らなかった。免許の更新期限が切れてたってことか?」 アルカードの質問に、アンが首を振る。
「じゃなくて、最初から持ってなかったみたいよ。アメリカで二輪の免許を取ったことは、移民してから一度も無かったって」
「確かシュワルツェネッガーって、アメリカに移民したのが一九六八年だから、三十八年近く無免許だったってことか」 首をかしげるアルカードに、
「アメリカって、車とかバイクを買うときに免許提示したりしないのかね?」 チャンネルを操作しながら、ジョーディがそんな問いを投げかけてくる。アルカードはかぶりを振って、
「どうだろう。日本でもどうだろうな――前にディーラーで試乗車に乗せてもらったことがあるが、免許証の提示なんて求められなかったからな」
「立証されたら百ドル以上の罰金になるらしいんだけど、三十八年ぶん遡って罰金徴収されたりするのかしら」 エレオノーラがそんな疑問を口にする。
「ターミネーター2でファット・ボーイ
F L S T F
を運転してたのが映像として残ってるもんな。それを証拠に――とか?」
「遡及されて罰金を請求されたら、百ドルじゃきかんだろう。社会的影響も大きいしな」 アルカードはそう答えてから、
「でも警察官が違反をその目で見たわけじゃないから、おそらく請求はされないだろう」
「そういうもんか」
「遡及法は民主主義の破綻につながるからな。あれは共産主義や社会主義だから成り立つものだ」 フリドリッヒの言葉にそう返事をしながら、ジョーディが新たな缶ビールの封を切る。
 俺は明日、『クトゥルク』が乗ってる貨物船を探しに東京港に行かないといけないんだがな――今日は土曜日なので当分出て行ってくれそうにないと判断して、アルカードは溜め息をついた。

※……
 二〇一八年一月の時点で――残念ながら――、清川口のままです。
 なお、二〇〇六年三月に初代北斗市長として初当選した海老沢順三前上磯町長が北海道駅を北斗駅にすべきだと発言しています。
 こちらも現時点では――残念ながら――実現に至っていない様です。

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